倫理学を学ぶ際に重要なのが、全体像を知ること。古代ギリシアから現代までの代表的な思想を学び、さまざまな意見や歴史を辿ることで、自分自身の考えも深めることができるのではないでしょうか。この記事では、初心者でも読みやすい倫理学のおすすめ本を紹介していきます。
西洋の哲学と思想について、有名な哲学者を紹介しながら学んでいく作品。ソクラテスやマルクスを起点として、ニーチェやカントらの物事に対する考え方を丁寧に解説しています。
有名な人物を掲載するだけでなく、「嘘をついていけないのはなぜか」「因果関係とは」などのテーマごとにまとめられ、読みやすい構成なのが特徴。思想が生まれた歴史的な背景とともに、一から基礎知識を説明してくれるため、これまで倫理や哲学に触れたことがないという人でも心配ありません。
- 著者
- 和之, 村中
- 出版日
予備校講師である村中和之の作品。2017年に刊行されました。教育のプロによるわかりやすさと正確さを両立していて、初学者はもちろん復習にも役立つでしょう。
高校の倫理を土台に、さらに詳しく掘り下げていく内容。時代とともにどのように思想が変化していったのかを丁寧に追っていくため、これまでバラバラに覚えていた哲学者や考え方を整理することができるのもポイントです。
文章も難しくなく簡潔なため、情報が頭に入りやすく最後まで飽きることがありません。これまでの長い歴史を踏まえたうえで、現代に置き換えた問題意識を教えてくれるので、倫理学への興味もわいてくるはず。日常生活と紐づけて解説されている部分もあり、日頃からいかに私たち人間が「倫理」と接しているかも実感できる作品です。
世の中には「善いこと」「悪いこと」が溢れていますが、そもそも何を基準に判断がされているのか答えられる人は少ないのではないでしょうか。本作は、倫理や道徳の問題を見つめ直し、自分なりの答えを考えるきっかけを与えてくれる作品です。
「何をすべきか」を追及する規範倫理学とは異なり、「正しいこととは何か」という真理を定義しようとするメタ倫理学。あらゆる議論の基礎となる概念に立ち返り、日常のなかで生じている思い込みや意識していなかった先入観について、わかりやすくまとめています。
- 著者
- 岳詩, 佐藤
- 出版日
『R・M・ヘアの道徳哲学』など哲学と倫理分野で多くの著作を発表し、大学の准教授も務めている佐藤岳詩の作品。2017年に刊行されました。大きく3つに大別される倫理学のなかで、メタ倫理学に焦点を当てて解説しています。
かわいらしいイラストの描かれた表紙ですが、内容は本格的。本作だけでも十分に倫理学の概要が理解できるほどの情報量と、わかりやすい説明です。難しい専門用語についてはその都度丁寧に言い換えてくれているので、予備知識がなくてもすらすらと読み進めることができるのも魅力的。
極端な思想や結論を展開するのではなく、あくまで客観的な視点から描かれているのもポイント。章ごとに答えの出ない疑問を掘り下げつつ、物事に対する見方の長所と短所を紹介しています。それぞれの章でまとめと要約が掲載されているので、後から見返す際にも便利です。
今まで当たり前だと思っていた概念を新たな視点から捉えなおすことのできるメタ倫理学。先人たちの知恵を学びつつ、自ら考える力を養うための入門書として最適でしょう。
登場人物は、学生の祐樹と千絵、M先生、猫のアインジヒトの4名。M先生が倫理学の講義をする形式で進んでいきます。教科書に載っているような基礎知識をやさしい言葉で簡潔に教えてくれる内容です。
また祐樹と千絵、アインジヒトが議論をくり広げる様子も。単なる知識の羅列だけで終わらず、批判的な意見の応酬が面白い部分です。
- 著者
- 永井 均
- 出版日
哲学や倫理学を専門とする永井均の作品。2011年に刊行されました。プラトンやアリストテレス、カント、ルソーといった有名な哲学者の思想に触れながら、倫理学を学ぶ内容です。
講義と議論のパートに分かれていて、それぞれで異なるアプローチが展開されていくため、数分前に学んだことが次の瞬間には別の解釈をされるという面白さを味わうことができるでしょう。
猫のアインジヒトは、口が悪いうえに不愛想。そんな彼が哲学や倫理を考える姿はかわいらしく、また学生2人も個性豊かで好感がもてます。
