自分が手にしたものや、街で見かけたデザインのかっこよさに衝撃を受けて、「デザイナーになりたい!」と思っているあなた。デザインの道に進みたいけれど何を基準に選べばいいかわからないと進路について迷ってはいませんか。「大学と専門どっちにしよう?」「デザインやるならやっぱり美大を受けるべき?」という疑問があるのではないでしょうか。 本記事では、「どうしてデザインを大学で学ぶのか」にフォーカスして解説していきます。学問としてのデザインとは? 専門と違ってどのようなことを学ぶの? という疑問をお持ちの方は参考にしてみてください。
デザインの勉強をすると聞いて、思い浮かぶのは大学でしょうか、それとも専門学校でしょうか。どちらにもデザインの専攻科目を持つ学校があります。
「専門学校はやりたい勉強だけできるって聞いた」「大学のほうが就職に有利かな?」と迷う気持ちもあるかもしれません。本記事では、大学で学ぶ「学問として」のデザインについて解説します。
学生にとって大学は「学校」であり、「勉強するところ」というイメージが強いかもしれません。しかし大学の本来の役割は「研究機関」です。そのため、デザイン専攻の教員たちも、単にデザイナーとして活動するだけでなく「よいデザインとは何か」といったトピックを研究している人たちなのです。
この研究機関としての性格が大学で学ぶデザインに大きく影響を与えます。専門学校では主に実践的な技術を身に付けていきます。ですので就職の際は即戦力としてデザイン会社で働く人が少なくありません。
しかし大学で学べるデザイン学の内容は少し異なります。専門学校でも学べるデザインのスキルやノウハウ、ツールの使い方だけではなく、デザインにはどのような歴史や理論があるのかまでを深く学べるのが大学のデザイン学なのです。そのため、就職の際は会社の中の広告部門や企画部門に配属されることが多いといった違いがあります。
「デザイン」と「アート」の違いを考えてみましょう。意外と説明が難しいと思いませんか?
「アートは芸術、デザインは商業」と言っても、商品として売られるアートもあれば美術館にコレクションされるデザインもあります。どちらのことも「作品」と呼ぶことがあります。デザインの職種には「アートディレクター」と、アートの肩書きが付くものもあります。
どうしてアートとデザインは違っているようで明確に分けづらいと感じるのか。これはデザインの歴史を通して考えてみると分かりやすくなります。
造形をともなう創作活動全般から、「デザイン」という分野が生まれて枝分かれしていく課程には近代化・商業化の過程がありました。アートが作った人の自己表現だとすると、デザインはそのデザインを受け取る人・使う人のことを考えて作られていることに大きな違いがあります。つまり、デザインはただ何かを作るだけでなく、「設計する」という工程を必要とするのです。
今おおまかにまとめたアートとデザインの歴史や関係性を、大学ではしっかりと授業として学びます。デザイン史を知ることは理論を知ることにつながり、その人が作るデザインに根拠のある枠組みと機能を与えることになるのです。
アートとデザインは異なるものであるとはいえ、相反するものであるわけでもありません。むしろ、近現代デザインの出発点は工業とアートをつなぐ架け橋を作ろうとした試みだという説もあります。
産業革命などによって急速に進みすぎてしまった工業化・大量生産化に対して人間性を取り戻そうとしたのがデザインの第1歩なのだという意見です。
こういった歴史的経緯もあり、デザインを学ぶ人は芸術についての学びもおろそかにすることができません。多くのデザイン専攻が美術大学や芸術大学の中に設置されているのもこのような理由からです。
実際に美大のカリキュラムを見てみると、デザイン論や演習に割くのと同じくらいの時間を、絵画や彫刻について学ぶ時間に充てていることが分かります。
大学で学ぶデザインにとってとても重要な「理論」。実際にどのようなことを理論として学ぶのでしょうか。
デザインは機能を補完するものであるのと同時に、情報を伝えるという役割も担っています。人間はさまざまな情報を五感で取得しますが、デザインが特に担当する領域は目から入ってくる情報です。
そのため色彩についての知識、そして言葉をどう伝えるのかの知識が重要になってきます。色彩の使い方、文字の扱い方は実際に手を動かすとともに、理論として学んでいくことになります。
デザインの諸分野は3つに分かれます。
多くの人は、このどれかを自分の主専攻として選択します。それぞれにどのようなことを学ぶのか見ていきましょう。
◾️ビジュアルデザイン
ビジュアルデザインとは、紙の広告・雑誌や本・WEBサイト・ポスター・看板など、主に印刷技術やその応用を利用して作るデザインのことを指します。お菓子やグッズなどの立体パッケージデザインや、アニメーションなどの映像技術もビジュアルデザインに含まれることがあります。
ビジュアルデザインの特徴のひとつには、「伝えたい情報量が多い」ということがあげられるでしょう。
WEBサイトの1ページを考えてみても、記事本文と写真だけでなくサイトのロゴやリンクのためのアイコン、広告、関連ページへの誘導など、さまざまな要素が盛り込まれています。これらをどのように分かりやすく整理してまとめるかには、理論的な裏付けと豊富な経験が欠かせません。
