日本では、労働争議を通じて労働条件の改善を要求することが権利として認められています。そのために結成されるのが「労働組合」です。この記事では、組合の種類や歴史、加入するメリットとデメリット、作り方などをわかりやすく解説。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ご覧ください。
労働組合とは、労働者が雇用の維持や賃金上昇など、待遇改善を要求するために結成する団体です。「労組(ろうそ、ろうくみ)」や「組合」と呼ぶこともあります。
日本国憲法は、人間らしい豊かな生活を保障する「社会権」の一環として、「勤労の権利」を保障しています。しかし一般的に、労働者は雇用者よりも弱い立場になりがち。そこで労働者の権利を守るために必要となるのが「労働三権」です。
労働三権とは、労働組合を作る権利である「団結権」、労働組合が労働条件の改善を求めて雇用者と交渉する権利である「団体交渉権」、要求を実現するためストライキなどをおこなう権利である「団体行動権」の3つ。これを見ればわかるように労働三権と労働組合は密接に結びついていて、労働者の権利を守るうえで重要な位置を占めているといえるでしょう。
労働組合の歴史は、産業革命が進展した18世紀末頃から始まります。日本でも産業革命が起こっていた1897年、労働運動家の片山潜らが「労働組合期成会」を立ち上げたことをきっかけに結成されるようになりました。
労働組合は、構成員の性質によっていくつかに分類されます。たとえば初期の欧米各国では、同一業種の労働者たちが連帯して組合を作りました。このような労働組合は、「職業別労働組合」と呼ばれます。この流れを汲んで現在の欧米各国でも、同一産業の労働者たちが組合を作る「産業別労働組合」が主流となっています。
一方で日本では、労働者と企業の結びつきが強く、同一企業の労働者たちが作る「企業別労働組合」が一般的。しかし非正規雇用の増加などを背景に、近年では労働組合の組織率は低下を続けています。さらに組合と企業の癒着が指摘されるなどの問題点も指摘されているのです。
上述のとおり、日本における最初の労働組合は、1897年に片山潜らが「労働組合期成会」を結成した際に立ち上げられました。大正時代になると労働運動はさらに進展、1921年に「日本労働総同盟」が結成されるなど、労働運動は本格化していきました。
一方で戦前の日本では、労働者と親和的な社会主義が警戒されており、労働運動は強硬に弾圧されました。1900年に「治安警察法」が制定され、1925年には「治安維持法」が成立。治安維持法にもとづく摘発により、戦前の労働運動は壊滅的な打撃を受けています。
その後1937年に「日中戦争」が勃発すると、生き残った労働組合は国策協力を推進していきました。そして1940年に「大日本産業報国会」が設立されると、労働組合は産業報国会に統合され、戦前の組合活動は終えんします。
敗戦後、GHQの戦後改革の一環で1945年中に「労働組合法」が制定され、労働三権の保障が具体化されました。これをきっかけに相次いで労働組合が再建され、労働運動は盛り上がりを見せるようになっていきます。
一方で冷戦の激化にともない、GHQは方針を転換。1948年に出された「政令201号」により公務員のストライキが禁止されたほか、反政府的な労働運動には制限がかけられるようになりました。共産党との結びつきが強い労働運動に対抗して、右派勢力などが「日本労働組合総評議会(総評)」を設立したのもこの頃です。
しかしその後も労働組合は、全般的には左派の影響力が強い状態が続いています。労働に関する分野だけでなく、安保闘争をはじめとする政治闘争にも積極的に参加するようになりました。また1955年には各労働組合が一斉に交渉をおこなう「春闘」が開始され、現在に至っています。
1960年代から70年代にかけて、高度経済成長、安定成長を通じて日本経済が安定すると、状況は変化していきました。雇用と賃金上昇が安定した結果、左派的な労働組合もストライキなどの闘争路線から労使協調路線に転換するなど、労使関係が比較的安定するようになっていったのです。
こうした労使関係の安定化は、労働組合の再編をもたらすことになります。1989年、全日本民間労働組合連合会、全日本労働総同盟、中立労働組合連絡会議、全国産業別労働組合連合などが合流して「日本労働組合総連合会」、通称「連合」と呼ばれる労働中央団体が結成されました。連合は日本史上最大の労働組合となり、今日も活動を続けています。
