『ザ・ゴール』のまとめと解説!日本語訳は禁止されていた!?

更新:2021.11.23

『ザ・ゴール』は企業の究極の目的を説いたビジネス書。工場の生産プロセスを最適化するために取り組むべき手法を紹介しています。本書はビジネス書でありながら、小説の形式で書かれているため、楽しみながらも濃厚なビジネスのエッセンスを読み取ることができます。工場の閉鎖と家庭の崩壊という2つの危機に立ち向かう主人公。困難を乗り越えるカギを握っていたのは目標の設定でした。

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エリヤフ・ゴールドラット著『ザ・ゴール』とは

本書は、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラット氏が書いたビジネス小説。メーカーの工場長である主人公が、恩師からの助言をもとに部下とともに工場を再建していくストーリーです。

出版当時(1984年)の日本企業は国際競争力が高く、日本の競争力がさらに上がると貿易摩擦が再燃してしまうという懸念から、日本語翻訳が2001年まで許可されなかった経緯があります。

本書のサブタイトルにもある「企業の究極の目的とは何か」という問いから展開していく本作。製造業が主体となっており、「生産管理」に関わる人はもちろんですが、小説のため読みやすく業界に興味がある人にも楽しめる内容となっています。

この記事では『ザ・ゴール』の重要なポイントを抑え、目標の定義から最適な工場について解説していきます。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

["エリヤフ・ゴールドラット", "三本木 亮"]
 

『ザ・ゴール』流:生産性と目標の定義

生産的であるとはどういう意味なのか?

一般的に、製造業において「生産的である」という表現は、新しい技術や機械を取り入れることによって生産力が高まっていることとされています。

しかし、本書では生産的の本当の意味を「目標と照らし合わせて何かを成し遂げること」と説明しています。 加えて、会社は目標(ザ・ゴール)を達成できたかで評価するべきと主張します。 目標を達成することに役立っていないものは生産的ではないのです。 

したがって、本当の意味での生産性を上げたいと考えるなら、「目標」を設定すること。 

目標が定まっていないまま、新技術のマシンを導入するような企業は、一向に生産性は上がらない状態に陥ってしまいます。

企業が達成すべき目標は何か?

ありがちな企業の目標として、生産にかかる時間を短くする、自社製品の普及率を高めるなどが考えあっれます。しかし、本書ではこのような目標は数字や言葉で遊んでいるだけだと指摘しています。

では、企業の目標とは一体どんなものなのでしょうか。それは「お金を儲けること」です。 

とてもシンプルな目標ですが、効率的に生産することや、製品のシェアを高めるなど従来の目標は、この目標を達成するための手段に過ぎないのです。

『ザ・ゴール』流:お金を儲けているか知るための3つ指標

では会社が儲かっているかを判断するためにはどうしたらよいのでしょうか。 本書では、以下の3つの指標から工場のすべてを測ることができると語っています。

スループット

本書では、スループットを「販売を通じてお金を作りだす割合」と定義しています。 注意するべきポイントは、生産しても売れなければスループットではないということです。 「売る」という行為でお金が入ってくるのであり、「作った」という行為ではお金は入ってこないことからもわかります。

在庫

在庫とは「販売しようとするものを購入するために投資したすべてのお金」。製造する過程にあるお金と言い換えることができます。 工場で稼働しているマシンやロボットも売ることができるのであれば在庫として扱います。

業務費用

「在庫をスループットに変えるために費やすお金」と定義されるのが業務費用。 1つ目に紹介したスループットを高めるために支払うお金のこと。 業務費用の中には工場で働く人の労働なども含まれます。

つまり、スループットを増やしながら在庫と業務費用を減らす。これが会社が儲けを生むために重要となるのです。

バランスのとれた工場の落とし穴

会社が儲けを生み出すためには、余計な出費をせず、しかし余力も残さないバランスをとる必要があります。バランスのとれた理想の工場とは、製品を作り出す「生産能力」と、「市場の需要」が完璧に合っている状態の工場です。

バランスが取れた工場では、市場の需要に生産能力が足りず機会損失が生まれたり、逆に生産能力に余剰ができ、機械や労働者に対して不必要なお金がかかるということもありません。 

