塗装業の仕事が生み出した建築物は、あらゆる街のいたるところで見ることができます。そして自分が関わった仕事がさまざまな人の目に触れるという意味で、とてもやりがいを感じられる仕事です。 そんな塗装の仕事には建築塗装、板金塗装、デザイン塗装などがありますが、本記事ではビルや家などの建物を対象とした建築塗装について解説します。就職先や仕事内容、年収事情に加わえ、塗装の奥深さを踏まえた魅力についても触れていきます。また塗装工を目指す方におすすめの本も紹介していますので、興味のある方はこちらもぜひ目を通してみてくださいね・
塗装工の仕事と聞いてどのような仕事をイメージするでしょうか。多くの方はペンキの入った缶を片手に持ちながら、刷毛で壁を塗っているようなところをイメージすると思います。
そのイメージは間違ってはいませんが、実際に塗装工が仕事をしているところを見たことがある方は少ないと思います。それは塗装工は見えないところで作業をしているケースが多いからです。塗装は塗料の飛散や建築物の保護を目的としてメッシュシートなどで建物を覆う養生という作業をおこなうことが多いため、そのなかで仕事をしている塗装工の姿は見えないというわけです。
前置きが長くなってしまいましたが、ではどのような作業がおこなわれているかを解説していきます。また本章では、就職先としてどのような会社があるかもあわせて紹介します。
建築塗装を一言で説明すればペンキを使って壁や屋根を塗っていく仕事です。日曜大工などでペンキ塗りの経験がある人であればわかると思いますが、ムラなくキレイに塗ることの難しさはご理解いただけると思います。
さらに、クライアントのオーダーに合うように塗料の種類や色を決めるためのセンスや、建物の形状や材質に適した塗り方をするための高い技術も必要になるため、一筋縄ではいかない仕事です。
また、塗装する目的には水や錆を防いだり熱を遮ったりして建物の耐久性を高めるなどもありますが、こうした知識をつねにアップデートするための学習も必要です。
建築塗装で最も多いのは外壁の塗装です。外壁は雨や風、日光、ホコリなどの影響を受けて汚れたり剥がれたりすることは避けられません。そのため数年から十数年おきに塗り替えをするわけですが、塗装は「1回塗って終わり」というわけにはいきません。
まず建築物に塗料を密着させるための下塗りをし、色合いを決めるために中塗りをおこない、外観を整えるための上塗りをします。このように段階を重ねて何度も塗り足しながら仕上げていくのです。
また屋根やベランダも塗装を施すケースが多いところです。外壁と同様に日差しや雨の影響で劣化しやすいので、防水性や遮熱性をのある塗料を使用し刷毛やローラーで塗っていくほか、スプレーを吹きかけて仕上がることもあります。
建築塗装工は、建築関係の企業や住宅メーカーやリフォーム会社が主な就職先となります。未経験からでも挑戦しやすく、中学や高校を卒業した新卒入社の人が多く活躍しています。
新築工事のほか最近では人口減少にともない、空き家をリノベーションする仕事が増えています。特にこのようなリノベーション事業に力を入れている会社は積極的に人材募集をおこなっている可能性が高いです。これから塗装業の活躍できる幅も広がっていくでしょう。
大きなやりがいや魅力があったとしても生活していけないぐらいの給与であればやはりその仕事に就くかどうかは考えないといけなません。塗装工の給与事情はどうでしょうか。見ていきましょう。
平均年収:310万円
一般の会社員の平均年収が約440万円ですので、決して高くない給与です。ただし経験を積み親方クラスになれば平均年収はグッと上がり450万円ほど。
高い技術と指導力が必要になるため、だれもが親方になれるわけではありませんが、給与面での優遇に加え仕事の幅も広がるのでぜひチャレンジしてみてください。
建築会社やリフォーム会社など業界によっての差はほとんどないようです。仕事内容で会社を選んでも給与の差はほぼないのは、やってみたい仕事が決まっている方は給与で悩まなくてもよさそうです。
塗装業は未経験でも働きやすい業界と言われています。しかし関連する資格をもっていることで就職や転職が有利になったり、重要な仕事を任せてもらえたりとよいことはさまざまあります。
塗装業の資格にはどんなものがあるのか。またおすすめの資格などを見ていきましょう。
実は塗装業関連の資格にはさまざまな種類があります。国家資格に民間資格とどれを取得すればいいのか迷ってしまう方も多いでしょう。
▶︎国家資格
▶︎民間資格
いくつもある国家資格のなかで重要視されているのが「一級塗装技能士」と「塗装工事業許可」の資格です。
▶︎一級塗装技能士
「一級塗装技能士」の資格は、実務経験が7年以上ある方でないと受験することができません。また2級合格2年以上、3級合格4年以上という条件があるため、まず受験のハードルが高いのが特徴です。
試験は学科試験と実技試験からなっており、合格率は50〜60%ほど。7年以上の実務経験というハードルが高いため、市によっては取得している方が数人とかなり少ない人数になっています。この資格をもっていれば一定以上の知識、経験、技術をもっている裏付けになります。
▶︎塗装工事業許可
「塗装工事業許可」の資格は、5年ごとに更新の必要な資格であり、この資格があることで大規模(500万円以上)な工事の受注が可能になります。
資格を取得するには、建築業法によって規定されている以下の「5つの許可基準」をすべて満たすことが求められています。
