近年、気象ニュースなどでよく耳にするようになったエルニーニョ現象。この現象が生じると、日本を含む世界中の気候に大きな影響を及ぼします。ここではエルニーニョ現象の仕組みや原因、日本に与える影響などについてわかりやすく解説します。
エルニーニョ現象とは、赤道付近の東部太平洋地域の海水温が、半年から1年間ほど例年より高くなる現象のことです。もともとエルニーニョ(El Niño)とは、スペイン語で「神の子」という意味。これはペルーの漁師たちが、クリスマスの頃に海水温が高くなることにちなんで名付けたそうです。
気象庁のHPによれば、エルニーニョ現象が起きる原因は「貿易風」という東風が弱まることとされています。
通常この海域では、貿易風によって海面付近の暖かい海水が西に流され、海底から冷たい海水が湧き上がってきます。しかし何らかの要因で貿易風が弱まると、暖かい海水が西に流されないため、冷たい海水が湧き上がることができません。そのため、海面の水温が高い状態が続いてしまうのです。
逆に、何らかの要因で貿易風が強くなると、例年より冷たい海水の湧き上がる量が増加します。すると海水面が低い状態が長引くのですが、この状態は「ラニーニャ現象」と呼ばれます。ラニーニャ(La Niña)は、スペイン語で「女の子」という意味。気象庁HPによると、1985年にアメリカの海洋学者フィランダーがこの名称を提唱し、定着したそうです。
詳しくは後述するように、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると太平洋全体の海水温が変動し、その結果地球規模で気候が変動します。日本も大きな影響を受けるため、毎年エルニーニョ現象が発生すると、日本でも大きなニュースとして報道されています。
エルニーニョ現象が発生すると、日本にはどのような影響が及ぶのでしょうか。以下、気象庁の記述を参考にまとめていきます。
上述のとおりエルニーニョ現象が発生すると、東太平洋地域の暖かい海水が西に流されなくなってしまいます。するとフィリピン沖(西太平洋地域)の海水温は例年より低い状態となり、これが気候にも影響を及ぼしていきます。なぜ気候に影響が及ぶかというと、海水温が低くなった結果、上昇気流が生じなくなってしまうためです。
上昇気流が生じないと積乱雲や台風が発達しにくいほか、太平洋高気圧の張り出しが弱くなるなどの変化が生じます。そのためエルニーニョ現象が発生すると、日本周辺では梅雨が長引くほか、7月から9月頃の気温が例年より低くなる傾向があるようです。またエルニーニョ現象が発生すると長雨や冷夏の影響で、農作物に深刻な被害が生じることがあります。
さらにエルニーニョ現象は、台風にも影響を与えています。前述のように西太平洋地域の海水温が低くなると、台風が発生する地域が例年より南から南東の地域に変化します。その結果エルニーニョ現象発生時の台風は、
といった傾向をもつようです。たとえば2002年にエルニーニョ現象が発生した時は、10月に日本に上陸した台風21号が「激甚災害」に指定されています。
日本だけでなく、エルニーニョ現象は世界中の気候に影響を及ぼし、さまざまな問題を生じさせています。
日本ではエルニーニョ現象は長雨や冷夏の原因となりますが、たとえばオーストラリアやインドネシアでは逆に雲が発達しにくくなるため、干ばつのリスクが高まります。さらに海水温の変化は、マグロやカツオなどの回遊魚の行動も変化させます。これらの要因からエルニーニョ現象が発生すると、農業や漁業が深刻な被害を受けてしまうのです。
2015年にエルニーニョ現象が発生した時は、アジア・太平洋地域に加えて南米・アフリカなど広い地域で洪水や干ばつなどの被害が生じました。特に大きな被害を受けた国の様子について、ユニセフは次のようにまとめています。
ソマリア:300万人以上が作物の不作や食糧不足によって支援を必要としている。深刻な洪水によって、更なる状況の悪化が見込まれている。
エチオピア:過去30年間で最悪の干ばつが国を襲い、820万人が食糧不足に陥っており、子ども35万人が栄養支援を必要としている。
インドネシア:エルニーニョが泥炭および森林火災の影響を悪化させている。煙霧により、8月~9月だけで27万2,000人が急性呼吸器感染症に陥っており、特に子どもたちが影響を受けている。
太平洋諸国:エルニーニョの影響により、400万人以上の子どもたちが、食糧や水を手に入れることができなくなる恐れがある。
中央アメリカ:エルニーニョによる干ばつは観測史上最も深刻であり、グアテマラやホンジュラス、エルサルバドルのおよそ350万人が影響を受けている。
ペルー:政府によると、子どもと若者40万人を含む推定110万人が影響を受ける可能性がある。
エクアドル:150万人がリスクに晒されており、その半数は子どもたちだと考えられている。
(ユニセフHP、ニュースバックナンバー2015年、「史上最大級のエルニーニョ現象 食糧や水不足など 影響が深刻 COP21で集うリーダーたちへの警鐘」より引用)
深刻な被害をもたらす可能性もあるため、エルニーニョ現象発生のメカニズムを解明しようとさまざまな研究が進められていますが、残念ながら2020年の時点では、まだエルニーニョ現象発生の根本原因は解明されておりません。
ただしそのようななかでも、日本を含む世界各国の気象機関は気象衛星や観測船で海水温や気圧を監視、エルニーニョ現象の実態を把握するため取り組みを続けています。
その結果、たとえば南太平洋のタヒチとオーストラリアのダーウィンの気圧差を指数化した「南方振動指数」がマイナスになると、エルニーニョ現象が発生する傾向にあることが明らかとなりました。
このように根本的な原因は明らかでないものの、さまざまな観測によって相関関係にあるデータが確認されてきています。今後もデータの蓄積を続けることで、エルニーニョ現象の原因特定と対策法の確立が期待されています。
なお、エルニーニョ現象は「地球温暖化」と相関関係があるのではないかと指摘する声もあります。しかし気象庁のHPによると、2020年の時点では研究者の間でも見解が一致しておらず、温暖化対策に取り組むことが、エルニーニョ現象の抑止にも効果的かは判然としないようです。
- 著者
- 金子 大輔
- 出版日
タイトルのとおり、気象や天気の仕組みを簡単にまとめた作品です。
エルニーニョ現象やラニーニャ現象をはじめ、フェーン現象など天気予報でよく耳にする用語について、イラストを用いてわかりやすく解説しています。ほかにも「ネコが顔を洗うと雨が降るのはなぜ?」のように、古くからの言い伝えを科学的に説明するなど豆知識も盛りだくさん。
天気予報で気になる内容を知りたい人や、小中学校で学んだ天気の知識を気軽に学び直したい人におすすめしたい作品です。
- 著者
- 田家 康
- 出版日
近年気候やウイルスなど、自然的な要因が歴史に与えた影響を考察することが盛んにおこなわれています。本作は異常気象に注目し、気候変動がどのように人類に作用してきたのかを、エピソードを用いて紹介しています。
有史以前から現代の温暖化まで幅広い事例読むことで、人類の活動がエルニーニョ現象や火山活動、温暖化によって左右されていることが実感できるでしょう。
エルニーニョ現象などの異常気象を考えるうえで、さまざまな示唆を与えてくれる作品です。