5分でわかる哲学!どんな哲学者が活躍してる?学問の成り立ちや独学の方法、進路などを紹介!

更新:2021.12.2

なんだか小難しいイメージのある哲学という学問。ソクラテスやアリストテレス、プラトンやニーチェなど、社会の授業で耳にした名前も多くあるけれど、勉強したわりには哲学者が何を追求し、現代に残しているか覚えている方は多くないはず。しかし、その中身をひも解くと、あなたが考えたり悩んでいることが哲学になったり、日常生活で応用できたり、実はすごく身近な学問なんです。今回の記事では、哲学という学問の成り立ちや、その魅力について紹介していきます。哲学に興味があるけれど、進学先や進路について不安を感じている方に向け、日本や海外で活躍している哲学者なども取り上げていきます。この記事が、哲学者を目指す人にとっての背中を押すきっかけにもなればと思います。

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哲学の成り立ちは?どんな学問なの?

「なぜ法律は存在するんだろう」 「人権や道徳ってなに?」「なぜ人を殺してはいけないのだろう」

これらの問いのように、「当たり前だと思ってるけど、実はよく分かっていない」ものが私たちの世界にはたくさんあります。こうした「よく分からないもの」を探求し、理解するために思考するのが、哲学という学問です。

現代哲学の原点である古代ギリシア哲学

哲学に相当する知的活動は、地球上のいたるところにありました。そのため、哲学の始まりをはっきりと定義することは難しいと考えられています。しかし、紀元前4世紀ごろの古代ギリシアで大きな変化がありました。ソクラテス・プラトン・アリストテレスという、古代ギリシア哲学におけるビッグスリーの登場です。彼らは初めて「哲学」という言葉を用い、西洋哲学の基礎を作りあげました。この西洋哲学の潮流を汲んだのが現代の哲学理論であるため、この3人の登場はまさに現代哲学の原点といえます。

また、古代ギリシアにおいて、「知を愛する」という意味を持つ哲学=フィロソフィアは、学問そのものを指す言葉でした。そのため、『アリストテレス全集』には、物理や心理、歴史の研究についても記されています。これらのそれぞれの部門が学問として独立し、残ったものが現代の哲学です。つまり、哲学はあらゆる学問の基礎として成立したもの、と考えられます。

誰しもに開かれている「哲学」という営み

人は、生きている限りさまざまなことに苦悩します。「本当の自分ってなんだろう」「他人にとって私はどういう存在なのかな」「正しいおこないって一体なに?」こういった、日常の中で誰もが悩んだり疑問に思うような素朴な問いも、哲学ではすごく重要なんです。

なぜなら哲学の本質は「考えること」にあるからです。自分や他人、さらには世界について分からないことがあり、その知的空白を埋めるために答えを求めて悩む。この行為は、立派な哲学の営みといえます。

たとえば、フランス生まれの哲学者ルネ・デカルトは疑う余地のない絶対確実なものは何かということを追求した人の1人です。彼は自著『方法序説』のなかで「我思う、ゆえに我あり」という命題を導き出した哲学者として有名ですよね。

目の前にある本や街は夢である可能性があり、不確かです。ところが、今考えている自分がいて、しかしそれも夢かもしれないと疑うことができます。すると疑いと考えが無限にループすることになります。そこからデカルトは、考えている自分の存在だけは確かという絶対確実なものを見つけだしたのです。

哲学は難しそうとか、役に立たなそう、というマイナスイメージばかりが先行して、つい敬遠してしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、その「考える」という本質を理解すると、哲学は、とても身近な学問であり、哲学的な問いは日常の中に潜んでいるものだと気付かされます。役に立つどころか、人は生きていくうえで哲学と向き合わなければならないのです。

なぜ哲学を学ぶのか?