この5つの規定のなかにもさまざま決まりがありますが、これらの条件を満たせば必ず取得できる資格です。
「手に職」のひとつである塗装業。そのため異業種からの転職先として塗装業を選ぶ方は多くいます。実際にどのようなルートが可能なのでしょうか。また転職するにあたって何を重要視すればよいのでしょうか。
異業種から見た塗装業の魅力はいくつかあります。それは塗装はずっと繰り返しおこなっていくものであり、仕事量の安定が確保されていること。また関連する資格の多さや、仕事の評価をしてもらいやすいなどがあります。
異業種からの転職で不安に感じることはいくつかありますが、意外と経験は重要ではありません。すでに塗装工として働く先輩方から実務経験を通してさまざまな技術を学ぶことができるからです。
塗装業のプロとして職人が多く怖いというイメージがあるかもしれませんが、未経験でもひとつずつ丁寧に教えてくれる業界ですので、安心して働くことができるでしょう。
すでに塗装業界で働いている方の転職は2つのパターンがあります。ひとつは塗装業での経験を活かした転職。もうひとつは異業種に転職をする、です。これは他の業種にもいえることですが、塗装業にも向き不向きがあります。また塗装屋によって給与形態や福利厚生などに違いがありますから、その点で転職を考える方も多いようです。
まず塗装業での経験を活かした転職は以下のようなものがあります。
「板金塗装」は車などの金属塗装をおこなう仕事です。具体的な塗装方法は異なりますが、塗装に関する知識や経験を活かせることは間違いないでしょう。
同じ建築塗装をおこなう会社に転職するなら、上記の2点を条件に転職先を探すのがおすすめです。これらの条件を満たす塗装屋は地域の信頼を得ている場合が多く、仕事の数が安定している可能性が高いからです。
しかし同業で転職をおこなう場合に注意したいのが、転職をしすぎないことです。これはどの職人業においてもいえることですが、塗装業もやはり狭い業界です。塗装業者は組合などを通して繋がっている場合が多いので、過度な転職は繰り返さない方がよいでしょう。
また異業種への転職に関しては、さまざまな道があります。塗装業にも関係のあるドライバーに転職したり、まったく関係のないIT企業に転職したりと多くの選択肢があります。自分のスキルと塗装業での経験をどのように活かせるかを考えて転職先を選ぶのがよいでしょう。
塗装は技術や経験がものを言う職人作業ですが、仕事の魅力もそこになります。この章では塗装工のやりがいや魅力について解説します。
塗装は仕上がりが評価される仕事です。ただこなすように作業をしていては見た目に美しい仕上がりはなりません。そのため集中して丁寧に作業をおこなうことが重要になりますが、非常に広い面積を塗装するケースもあり、体力も必要になります。ただ苦労したぶん塗り終えた建物を望んだときの達成感は相当なものです。
勤務する会社の規模や事業の種類にもよりますが、塗装する建物はオフィスビルに商業施設、マンションに一軒家などさまざま。なかには歴史的建造物や街のランドマークになるような建物を手がけられることもあります。
多くの種類の建物を塗装できて経験値を積む楽しみに加え、有名な建築に携われることの誇りも得られます。さまざまな街で自分の手掛けた建築を見ることができるのは、塗装業ならではのやりがいでしょう。
- 著者
- 坪田実
- 出版日
本書は塗料と塗装を基本からわかりやすくビジュアルで解説した入門書。
化学式などももちいて専門的に解説している部分も多く、塗装と塗料の歴史、塗料配合と硬化塗膜の網目構造の見方、環境問題と関連法令、環境対応型塗料の性質や問題点などについても触れています。
最新の塗料と塗装について体系的に学べる1冊となっているため、塗装業についての基本知識を知りたい、塗装の仕組みを頭に叩き込みたいと思っている方におすすめです。
- 著者
- 小林 敏勝
- 出版日
塗料の知識なくして塗装について語ることはできません。本書では塗料をつくる立場から、樹脂、顔料、溶剤、添加剤など各種塗料材料の機能や種類、特徴について解説。また選び方や組み合わせ方についても詳しく紹介しています。
種類が増え、機能も高度化する塗料についてしっかり学んでおけば、塗装工として一目置かれる存在になることは間違いないでしょう。
塗装に関する資格は取得することで就職や転職にも有利に働きますから、それらの資格取得の際に参考書として読み込むのもよいかもしれません。
新刊 徹底図解 丸ごとぜんぶ調色
2014年09月30日
現場では「調色は見て覚えろ」と言われますが、できれば言葉で教えてもらいたいものです。この本は調色のポイントをビジュアルに加え、解説でもわかりやすく説明してくれます。
調色作業の位置づけからはじまり、作業内容、材料およびツールの選び方、作業手順、ポイントおよびテクニックまで順を追って解説。また、インストラクターや塗装のプロが教える調色術なども掲載されています。
これらを参考にすれば、調色の引き出しを一気に増やせるでしょう。光と色や原色の特性、調色作業時間と補修塗装指数などの専門知識も身につきます。
塗装の仕事は、体力的に楽な仕事ではありません。しかし、さまざまな建物を手がけられるといった楽しみや、経験を積んで技術が高まっていく喜びを感じられるやりがいのある仕事です。また手に職をつけておけば、不況で仕事を失うといった心配も減ります。本記事を読んで塗装業に興味を持った方はここで紹介した書籍などでより詳しい知識を身につけて、ぜひスペシャルな塗装職人を目指してみてください。