『ハサミ男』のインパクトがどうしても強い殊能将之。年若くして亡くなったため作品は少ないですが、どれも独特の魅力にあふれています。 殊能将之のおすすめ作品を4作ご紹介します。
殊能将之(しゅのう まさゆき)は日本の小説家です。1964年に生まれ、福井県立藤島高等学校を経て、名古屋大学理学部中退後、上京し、セミプロジン『SFの本』の編集長・志賀隆生が主催する編集プロダクションに勤めたものの、体調を崩して退職、帰郷。1999年、殊能将之名義の『ハサミ男』でメフィスト賞を受賞してデビュー後も、福井県に在住していました。
SFと本格ミステリーの熱烈なマニアで、特にアメリカの作家のアヴラム・デイヴィッドスンと、フランスの作家のポール・アルテを好んでいたそうです。2013年2月に49歳で亡くなっています。
殊能将之は断片的な情報以外を明かさない覆面作家でしたが、死後、本名が田波正だと発表されました。
- 著者
- 殊能 将之
- 出版日
フリーライターの天瀬は、病を癒やす「奇跡の泉」があるとの言い伝えを持つ、岐阜県の暮枝(くれえだ)の鍾乳洞・亀恩洞に取材に訪れますが、鉄線で周囲を覆われていて、入ることすらできませんでした。代わりに村人たちから話を聞いた翌朝、泉の入口近くの大木に首のない死体がぶらさがっているのが発見され……
辺鄙な田舎町、わらべ歌見立て殺人や俳句の解読、一族にまつわる秘密など横溝正史へのオマージュが感じられます。
さらに、探偵役である集落のリゾート開発を建設会社に一任されている石動戯作が飄々としていて、これまた金田一耕助をなぞったのかしら、と思わせるようなキャラクターです。
凄いトリックがあるわけではなく、しっかりと練られた構成と展開で読ませてしまう殊能将之のミステリー。真相には思わず息をのむことでしょう。飄々とした石動探偵の推理を楽しんでみてください。
- 著者
- 殊能 将之
- 出版日
- 2016-02-11
半崎の隣に引っ越してきた光島家の前には大きな犬が放し飼いにされて寝そべっていました。犬ぎらいの半崎は遠回りして帰るしかなく、その犬を繋ぐように言いに行くのですが……「犬ぎらい」
土木作業員の北沢、ヤクザの黒川、サラリーマンの安原は銃や刀を準備し、高木が隠れるアパートへと……「鬼ごっこ」
妻を亡くして失意の中にある広永は怪しげな魔法書を手に、宮崎に「妻を生き返らせる術を手伝って欲しい」と言い出して……「精霊もどし」
デビュー作である『ハサミ男』の発表前に書いていた習作の上記3編と、「メフィスト」に連載された「ハサミ男の秘密の日記」が特別に収録されています。
本格ミステリーというよりは、日常の恐怖を描いているもの。ふっと振り返ったらそこにありそうな怖さが殊能将之によってしっかりと描かれているのです。
特別収録の「ハサミ男の秘密の日記」は『ハサミ男』が世にでるまでの経緯が描かれているのですが、身体が弱くて大変だったのだろうなと感じられる部分があります。殊能将之の短い人生に、つい想いを馳せずにはいられなくなりました。
- 著者
- 殊能 将之
- 出版日
- 2005-06-15
梵貝荘と呼ばれる法螺貝ようなの形をした館の主・瑞門龍司郎が主催する「火曜会」の夜。奇妙な殺人事件が発生し、名探偵により解決しました。ですが、数年後、現代の名探偵・石動戯作に再調査が持ち込まれることになり……。
本書は殊能将之による、名探偵・石動戯作が登場するシリーズの1本。あるトリックが物語全体に仕掛けられています。でも、それを納得するかどうかは読んだ人次第ではないかという作品です。
ハウダニット(どのように犯罪を成し遂げたのか)やフーダニット(犯人は誰なのか)よりも、"ある要素"を重要視した形になっているあたりは、殊能将之ならではなのかも。作中には、贅沢と言っていいほどたくさんのトリックが登場するのですが、叙述トリックの見破りをぜひ挑戦してみてください。
- 著者
- 殊能 将之
- 出版日
- 2002-08-09
研ぎあげたハサミを殺害した美少女の首に突き立てる猟奇殺人犯・ハサミ男。彼が3番目の犠牲者と定めた少女は、彼の出ではなく、手口を真似て殺されてしまいました。
自分以外の誰が、なぜ、彼女を殺したのか――ハサミ男は調査をはじめるのでした……。
殊能将之による叙述トリックを駆使したミステリー。サイコサスペンスのようでいて、本格推理になっています。
特に、ハサミ男一人称部分と警官たちの場面の切り替えが見事。「叙述トリックがある」とわかっているのに、早い段階で騙されてしまうことでしょう。用心して、警戒していても騙されて、ミスリードにはまってしまう快感。最後には「うわ、やられた!」と素直に感服してしまうこと間違いありません。
それほどに見事な構成、畳みかける展開を見せてくれる傑作。あなたも殊能将之の罠にはまってみませんか?
夭折の覆面作家・殊能将之。残した作品は多くはありませんが、ぜひ一度は手に取って、彼が作中に仕掛けた罠を堪能していただきたいと思います。