ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にとって重要な宗教文書とされている「聖書」。1度も読んだことがないという人も多いのではないでしょうか。この記事では、新約と旧約の違い、内容、名言などをわかりやすく解説。またおすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
「旧約聖書」はキリスト教とユダヤ教の正典です。ただ「旧約」という呼び方は、「新約聖書」をもつキリスト教の立場から見たもの。ユダヤ教にとっては唯一の聖書であり、一般的には単に「聖書(タナハ)」といいます。
近年では、学術用語から宗教色を払拭すべきという風潮にのっとって、「ユダヤ教聖書」、また「ヘブライ語聖書」「ヘブライ語聖典」ということもあるそう。
長期間にわたって多くの人が大幅な増補・改訂・編纂をしてきたと考えられていて、執筆者は定かではありません。成立年代についても定説と呼べるものがないのが現状です。
ユダヤ教の正典に定められたのは、「ユダヤ戦争」終結後の1世紀後半のこと。主流派であるファリサイ派の宗教的指導者で学者だったラビが開催した「ヤムニア会議」で決まりました。
その後8世紀頃に、ヘブライ語で書かれた原典に母音記号などを加えたものを「マソラ本文」といい、もっとも標準的なものとされています。
一方で、紀元前250年頃ギリシア語に翻訳されたものを「七十人訳聖書」といい、キリスト教で旧約聖書という場合はこちらを指すのが一般的です。「マソラ本文」と「七十人訳聖書」では、構成や配列に相違があります。
では旧約聖書の内容を説明していきましょう。全39巻で、多くの書物の集合体なので内容は多岐にわたり、古代イスラエル人の思想活動のすべてが網羅されているといっても過言ではありません。
冒頭は「創世記」。天地創造、アダムとイブ、カインとアベル、ノアの箱舟、バベルの塔、アブラハム、イサク、ヤコブ3代の部族長、ヤコブの末子ヨセフ、ソドムとゴモラの滅亡などの物語が語られます。
その後、モーセを中心に据えた「出エジプト記」、法律や倫理、禁忌、祭祀などに関する規定が記された「レビ記」「民数記」「申命記」と続きます。
「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」はまとめて「律法(トーラー)」と呼ばれ、モーセが神から伝えられたものを書き記したものだと伝えられていることから、「モーセ五書」または「モーセの律法」ともいいます。
「申命記」以降は、歴史に関する記述が中心です。
モーセの後継者であるヨシュアを主人公とする「ヨシュア記」、デボラ、ギデオン、サムソンなど軍事指導者たちの活躍を記した「士師記」、最後の土師であるサムエルを主役に、部族の連合体がサウル王やダビデ王によって王制国家に移行していく「サムエル記」、ダビデ王の子であるソロモン王によって王国が最盛期を迎え、南北に分裂し滅亡するまでを描いた「列王記」、南のユダ王国の立場から歴史を記した「歴代誌」、神ヤハウェへの賛美の詩150編を収めた「詩編」などが含まれています。
「新約聖書」の「約」は、神と人との「契約」を意味します。「神と人間との古い契約の書」である旧約聖書と対比して「神と人間との新しい契約の書」という意味で名付けられました。「ギリシア語聖書」と呼ぶこともあります。
旧約聖書と新約聖書の最大の違いは、その名のとおり「契約の新旧」です。旧約聖書における神との契約は、簡単にいえば「いつか救世主(=メシア)が現れてユダヤの王となる」という伝承です。
キリスト教徒は、その救世主こそがイエス・キリストであると考えました。つまり旧約聖書における神との契約は果たされた、という考え方。そのため、救世主であるイエス・キリストの言葉こそが神との新たな契約であると考えたのです。
これに対しユダヤ教徒は、イエス・キリストを救世主とは認めておらず、いまだに救世主の出現を待ち続けているという立場をとっています。
新約聖書は全27巻で構成されていて、イエス・キリストの死後、紀元1世紀から2世紀頃に書かれました。
執筆者とされる「使徒教父」のひとり、アンティオキアの聖人イグナティオスが「新約聖書は旧約聖書の中に隠されており、旧約聖書は新約聖書の中に現わされている」と語ったとされるとおり、キリスト教では旧約聖書と並ぶ正典と位置付けられています。
