個人や企業など私人間で何らかのトラブルが生じた際に、法を適用して解決を図る「民事訴訟」。多くの人は自分には関係のないことだと考えていると思いますが、実はいつ当事者になってしまうかわからないものでもあるのです。この記事では、民事訴訟の種類や手続きの流れ、もし訴訟を起こされてしまった際の注意点などをわかりやすく解説していきます。
民事訴訟とは、公的機関ではない会社や一般人など「私人」の間で生じた紛争である「民事事件」を解決するために、裁判所に訴えを起こすことです。
「民事事件」とは、たとえば「アルバイト先が給料を支払わない」「自動車に傷をつけられてしまったが相手が修理費の支払いに応じない」など、私人間で発生した利害関係の対立が争点となります。対立の解決や損害の解決が目的です。
一方で、裁判所で争われるものとして「刑事事件」というものもありますが、こちらは犯罪に対する事実関係や量刑の度合いが争点となり、国家が犯罪者を裁くことが目的になっています。
また「私的自治の原則」といって、公序良俗等に反しない限り、当事者間で自由に合意や和解をすることが認められているため、民事事件は必ずしも裁判所で争われるとは限りません。当事者間で決着がつかず、どちらかの当事者が民事訴訟をすることで初めて民事裁判がおこなわれることになります。
裁判所のHPを見てみると、民事訴訟は次の4種類があります。
それぞれの特徴は次のとおりです。
主に財産権に関する紛争を解決するための訴訟です。お金の貸し借りに関するトラブル、不動産の明け渡し、損害賠償を求める訴えなどが通常訴訟に分類されます。
判決を早期に言い渡すことを目的に、1964年の「民事訴訟法改正」で導入された訴訟です。通常訴訟と比較すると、訴訟の目的が手形や小切手によって金銭支払に限定されるほか、裁判で用いる証拠が限定され、最初の口頭弁論期日で審理を完了するなどの違いがあります。
訴額(請求額)が60万円以下の時におこなわれる訴訟です。少額訴訟は簡易裁判所に提訴することになっていて、即日判決が言い渡されるほか、申し立てに必要な費用も通常訴訟より安くなっています。
ほかにも民事訴訟には離婚や認知の訴えなど、家族関係に関する訴訟である「人事訴訟」や、行政庁の行為取消しを求める「行政訴訟」があります。
では民事訴訟の流れをまとめていきます。
●紛争の発生
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●訴状の送達
紛争の発生後、いずれか一方の当事者が裁判所に書面で訴えを起こし、これが受理されることで民事裁判が始まります。この訴えを提出した側が原告となり、相手側が被告となります。
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●口頭弁論期日の指定・呼び出し
裁判所は訴状を受理したら、口頭弁論の期日を設定し、被告側に訴状の副本を送付します。その際、被告の住所は原告が調べて裁判所に届け出なければいけません。被告の住所がわからない場合は、裁判所の掲示板に張り出して告知する「公示送達」がおこなわれる場合もあります。
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●答弁書の提出
被告側は訴状を受け取った後、裁判所に答弁書を提出して反論することができます。また訴状や答弁書を提出する際、原告・被告ともに自身の主張を裏付ける証拠を提出することも可能です。
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●口頭弁論
定められた期日に原告・被告本人か、その代理人(弁護士)が裁判所に出廷し、それぞれの主張を陳述します。裁判官は双方の主張を聞き、争点や証拠の整理をします。
それぞれの言い分が食い違ったり、主張が尽くされていない場合、裁判官はあらためて期日を設定します。2回目以降のやり取りはより具体的な話を進めるため、法廷ではなく非公開の個室で実施されることが多いようです。
期日の間隔は通常1~2ヶ月で、平均で3回程度設けられます。そのため民事裁判は終了するまでに、おおよそ9ヶ月ほどかかるといわれています。
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●証拠調べ
双方の主張や提出された証拠を裁判所が調べ、判決を下す準備を進めていきます。この過程で裁判所が双方に対して和解勧告をし、判決を出さずに和解が成立して終わることもあります。刑事裁判と異なり、民事裁判は途中で終わることも珍しくありません。
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●人証調べ・判決
和解が成立しない場合、「人証調べ」がおこなわれます。これは証人尋問や当事者本人尋問のことで、これらを通じて双方の主張・立証が尽くされた後、裁判所が判決を言い渡します。
では仮に民事訴訟を起こされた当事者となった場合にどうすればよいのか、注意すべきポイントを解説していきます。
裁判所は、訴状を受理した段階ではその出来事の真偽を判別しません。仮に身に覚えが無い内容で訴えられたとしても、自分で判断して訴状を無視してしまうと欠席裁判がおこなわれ、原告の主張通りの判決が下される可能性があるのです。
裁判所は真偽を明らかにする場所ではなく、どちらがより合理的な主張をしているかを判断する場所です。一切の主張をしないと致命的に不利な立場となってしまうこともあるため、訴状を受け取ったら必ず答弁書を作成・提出し、論理的に対応しなくてはいけません。
答弁書では、訴状の内容が正しいかそうでないか、自分の認否を示す必要があります。
注意すべきポイントとして、裁判所は訴訟進行のため、1度認められた事実を後で争うことはできないと定めていることが挙げられます。あいまいな理解のまま答弁書で認否をしてしまうと、後々大きな問題となりかねません。訴状に不明瞭な記載がある場合は内容を相手に問いただし、十分に確認してからその認否を示す必要があるでしょう。
また答弁書では認否だけでなく、自分の言い分を主張することができます。自分の言い分が合理的であることを裁判所に示す客観的な証拠を添えることができれば、裁判を有利に進めることができるでしょう。
効果的な反論をするために法律事務所に相談するほか、弁護士に訴訟の代理人を依頼することも有効です。
指定された口頭弁論の期日に出廷ができない場合、何もせずに欠席してしまうと不利な判決が下されかねません。出廷が難しい場合は、送付された「口頭弁論期日呼出状」に記されている担当の裁判所書記官に連絡し、事情を伝えて期日の変更を願い出るとよいでしょう。
また「擬制陳述」とう、あらかじめ答弁書を提出し自身の主張を提示しておけば、口頭弁論に出席しなくても答弁書通りの主張をしたものとみなされる制度もあります。
- 著者
- ["岡口 基一", "中村 真"]
- 出版日
本作は、現役の裁判官と弁護士が対談形式で訴訟に関する9つのテーマを語り、まとめたものです。書面の書き方や送付の方法など実務的なものから、裁判所内部の人間関係など幅広い内容が記されているのが魅力でしょう。
裁判官の目線から見た書面や弁護士の良し悪し、和解を進めるうえでのポイントなどは、民事訴訟の実態を知る参考になるはず。また司法試験改革の影響など、今後の法曹界の展望についても知見が得られる一冊になっています。
- 著者
- 瀬木 比呂志
- 出版日
本作は、作者が33年間の裁判官生活を通じて培った経験をもとに、民事訴訟の具体的な展開や効果的な主張のコツ、よりよい弁護士の選び方など実践的な内容をまとめたものです。
民事裁判で裁判官がどのように振る舞い、何を考えているのかを緻密に分析。なかには弁護士や裁判官、司法制度に対する批判的な記述もあり、訴訟に興味のある人だけでなく、法学を学んでいる学生や実務担当者にとっても役立つ一冊です。