哲学の考え方は自分の悩みに応用できる

哲学を学ぶ中で、「哲学の考え方を理解する」ことは重要な意義を持っています。

哲学には、独自の批判的視点や、理論構成の手法があります。これらは、自分が物事を考える際のよりどころとなってきますので、ぜひとも理解して身に着けておきたいところです。

たとえば、恋愛に関する悩みを抱えている時、あなたはどんな考えを巡らせてその悩みを解決しようとするでしょうか。過去の恋愛経験や、友だちから聞いた話など記憶を巡らせ心と現実の問題に対処しようとするはずです。そんな時、過去の哲学者が説いた独自の考え方があなたの視野を広げてくれるのです。

ドイツの哲学研究者であるエーリッヒ・フロムは著作『愛するということ(Die Kunst des Liebens)』で、愛の問題についてこう述べています。

愛することをやめてしまうことはできない以上、愛の失敗を克服する適切な方法は一つしかない。失敗の原因を調べ、そこからすすんで愛の意味を学ぶことである。そのための第一歩は、生きることが技術であるのと同じく、愛は技術であると知ることである。(P17より引用)

 

身近であり、考え尽くしたと考えていた愛の問題でさえも、哲学者の目を通して見ればそんな風に見えていたのかと驚くことは少なくないはずです。

また、哲学を通じて自分や他人について考えることは、それらを深く理解することにも繋がっていきます。これは就活における自己分析や、他者との関係性の整理などにも通じる部分です。このように、哲学の学びは、実学的な要素も兼ね備えていると捉えることもできます。

 

日本で活躍する哲学者は?

哲学者というと、机の前に座って哲学に関する難しい本を読み、頭のなかでいろいろなことを考えているイメージがあるかと思います。そのイメージゆえ、外から見えるような活動も少ないように感じるでしょう。

そのイメージゆえに、哲学を軸に働きたくても、働いているイメージがしづらいという点があるかと思います。またそもそも活躍している哲学者についても不透明な部分があります。では実際に活躍している哲学者にはどのような人物がいるのでしょうか。

吉本隆明

哲学者という肩書きではありませんが、戦後の日本思想に大きな影響を与えた人物として、吉本隆明氏があげられます。吉本氏は2012年に亡くなられていますが、生前は文学や芸術のみならず政治や国家、宗教などあらゆる分野でその思想を論じ「戦後思想界の巨人」とも呼ばれています。

吉本氏はもともと工場に勤務しながら、詩作や評論活動を続けていました。その後も発表した詩集が徐々に評価を得て、思想家としての活躍の場を広げていきました。多数の著作があるためここでは多くを取り上げることができませんが、代表作には『共同幻想論』や『言語にとっての美とはなにか』があげられます。

思想家としての吉本氏のあり方を総括すると、必ずしも「哲学者」としてスタートすることがすべてではないことが分かります。大切なのは他の職業に就きながらも、自分の思想を文章にまとめ発表することです。また哲学以外の素養も、哲学者になるには大事な要素のひとつといえます。

東浩紀

2020年8月現在も存命かつ一定の認知度のある哲学者(思想家)です。東氏は主に20世紀、21世紀などの現代哲学について論じることが多く、数ある哲学系の本のなかでは初心者でも読みやすい文章となっています。

東氏は大学で哲学を学び、その後はさまざまな大学や大学院などで教壇に上っていました。しかし2013年に早稲田大学の教授を退職して以降は、大学へ所属せず批評家、哲学者、小説家として活動をしています。

東氏に関しても哲学はもちろんのこと文学についての教養があります。有名な著作には『一般意志2.0』や『弱いつながり』、『ゆるく考える』などがあります。どれも東氏の思想を知り、また現代思想に興味がある人にとっては一度は目を通してほしい本でしょう。

東氏のように大学や大学院で教鞭をとりながら、自身の著作で思想表現をしたりするのも、現代の哲学者のひとつの働き方といえるでしょう。

中島義道

基礎から哲学に触れられる場所として「哲学塾カント」を主催するなど、精力的な活動をしているのが中島氏です。東氏同様、大学の哲学科で哲学を学んだ後、2009年まで大学教授を務めた経歴を持っています。

その後は「哲学塾カント」の活動に専念しながら、著作を発表し続けています。「戦う哲学者」と呼ばれることもあり、過激な発言が目立ちますが示唆に富んだ言葉の数々は、哲学者を目指す人にはよい発見を与えてくれるでしょう。

著作数が多いですが、代表作には『哲学の教科書』や『哲学の道場』、『私の嫌いな10の人びと』があります。中島氏の著作は暗いと言われていることもありますが、なかなか言語化できていなかったことを鋭い言葉で表現しており、読みごたえがあります。

中島氏のように、現代思想にとらわれず「人間の生き方」にフォーカスを当てた哲学者、思想家を目指すのもひとつの選択肢でしょう。

日本には哲学者はいない?