しかし、本書では完全にバランスのとれた理想の工場は存在しないと言います。それどころか、 理想の工場であればあるほど「倒産」してしまう恐れがあると言うのです。どういうことか、例を交えて考えていきましょう。

普通、需要に合わせた生産を目指すとき、減らすことができる能力を減らし、使われていないリソースがなくなるようにしてバランスを取ろうとします。たとえば需要に100%合わせるために、人を減らし人件費を削るとき。この場合、お金を作り出す「スループット」も減ってしまい、「在庫」が増えることが実証できると言います。さらには、在庫の維持コストが上昇することで、人件費削減によって目指した「業務費用」の削減すら達成できなくなる恐れがあると言うのです。

この現象を理解するには「依存的事象」と「統計的変動」の組み合わせについて知っておかなければなりません。

依存的事象

依存関係とは、複数の作業の前後関係が生み出します。 具体例を出すと、ある工場が1つの製品を作り出すのに2つの工程を決まった順番で行っているとした場合、製品は1つ目の工程の作業が終わらない限り、2つ目の工程に進むことはできません。 このケースでは、2つ目の工程が1つめの工程に依存していることになります。

統計的変動

統計的変動とは、同じ作業にも時間のばらつきがあるということです。たとえば1つの部品を作るとき、平均すると10分で作れる場合でも、実際にはそれより早くできたり、遅くできたりとばらつきがあります。工場生産の大半の工程は、「依存的事象」である上に、「統計的変動」があるため、徐々に遅れが大きくなってしまうのです。

身近な例を使って説明してみましょう。
 

子どもたちが遠足で一列になって山登りをしているところを想像してみてください。子どもたちの体力には個人差があるので、山を登る時間が増えていくにつれ、列の間隔が伸びる箇所があれば、縮む箇所もできるのです。

ここにおいての「依存的事象」とは、先頭以外の子どもたちは前の人の登る速さによって自分の登るスピードが決まることを指します。

一方の「統計的変動」とは、子どもたちの歩く速度はいつも同じではないことを指します。たとえば後ろを向いて喋っていたり、景色に夢中になっていたり、あるいは前の人から遅れたたために走って追いつこうとしたりと、子供たちのペースは常に一定ではないのです。

ボトルネックを最大限に活かす

バランスの取れた工場について解説しましたが、今度は生産能力を上げる方法について見ていきましょう。

皆さんも耳にしたことがあるでしょう「ボトルネック」という言葉。大きなボトル(瓶)でも出口が狭いネック(首)になっていると、一定時間あたりに出る水の量は少なくなります。

転じて「ボトルネック」とは、作業や過程などにおいて能力が低く、全体の能力の限界を決めてしまう部分を指します。ボトルネックは全体の能力に影響を与える要因となるのです。

先ほどの子供たちの登山の例に戻りましょう。列の真ん中付近にペースについていけない子供がいたとします。先頭がペースを守り歩き続けたところで、真ん中以降の子供たちは「依存的事象」によって、遅い子より前に行けないため、先頭と後ろの差は大きくなっていきます。

この場合、ペースの遅い子がボトルネックとなっているのです。つまり、到着時刻を逆算する場合は、先頭を歩いている子供のペースを考えるよりも、ボトルネックの子供のペースを考えることが重要となります。

話を戻します。工場の生産能力を決定するボトルネック。つまり、このボトルネックが処理できる能力を市場の需要に合わせることが重要になるのです。

本書では、ボトルネックを最大化させるための2つの方法を紹介しています。

1つ目は、ボトルネックのムダをあらゆる方法で無くすこと。 従業員の働く時間を調整し機械を使っていない時間を減らすこと、売れそうにない製品を作らないことなどが挙げられます。 

2つ目は、ボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やすこと。 工程そのものを他の会社に委託する、新しく機械を導入する、以前使っていた機械を再稼働させるなどの方法が考えられます。

