リーダーの立場で指示を出す人は、人を束ねて動かすことの難しさに頭を悩ませるもの。また責任者でなくても、自分が所属するチームの問題が改善されないことにため息をついている人もいるのではないでしょうか。そんな時は、「組織論」の本を手に取ってみてはいかがでしょう。
組織論とは、社会学や政治学、心理学、経営学などの知見をもとに社会科学上の組織を研究する学問のこと。組織内の個人、集団、または組織全体の行動様式を改良し、生産性の向上を目指します。20世紀のはじめ、軍隊や工場などの巨大組織が登場し、本格的に研究されるようになりました。
まずドイツの政治学者であり経済学者でもあるマックス・ヴェーバーが、合理的な組織に見られる「組織の階層化」「権限の明確化」などの特徴を「官僚制」とし、官僚制が機械のように優れていると考えられるようになります。
同じころ、アメリカの経営学者フレデリック・テイラーが「科学的管理法」を唱えます。これは、労働者を機械の一部とみなして管理することで大量生産体制を確立し、労働コストを削減する効果をあげました。
ただ科学的管理法は、労働者が過酷な労働を強いられるもの。これを受けてオーストラリアの文明評論家エルトン・メイヨーが実地調査をし、組織の活性化には勤労意欲の維持が不可欠であると明らかにします。
さらに、アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、組織を「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」と定義。組織が成立する条件として「ミッション(共通目的)」「コミュニケーション(情報共有)」「エンゲージメント(貢献意欲)」の3つを挙げ、この3要素を満たさなければそれは「組織」ではなく「集団」だと述べました。
「組織論」は、組織を機械的に管理する考え方から、労働者が意欲をもって仕事をすることで職場を活性化させる考え方にシフトしています。新しく生まれる問題を解決するために、創造的に進化しているのです。
人事評価やモチベーションなど、組織行動に関する知識全般を基礎から学べる作品です。最新の理論を「個人」「組織」「グループ」に分けてわかりやすく解説しています。
多くの実例が簡潔に挙げられているので実践的。情報量は膨大ですが、興味のある分野を読むだけでも組織論の面白さに触れることができるでしょう。
- 著者
- スティーブン P.ロビンス
- 出版日
- 2009-12-11
2009年に刊行されたスティーブン・P・ロビンスの作品。長年、マネジメントと組織行動学の分野で「教科書」と評されてきたベストセラー本に、ナレッジ・マネジメントやバーチャル組織などの新しい課題を盛り込んだ新版です。
過去に提唱された組織論の論評ではなく、論拠を科学的に実証して欠点に触れ、現在における改善点を記しているのがポイント。基本的な知識とあわせて長所と短所を知ることができ、問題への対策が明快です。
働き方や人の動かし方、組織の運営方法など、組織論をもとに改善に取り組みたい人におすすめです。
どんどん変化していく時代のなかで、適応できない組織は淘汰されてしまうでしょう。本書では、個人や企業、社会に求められる変革とは何かを問いかけ、学び続ける組織の価値を提言していきます。
本質的な問題に触れているので、抱えている問題やタイミングなどに左右されない、バイブルになる作品です。
- 著者
- ["ピーター M センゲ", "枝廣 淳子", "小田 理一郎", "中小路 佳代子"]
- 出版日
2011年に刊行されたピーター・M・センゲの作品。1990年代のビジネス界に一大ムーブメントを起こし、世界で100万部を超えるベストセラーとなった『最強組織の法則』の増補版です。
作者のピーター・M・センゲは、20世紀のビジネス戦略にもっとも大きな影響を与えたひとりで、階層的なマネジメントの限界を指摘し、柔軟に変化し続ける組織の理論を提唱しています。
