ミステリー小説のなかでも、ロジカルに謎を解く面白さを味わえるのが、暗号解読ものです。犯行のトリックや宝の存在、犯人の行方など、隠された謎をひとつずつ紐解いていく楽しさを堪能してみてください。この記事では暗号解読ミステリー小説のなかから、初心者でも楽しめる、海外と日本の有名作品を選びました。
フランスにあるルーヴル美術館の館長が、何者かに殺される事件が発生。警察は、館長と会う約束をしていたラングドンという男性を容疑者とみなします。ラングドンはハーバード大学で教授を務めていて、講義のためにパリを訪れていたところでした。
逮捕は時間の問題。しかし彼の無実を確信した館長の孫娘で、警察の暗号解読官でもあるソフィーによって、窮地を脱することができました。警察に追われながら、2人は事件の真相を探っていきます。
一方真犯人たちは、館長が隠したとされる聖杯の秘密を追っていて……。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2006-03-10
2003年に刊行された、アメリカの作家ダン・ブラウンの作品。2006年に映画化もされています。
ルーヴル美術館の館長は、レオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模した形で殺されていました。そのほか「モナリザ」や「最後の晩餐」など、事件にはダヴィンチの作品が深く関わります。館長の孫娘は、祖父が自分にしかわからない暗号を残していると気づき、その解読を急ぐのです。
ストーリーは、キリスト教という壮大なテーマを抱えつつ、フランスやイギリスの歴史を覆しながら展開。謎解きは常にスリルと隣りあわせで、緊迫感を味わえる作品です。
主人公の「私」と、友人で元貴族のルグランが暮らすのは、財宝の伝説が残るといわれるサウスカロライナ州近くのサリバン島。ある日ルグランは、森を散策している最中に1匹の黄金虫を見つけます。その美しさに惹かれて持り帰り、知り合いの専門家に預けました。
ちょうどその夜、「私」がルグランのもとを訪れると、彼はさっそく羊皮紙に黄金虫のスケッチを書き、見せてきました。しかし話の途中で、何かに気が付いたかのように雰囲気が一変してしまうのです。
それから1ヶ月が過ぎた頃、「私」にルグランから手紙が届きます。そこには、島のどこかにあるというキャプテン・キッドの財宝探索を手伝ってほしいと書いてありました。
- 著者
- ポオ
- 出版日
- 2006-04-14
アメリカの作家で詩人、エドガー・アラン・ポーの作品。「黄金虫」は発表当時、暗号解読ミステリーの先駆けとなるものでした。
ルグランが黄金虫のスケッチを書いた羊皮紙には、実は暗号が書かれていました。暖炉の熱で炙りだされたそれを解読した彼が、「私」と従者とともに隠された宝を探しにいきます。
本作の魅力は、3人の波乱万丈すぎる冒険譚。木に登り、枝をつたい、枝の先にくくりつけてある髑髏から紐をたらし、そこから50フィート離れた場所を堀って……彼らが恐怖や不安を抱きながらも必死に宝を探す姿に、狂気を感じつつも胸が踊ります。
最後には、ルグランがどのように暗号を解読したのかしっかり種明かしもされるので、納得しながら読むことができるでしょう。ポーの作品のなかでも読みやすいのでおすすめです。
大学生の原菜穂子の兄、公一が、あるメッセージを残して亡くなりました。現場は密室状態で、警察は自殺として処理。しかし菜穂子は公一の死に違和感を抱きます。
親友の真琴とともに、公一の死亡現場である白馬の山荘「まざあ・ぐうす」を調べることに。すると、偶然にも兄が訪れていた時と同じ客が宿泊していることを知り、驚きの事実が明らかになります。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1990-04-01
1986年に刊行された、東野圭吾の初期作品です。
