ただ怖いだけでは終わらない、オカルトミステリーというジャンル。怪異や超能力を使った新鮮な謎解きを楽しむことができるため、普通の推理小説に飽きてきた人でも新鮮な気持ちで読むことができるでしょう。この記事では、おすすめの作品を紹介していきます。
ミステリー作家をしながら、数々の事件を解決してきた香月史郎。ある日、亡くなった人の言葉を伝えることができる霊媒師の城塚翡翠と出会います。彼女の能力は卓越していたものの、証拠はないため、2人は協力して捜査にあたっていました。
そんななか、関東では連続死体遺棄事件が発生。犯人は現場に証拠を残していないので、翡翠の霊視を頼りにします。
- 著者
- 相沢 沙呼
- 出版日
- 2019-09-12
2019年に刊行された相沢沙呼の作品。「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」で1位を獲得しています。
ミステリー作家の香月史郎と、助手の立ち位置の城塚翡翠が事件を解決していく短編集。翡翠の霊媒の力で先に犯人がわかり、その結果をもとに論理的に証拠をそろえていくという新しいかたちのミステリーです。
しかし最後の章までいくと、話が一変。それまでなんとなく感じていた違和感の真相がわかります。翡翠の正体、実はところどころに張り巡らされていた伏線の謎が解けた時の衝撃は圧巻。終盤の疾走感も痛快で、オカルトという点を除いても、ミステリーとして非常に質の高い作品です。
小説家の「私」のもとに、神楽坂を舞台にした会談執筆の依頼が舞い込んできました。「私」の頭に思い浮かんだのは、かつての恐ろしい体験です。
第1話の「染み」では、8年前の奇妙な出来事について言及します。ある女性に依頼され、詳しく話を聞きに行くと、彼女の周囲では恐ろしい現象が起こっていたのです。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2018-06-22
2018年に刊行された芦沢央の作品。「私」が見聞きした5つの怪異譚が綴られる短編集になっています。
かつての記憶とともに、友人の死や不可解な現象、当時の後悔などがドキュメンタリーのように思い出される内容ですが、謎を解いた後にこそ本当の恐怖が待ち受けていて、一瞬たりとも油断はできません。
ひとつひとつの物語に驚きの展開が隠されているだけでなく、やがてすべての謎が繋がった時の恐ろしさはミステリーの真骨頂。臨場感のあるオカルトを楽しみたい人におすすめです。
怪奇現象が起こる古い家を舞台にした短編集。営繕屋の尾端が、家とともに人の心も修繕していきます。
「芙蓉忌」では、両親と弟を亡くした主人公の貴樹が、かつて花街だったという実家に帰郷。引きこもりだった弟の部屋を書斎にしようとしたところ、隠れた隙間の向こうに芸妓姿の女性を見つけます。いつしか彼女にのめり込むようになってしまい、やがて命の危険にさらされるのです。
尾端は彼らにどうやって救いの手を差し伸べるのでしょうか。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2014-12-01
2014年に刊行された小野不由美の作品です。「営繕」とは、建物を建築したり改築したりする人のことを指します。
誰もいないはずの家で襖が開く、足音がするなど、不気味な現象の起こる世界観は背筋が凍るほどの恐ろしさ。また人知のおよばないものに対して、なんとかともに生きていける方法を探す尾端の姿も、考えさせられるものがあるでしょう。
風情のある古い町並みと繊細な登場人物の心情で、どこか切なさを感じさせるオカルトミステリーになっています。
東京から母親の実家に引っ越し、夜見山北中学校に転入することになった榊原恒一。クラスメイトたちがみな不安そうにしていることに、違和感を覚えます。さらに彼が心惹かれた見崎鳴は、ほかの人には見えていないよう。
実は、恒一がやってきた3年3組は、26年前のとある事件をきっかけに呪われてしまっていました。クラスメイトの桜木が事故で死んだことを皮切りに、次々と死者が発生します。
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2011-11-25
2009年に刊行された綾辻行人の作品。漫画化、テレビアニメ化を経て2012年には映画化もされました。
恒一と鳴の仲が徐々に深まっていき、クラスメイトたちも協力して怪異現象の謎を突き止めようと学校の調査に乗り出します。しかし次々と人が死に、登場人物たちはしだいに疑心暗鬼になっていくのです。
なぜ怪異は起こるのか、また怪異とともに現れる「もうひとり」の正体は誰なのか……。緊張感を保ったまま、終盤には伏線も一気に回収。ミステリーとオカルトと青春を見事に融合した作品です。
古くから、神隠しなど不思議な伝承がある神々櫛村。谺呀治家と神櫛家の2つの家が、対立しながらあたり一帯を治めていました。
ある時、怪異譚蒐集家で怪奇幻想作家としても活動する刀城言耶が、神々櫛村を訪れます。しかし彼がやって来てから、村では次々と変死事件が発生。事故なのか事件なのか……「案山子様」の存在を知った言耶は、調査に乗り出しました。
- 著者
- 三津田 信三
- 出版日
2006年に刊行された三津田信三の作品。「刀城言耶」シリーズの1作目です。
物語の舞台は、1950年頃の戦後日本。ほの暗い世界観と閉鎖的な村で、民俗学も取り入れた謎が次々と起こり、独特な雰囲気を醸し出しているのが魅力です。
複雑な人間関係と、彼らがそれぞれの視点で複数の謎を語ることで、より深みのある構成になっているのもポイント。ラストにはどんでん返しも待ち受けていてミステリー要素もしっかりと楽しめるのですが、そのあとにはまた不可思議なことが……ゾクゾクが止まりません。
19世紀末のイギリス。裕福な家の娘であるマーガレットは、テムズ河畔に建てられたミルバンク監獄を慰問で訪れ、女囚のシライナと知り合います。
霊媒師だという彼女は、獄中には似合わない不思議な雰囲気をまとっている女性でした。マーガレットはしだいにそんなシライナに魅了され、語り合ううちに、とうとう脱獄を手伝うことになるのです。
しかしそこには秘密が隠されていて……。
- 著者
- ["サラ ウォーターズ", "Waters,Sarah", "有希, 中村"]
- 出版日
1999年に刊行されたイギリスの小説家サラ・ウォーターズの作品です。
孤独を感じていた貴婦人と、妖しい魅力のある女囚の交流が日記の形式で語られていきます。異なる立場にいながらも偶然出会った2人の女性の心の揺れ動きと、激しいまでに成長してしまった感情がありありとわかるでしょう。
マーガレットとシライナが面会する場面では、監獄の独特な閉塞感が文章からも漂っていて、仄暗い関係性を感じます。
オカルトでありながら愛の物語としても捉えられるのですが、最後に待ち受けているのは意外な黒幕と、切なすぎる結末。悲しい読後感にひたる一冊です。