5分でわかる政教分離!意味や目的、日本、アメリカ、フランスなど各国の歴史を解説

更新:2021.11.23

国家と特定の宗教が結びつくことは人権の弾圧に繋がりかねず、歴史を振り返ってみてもさまざまな問題が生じてきました。そこで日本では「政教分離」という制度が導入されていますが、一体これはどのようなものなのでしょうか。アメリカやフランス、イギリスなど各国の状況と比較しながら、わかりやすく解説していきます。

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政教分離とは。意味を簡単に解説

 

国家や政府と宗教が分離され、互いに干渉しないことを定めた制度を「政教分離」といいます。

国家が特定の宗教を保護して自国民に強制してしまうと、人権の弾圧となるばかりでなく、国家に都合のよい体制づくりに利用されかねません。日本では、1890年に施行された「大日本帝国憲法」にて天皇制と神道が結びついたことが、軍国主義化や思想弾圧に悪影響を及ぼしたと考えられています。

これを教訓に現在は、「日本国憲法」の第20条と第89条で次のように定められています。

第20条

・信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

・何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

・国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第89条

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

政教分離は基本的人権のひとつである「信教の自由」とも密接に結びついています。国家が特定の宗教に肩入れしないことが、個人が自由意思で宗教を信仰する権利を保障するうえで必要不可欠となるのです。

また日本だけでなく世界各国で、それぞれの国の歴史を反映したかたちで政教分離が定められています。その一方で、イランやイギリスのように国家と宗教が密接に結びつき、政治や教育に宗教が影響を与える場合もあります。

 

日本はなぜ憲法で政教分離を定めた?目的と歴史をわかりやすく解説

 

日本における政教分離は、戦前への反省から定められました。

「大日本帝国憲法」は、第1条に「大日本帝国ハ、万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」とあるように、天皇を国家の主権者と位置付けています。そして天皇の権威を高めるため、天皇の祖先とされる天照大神を最高神とする神道は、他の宗教とは異なるものだとみなされました。

政府が統制した神道のことを、「国家神道」といいます。昭和になると国家神道を利用した思想統制が強化され、天皇のために命を捧げることが美徳に。神道以外の宗教を弾圧し、問題になりました。

終戦後はGHQによって「神道指令」が発され、国家神道は廃止。そして「日本国憲法」で、いかなる宗教に対しても国家が教育のため利用することや特権を与えることを禁じるようになったのです。

 

各国の政教分離を解説!アメリカ、フランス、イギリスなど

 

では日本以外の国の政教分離はどのような状況なのでしょうか。

アメリカ

17世紀のはじめ、まだイギリスの植民地だった頃、イギリスで迫害されたピューリタンやカトリック、クエーカーなどの信徒たちが、アメリカに逃れてきました。

その後アメリカは1776年に独立し、1791年に定められた「権利章典」で「合衆国議会は国教を創設したり、宗教の自由の行使を禁止する法律を制定しない」としました。アメリカは世界で初めて、政教分離を国の制度として採り入れた国となったのです。

その歴史的経緯から、国民の信教の自由を保障することに重点が置かれ、後述するフランスと比較すると、宗教が政治に関わることに比較的寛容なのが特徴です。

フランス

フランスにおける政教分離の原則は、「ライシテ」と呼ばれています。フランス革命の理念である「自由・平等・博愛」を実現する一環として、国家制度として確立されていきました。

ライシテは、国家の宗教からの中立性と、個人の信教の自由を保障するという両面から成り立っています。他国より厳格だといわれる一方で、近年ではイスラム圏からの移民が増えたことで、ライシテを名目にイスラム教徒の抑圧がおこなわれていると批判する声もあるのが現状です。

イギリス

イギリスでは1688年に起きた「名誉革命」の後に、国王を首長とする「イングランド国教会」が国教として確立されました。現在でも国王の戴冠式は国教会でおこなわれるほど、国家との結びつきが強いのが特徴です。

たとえばイギリスの学校教育は、公立学校でキリスト教にもとづく礼拝をおこなうことが定められています。学校教育から宗教性を排除しようとしているフランスとは対照的です。ただイギリスでは、両親が子どもに宗教教育を受けさせないことも権利として認められています。

 

政教分離に関する問題点は?

 

政教分離を実施している国家でも、しばしば宗教と国家が結びついていると指摘されたり、宗教をめぐる人権弾圧が問題視されたりすることがあります。

たとえば日本では、国家神道と並んで「靖国問題」が有名です。

靖国神社は、「戊辰戦争」から「太平洋戦争」の期間中に戦死した人々を中心に、約250万柱を祀った神社です。戦前は軍によって管理され、国家神道の最重要施設として国策と結びつき、戦争遂行に影響を与えました。終戦後は政教分離の導入にともない、国家の管理を離れて宗教法人化しています。

ただ一方で戦死者などの合祀はおこなわれていて、1978年の「東京裁判」で戦争責任を問われて刑死した東条英機など、A級戦犯14人も祀られています。現在では、政府閣僚が靖国神社に参拝することが問題に。世界各国からも注視されています。

また靖国神社への参拝は、政教分離に違反しているとして訴訟がおこなわれる事例も。2004年から2006年にかけて、当時の小泉純一郎総理の参拝をめぐって裁判がおこなわれました。憲法判断を避けた裁判所がある一方で、福岡地裁や大阪高裁は「違憲」だとしています。

フランスでは、1989年にイスラム系女生徒がスカーフを被って登校したところ、教室へ入ることを拒否された事件がありました。ライシテは宗教を公教育に持ち込むことを禁止していて、入室拒否は政教分離の観点から妥当だったという主張と、信教の自由を抑圧しているという主張の双方があがっています。

近年は頻発するテロ事件の影響もあり、政教分離だけでなくフランス社会の在り方を問う問題に発展しています。

 

ライシテとフランス社会の在り方を考えるおすすめ本

著者
伊達 聖伸
出版日

 

先述したとおり、フランスでは政教分離をめぐる問題が深刻化し、異なる価値観をもつ人々とどのように社会を築いていくのかという問題に発展しています。

本書は歴史的な経緯も踏まえつつ、宗教的マイノリティをめぐるフランスの状況を考察したものです。作者は、ライシテが政教分離の枠組みを超えて多様性を認める社会づくりに貢献してきたことを指摘したうえで、他国とも比較しながら分析。政治と宗教、国家と宗教の関係性を考えるきっかけになるでしょう。

 

日本の政教分離の歴史を知るおすすめ本

著者
山口 輝臣
出版日

 

明治時代に活躍した仏教人の島地黙雷は、1872年に「三条教則批判建白書」を発表し、政教分離と信教の自由を唱えた人物です。

本書は、島地の足跡を追いながら、彼がどのような考えをもっていて、彼の行動が今日の日本の宗教観にどのような影響を与えたのかを考察していきます。

当時の日本は欧米列強の圧力に直面し、対抗できる近代国家にすることを目指していました。そんななか島地はヨーロッパや、キリスト教の原点であるエルサレムを訪れるのです。帰国後は仏教の再生と、神道との分離を図るようになります。

日本における政教分離をめぐる議論の展開と、近代の日本にとって宗教とはどんな存在なのかを考えられる作品です。

 

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