登場人物だけでなく「人はみな自分の幸福を求めているか」「なぜ道徳的であるべきなのか」などの倫理の根幹をなす疑問が提示されるので、内容はけっして薄くありません。後半にはM先生と猫の気迫のこもった論争もあり、道徳的に善く生きるということの意味を真剣に考えさせられるでしょう。
倫理学に関する知識をただの情報として取り入れるのではなく、本当にその思想が正しいのかを疑いながら整理していくことで、将来にも役立つ実践的な学びになる一冊。すでに倫理学について勉強しているのに身につかない人や、抽象的な概念を身近に感じられない人に読んでほしい作品です。
生命倫理学の視点から「いのち」というものを多角的に説明した一冊。安楽死やデザイナーズベイビーなどの具体的な例とともに、命に関わる判断や選択について丁寧に言及しています。
医療が発達した現代で、肉体だけが生命活動を保つことができた時に、患者はどこまで生きていて、どこから死んでいるのか。子ども自身が命に関する判断をどこまで理解できるのか、親として何を尊重してあげたらいいのか。自身の命の処遇は?倫理的に考えます。
- 著者
- 小林 亜津子
- 出版日
生命倫理学が専門の小林亜津子が、初心者向けに書いた作品。実際の事例、小説や映画などのフィクションも例にしながら、7つのテーマを扱います。
時代とともに寿命が延びている今、誰もがいつかは向き合わなければいけないのが命の問題です。自身の思いを貫くのか、医療者の判断に従うのか、国の制度を取り入れるのか……明確な答えがあるわけではありませんが、倫理学では葛藤するということが重要なポイントなのです。
具体的な事例と裁判の結果、立場の違いによる見え方の相違、法律、宗教など、命に関わる多くの考え方を記載。当事者としての思考を促してくれます。中高生から読める内容ですが、大人が読んでも勉強になるでしょう。
功利主義を提唱する作者が、すべての生き物を対象とした倫理学の考え方を綴った作品です。
「人間以外の動物にも無用な苦痛を与えてはならない」「チンパンジーを殺すことは、ある種の人間を殺すことより不正である」「富める者は貧しい者に最大限の援助をする義務がある」など、センシティブな問題にも切り込む姿勢が印象的。
動物への倫理意外にも、新生児の安楽死、貧困、難民、環境に至るまで幅広いトピックに言及しています。
- 著者
- ["ピーター シンガー", "Singer,Peter", "友三郎, 山内", "智, 塚崎"]
- 出版日
作者のピーター・シンガーは、アメリカで大学教授を務め2005年には雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたこともある人物。そんな彼が提唱しているのが、物事の結果でその行動や制度の社会的な望ましさが決まるという「功利主義」です。利益を追求する考え方を踏まえつつ、何が道徳的なのか考えていきます。
本作は1991年に刊行されたものを翻訳したものですが、古臭さや読みづらさはありません。倫理学の大切な要素をおさえつつ、トピックごとに章分けがされていて情報を整理しやすいでしょう。
難しいテーマでも一貫した立場のシンガーの見解が興味深く、すでに倫理学を学んできたという人にも読んで欲しい一冊です。
これまでに継承されてきた倫理学の問題を、20世紀ならではの視点で描き出した作品。特に規範倫理学についてまとめていて、功利主義やロールズの正義論、カントの義務論などが記されています。
「人を助ける嘘」や「幸福の計算」など身近なテーマで基礎的な知識も紹介してくれる内容です。
- 著者
- 加藤 尚武
- 出版日
1997年に刊行された加藤尚武の作品。もともとは放送大学のラジオ講座用に作られた教材なので、初学者にもわかりやすい内容です。現代倫理学の主題を面白く描きたいという作者の意図したとおりに、バリエーション豊富な話題と簡潔な説明で構成されています。
複数の倫理学者による思想を紹介し、生きていくうえで誰しもが体験するような考えを掘り下げ、さらに気づきにくい根幹にも触れていくのがポイント。倫理学という学問の全体像を把握できるでしょう。