5分で分かる観光学!学問としての観光のあり方や、その学び方を解説

更新:2021.12.3

観光学という学問を皆さんは聞いたことがありますか?字面だけ見ると「旅行業界について勉強するのかな」と思ってしまいますが、実は「観光」が意味するのは旅行だけではないんです。産業、文化、地域など領域がわかれ、観光学を学んでいる方は必ずしも旅行好きなわけではないとも言われています。ホテル業界や交通、航空など観光に携わるには多くの面があるので、一概に「観光学について学びたい」というよりは、観光学の何について知りたいのかを考える必要があるといえそうです。 今回は、観光のさまざまな側面に着目して、学問としての観光がどのように成り立っているのか、解説していきたいと思います。

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観光学とは?観光の持つ学問らしさとは

観光学とは?

観光学とは、「観光」を通じて社会のさまざまな現象を分析する学問です。観光に関する諸要素には、大きく分けて3つが存在しています。

◾️観光に関する諸要素
・人
・場所
・組織

1つは「人」です。ここでの人とは、ある土地に赴く観光客と、彼らを迎え入れるために観光業界で働く労働者を指します。次に「場所」。これは観光地そのものだけでなく、そこに至るまでに通過する交通の拠点なども含みます。最後が「組織」です。観光業を取り扱う企業や、地域振興を担う行政組織などがこれにあたります。

観光は、こうしたいくつかの要素の組み合わせによって成り立っています。観光=旅行というイメージも間違いではないのですが、もっと広い意味で観光について学ぶのが観光学という学問といえますね。

観光学の持つ3つの側面

観光という事象には多様な意味や要素が含まれているため、それを対象とする観光学も、切り取る視点によって見えてくる側面が異なります。ここでは観光学を主に3つに分類して紹介していきたいと思います。

1.産業としての観光

観光学と聞いて一番イメージしやすいのがこの「産業としての観光」かもしれません。これは、旅行代理店やホテル・交通機関・飲食店・おみやげ販売といった産業の維持・発展のために、観光の推進・研究をおこなう分野です。人々の観光の楽しみ方は、時代や社会の在り方によって変わっていくため、この変化に合わせた観光の価値やビジネスモデルを生みだしていかなければいけません。こうした視点は、企業の組織のあり方や戦略の取り方を考えることに繋がるので、観光学における経営学的な側面とも捉えられます。

2.地域と観光

高度経済成長期以降、旅行はレジャーの1つとして庶民化が進み、観光は一大産業へと成長していきました。この成長は、地方にもある変化をもたらします。これが、「地域と観光」の分野で扱う、観光を通じた地域振興や町おこしです。日本では、政府が「観光立国」というスローガンを掲げるなど、国・自治体・民間企業が一体となって観光の推進をおこなっています。こうした推進のために、観光資源の保護・整備や、交通網の拡充など、観光客を誘致するしくみづくりをおこなうのも観光学の役割です。

3.文化と観光

観光が過度に発展していくことは、必ずしもよいこととはいえません。観光により人の往来が活発になると、異なる文化や価値観同士が出会い、相互に影響を与えあうようになります。これはよりよい・より新しい文化の生成をもたらした半面、既存の文化の破壊も意味しました。また、観光客の著しい増加により、地域住民の生活や自然環境という観光地を形作る要素に負の影響が出たり、観光客の満足度を著しく低下させてしまう、オーバーツーリズムの問題も発生しています。こうした、観光の推進が文化や人々の暮らしに対して与える影響について研究するのが、文化と観光の分野です。

観光学はどう学ぶのか

その土地の持つ観光的要素を理解する

観光学そのものを学ぶうえで重要なのは、地域の自然・文化という大きな枠組みから、各土地の持つ観光的要素について理解を深めることです。

ある観光地には、そもそもどんな観光資源や施設が存在していて、どんなバックグラウンドを持っているのか。各土地で開催されるさまざまなイベントには、観光の文化・経済的側面においてどのような意義があるのか。

こうした、それぞれの観光地が持つ強みであったり、逆に保護していかなければならない部分について知ったりすることは非常に大切な学びといえます。

フィールドワークも大切

また観光学では、フィールドワークや自分自身の経験も重要です。多くの土地に足を運び、実際に観光をすることも、土地の理解に深く繋がってくるでしょう。

この他にも、たとえば、ビジネスとしての観光に興味があるのであれば経営学的素養は不可欠です。また、地域の自然を活かした観光の推進を行いたいのであれば、自然の持続的な利用・保全のために、生態学を学ぶ必要があるかもしれません。

このように、観光学を学ぶうえでは、さまざまな学問的素養を要求されることも多いです。そのため、自分の興味関心に応じて、学問の垣根を超えた勉強をしておくことも重要といえます。

観光学を学ぶ方法は?