ここまで日本の哲学者をご紹介しましたが、一方で現代の日本には哲学者がいないとも言われています。それはどういうことでしょうか。

活躍している哲学者と呼ばれる人の大半が、過去の著名な哲学者が残した哲学を研究している哲学者にすぎないという考え方があるのです。確かに哲学には「知を愛する」という意味があり、時には哲学をするという言い方をすることもあります。

また哲学は、人生や世界などのあり方・原理を探求する知的営みです。その意味から考えると、哲学者というのは自らの人生経験などから独自の哲学を構築し、その真理をかみ砕き、本質を見出す営みをしなければなりません。

このような観点から日本で活動する哲学者は、哲学者ではなく哲学研究者であると言われているのです。そもそも哲学者に定まった定義がない以上、誰を哲学者と呼ぶのか判断は難しいところではありますよね。

哲学はどうやって学ぶ?大学に進学するなら哲学科を選ぼう

哲学はどうやって学べばいいの?

◾️大学・大学院・短期大学で学ぶ場合

高校生の方ならば、哲学の授業を選択できる4年制大学・短期大学に進学すると体系的に学ぶことができるでしょう。

大学で学ぶ場合は、文学部の哲学科や、人文学部の日本文学文化学科などが当てはまります。哲学科を設置している大学は全国にあるため、専門的に学びたい人は哲学科がある大学をまずピックアップするのがよいかもしれません。

また大学院でも哲学を専攻できるところは多くあります。学部よりもより専門的に、また哲学のなかでも西洋哲学なのか東洋哲学なのかなど範囲を決めて研究することができます。大学進学の際に哲学科を選ぶ人は、大学院への進学も考えておいてもよいかもしれません。

◾️社会人で哲学を勉強する場合

社会人の方ならば、哲学を学べる通信制大学に通うほか、哲学に関する本を買って独学で学んでいくという手もあります。いきなり難解な本を選ぶのではなく、初心者でも読みやすい本や、哲学の歴史を簡単におさらいできる本などから入ると徐々に哲学の本に書かれている内容を理解できるようになるはずです。

また独学の場合、ただ読むだけでなく、読みながら考えることが必要となってきます。具体的には本などを読んで過去の考え方を学び、それを批判的に見たり、自分ならこの問題についてどう考えるかな、と思考を巡らせることが重要でしょう。さまざまな哲学的な考えに触れて、それをさらに自らの考えに落とし込んでいってください。

哲学を学んだ後の進路は?就職先は?

哲学を学んだ後の進路についてはいくつかにわかれます。

 

  • 大学院への進学
  • 教育関係の道に進む
  • 自分の興味ある業界へ就職する

◾️大学院への進学

哲学科を修了した大学生がとる進路としてまず考えられるのが、大学院への進学です。「知を純粋に愛する」という学問的特性から、院でさらに研究を続けようという学生は、他学部・他学科に比べて比較的多いようです。

◾️教育関係の道に進む

学問自体の楽しさを深く理解していることから、教育関係者として活躍する人もしばしばいます。生徒の「分からない」を整理し、その答えではなく考え方を提示する。そうすることで、彼らに本質的な学びの楽しさを教えることができるのは、哲学科卒ならではの強みです。

前述した日本人の哲学者たちも、教育関係の道に進んでいる方が多くみられます。大学の教員として働きながらも自らの哲学を磨き、それを発表していくのもひとつの選択です。

◾️興味ある業界へ就職する

他にも、哲学を通じてつちかった論理的思考力は、金融業界など、さまざまな業界で有利に働きます。哲学科は就職に不利というような言説があるようですが、むしろどこの業界でも活躍できる力をもっていると考えられるでしょう。

