変わること、変わらないこと、私のニューノーマルな話【荒井沙織】

変わること、変わらないこと、私のニューノーマルな話【荒井沙織】

更新:2020.6.1 作成:2020.6.1

スマートフォンのカレンダーアプリを眺めてみると、もう2ヶ月以上、私はまともに出歩いていないようだ。そういえばこのアプリ自体も、使用頻度がめっきり低くなっている。前回の記事では、自粛疲れから立ち直ったという話をしたが、その後はもう、完全に順応できてしまった。そう簡単には元に戻れないほどに・・・。今回は、削ぎ落とした毎日を過ごすうちに思ったことを書いています。

荒井沙織プロフィール画像
フリーアナウンサー、タレント
荒井沙織
広島県出身。2012年テレビ東京「釣りロマンを求めて」でデビュー。 釣り番組・旅番組・地域情報番組・経済番組でのリポーターやお天気キャスターの他、YouTuberや写真展出展など。 趣味は映画鑑賞、海外ドラマ鑑賞、読書、お散歩、カメラ。競馬を勉強中。
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ミニマムな生活

先日ついに、待ちに待った緊急事態宣言の解除となったが、今のところ、私の身の回りではその実感がない。まだまだ油断は禁物、ソーシャルディスタンスを意識しながらの生活がこの先も続きそうだ。続く、どころか、以前と全く同じ状態には戻らないという見方も、今や現実味を帯びている。

私はというと、ひと月ほど前に陥った自粛疲れは数日で克服し、すっかり、この “ミニマムな生活” に慣れてしまった。自宅と仕事の現場以外ではほとんど人と顔を合わせることもなく、連絡を取るのはごく少数の友人とだけ。外出は、必要に迫られた用事のある時だけ。店が開いていないから衣装を新しく買い足すこともできず(試着をしてから買いたい派なのだ)、そもそも出かける機会が少ないので、メイクをするのは週に1、2回になった。

特定の事柄を継続して意識することで、習慣的に思考に刷り込まれることがある。私は、連日あらゆるところで《不要不急》という言葉を見聞きするうちに、自然と、外出機会の選別にとどまらず、自分にとって本当に必要なもの、欲しいもの、したいこと、時間をかけたいものだけを選ぶようになってきた。これまでも、自分にとって有害であったり不要と感じるものからはできるだけ離れるようにしてきたが、ここ数ヶ月で、ふるいの目がより細かくなったように感じる。

人との繋がりがここまで絞られたのは初めてのことだ。元々、割と静かに生活しているタイプとはいえ、そこそこ薄い関係性の人たちとも食事に出かけたりお茶をしたり、少なからずそんな機会はあった。それが、こうして一度全て無くなってみると、 “リセットされたみたいで楽だな” と感じた。だから、プライベートな領域に関しては、正直なところ、今の状況も悪くないなと思っている。そして今後はきっと、これまでよりも、自分にとって大切な友人や仲間だと思える人たちと過ごす割合が増えていくのだろう。自分のために選択する力が身についた、そんな風に感じている。

著者
["ドミニック・ローホー", "原 秋子"]
出版日

ON/OFF

思っていたよりも必要なのだなと感じたものもある。それが、私にとっては衣装とメイクだ。もちろんこれまでも、どんな衣装を着るのかは、自分のキャラクターや役割を表現することの一部だと捉えてきた。気に入った服を着て自分の気分を持ち上げることを、日ごろから意識している方だと思うし、買い物に出かけるのも大好きだ。

そんな私がここしばらくを過ごす中で苦労したのは、仕事に向かう気持ちのスイッチのオン・オフだった。これは、いつも以上に難しかった。商業施設が軒並み休業しているため、ブースターとして新しい服を買って気持ちを高めることもできない。加えて、これまでは主に移動中やすっぴんの時につけていた、謂わば “オフのスイッチ” であるマスクをつけたまま仕事をするのだ。もちろん慣れもあるが、こうした違和感をしだいに払拭することができたのは、変えないことの必要性にも気づいたからだ。

緊急事態宣言の最中、少ない外出機会に周囲を見回すと、ほとんどの人が、暗い表情で暗い色を身につけていた。仕事に向かうため、明るい色の衣装を選んでいる自分を一瞬「適切では無いのだろうか?」と感じてしまったほどだ。行動が制限され、見えない不安や不満が蔓延する世界では、人は明るい色を選べないのかもしれないと思った。服装が気分に影響すれば、その逆も然り。心理状態は服装に表れる。だから、あえて私はこの期間も、これまでと同じように、意識的に明るい印象の服を着ることにした。

メイクに関してもそうだ。マスクをしているから、実際は目よりも下の部分はほとんど見えない。メイクを簡単に済ませるようになったという人が多いだろう。私自身も、意識を置く優先順位が低くなってしまったのか、仕事現場でもマスクが必須になった最初の頃は、これまでよりメイク直しの回数が減ったり、チークや口紅をつけることを省いたり忘れたりしていたのだ。そんな自覚があったので、感覚を取り戻すにはどうしたら良いのだろうと考えた時、試しにメイクやメイク直しをいつも通りにしてみた。すると、モヤモヤとした違和感が明らかに和らいだのだった。服装とメイク、たったそれだけのことだが、私にとっては変わらず意識を遣るべき必要なものだった。シンプルに削ぎ落とした生活をすることで、自分の取り扱い方法と、必要なものを再確認できた。

著者
椰月 美智子
出版日

リブート(再起動)

雑音を感じない日はない。それでもこの2ヶ月間は比較的、雑音の少ない環境に居ることができた。なんて楽で軽やかなんだ!と思ってしまったから、私はもう元には戻りたくない。それはただ単純に、やることもなく家でだらだらと過ごせる時間があったから楽だった、ということではないのだ。

子ども時代は、自分の意思で日常の何かをリブートすることなんてほとんど不可能だし、大人になったらなったで、今度は歳を重ねるほどに、大きな代償を伴う決断となることが多い。それが今回は、世界中がほぼ一斉に、それぞれの日常の少なくともどこか一部はリセットしたのだ。私は雑音から離れ “何もしない” 時間を過ごすことで、自分を知ることができたような気がしている。私にとってのそれは、人生設計をしてみたとかそういったものではなくて、普段は様々な事象の中で置き去りにしてしまいがちな、自分の心に耳を傾けることだった。

世界がまるごと再起動した。

そしてきっと、私は数ヶ月前と同じには戻らないのだ。リブート版の自分には、新しい価値観を味方に、もっと自由で強く在って欲しい。

著者
["チャディー・メン・タン", "ダニエル・ゴールマン(序文)"]
出版日
2016-05-17
著者
["キラ・ウィリー", "アンニ・ベッツ", "大前 泰彦"]
出版日

私の世界はボンボンショコラ

ずらりと並んだチョコレート。味も形も様々に、箱の中で秩序を保っている。ひとつひとつは小さくても、ひとくち齧れば、甘くて味わい深い宇宙が広がる。

これから先、私はチョコレートボックスのような人生を送りたい。ボンボンショコラを選ぶように、ワクワクする特別なものだけを集めたい。その箱の中から、慎重にひと粒ずつ手にとる時のように、人生の面白さを享受していたい。キャラメル、プラリネ、スパイスの香り。時に予想外の味覚も隠れていることだろう。けれど、どれもがこの上なく丁寧な味わいなのだ。なぜなら、私が、私の価値観に従って選び集めた一箱なのだから。

世界には、この先もとっておきのボンボンショコラが数え切れないほど待っている。自分の心に誠実に選ぶこと、味わうこと。それが私のニューノーマルなのだ。

(撮影: 荒井沙織)