5分でわかる金融緩和!目的、効果、方法、デメリットなどをわかりやすく解説

更新:2021.11.23

不況時に中央銀行が実施する金融政策のひとつ「金融緩和」。日本で実施されている「アベノミクス」をはじめ、世界各国でさまざまなものがおこなわれています。この記事では、目的や効果、方法、デメリットなどをわかりやすく解説。さらに理解を深められるおすすめ本も紹介するので、チェックしてみてください。

ブックカルテ リンク

金融緩和とは。目的と効果をわかりやすく解説

 

金融緩和とは、不況を打開するために中央銀行がおこなう金融政策のこと。日本の中央銀行は、日本銀行です。

各国の中央銀行は、景気の動向を見ながら通貨の流通量を調整しています。たとえば不況の時は通貨の流通量を増やします。その目的は、景気を刺激したり、お金を借りやすくするために金利の引き下げを実施したりすること。通貨の流通量が増えると、市場における資金の移動が活発になり、経済活動の活性化につながることが期待できるからです。

その一方で、過度な金融緩和は悪性インフレやバブル経済の原因になりかねないほか、経済が上向いた後に、金融緩和を終了させる「出口戦略」に転じなくてはならないなど、問題や課題もあります。

1991年にバブル経済が崩壊した後、日本ではくり返し金融緩和が実施されてきました。1998年に「ゼロ金利政策」が、2001年には「量的緩和政策」がおこなわれています。

そして2012年から始まった「アベノミクス」では「異次元の量的・質的金融緩和」が実施されたほか、2016年からは「マイナス金利政策」が導入されるなど、さまざまなかたちの金融緩和がおこなわれてきました。

金融緩和の具体的な方法をわかりやすく解説

 

では金融緩和の方法は具体的にどのようなものがあるのか、アベノミクスを例に解説します。

2013年に全体像が提示されたアベノミクスは、経済成長を目的に、長期的な戦略として「3本の矢」を掲げました。

  • 大胆な金融緩和
  • 機動的な財政政策
  • 民間投資を喚起する成長戦略

これを見ると、アベノミクスを推進していくうえで、金融緩和が重要な役割を担っていることがわかるでしょう。

日本銀行の黒田東彦総裁は「異次元の金融緩和」の実施を表明し、日銀が市場に直接供給するお金「マネタリーベース」を年間60兆から70兆円に増加させることや、長期国債の保有残高を年間50兆円増加させるペースで買い入れる方針を示しました。

そのほか残存期間の長い国債の買い入れ、上場投資信託や不動産投資信託の買い入れを増やすなど、さまざまな対策を打っています。

この金融緩和の目的は、日銀が株式や国債を大量に買い入れ、市場に大量に通貨を供給すること。異次元の金融緩和が実行されると、日銀から市場に流入する通貨はそれまでの2倍以上になりました。結果的に円安と株高が進み、景気回復に一定の効果を発揮したといわれています。

ただ、一定の景気回復は見られたものの、当時の安倍内閣が掲げた目標に達することはできませんでした。そこで2016年に新たに導入されたのが、「マイナス金利政策」です。日本ではすでに金利が限界まで引き下げられていたため、ゼロ金利よりさらに踏み込むことになりました。

マイナス金利政策は、市中銀行が中央銀行に預けている当座預金口座にマイナスの金利をつけ、お金を預けた側が利子を支払うようにするもの。日銀にお金を預けることにコストがかかるため、市中銀行はお金を預けず、民間企業や個人にお金を貸し出すようになるのです。

このように金融緩和は、さまざまな手段で通貨が活発に流通する状態を作り出そうとしています。

金融緩和のデメリット

 

先述したように、アベノミクスの一環である金融緩和を通じて、大量の資金が市場に流入しました。ただデメリットとして、日銀が大量の国債や上場投資信託を購入したことが、大きなリスクを抱えることになったと指摘されています。

2020年3月時点で、日銀は約31兆円の上場投資信託を保有しています。もし保有している株式が大幅に下落した場合、減損処理をする必要に迫られ、債務超過に陥ってしまう可能性があるのです。

また、日銀が大量に株式を購入することが市場の歪みにつながり、株価と実体経済の乖離を招いていると批判する声もあります。

さらに、マイナス金利政策が市中銀行の銀行の収益性を悪化させ、経営に悪影響をおよぼすのではないかという懸念も。市中銀行は、悪化した収益を補うために外債や投資信託への投資を拡大しています。世界経済の影響をより受けやすくなっていて、リスクに対して脆弱なのではと問題視されているのです。

金融緩和を実施する際、中央銀行は通常とは異なる方針をとることで、通貨の流通を活性化させようとします。しかしこれは、いびつな状況をつくっているともいえるため、いずれ出口戦略に転じなくてはなりません。

世界各国の金融緩和を紹介!アメリカ、ユーロ圏

 

では、海外で取り組まれている金融緩和をいくつか紹介していきます。

アメリカ

アメリカでは、2008年に発生した「リーマン・ショック」の後、金融市場の混乱を収めるために金融緩和が実施されました。3回にわたって実施され、アメリカの中央銀行にあたる「FRB」は多額の国債を買い入れています。

この金融緩和は2014年に終了しましたが、2020年にはコロナウイルスの感染拡大にともなう景気後退に対応するため、ゼロ金利政策が実施され、2022年まで継続される見通しです。

ユーロ圏

ユーロ圏では、2009年に表面化した「ギリシャ危機」をきっかけに財政問題が深刻化しました。これに対して欧州中央銀行「ECB」は金融緩和を実施。利下げのほか、経済危機に陥った加盟国に金融支援をおこないました。

2014年には日本に先駆けてマイナス金利政策を導入し、さらに「TLTRO」という貸し出し条件付き長期資金供給措置を発動して、銀行に企業や個人への融資を促しています。2015年には、毎月約600億ユーロの国債をECBが購入することも決定されました。

2020年には、コロナウイルス感染拡大にともなう経済悪化に対応するため、金融緩和を実施。預金ファシリティー金利がマイナス0.5%に設定されたほか、「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」を開始し、各種有価証券の購入が実施されています。PEPPも2022年まで継続される見通しです。

経済の基本をわかりやすく解説したおすすめ本

著者
海老原 嗣生
出版日
2017-05-19

 

副題に「小学校の算数と国語の力があればわかる」とあるように、金利や為替などの経済の基本用語、日本で実行されているアベノミクスや、アメリカの経済政策に関する展望など、さまざまなトピックをわかりやすくまとめた作品です。

金融緩和についても言及されていて、「量的緩和」と「質的緩和」、「流動性のワナ」などの関連用語を解説。本書を読めば経済政策の具体的な内容も理解できるでしょう。

文章は易しいものの、金利と国債の関係、不況が長引く構造的な原因など、中身にはしっかりと踏み込んでいます。現在の日本の景気や世界経済の状況についても知見を得られる、おすすめの一冊です。

金融緩和をはじめとする経済のターニングポイントを追った一冊

著者
前田 裕之
出版日

 

1995年から2015年の金融業界の動向をまとめたドキュメントです。

バブル経済が崩壊した後、日本の金融界はそれ以前の「護送船団方式」から自由競争へと転換していきました。その過程で生じた銀行の破綻や統廃合、メガバンクの誕生など、ターニングポイントとなる出来事に関わった人の足跡が克明に記されています。

後半では、金融緩和がもたらす負の側面にも言及。金融界に大量の資金が流入することが経済の不健全化に繋がりかねないという指摘もあり、金融緩和のメリットとデメリットにも触れられる一冊です。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る