殺人、密室、雪の山荘、暗号解読というミステリー要素がふんだんに盛り込まれた物語。謎を解くカギになっているのは、イギリスの童謡「マザーグース」です。
客室に飾られていた歌詞に隠された秘密を探りつつ、事実が二転三転し、徐々に真相に近づいていくさまは圧巻。意外な結末で、エピローグまで目が離せません。雪の山荘や部屋の間取りなど、緻密な情景描写も楽しめるでしょう。
ある老舗旅館で、殺人事件が発生しました。IQが208もあるという若手囲碁棋士の牧場智久は、事件の謎を追ううちに、黒岩涙香という明治時代の天才小説家の存在を知ります。
涙香の痕跡から、廃墟同然となった茨城県の山荘を訪れた智久。そこで彼を待ち受けていたのは、48音からなる「いろは歌」を使った難解な暗号の数々でした。
- 著者
- 竹本 健治
- 出版日
2016年に刊行された竹本健治の作品。多くの天才が登場する「牧場智久」シリーズのひとつで、「このミステリーがすごい!」で1位に、また「本格ミステリ大賞」を受賞しました。
暗号解読をめぐる天才同士のぶつかり合いと、巧妙なトリックを楽しむことができる物語。日本語を利用した暗号が彼らの前に立ちはだかり、一筋縄ではいかない展開をくり広げます。
また最大の謎は、黒岩涙香という存在。小説家や翻訳家、ジャーナリストとして活躍した実在する人物で、日本語を操る天才でもありました。
たった48音で作られたいろは歌には、何重もの意味が込められています。暗号解読をしながら、日本語の美しさと奥深さも堪能できる作品です。
いままさに第二次世界大戦が始まろうとしている時、大学で数学を学んでいたローレンスは、イギリスからの留学生チューリングと出会いました。仲を深める2人でしたが、戦争が始まり、従軍することになります。イギリスのクフルム島で座礁したボートを調べていると、日本軍の金塊を発見し……。
時は流れ、現代。ローレンスの孫のランディは、技術者としてネット事業に関わっていました。海底で電線工事をしていると、古い潜水艦を見つけます。やがて祖父が記録に遺した日本軍の金塊を探すことになり……。
- 著者
- ["ニール スティーヴンスン", "Stephenson,Neal", "尚哉, 中原"]
- 出版日
1999年に刊行された、アメリカの作家ニール・スティーヴンスンの作品。「ローカス賞」のSF長篇部門を受賞しています。
第二次世界大戦中と現代という2つ時代が並行して語られ、やがてひとつにまとまっていく構成です。
作中には、多数の暗号と、数学やコンピュータ関連の用語が登場。数学や物理を利用して緻密に計算された仕組みは、作者のこだわりを感じる部分です。ところどころに詳しい解説が挿入されていて、マニアにはたまらないはず。
歴史小説とSF、過去と現在、欧米とアジアという壮大なスケールながら、軽快な表現で読みやすい作品です。
香坂明は、どこにでもいる普通の大学院生。ある日、製薬会社に務めている友人から新薬「R試薬」の実験体にならないかと誘われました。
会社の目的は、民俗学の権威で頭脳明晰な折口信夫を薬によって憑依させ、猿丸太夫という歌人の謎を解き明かすこと。高額な報酬に目がくらんだ明は、二つ返事で承諾するのですが……。
- 著者
- 井沢元彦
- 出版日
1980年に刊行された井沢元彦の作品。「江戸川乱歩賞」を受賞しました。井沢は歴史研究家でもあり、歴史上の謎と現代の事件を繋げた歴史ミステリーを多く発表しています。
実際に存在した歌人の折口信夫が現代によみがえり、猿丸太夫にまつわる謎を解く物語。猿丸太夫は百人一首に掲載されている歌人のなかでも、実在が疑われる不思議な人物で、柿本人麻呂なのではないかといわれています。
1000年の時を経た暗号はなかなか解読することはできず、さらに信夫が体験した友人の死の謎も絡まり、物語は複雑に。憑依という難しい設定ですが、丁寧な心理描写でわかりやすく表現し、2人の視点から見た歴史と想いを緻密に描いているのが魅力的です。