薬剤師芸人が本当に教えたい薬の話!「毒と薬」の切っても切れない関係とは

更新:2021.11.22

ミベオノという理系漫才師コンビの三部です。薬剤師の資格を持っています!「理系」や「薬剤師」と聞くと、「自分からは遠い世界」と感じる方もいるでしょう。しかし、「ボトックス注射」や「たばこ」はどうでしょうか? 皆さんにとって身近な「薬」とされている物質は、実は「毒」だと認識されていた歴史も。この記事では、そのように表裏一体な「毒と薬」の関係について、わかりやすくお話します!

ブックカルテ リンク

「毒と薬」は紙一重。薬剤師芸人がわかりやすく解説!

こんにちは!薬剤師芸人の三部透(みべとおる)です。

私は現在、プロダクション人力舎で芸人活動をしながら、現役の薬剤師として薬局で働いています。もともと子供の頃から本を読むのが大好きで、当時は江戸川乱歩の『怪人二十面相』が僕にとってのヒーローでした!「四十面相」になって再び登場したときは、子供ながらめちゃくちゃ興奮したのを覚えています。

そして薬剤師になってからは、主に薬や健康に関する本を読んでいます。そこで今回は、皆さんにもっと薬を身近に感じてもらえるような話を、本とともにご紹介したいと思います!

薬といえば、風邪などを治してくれる「体によいイメージ」を思い浮かべるかと思います。ですが、「薬(クスリ)」を逆から読んだらリスクになるように、薬が悪く働いてしまう時があるんです。

実は「毒と薬」が紙一重だということを知っていますか。

昔の昭和の時代に、サリドマイドという睡眠薬がありました。この薬は妊婦さんも安全に飲める薬として広まったのですが、おなかの中にいた子供に悪影響を与えていたとして販売停止になりました。ですが後になって、サリドマイドがガンに効くとわかり、今日では抗がん剤として活躍しています。

このように毒と薬は切り離せない関係なんです。

そこで今回は、「毒と薬」の魅力について3つの本を通してご紹介したいと思います!

『【大人のための図鑑】毒と薬』

「命を奪う毒、命を救う薬。
使い方しだいで、どちらにもなる!」
(『【大人のための図鑑】毒と薬』表紙より引用)

星薬科大学の名誉教授でもあり、医療用麻薬研究の第一人者として活躍する鈴木先生が監修された1冊。

本書は「毒」をテーマに書かれていて、毒の知識を深めることによって、そもそも薬とは一体何なのか学ぶことができます。また、全ページがオールカラーで図や写真もたくさんあるので、さながら博物館のように眺めるだけでも楽しむことができます。初めて薬について興味を持ったという方には、この本が1番オススメです。

そして、豆知識やコラムがたくさん載っているので読み物としても読みごたえありです。たとえば美容のしわ取りとして「ボトックス注射」がありますが、実はこれはボツリヌス菌という細菌が産み出した毒素なんです。この毒は地球上で最強といわれていて、その強さはたった1gで何百、何千万人を死に至らしめるほど!

どういうことか詳しく説明します。ボツリヌス菌とは、缶詰やビンに入っていることが多い食中毒菌です。通常大人であれば、「菌」自体が身体の中に入っても腸内細菌がやっつけてくれるのですが、もし「菌の毒素」が含まれた食品を食べてしまうと、毒素によって人間の神経から筋肉への情報伝達が阻止され、筋肉が動かせなくなってしまいます。そして最悪のケースでは、呼吸をする筋肉の麻痺によって呼吸困難に陥いることも。

このように「毒」として非常に怖い作用をもつボツリヌス菌ですが、現在では筋肉を麻痺させる作用が美容目的で利用されています。たとえば、顔のしわの原因のひとつに、「筋肉の縮み」があるのですが、ボツリヌス菌の毒素をしわに打つと、筋肉の動きが弱くなりしわが現れにくくなるんです!まさに「毒」と「薬」は表裏一体なんです。

本書の最後の章では「毒と薬の事件ファイル」として、日本で起きた毒にまつわる事件を取り上げています。本書の中で学んだ毒が実際にどのように使われたのか知ることができますよ。

作用が逆の2種類の毒を用いることによってアリバイを作ったトリック事件の犯人や、冒頭で紹介した「サリドマイド事件」についても詳しく書かれているので、毒と薬に興味を持った方は、ぜひ手に取っていただきたいです!