では新約聖書の内容を紹介していきましょう。旧約聖書と同様にさまざまな書物の集合体ですが、旧約聖書がイエス・キリスト以前のものであるのに対し、新約聖書の内容はイエス・キリスト生誕後の記述が中心です。
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネがイエス・キリストの生涯や言葉を書いた「福音書」、イエス・キリストの死後、使徒たちを中心とする初期教会の歴史を記した「使徒言行録」、使徒パウロが各地の信徒に書き送ったとされる「パウロ書簡」、ヤコブ、ペトロ、ヨハネらによる「公同書簡」、使徒ヨハネがキリスト教的終末論を描いた「ヨハネの黙示録」など27の書で構成されています。
なかでも特に後世の文学や芸術に大きな影響を与えたのが「ヨハネの黙示録」です。使徒ヨハネがパトモス島で見たとする幻視を書き留めたもので、397年に開催された「カルタゴ会議」にて新約聖書に組み込まれました。
内容は、「世界の終末」「イエス・キリストと殉教者による千年王国」「イエス・キリストによる最後の審判」「新しい世界の到来」といったもの。新約聖書のなかで唯一の預言書めいた内容ということもあり、その意味や意義について、長年議論が続けられています。
新約聖書には多くの教えが書かれていて、なかには神ヤハウェや神の子イエスを信じていない方の心にも響く名言が多数。いくつか紹介しましょう。
「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」(ルカによる福音書6章27節)
単純な言葉ですが、それだけに奥深いもの。自分がしてもらいたいことはすぐに思い浮かぶかもしれませんが、人に何かするとなると気づくことが少ない人が多いのではないでしょうか。大切な人のために何かをしてあげたいと考えた時に、思い浮かべたい言葉です。
「夜は更け、日は近づいた」(ローマの信徒への手紙13章)
世の中には暗いニュースも多いですが、夜が暗くなればなるほど、朝が近づいていると考えると希望が湧いてきます。
「見てもらおうとして、人の前で善行をしないように注意しなさい」(マタイによる福音書6章1節)
善行は人に隠れておこなうべきもの。わざわざ人前でしてアピールするのはただのパフォーマンスに過ぎません。
「皆、勝手なことを言わず、仲違いせず、心を一つにして思いを一つにして、固く結び合いなさい」(コリントの信徒への手紙(1)1章10節)
聖徳太子が定めたとされる十七条憲法にも「和を以て貴し」とありますが、これは「空気を読んで仲良くやろう」という意味ではありません。目標のためには心を一つにする必要があり、そのために必要であれば徹頭徹尾話しあうべきだという教えです。
「求めよ、さらば与えられん」(マタイの福音書7章)
自分から行動を起こせば必ず道は開けるという意味であるとともに、行動を起こさなければ決して目標を果たすことはできないという意味でもあります。
- 著者
- 上馬キリスト教会
- 出版日
2015年に始めたTwitterでの投稿が注目され、フォロワー10万人を超える人気アカウントとなった世田谷区のメソジスト系単立教会、上馬キリスト教会の作品です。
メソジスト教会は、18世紀にイングランド国教会の司祭だったジョン・ウェスレーが起こしたメソジスト運動に由来するもの。メソジストには「几帳面」という意味がありますが、本作は「ゆるさ」が特徴になっていて、世界一ゆるく聖書を解説しています。
キリスト教が普及しなかった日本ではほとんど知られていない基礎知識や豆知識を、クスリと笑えるエピソードを交えて紹介しているのが魅力的。気軽に読めるおすすめの入門書です。
- 著者
- 昭男, 月本
- 出版日
聖書は、旧約聖書と新約聖書をあわせると1900ページもある超大作。馴染みのない人にとってはなかなか手を出しづらいでしょう。
本作は、そんな聖書について図解を用いながらわかりやすく解説した作品。聖書のもつ世界観を視覚で確認できるのが大きな特徴です。まるで聖書のダイジェスト版を読んでいるかのように、全体像を掴めるでしょう。西洋の小説や絵画について知れるのも嬉しいポイントです。