遺跡、発掘、古代エジプト、マヤ文明。考古学と聞いて思い浮かべるものは、なんとも好奇心をそそられる言葉ばかりですよね。それもそのはず。考古学という学問が目指しているのは、「文字以外の資料から人類の歴史を明らかにする」という壮大なものなんです。 ですが、文字以外の資料とは何か。大学ではどんなことが勉強できるのか。卒業後の就職先はどうなる? などなど、考古学はイメージがつきにくい部分も多い学問。今回は、さまざまな面から考古学について解説していきたいと思います。最後には考古学に関するおすすめの書籍もご紹介しています。興味のある方はぜひ手にとってみてくださいね。
住居、巨大建造物、お墓、狩猟道具。人間は、意図的でもそうでなくても、さまざまな形で自分たちが生きてきた証を後世に残してきました。考古学は、こうした過去の痕跡から昔の人々の暮らしを研究する学問です。
研究材料となる遺物や遺跡は、地中から発掘された食べ物の残骸など多岐にわたります。これらのなかで共通しているのは、全てが「物」であるということ。文字のない資料から当時の生活や文化を研究し、人類が誕生してからの全ての歴史を明らかにしようとするのが考古学の使命です。
遺跡という研究対象、人類の歴史の解明という壮大な目標など、すごくロマンチックな学問ですよね。
考古学の持つイメージとして、エジプトやマヤ文明、日本でいえば縄文時代など、いわゆる古代文明と呼ばれるものの研究を想像する方も多いのではないでしょうか。
確かに、古代の文明は文献資料が残っていることが少なく、考古学が最も得意とする範囲ではあります。しかし、人々の生活の痕跡が文字以外に表れるのは、なにも古代文明に限りません。江戸時代に使われた玩具や戦時中に造られた防空壕など、「物」であれば全ての時代が研究対象となるのです。
考古学には、いくつか類似した学問が存在しています。ここでは、他の混同しやすい学問との違いについて解説していきたいと思います。
最も間違えやすいのが、この歴史学ではないでしょうか。実際、人類の歴史を明らかにしようとする営みであるという点では共通していますし、歴史学の一部として考古学が捉えられることも多いです。では、具体的にどういった点が異なるのかというと、最も特徴的なのはその研究方法です。
歴史学は、主に「文献」を基に研究をおこなう学問です。過去に書かれた書籍、公文書、手紙、日記などのあらゆる文献資料から、ある時代の出来事同士をつなぎ合わせて「歴史」を形づくっていきます。一方で、考古学が扱うのはあくまで「物」のみです。発掘した建物や道具が、いつの時代の、どのような物なのかを特定し、その時代の生活や文化を解き明かします。
また、当時の庶民の暮らしや地方の土着文化は文字資料が残りにくく、逆に文献情報は中央の政治史や貴族の文化に偏りがちです。このように、記述できる歴史の性質の違いも、歴史学と考古学の違いといえます。
文化人類学、そのなかでも特に民俗学とは性質が似ています。民俗学も人類の生活様式の変遷について研究する学問で、生活道具を研究対象とすることもしばしばです。しかし、人間の生活には、誕生から死に至るまでのさまざまな儀式や、普段の生活の中にもさまざまな習俗・習慣が存在しています。民俗学においては、こうした無形の伝承や風習が研究対象として重視されるところが、あくまで有形の「物」を対象とする考古学と大きく異なっている点です。
約46億年前の地球の誕生以降、数多の生物の隆盛が見られました。当然、人類がいない時代のことは文字情報では残っていませんので、化石や地層などといった情報から当時の様子を読み取っていくことになります。これもある意味で、「物」を対象とする研究ですので考古学であるように誤解されがちですが、考古学の役割は人類の歴史の解明です。人類誕生以前の生物、たとえば恐竜などの研究は、「地質学」や「古生物学」といった学問が担っています。
いくら考古学が歴史学とは異なるといえど、やはりどちらも人類の歴史に関わる学問です。文字情報から読み取れる当時の様子と、物から見えてくる別の側面の比較のためにも、最低限の歴史の知識は考古学の基礎として押さえておく必要があります。
日本史・東洋史・西洋史など、あらゆる地域のあらゆる時代の歴史について概観しておくことが望ましいでしょう。高校レベルの日本史・世界史を学び直すだけでも十分ですので、考古学を始める第一歩として、まずはそこから手をつけてみてください。
考古学を学んでいくうえで、しばしば「考古学の5W1Hを考えること」が大事だといわれます。