ビジュアルデザインの分野では、実際に手を動かすことはもちろんとして、情報を伝える手段としてどのようなものがどういう理由で発達してきたのか、そしてそれらをどう応用して新しいデザインを作っていけるのかを考えていきます。
◾️プロダクトデザイン
「プロダクト」とは製品のことですから、「プロダクトデザイン」とは商品として販売されるもの全体のデザインの総称です。大きいものだと住宅や自動車、小さいものだと文具からアクセサリーまで、さまざまなものがプロダクトデザインの領域に関わってきます。
プロダクトデザインでは、その製品の使い心地・機能がとても重要です。見た目がどれほど美しくても、座面の直径が10cmしかない椅子の座り心地がよいということは考えにくいものです。
プロダクトデザインは工業製品としての効率性と、消費者にとっての使いやすさの間をつなぐ「問題解決」をしているということができます。作る側の視点と、使う側の視点両方が大切です。そのため、大学によっては工学系の専攻の中にプロダクトデザイン分野を置いていることもあります。
◾️スペースデザイン
スペースデザインは「環境デザイン」と呼ばれることもあります。いわゆる内装やインテリアなどもスペースデザインの領域です。もっと広い環境を考えるならや公園や公共施設、都市全体なども含まれます。
こうなってくると「それって建築とか設計とか言うのでは?」と疑問を覚える人もいるのではないでしょうか。
確かに、建物には「建築」という専門分野があり、都市には「都市計画」という専門分野があります。これらはいわゆる「デザイン専攻」の中には入っていませんが、デザインの理論と発想が必要となる分野なのです。
美術大学や芸術大学でも建築専攻をもっている大学は珍しくありません。都市計画などになってくると工学の分野ですが、プロダクトデザインと同様に工学だけでなくデザインの視点からアプローチする研究室を持っている大学もあります。
このように、一部のデザイン学は美術大学・芸術大学以外でも学ぶことができます。興味関心によっては、今まで調べていなかった進路のほうがしっくりくるということもあるかもしれません。
ここからは、学問としてのデザインについて知ることができる書籍を紹介していきます。
- 著者
- ["正麻, 飯岡", "和也, 白石"]
- 出版日
『デザイン概論』第3版は、一般書店で手に入れられるデザイン論の教科書です。
1996年の版ということもあり、コンピュータを使ったデザインについてなどの現代のトピックについてはやや物足りない印象を抱くかもしれません。
しかし、デザインの歴史や、有名なデザインがどういった概念や流行を反映してきたのかなど、理論的なことについては深く知ることができます。
文字の多い教科書なのでとっつきにくく感じる人も多いかもしれません。一気に読み切ろうとするのではなく、まず関心のあるトピックから少しずつ読んでいくという読み方もおすすめです。
- 著者
- MdN書籍編集部
- 出版日
よいデザイナーになるには、よいデザインにたくさん触れることが大切だと言われます。完成したデザインはもちろんのこと、よいデザイナーがどのような考え方でデザインを作っているのかを知るのも勉強になるでしょう。
『デザイン・メイキング152 デザイナーのラフスケッチ実例集』は、実際のデザインに落とす前の「ラフスケッチ」に着目したユニークな書籍です。アイデアや要素をどのようにまとめ上げ、整理していくのかの実例を見ることができます。
127組のアートディレクター、デザイナーが実際に考えたラフスケッチを大量に見られる機会はそう多くはありません。デザインを考える際の個人の癖や、ビジュアル、プロダクト、スペースの3分野によってどんな理論を使い分けているのかなど、学べることがたくさん見つかるはずです。
- 著者
- ["関口 裕", "内藤 タカヒコ", "長井 美樹", "佐々木 剛士", "鈴木 貴子", "市川 水緒"]
- 出版日
『レイアウトデザイン見本帳 レイアウトの意味と効果が学べるガイドブック』は、とくにビジュアルデザインに関心がある人向けの書籍です。情報量の多い商業デザインにおいて、レイアウトがどれほど効果的なのかを知ることができます。
今まで自分がよいと思って手にした製品にはこんな理論が使われていたんだなど、プロダクトやスペース、ビジュアルについてデザイナー目線で見られるようになるかもしれません。
何気なく使われている文字や写真、配置や配色にはさまざまな基本知識があり、筋の通ったレイアウトデザインを考える癖をつけるのにも役立つはずです。初心者にとってはデザイン入門書としてぴったりの1冊です。
大学で学ぶ、学問としてのデザインと、おすすめの書籍について解説しました。デザインの領域はどうしてもセンスがある・ない人に分けられることが多くありますが、センスの前に理論としてのデザインの基礎知識を身につけることは避けられません。普段、何気なく目にしているデザインもそうした理論を使い、心理的な影響を考えられて作られていることが分かると、デザインの奥深さや楽しさをより感じられるはずです。
人によっては、美大ではなく工学系の大学に進学したほうがより関心に近いことを学べる可能性もあります。ぜひじっくりと進路について考えてみてください。