学校という閉ざされた空間で起こる事件や謎を解決する、学園ミステリー小説。学生はもちろん、大人が読んでもほろ苦い青春を感じられる作品が多数発表されています。この記事では、学園ミステリー小説のなかから特におすすめの作品をご紹介します。
ある日、使われていない旧体育館で殺人事件が発生。刺殺されたのは放送部の部長です。時間は放課後、現場は密室状態。唯一その場にいた卓球部の部長に疑いがかけられました。
同じく卓球部に所属する柚乃は、先輩の疑いを晴らすため、学内で天才と呼ばれる裏染天馬に声を掛けました。彼は学校に住んでいると噂されるほどの変わり者ですが、その推理力は警察にも一目置かれるもの。真相の解明に挑みます。
- 著者
- 青崎 有吾
- 出版日
- 2015-03-12
2012年に刊行された青崎有吾のデビュー作。「鮎川哲也賞」を受賞しました。高校を舞台にした学園ミステリー小説です。
本作の探偵役は、少し変わった男の子。頭はいいもののアニメオタクで、今回の事件もグッズ収集のための報酬目的で引き受けました。警察や担任に冷たい目で見られながらも、生徒たちに聞きこみをして推理を組み立てていきます。
ユーモアのあるネタを挟みつつ、軽快に展開していくので、暗い雰囲気が苦手な人でも楽しめるでしょう。密室、雨の体育館、遺留品など本格ミステリー好きにたまらない要素も詰まっています。「エラリー・クイーンばりのロジカルな推理」と評価された一冊です。
高校生の須川が恋をしたのは、クラスメイトの酉乃初。普段はとっつきにくい態度で周囲と距離をとっていますが、実は放課後にレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを披露する、凄腕のマジシャンでした。
初に魅了された須川は、何とか彼女に近づこうとあの手この手を尽くしますが、なかなか心を開いてくれません。
そんななか、学内で事件が起こり……。
- 著者
- 相沢 沙呼
- 出版日
- 2012-10-21
2009年に刊行された相沢沙呼のデビュー作。「鮎川哲也賞」を受賞しました。作者自身もマジックをたしなんでいて、その経験が作中に活かされています。
一途な主人公と孤独な少女が、華麗なマジックとともに事件を解決する物語。初はマジックの腕はもちろん、頭も切れる人物です。しかし思春期ならではの悩みや葛藤を抱えていて、彼女の繊細な心情も感じ取れる青春学園ミステリー小説になっています。
それぞれの物語が繋がっている連作短編集の形式で、ページが進むごとに登場人物たちの成長の過程を感じられるのも魅力的。ミステリーの面白さと青春のほろ苦さを1度に味わえる作品です。
いつも通り生徒たちが高校に登校すると、教室のドアに鍵がかかっていました。むりやり開けると、あるはずの机と椅子がすべて消えています。そこにあったのは、コピーされた遺書と、変わり果てた姿となった、クラスメイトの中町圭介だけ。
密室の教室。自殺なのか、他殺なのか……同じクラスの推理マニア、工藤順也が事件の調査に乗り出しました。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2008-04-15
1988年に刊行された法月綸太郎のデビュー作です。
密室の教室で生徒が怪死していて、さらには机と椅子がすべて消えているという、序盤から読者を惹きつける設定が魅力です。
高校生の順也はけっして名探偵ではなく、ただの推理マニア。拙いながらも、青臭く事件を調べていきます。若さあふれる行動と、自身の推理を熱く語るシーンには、青春小説特有のもどかしさを感じながら楽しめるでしょう。
自殺なのか他殺なのか、物語は二転三転しながら進んでいきます。後半にはどんでん返しも待っていますが、最後の真相は読者の想像力に任せる形。読後も考えさせてくれる一冊です。
大学受験が迫る寒い冬の日、無人の校舎に8人の高校3年生が閉じ込められました。時計は5時53分で止まっています。校内には彼らの他に人影もなく、扉も開きません。
混乱と寒さで凍えるなか、彼らは、2ヶ月前の学園祭で同級生のひとりが自殺したことを話します。しかし、なぜか全員、その子の顔と名前を思い出すことができないのです。
死んだのは誰なのでしょう。どうして忘れてしまったのでしょう。そしてこの状況は、その生徒の死と関係があるのでしょうか。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2007-08-11
2004年に刊行された辻村深月の作品。「メフィスト賞」を受賞しました。2008年には漫画化もされています。
校舎に閉じ込められた8人は、自殺した生徒がこの状態を生み出した犯人ではないかと疑います。さらに飛び降りが起きた時刻になると8人のなかからひとりずつ生徒が消え、序盤からスリルと臨場感を味わうことができるでしょう。
残されたメンバーは、誰が犯人なのか疑心暗鬼に襲われながらも推理を展開。そのなかで、自身が抱えている苦悩や傷が語られていくのです。子どもたちの心の機微を丁寧に描いた文章と、お互いを疑う生々しい感情の表現に圧倒されるでしょう。
後半では怒涛の伏線回収。叙述トリックもあり、最後は報われる形で終わります。ホラーとファンタジーが入り混じった、学園ミステリー小説です。
高校生の折木奉太郎は、やらなくてもいいことはやらない、やらなければいけないことは手短にやる、がモットーの省エネ主義。高校では姉の助言で、廃部寸前の古典部に入りました。
そこで千反田える、福部里志、伊原摩耶花と知り合うのですが、好奇心旺盛なえるに振り回され、日々謎解きをすることに。ある時、古典部の文集「氷菓」に隠された真実を知るために、33年前の出来事を調べることになりました。そこには切なく悲しい歴史があって……平穏を望む奉太郎の、波乱の日々が続きます。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2001-10-31
2001年に刊行された米澤穂信の作品。テレビアニメ化や漫画化、映画化もされています。
古典部の高校生たちが、密室になった教室、分厚い本の当日返却、古典部の文集探しなど日常の謎を解いていく学園ミステリー小説です。彼らは探偵のような圧倒的な推理力をもっているわけではありませんが、些細なヒントを見逃さず、地道に謎解きをしていきます。
「氷菓」に込められた真実は切ないものですが、人が死なないミステリーを読みたい方におすすめです。
季節は冬。全国でも有数の進学校に通う生徒たちは、寮を出て帰省しています。そんななか、昔ながらの面影を残した寮「松籟館(しょうらいかん)」には、それぞれの事情で4人の生徒が残っていました。
誰に邪魔されることの無い自由な休暇に浮き足立ちますが、クリスマスイブの晩に告白ゲームをしたところ、とある事件が起こるのです。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2003-05-20
2000年に刊行された恩田陸の作品。テレビドラマ化もされました。
告白ゲームは当初気楽に始めたものでしたが、4人はそれぞれトラウマや隠していた過去を語り始めます。彼ら以外に誰もいない閉ざされた空間はどこか神秘的で、「ネバーランド」という言葉がぴったり。特殊な環境で同じ時間をともにし、それまで誰にも言えなかった秘密を告白していく姿から、10代ならではの人生観や脆さを感じられるでしょう。
作中で描かれているのはたった1週間の出来事ですが、最終的にはそれぞれが抱えていた暗い過去を乗り越えていきます。告白とともに起きる事件の謎解きとともに、心の成長を感じさせてくれる学園ミステリー小説です。