実際の調査・研究だけでなく、書籍などから知識を得る際も、以上のようなことを意識してみると、より理解を深められるのではないでしょうか。
考古学の研究は、発掘調査などのフィールドワークが大部分を占めています。もし研究員として考古学に本格的に関わるのであれば、当然ですがそれらに関わる技術や知識の習得が必要です。
また、現地での活動のためには、現地の方々の協力が不可欠です。彼らと円滑にコミュニケーションをとるためにも、自分が調査対象とする国や地域の言語に堪能になっておくことも重要な学びといえます。
加えて、最近は研究の質を上げるために、他学問との連携も進んでいます。たとえば、遺物を分析するときに用いられる「放射性炭素年代測定法」は、遺体などに含まれる炭素量から生存した年代を明らかにするというものですから、化学や生物学の知識が必要です。 また、古代の建造物の意義などを考える際には、建築学や天文学の知識を求められることもあります。
このように、考古学の研究は多様な知識の集合によって成り立っています。フィールドワークはチームでする作業なのですべての知識に精通する必要はありませんが、よりよい研究のためにも、ある程度の知識は備えておく姿勢が大事なのではないでしょうか。
考古学を学び、将来は考古学者として働きたいと考える方は、大学・大学院への進学は欠かせないでしょう。独学でもある程度、学ぶことは可能ですが大学や大学院ならばすでに考古学の専門的知識や経験を持つ先生から学ぶことができるからです。
また考古学者として必要な資格などもないため、大学・大学院に通っていた経歴は考古学者としての信用にもつながります。
考古学部のある大学はありません。大学で考古学を学ぶ場合、文学部、人文社会科学部、歴史学部などから選択する必要があります。また学科の場合は史学科、考古学学科で学びを深めることとなります。
いずれも学部名や学科名で判断するのではなく、用意されているカリキュラム内容を確認してから進学先を決めるとよいでしょう。
当然ですが、用意されているカリキュラムによって学べる内容は異なります。例として、早稲田大学文学部の考古学コースで学べる内容をみてみましょう。
◾️2年次
考古学の基礎的な技術と基礎的知識を身につけられるような教育課程が方針となっています。具体的には、考古学に欠かせないフィールドワーク、実際の遺構や遺物を資料化するための基礎技術などをおこないます。
上記以外にもさまざまな技術を習得することができます。考古学を学びたい方にとって、かなり充実したカリキュラム内容になっているといえるでしょう。
◾️3年次
2年次に習得した技術を活用するため、3年次では外国考古学を含めたさらに広範囲にわたる考古学の知識習得を目指します。講義も演習も、考古学全般についての理解を深められるような内容です。
演習の内容は2年次から大きく変わり、2年次に基礎的知識をベースに習得できるような内容です。
他にも文化財の保存や修復、活用の技術や知識、文化財行政の実務や法令など文化財行政学についての基礎的知識、「文化財」自体についての見識と行政学的知識など、考古学の社会的な状況について深く考えるような講義が用意されています。
参照:早稲田大学
漠然と「考古学を学びたい」と考えている方にとって、進学先選びはとても重要です。進学先を選ぶ際に決めておきたいのは、何を目的に進学するかということ。
専門的に学びたい分野があれば学べるカリキュラムのある大学に進学した方がよいですし、考古学に関連する資格を取得したい方は、資格取得のための授業のある大学に進学することを考えた方がよいでしょう。
考古学を職業に活かそうとする場合、学問の特殊性ゆえ、職業も専門性が高くなってきます。ここでは、考古学の知識や技術を存分に活かせる職業をいくつか紹介していきたいと思います。
いわゆる考古学者のイメージに最も近いのがこちらの職業。大学の学部卒業後、大学院の修士課程・博士課程を経て、大学の講師や教授として研究に携わるパターンが最も基本的でしょう。研究の中心メンバーとして関わっていくことになるので、歴史上において偉大な発見を成し遂げることもできるかもしれませんね。
日本では、埋蔵文化財が埋まっている土地を開発するには、事前に発掘調査をおこなうよう法律で定められています。国内では毎年9000件ほど調査が実施されており、まさに考古学を学んだ人の活躍の場です。
こうした調査は行政の管轄でおこなわれることが多く、就職先としては、国・地方自治体や埋蔵文化財センターに所属する職員が考えられます。つまり公務員ですね。また、民間で発掘調査を委託している会社などもあり、そういった会社に一般就職するという道も考えられます。