スループットを向上させる「5つの集中ステップ」

スループットを増やすには生産能力を上げる必要があるため、先ほど説明したとおりボトルネックを探していくことが重要になります。

しかし、ボトルネックを発見しても、適切な対応をしない限りは生産性を高めることにつながりません。 

著者は、スループットを向上させる「5つの集中ステップ」を紹介しています。

1.ボトルネック(制約)を見つける 
2.ボトルネック(制約)をどう徹底活用するかを決める 
3.他のすべてをステップ2の決定に従わせる 
4.ボトルネック(制約)の能力を高める 
5.ここまでのステップでボトルネック(制約)が解消したらステップ1に戻る

たとえばステップ1で、ある機械がボトルネックだと判明したとします。次にステップ2で、稼働中は人手がいらないため、機械を動かしてから昼休憩に入るなどの改善策を設定。ステップ3では、ボトルネックの機械のペースに合わせて、他の機械も動かすことにし、続くステップ4では、前の章で紹介した方法で能力を高めます。そしてステップ1に戻っていきます。

このステップを繰り返しおこなうことによりスループットを向上させることができると言うのです。 

ボトルネック(制約)に集中することが全体最適になる、これこそが著者が提唱した製造業における生産管理の理論、「TOC(Theory Of Constraints)制約理論」になります。

『ザ・ゴール』が多くの人に読まれる理由

本書の内容は、製造業以外でも活用できる理論であり、生産性について学ぶのに適しています。たとえば、ストーリーの中では工場内での1つの工程がボトルネックであると判明します。しかし、これは工場内にとどまらず、サプライチェーン全体で見た時、あるいは企業全体で見た時にも応用することができるのです。

そのため、非製造企業、自治体、医療機関、幼児教育世界などのさまざまな分野で利用されており、 2014年には、世界で1千万人以上に読まれ、日本語版も60万部を超えるベストセラーに。実際、本書はアメリカの大手企業、ビジネススクールなどの多くで使用されており、何千もの企業や200を超える大学が採用していると言います。

そんな実績ある本書には、本記事では紹介しきれなかった理論はもちろんのこと、主人公たちが自分の頭で考え行動につなげるプロセスが丁寧に描写されており、TOCの原理が自然と頭に刷り込まれていきます。実際に手に取って、読んで理解を深めていただけたら嬉しいです。

『ザ・ゴール』の関連おすすめ本①

『ザ・ゴール』を読み終えたら、次に読んでほしい一冊を紹介します。

著者
エリヤフ・ゴールドラット
出版日
2002-02-23

ストーリーでは本記事で紹介した『ザ・ゴール』とつながっており、問題解決手法「思考プロセス」にフォーカスした内容です。

小説のため、主人公の立場に移入しながら読み進められるため、理解が深まります。マーケティングや経営全般の問題解決に適用できる思考法ついて学ぶことができます。

『ザ・ゴール』の関連おすすめ本②

こちらは「ザ・ゴール」シリーズの第3弾。

著者
["エリヤフ・ゴールドラット", "三本木 亮"]
出版日

本記事で紹介した著者の理論をソフト会社に当てはめた内容です。 システムを導入する際の参考にもなり、ソフトウェアエンジニアなどの開発者にとっては自身のプロセスを見直すきっかけとなります。

システムそのものよりも、それを活用するためのルールの変更が大切だという本書。変化の激しい現代において、読んでおきたい一冊です。

『ザ・ゴール』の関連おすすめ本③

「ザ・ゴール」シリーズのエッセンスをまとめた書籍です。

著者
["ラミ・ゴールドラット/岸良 裕司(監修)", "ラミ・ゴールドラット/岸良 裕司", "ダイヤモンド社", "三本木 亮"]
出版日

日本をこよなく愛していたというゴールドラット氏。そんな彼のインタビューや著作から、日本企業が捨ててしまった大切なものが浮かび上がってきます。

効率性や生産性についてトヨタ自動車など実在する企業を例に出して説明しています。 「ゴールドラット博士の20の教え」という章では、個人の成長に関して学ぶことができます。

今回は、エリヤフ・ゴールドラット氏の『ザ・ゴール』の内容をお伝えしました。しかし、どうして著者は製造業の生産管理の理論を小説にしたのでしょう。製造業以外の方にもこの理論を広く知ってほしいと思っていたのではないでしょうか。本書を読み、どの業界にも応用することができる理論を学び、自分の今やっている仕事のザ・ゴール(目標)に活かしてみませんか?

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