本格推理ともライトノベルともつかない独自の世界観のミステリーを手掛ける北山猛邦。今回は北山猛邦のおすすめ小説を5作品、ご紹介します!
北山猛邦は2002年『「クロック城」殺人事件』で第24回メフィスト賞を受賞してデビューしました。受賞当時は大学卒業間近で、そのまま就職せずに、地元の盛岡で専業作家となります。
北山猛邦の小説の最も大きな特徴は、その世界観です。多くの作品の舞台が、現実的な世界観ではなく、終末的世界観。時空までも乗り越えるSFのような設定の小説もあります。
また、物理トリックへのこだわりが強い点も特徴的でしょう。「針と糸で部屋の外からカギをかける」といったような小さなトリックではなく、建物の構造そのものを使うような大掛かりなトリックが使用されます。そのこだわりゆえに、「物理の北山」という異名まで持つほどです。
2002年に発売された『「クロック城」殺人事件』。第24回メフィスト賞を受賞したデビュー作で、城シリーズの第1作目です。本作は、主人公の仕事などを含めSFのような設定がなされています。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2007-10-16
太陽の巨大な黒点が引き起こした磁気嵐の影響を受けて、世界が終末を迎える直前の1999年。幽霊退治専門の探偵・南深騎(みなみ みき)のもとに1人の少女が現れます。彼女は自らが住むというクロック城で起こる怪異の謎を調べてほしいと依頼してきたのでした。早速、少女と助手とともにクロック城へ向かう深騎。到着するとすぐに奇怪な殺人事件が始まり、次々と首なし死体が現れます。深騎は見事、事件を解決することができるのでしょうか……。
依頼主の少女は「真夜中の鍵」と呼ばれ、世界を終わらせる存在、あるいは救う存在として2つの組織に狙われています。そうした世界観を前提として、巻き起こる事件。一番のポイントはメインのトリックを解き明かした後の怒涛の展開でしょう。次々と予想外の真相が見つけ出されて、誰が「犯人」なのかはもとより、誰が「真の探偵」なのかわからなくなります。どんでん返しに次ぐどんでん返しはかなりの奇抜さです。
2003年に発表された『「アリス・ミラー城」殺人事件』は、城シリーズの第3作目。なお、城シリーズはシリーズとはいうものの、共通点はないので、どの順番で読んでも問題ありません。アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』を強く意識した作品です。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2008-10-15
いわくつきの鏡「アリス・ミラー」の捜索を依頼された探偵たち。彼らは孤島に建てられた「アリス・ミラー城」で1週間を過ごすことになりました。全員が揃ったところで、招待主は「最後まで生き残っていた者にアリス・ミラーの入手権を与える」と宣言します。そして幕を開けた殺人劇。探偵が減っていく中、生き残るのは誰なのでしょうか。
特徴的なのは、招待された探偵たちの議論です。探偵たちは皆、ミステリーマニアなのです。ですから一度事件が起これば、密室や物理トリック談義を始めたり、トリックの意味について語ったりします。しまいには「探偵が最初から全体に含まれてしまった場合、被害者か犯人だ」と読者目線のようなセリフまで吐いたりします。作中人物が作品について語るというメタミステリーの様相があるのです。まるで人殺しを待ち望んでいるかのような彼らは、次の被害者が自分になるかもしれないと思いながらも、目の前の事件を解決すべく意気揚々と推理していきます。
もちろん物理トリックはありますし、終盤のどんでん返しも楽しめますよ。
2008年に発表されたミステリー短編集『踊るジョーカー』。
推理作家の白瀬は、気弱な友人音野の探偵的才能を見抜き、探偵事務所を開きました。助手となった白瀬は、弱気すぎる音野をなだめつつ事件現場へと連れていきます。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2011-06-29
表題作「踊るジョーカー」では、とある邸の鍵のかかった地下室で、主人が殺されます。現場にはたくさんのトランプが散らばっており、凶器のナイフにも不吉なジョーカーのトランプが幾枚も突き刺さっていました。密室という状況下、犯人はどのようにして主人を殺したのでしょうか。そしてなぜナイフにトランプが刺さっていたのでしょうか……。
『踊るジョーカー』の魅力は、気弱な名探偵・音野でしょう。彼は素晴らしい推理力を持っていますが、引きこもりで人見知り。また犯人の将来を心配し、真相を言うのを躊躇してしまうほど優しさのある人間です。また助手の白瀬や強面の刑事との微笑ましいやり取りなども楽しめるでしょう。それでいて事件は本格的なものですので、読み応えがあります。
2013年に発表された『ダンガンロンパ霧切』。本作は、人気ゲーム『ダンガンロンパ』のスピンオフ小説です。『ダンガンロンパ』好きはもちろん、推理小説好きも、突拍子もない事件とその解決に唸ること間違いなしの作品です。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2013-09-13
とある仕事依頼の手紙を受け取った、現役女子高生探偵の五月雨結。報酬は200万と破格ですが、シリウス天文台に来てほしいとしか書かれておらず、詳細は不明です。明らかに怪しい手紙でしたが、五月雨は意を決して天文台へと向かいました。そこにいたのは依頼主ではなく、同じように怪しい手紙を受け取っていた4人の探偵。
天文台で一夜を過ごすこととなった探偵たちは、天文台を調査し始めます。しかし調査中に火事が起こるのです。目を覚ました五月雨の前には、3人の探偵のバラバラ死体と、大ばさみのそばで倒れる女子中学生・霧切響子の姿がありました。状況的には犯人は霧切しかいないのですが、彼女は本当に犯人なのでしょうか……。
恐ろしい身体能力を持つ新米探偵・五月雨結の、誰よりも強い探偵であることへの信念と、粘り強い推理をお楽しみください。
2007年に発表された『少年検閲官』。本作は書物が禁じられているという、ディストピアのような異世界を舞台としています。そんな世界だからこその動機とトリックが楽しめる作品でしょう。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2013-08-21
誰も書物を所有できない世界では、本を隠し持っていることが発覚すると全て焼き捨てられてしまいます。英国人少年・クリスは失われたミステリを探し求めて、世界中を放浪した末、日本にたどり着きました。
森に囲まれた小さな町を訪れると、森に迷い込んだ人々が首なし死体で発見されるなど奇怪な事件が起きていました。さらに家々の扉や壁に描かれる奇妙な赤い十字架……。それらは森の中に潜む探偵の仕業とされていました。クリスはミステリを検閲する少年検閲官・エノと出会います。少年二人による謎解きが幕を開けたのです……。
北山作品の中でも、世界観と事件の真相のリンクが最も力強く結びついた作品をお楽しみください。
以上、北山猛邦のおすすめ小説を5冊ご紹介しました。ほんわかしたものから、ダークなものまで様々な趣向のミステリーがあります。異世界、物理トリックが好きな方はぜひ読んでみてくださいね。