考古学を学んだ人のなかで人気の職業として、博物館の学芸員というものもあります。
学芸員とは、博物館内の展示内容の解説や収蔵品の保護・管理、展示の企画や準備、イベント運営などをおこなう仕事です。来館者への対応をおこなうという点で、ちょっと専門的な接客業、くらいの認識の人も多いかもしれません。
しかし、実際には担当分野の研究・分析をおこなう研究者としての側面や、活動を通じて文化振興にたずさわっていく教育者としての役割も担うなど、さまざまな業務をこなす必要があります。
学芸員になるには、学芸員資格という国家資格が必要になります。学芸員資格については、文化庁のHPに記述がなされており、要約すると以下のようになります。
次の3つのうち、いずれかに該当すれば資格を取得したことになります。
(1)博物館に関する科目の単位を修得し、大学を卒業する
(2)大学に2年以上在籍したうえで、博物館に関する科目の単位を含めて62単位以上修得し、3年以上学芸員の補助の仕事をおこなう
(3)学芸員資格認定試験に合格する
試験の合格率は50%以上。ですので、資格の取得自体はさほど難易度は高くありません。しかし、欠員が出ない限り正規採用がほとんどない職業であるため、実際に雇用されるためには非常に高い倍率を切り抜ける必要があります。
- 著者
- 匡浩, 馬場
- 出版日
考古学と聞くと、真っ先に思い浮かぶ古代エジプト文明。ピラミッド、ツタンカーメン、スフィンクスなど、考古学にさほど興味のない人でも、なんとなく知っていたり興味が惹かれる内容が詰まった分野ですよね。
こちらの本では、そんな古代エジプトの歴史を、通史とテーマごとに章立てして解説しています。
著者の馬場匡浩先生はエジプト考古学を専門とした研究者で、従来日本語での解説が少なかった紀元前3000年以前の先王朝時代についてもディープな情報を知ることができる1冊です。各時代の最新の学説も取り入れられるなど、全体を通して非常に豊富な内容となっています。
300ページ超の本で分量は多いですが、細かに章立てされているので、好きなテーマから読み進めていくこともできます。一気に読んで古代エジプト博士になるもよし、興味のある分野からどんどん深めていくのもよし。ご自分の読書スタイルに合わせて、ぜひ読み方もカスタムしてみてください。
- 著者
- ["設楽 博己", "設楽 博己"]
- 出版日
少しこれまでとは違った切り口から、考古学について考えさせてくれるのがこちらの本です。本書では、日本人に身近な十二支の動物を題材に、人と動物の関りの歴史をたどっていきます。
内容について、イノシシを例にとってみてみましょう。
これまで、弥生時代は食料としての家畜がいない時代だと考えられていました。ところが、弥生時代のイノシシとされている頭蓋骨を分析したところ、どうやら飼育していたのではないかと思われる痕跡が見つかっています。
さらに縄文時代までさかのぼると、当時作られたとみられるイノシシ形の土製品が大量に見つかっており、これは縄文時代にもイノシシが飼育されていた可能性を示唆する要素です。
これは動物考古学とも呼ばれる分野で、それぞれの動物の利用の痕跡や動物の造形品から、人と動物のかかわりの歴史を掘り下げていきます。古代文明だけに留まらない、考古学の間口の広さを実感していただけるのではないでしょうか。
- 著者
- ["雅博, 早乙女", "博己, 設楽"]
- 出版日
こちらは、大学の講義でも使用される、考古学の教科書です。
考古学とは何かという概念的なところから始まり、フィールドワークの具体的な方法や他学問との関り、日本や世界の代表的な考古学など、内容は多岐にわたります。かなり専門的ではあるものの、その分考古学について網羅して学ぶことができるのが本書の特徴です。
分かりやすい解説に充実した内容で、本格的に学びたい方向けにおすすめしたい1冊です。大学で考古学を学んでいる・これから学ぼうと思ってる方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
発掘した遺跡・遺物という「物」から人類史を読み解いていくという、ロマン溢れる営みを担うのが考古学です。イメージ通りの古代文明から、動物との関わりを切り口としたものまで、人類の歴史にまつわるあらゆるものについて考古学的アプローチはおこなわれます。
しかし、想像以上に間口が広い学問です。なので興味がある方は自分が好きな時代や地域をひとつ設定して、文字には表れてこない歴史を深掘りしてみてはいかがでしょうか。