管理ではなく学習、恐怖ではなく愛を基盤とした新たなマネジメントの在り方を示していて、どこか哲学的だと感じるかもしれません。どれも簡単に身につくものではなく、早急に結果の出るものでもありませんが、変化し続ける組織の価値を知り構築していくための基盤となる内容です。
燃料切れの警告を無視して飛行機事故を起こしたパイロット……その失敗から、航空業界は対策を講じて安全性を高めることに成功しました。一方で医療業界では、医療ミスの実態が改善されず、過ちがくり返されています。
2つの業界は、失敗に対する姿勢がまったく違っていました。オックスフォード大学を主席で卒業したジャーナリストが、航空機墜落事故、医療ミス、冤罪事件などの事例をもとに、あらゆる業界組織の失敗の構造を解き明かしていきます。
- 著者
- マシュー・サイド
- 出版日
- 2016-12-23
2016年に刊行されたマシュー・サイドの作品。作者はイギリスの「タイムズ」紙でコラムニストとしても活躍している人物です。
「失敗は成功の母」といいますが、失敗に向き合う姿勢が進化のカギを握っていて、失敗を見逃すことは学習の機会を見逃すことだと作者は提唱しています。
ただ事例を挙げるだけでなく、失敗が起きるプロセスを分解して、心理学や組織論を踏まえながら組織のシステムの構築方法を解説しているのがポイント。読者が抱えている疑問や悩みにも対応してくれるでしょう。
失敗から学習するために必要なのは、個人の失敗を追及するのではなく、仕組みを改善すること。本書を読めば、組織に必要なものが見えてきそうです。
太平洋戦争で惨敗を喫した日本軍。陸軍は日露戦争、海軍は日本海海戦における成功体験に縛られ、戦況に学びながら組織を革新していくことができませんでした。
本書では、「ノモンハン事件」「ミッドウェー海戦」など、太平洋戦争の大きな転換点となった6つの戦局を取り上げ、それぞれの戦術を社会科学的に分析していきます。
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
1991年08月01日
1984年に刊行された作品。組織論の研究者と戦史の研究者らによる共著で、長期にわたってビジネス書ランキングの上位に名を連ねています。
日本軍が組織としてどんな失敗を重ねてしまったのか、背景を分析し、現代の組織への教訓として活かそうとする内容です。初版が出版された1984年の日本は、高度経済成長期を経て経済大国へと成長し、バブル期へと向かっていた時期。絶頂ともいえる日本の組織に対し、組織論的研究から警鐘を鳴らした内容の先見性に驚くでしょう。
1度かたちになったものを変えていくことがいかに難しいかを実感するとともに、それでも同じ轍を踏まないためには、失敗の本質を知ることが重要だと感じさせられる一冊です。
機能不全に陥り、アメリカ海軍において最低の評価をくだされた軍艦「ベンフォルド」。艦長として配属されたマイケル・アブラショフは、前艦長の退任式における乗組員たちの、情が微塵も感じられない様子に愕然としました。
そこでアブラショフは、部下にとって何が一番大切なのかを考えます。真っ先に取り組んだのは、不満を抱いて退職した乗組員たちへのヒアリング。離職した理由を徹底的に知ることからはじめたのです。
アブラショフの改革は、乗組員たちに自主性をもたせることに成功。機能不全とまでいわれた艦は、柔軟で強いチームへと生まれ変わっていきました。
- 著者
- ["マイケル アブラショフ", "Abrashoff,Michael", "浩一郎, 吉越"]
- 出版日
2015年に刊行された作品。アメリカ海軍の艦長を務めたマイケル・アブラショフ本人が、落ちこぼれの艦を2年の任期のうちに歴代最高のチームに変えていった、具体的な組織論を紹介しています。
まるで物語のような文章でエキサイティングに読めるのが魅力的。一方で実際に艦で起こった事例が綴られているので、説得力は抜群です。
乗組員のモチベーションとスキルアップをコントロールしていく手法は、軍だけでなく、どんな組織にも活かせるもの。目指すべき上司のビジョンを与えてくれる一冊です。