学問としての観光学をしっかり学びたい人は、観光学部や社会科学の学べる授業のある大学に進学するのがよいでしょう。たとえば東京では立教大学や、東海大学には観光学部が存在し、他の県でも観光学部が新設されている大学もあります。

環境学について研究している先生から講座で知識を深めながら、足を使って実際に土地に行ってみたり、前述するように経営学的素養や、生態学の勉強を独学で進めるのもよいでしょう。

1963年に東洋大学短期大学部観光学科が設置されたように、日本での観光学の歴史はまだ長いとはいえません。そのため大学で学ぶ学問として適切かと疑問視する声もあります。

進学をひかえている方はできる限り独学で観光学についての知識を深めてから、観光学部に進学するか、それとも引き続き独学で学んでいくかを決めても問題ないといえそうです。

観光学を学んだ後の就職先は?

観光学を修めた人は、必ずしも旅行業界に進むわけではありません。観光への関り方は多様ですし、観光学を通じて取得した能力は、さまざまな業界で活かすことができます。
 

地域復興に携わる

まず、地域の成り立ちや特性を掴む能力は、行政の立場から地域振興や町おこしをおこなうのにぴったりの力です。赴任先の土地の文化や人々の暮らしを深く理解し、強みとなる部分を見つけることができれば、その土地の発展に大きく貢献することができます。

不動産、建築業界でも知識をいかせる

また、この力は、不動産業界におけるデベロッパーの仕事でも有利に働きます。デベロッパーは、土地の活性化のために建築すべき建物を考えたり、地域住民や土地の利用者が価値を感じられるような街づくりをおこないます。地域に対する深い理解が必須の仕事なので、観光学で学んだことがそのまま活きてくるはずです。

ブライダル業界に進む人も

他にも、観光学を通じてサービスやホスピタリティを学び、ブライダル業界に進む人もいます。ブライダル業界では、顧客の希望を叶えるような挙式のサポートをする必要があります。人生の一大イベントである結婚式に関わるうえで求められるサービスの水準はかなり高いので、そういった点で観光学との親和性は高い業界といえるでしょう。

もちろん、ここにあげた就職先はあくまで一例に過ぎません。大学の観光学部を卒業した人々は、偏りなくさまざまな業界に進んでいるので、観光学は就職においてもかなり有利に働く学問といえますね。

ここからは「観光学についてまずは本で知りたい!」という人におすすめの書籍をご紹介します。

観光研究への理解を深める

著者
内田 宗治
出版日

観光学について、なんとなく学んでみたいなと考えている人にぜひ読んでほしいのがこちらの本です。

この本では、幕末から現代にいたるまでの外国人の日本観光を詳述し、観光客誘致という視点から日本の近代史を読み解いていきます。外国人が日本に求めるものと、日本が外国人に見せたいもののギャップから、日本文化に対する誤解や、あらためて日本の魅力とはなんなのかについて考えさせられる良書です。

豊富な統計データを用いた説得力のある論証で充実した内容ですが、さまざまな小噺的なエピソードも交えており、大変読みやい仕上がりになっています。観光を通じて社会の変化をたどるという、まさに観光研究といえる本ですので、ぜひ手に取ってみてください。

観光ビジネスの教科書

著者
岩崎 邦彦
出版日

この本では、観光ビジネスを成功させるための具体的な方法論が記されています。

「観光におけるブランド構築」をテーマに、いかにして地域の魅力を高めるかに焦点を当てている本書。従来の観光マーケティングでは誘致型のプロモーションが主流でしたが、今後は観光客を引きつけ、「ぜひ行きたい」と思えるような地域づくりをすることが重要だといいます。

観光客を自然と惹きつける力を「地域引力」と呼んだり、地域のブランド力を「イメージが浮かぶか否か」で規定するなど、キャッチーな言葉を使いつつ斬新な価値観に出会うことができる1冊です。

観光ビジネスや、地域振興の手段としての観光に興味がある人は、一度読んでみると自分の興味に具体性が帯びてくるかもしれません。

脱、観光地化宣言!地域と観光の関わり方とは

著者
市来 広一郎
出版日

地域と観光の関りに興味がある方におすすめの本がこちら。

近年、特に海外ではオーバーツーリズムの問題が顕著になり、ポルトガルのコペンハーゲンでは「観光の終焉」が提唱されました。これは、観光客を外から来たお客様ではなく、一時的な市民として扱うことで、コペンハーゲンの街が持つ本当の魅力を楽しんでもらおうという試みです。

著者の市来広一郎氏は、こうしたコペンハーゲンの取り組みにならって、熱海における「脱観光地化宣言」を唱えました。

いわゆる「インスタ映え」が象徴するような分かりやすい観光スポットを提供するのではなく、熱海のありのままの暮らしを楽しんでもらう「滞在型観光」を推進する。これによって、熱海本来の魅力を取り戻そうとしたのです。
 

かつては「衰退した観光地」とまで呼ばれた熱海。そんな土地が、再度観光というものを通じて街として再生する過程には、多くの地域がお手本とできる含蓄が含まれています。
 

 

観光に関わるさまざまな要素と、社会の関わりを総合的に研究することが、観光学という学問でした。「観光」と「学問」というなんだか不思議な組み合わせの観光学ですが、それがいかに学問らしい営みであるかは理解いただけたでしょうか? 
観光というものを通じて社会を見てみると、今までにはなかった新たな発見があります。自分の見知った土地についても、観光という視点を持ってみると、新しい知見が得られるかもしれませんね。

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