哲学についてざっと知りたい方向け

著者
貫成人
出版日

哲学についてなんとなく興味がある!という方におすすめなのがこちら。

哲学の原点であるギリシア哲学から、近代以降の考え方まで、あらゆる時代の哲学を網羅して説明しています。250ページという比較的軽めの本で、それぞれの考え方について簡略な説明と図解がなされているので、2000年以上にわたる哲学の全貌を掴むにはうってつけの本となっています。

巻末には、主要な哲学者のプロフィールが載っているほか、各哲学分野に興味が出た人に向けて「はじめの1冊」を紹介するコーナーもあります。気になる哲学者や考えが見つかったら、これらを参考に次の学びの指針を定めてみるのも面白いかもしれません。

さまざまな哲学分野をもっと詳しく知りたいあなたに

著者
野矢 茂樹
出版日

哲学の主要な分野を、9つの章立てによって詳細に解説したのがこの1冊。

著者は、2018年から東京大学で教授を務めている野矢茂樹。本文は、野矢さんの分身ともとれる2人の男が対話する形式で展開していきます。意識や記憶、時間、自由など、長年哲学が扱ってきた諸分野について、互いに疑問を発しながら考察を深めていく様子は、著者本人の思考プロセスを覗いているような感覚になります。

かゆい所に手が届くような説明で、読後の納得感が大きい一方、きっちりと読者に考えさせる余白も残されていて、読みごたえは抜群です。対話という特殊な形式により、文章の難易度もそれほど高くありませんので、気軽に手に取ってみてはいかがでしょうか。

トロッコ問題から考える哲学入門

著者
["トーマス カスカート", "小川 仁志 監訳", "高橋 璃子"]
出版日

1人の命を犠牲にして、5人の命を救うのは正しいことなのか。

トロッコ問題と呼ばれる有名な思考実験をテーマにしたのがこの本です。5人を乗せ暴走する路面電車。列車を待機線に誘導すれば暴走を止めることができますが、待機線にいる1人の命を奪うことになる……。
 

本書では、このトロッコ問題を実際に起きた事件として扱い、読者であるあなたは裁判の陪審員として事件に向き合っていきます。読後には、「正義」がいかにあいまいな概念であるか、よりリアリティを持って痛感させられること間違いなしです。

ストーリー仕立ての簡潔な文章で、さまざまな哲学的主張も織り交ぜながら「正しさ」について考えていくこちらの本。哲学の入門書としてぜひ。

一度は読んでおきたい現代哲学書の名著

著者
マイケル サンデル
出版日
2011-11-25

こちらも「正義」について扱った、現代哲学書の名著。著者のマイケル・サンデルは、ハーバード大学で政治哲学を教える超人気講師としても有名です。そんな彼の講義「Justice(正義)」をベースに作られたのがこの本です。

一時期テレビなどでも話題になりましたし、もしかしたら「手元にあるけど、まだ読めていない」という方も多いかもしれませんね。本書では、善悪や幸福など、「正義」が関わる身近でかつ難解な現代の問題に挑んでいます。そのため、参照が必要な言葉や知識も多く、これまで紹介した本に比べると読解自体が難しいといえます。

しかし、文章の難易度こそ高いものの、それを乗り越えてでも読むだけの価値をこの本は持っています。先に挙げた『「正義」は決められるのか?』などを読んで、哲学というものに慣れてから本書に手をつけてみると、また新しい読み方ができるかもしれませんね。今の時代を生きるなら、ぜひ一読してほしい1冊です。

悪いイメージが先行してなんだか敬遠されがちな哲学が、思ったよりも身近な学問であることは分かっていただけたでしょうか。 
人は誰しもが日常的に哲学をおこなっています。この記事を読んで哲学という学問に興味が出た人は、ぜひ色んな本を読んでください。読み込む哲学者を決めて、有名な著作から読んでいくのもよいでしょう。 
そして、そこにある考え方と対峙しながら、ああでもないこうでもないと、自分なりに思考してみることが、今後の自分の人生の進路を決めるきっかけにもなるかもしれません。

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