著者
鈴木 勉
出版日

『本当のたばこの話をしよう』

「たばこをめぐる矛盾や素朴な疑問に対して『(可能な限り)科学的』に答えます!」
(『本当のたばこの話をしよう』裏表紙より引用)

本書は、国立がん研究センターに勤める片野田耕太さんが、たばこをエビデンスに基づき評価した1冊。たばこは「毒と薬」どちらであるのか、具体的な数値とあわせて書かれているのでより納得しやすいと思います。

たばこを吸うと「肺がん」になるとよく聞きますが、実際に喫煙者が肺がんで亡くなる確率は、この本によると15%。意外に低いんです。これには理由があって、実は喫煙によって寿命が10年 ほど短くなることがわかっています。喫煙者の方は、たばこによって引き起こされる病気が原因で、肺がんになる前に亡くなってしまうのです。 

もし今のを聞いて「この本は喫煙者に厳しいんだな~」と思った方も、安心してください。本書のすごいところは、たばこのメリットについても書かれていることなんです!たばこには特定の病気のリスクを下げる効果があり、まさに「薬」としても働いていることがわかります。

たとえば、子宮がんのひとつに「子宮体がん」があるのですが、この病気は女性ホルモンのエストロゲンが過剰になることによって引き起こされます。そして、たばこにはエストロゲンと逆の働きをすることが分かっており、喫煙によって子宮体がんのリスクが下がると言われています。他にも、潰瘍性大腸炎やパーキンソン病についても、たばこが予防的に働くのではないかという説があり、「薬」としてのたばこが将来認められる日が来るかもしれません。

また本書の後半には、受動喫煙の害をめぐる科学者とたばこ産業の歴史が書かれています。真実を求めようとする科学者と、それに対してネガティブキャンペーンをおこなうたばこ産業の静かな戦いは非常に刺激的でドラマチック。たばこのおぼろげな知識をいま一度見直したい方はぜひ。

たばこに関する否定的な意見はよく耳にするものの、具体的な根拠は知らないという方も多いでしょう。『本当のたばこの話をしよう』で読むことのできる、データにもとづいた客観的な意見は貴重です。健康が気になる喫煙者の方はもちろん、身の回りの大切な人に禁煙を勧めたいという方にもおすすめできます。 

著者
片野田 耕太
出版日

『世界史を変えた13の病』

「疾病が発生すると、驚くほどうまく対処する人がいる。そういう人々が周囲の死や破滅を最小限に抑えるのだ。」
(『世界史を変えた13の病』はじめにより引用)

ニューヨーク在住の作家が感染症について書いた「Get well soon(意味:お大事に)」の日本語版。邦題に「13の病」とありますが、正確には12の病とロボトミー手術について書かれています。毒を薬だと信じていた時代に、病気に翻弄される人達とその病に挑んだ英雄に着目した歴史書です。

歴史書といっても堅苦しいわけではなく、外国人特有のジョークを織り交ぜながら話が進んでいくので、暗く陰鬱な雰囲気になりがちな感染症の話も非常に読みやすくなっています。筆者は英雄が特に大好きだそうで、それぞれの病気の治療に貢献した英雄が紹介されています。

私が印象的だったのは、性感染症の梅毒に苦しむ人達を救うために、「鼻なしの会」を結成したミスター・クランプトンの話です。有効な治療法がなかった時代に、梅毒にかかると鼻がもげることがあり、彼らはその外見の特異さから、周りの視線や差別に苦しんでいました。

そこで、英雄ミスター・クランプトンは、梅毒患者が悩みを分かち合えるような機会を設けることによって、病気に対する羞恥心から解放させたのです。そしてその集まりが、現在のアルコール依存症やエイズに苦しむ団体の土台となりました。

2020年の今でも、病気に感染した人に対して心無い言葉を浴びせる人がいます。今最もすべきことは、ミスター・クランプトンのように感染した人を孤立させないことなのかもしれません。

「病院に行けば、安心できる」と私たちがなんとなく認識できているのも、過去に様 々な疾病と戦ってきた人たちがいたおかげ。その歴史を『世界史を変えた13の病』で紐解くことで、現代の私たちにとっても感染症について考えるきっかけになればと思います。

著者
ジェニファー・ライト
出版日
2018-09-12

「毒と薬」はこれからも私たちの身近な存在

最初に「毒や薬」と聞いた時より、身近に感じてもらえましたか?

ぜひこれらの本で「毒と薬」の知識を得るとともに、新たな発見をしてみてはいかがでしょうか。

もしこの記事を読んで私たちの身近にある薬についてもっと知りたいと思った方は、私のブログも見てみてください!薬についての雑学や、健康について役立つ情報を定期的に発信しています。

<薬の回覧板~薬剤師芸人のブログ~>

また、この記事を執筆した私が漫才師としてどんな漫才をしているのか気になったという方は、ぜひ劇場でお待ちしております。私のツイッターで、ライブの情報をチェックいただけます。

<ミベオノ(三部透)ツイッター>

「毒」があるからこそ「薬」がある。これらの本には「毒と薬」の魅力がたくさん詰まっていますので、もし気になった方はぜひ手に取って読んでほしいです!

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る