一方でオイルショックの後、非正規雇用の割合が増加すると、しだいに労働組合に加入しない労働者も増えていきました。その影響もあって1970年代から労働組合の組織率は下落を続け、2017年の組織率は17.1%にまで減少しています。
またバブル崩壊と前後して、リストラや派遣切り、過労死問題などが新たな労働問題が注目を集めるようになりました。そのため近年では日本でも、企業の業種や規模に関係なく加入できる「個人加盟組合」や「ユニオン(合同労組)」が注目を集めるなど、新たな形態が模索されている状況です。
では労働組合に加入するメリットとデメリットは、どんなものがあるのかを見ていきます。
最大のメリットとして、個人の力だけでは対処しにくい不当解雇などに対処しやすくなることが挙げられます。
先に紹介したとおり、労働組合は「団体交渉権」が保障されており、雇用者は労働組合の交渉を拒むことはできません。何らかの問題が生じた際、労働組合は心強い味方となってくれるでしょう。
また日本で多く見られる「企業別労働組合」の場合、組合活動を通じて接点のない部署の人と交流することができます。このような人脈作りも、労働組合に加入するメリットだといえるでしょう。
一方でデメリットとしては、労働組合に加入した場合、通常の業務に加えて組合活動に従事する必要があることが挙げられます。拘束時間は一概にいえませんが、場合によっては負担が増してしまうかもしれません。
さらに労働組合に加入した場合は、毎月「組合費」が徴収されます。金額は組合によってまちまちですが、加入を検討する際はあらかじめ情報を集める必要があるでしょう。
では自分で労働組合を設立したい場合、どうすればよいのか説明していきます。
労働組合の定義について、労働組合法の第二条では
が挙げられています。つまりこの条件を満たしていれば、誰でも自由に労働組合を立ち上げることが可能なのです。
労働組合を設立する際、書類の届け出や認可などの必要はありません。ただし労働組合として認められるためには、労働組合法の第五条の条件を満たした規約を定める必要があります。
またこの規約は、組合に参加する労働者たちから民主的に承認を得なければなりません。そのため立ち上げにあたっては、結成大会を開き、その席上で規約や活動方針、役員の体制などについて承認を得るのが一般的です。
注意しなくてはならないのが、労働組合の設立は、しばしば経営陣から煙たがられることがある点です。違法行為ではあるものの、経営者による労働組合への妨害が生じることもあります。そのため設立にあたってはしばらくの間「非公然期間」を設け、その間に組織の基盤づくりを進めることが推奨されています。
また立ち上げや運営にあたっては、各地方自治体が運営する労働相談機関などに相談し、具体的なアドバイスをもらうことも有効です。たとえば東京都には「労働相談情報センター」、大阪府には「総合労働事務所」が置かれています。連合などの上部団体も、何か問題が生じた時はサポートしてくれるでしょう。
- 著者
- 二宮 誠
- 出版日
タイトルにも含まれる「オルグ」とは、団体を拡大するための宣伝・勧誘活動をおこなう人のこと。本作は全国各地で労働組合の拡大に尽力した作者の半生を追いながら、戦後日本の労働組合の歩みを描いています。取り上げられているエピソードはどれも興味深いものばかりでしょう。
巻末には作者と、エコス、ダイナムジャパンホールディングス、ニトリホールディングスの経営陣の対談が収録されています。経営者の目線から見た労働組合の必要性や、労使協調の重要性が論じられているので注目です。
- 著者
- 労働組合現場執行委員のためのQ&A40製作委員会
- 出版日
本作は、変化し続ける労働環境のなかで、労働組合がどのように行動すべきかを豊富なケーススタディーとともに論じたものです。
取り上げている事例は、メンタルヘルスのケアや各種のハラスメント問題、育児や介護問題といった現在進行形で問題となっているものばかり。これらの問題に労働組合はどのように関与できるのか、関連法令とあわせてさまざまな考え方が紹介されています。
労働組合の役員だけでなく、職場で悩みを抱えている人にもヒントを与えてくれる作品だといえるでしょう。