2015年8月に創刊60周年を迎えた少女漫画雑誌『りぼん』。記念イベントが現在進行形で開催されており、その人気ぶりが伺えます。そんな『りぼん』の中で私が一番好きな漫画家は、小花美穂さんです。現代にも繋がるような社会問題に独自の視点を盛り込み、ある意味「少女漫画」らしからぬ物語世界を構築している小花先生の作品は、年齢を重ねるにつれてより一層面白さを感じます。今回は、小花先生の大人気作品である『こどものおもちゃ』を含めた3作品をご紹介します。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
- 2012-02-01
私が一番好きな作品です。人気子役タレントの倉田紗南と、同級生で問題児の羽山秋人を中心とした学園物語です。学級崩壊や少年犯罪、家庭崩壊やマスコミ問題といった社会問題を、小学生〜中学生の視点から描いたこの作品は、いつのまにか紗南ちゃんの年齢をとうに越えてしまった今読み返しても、グッとくるものがあります。
どのエピソードも印象的なのですが、特に(少しネタバレになりますが)物語の後半、人形のように表情が変わらなくなってしまう(でも本人には自覚がない)「人形病」という奇病に罹ってしまうエピソードが、とりわけ印象に残っています。子役から女優へと順調にステージを進んでいく紗南ちゃんを、ある日突然襲ったこの奇病の原因は「ほんの些細なこと」でした。しかし、この「些細なこと」が、どれだけこどもにとって辛いことなのかをまざまざと見せつけられます。
「こどもだから」何も考えていない、なんていうことはありません。「こどもだからこそ」見えるものがあったり、傷つくことがたくさんあることをこの作品を通して知りました。おとなになったからこそ、もう一度読みたくなる作品です。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
高校で出逢った一卵性双生児の苗と萌、二卵性双生児の賢と武。双子であるという共通点から意気投合した4人ですが、ある日突然萌が交通事故で亡くなり、さらに死体が忽然と消えてしまいます。事件から3ヶ月後、意気消沈していた3人を励ますために同級生たちが企画した旅行先で、亡くなったはずの萌の姿を発見。実は、萌がL・S・P(生きている人間剥製)として再生されていたのです。その事実を知った3人は、とある製薬会社の工場に軟禁されてしまいます。
『こどものおもちゃ』に続く連載作品がこの『パートナー』だったのですが、前作とは打って変わってサスペンスものであることと、ショッキングな展開によって「あれ、これって少女漫画だっけ?」と思ってしまう読者もいたようです。しかし、それ以上に繊細な心理描写が描かれており、一気に作品世界に引き込まれてしまいます。
「フランケンシュタインの花嫁」として選ばれた萌、不自然な人間の再生に異を唱え続ける苗と武、恋人であった萌の再生に複雑な心境を抱き続ける賢。L・S・Pの製造という設定は、現代のAIやアンドロイドといったものと関連させながら読むこともできるので、個人的には非常に興味深い作品の一つです。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
『水の館』は、『こどものおもちゃ』内で紗南ちゃんが山にこもって撮影をしていた映画作品を漫画にしたものです。両親の交通事故により兄・正人がいたことを知る浩人は、探偵を通じて兄に会いに行くことに。そこで一緒になった美和と真子との「奇妙」な共同生活が始まります。こちらも言わずもがな素晴らしい作品なのですが、今回は単行本に収録されている「POCHI」を紹介します。
「ストレス女王」という異名を付けられてしまった中学3年生の清香は、真面目ゆえにあらゆるものを抱え込みがち。とある日、清香とは対照的な「ノーテンキ大王」ことポチ(斗望)と出逢い、彼のちょっと変わった価値観や思考に振り回されるように。しかし、真面目一辺倒だった清香は、ポチと触れ合っていくことで自分や家族と向き合うようになっていきます。
読者の方の中にも、清香のようにストレスをストレスと感じず、知らないうちに溜め込んでしまっているという方がいるのではないでしょうか。ストレスに気付かない心理や気付いた後の葛藤、そこからどのように解決させていけばいいのか、今まで紹介した作品と同様、細かな心理描写が書きこまれています。あらすじを読んでドキッとした方、ぜひ一読してみてください。
今回ご紹介した作品は、どれも私にとって衝撃的で刺激を受けたものばかりです。特に『こどちゃ』はバイブル的存在で、数え切れないほど読み返しています。ちなみに、最近では『Cookie』で連載中の『Honey Bitter』の番外編として、おとなになった紗南ちゃんと羽山が登場したそうです(『Deep Clear』)。
個人的に、小花作品に登場する悪役はどれも全くの悪人として断罪できないというところも魅力の一つだと思っています。誰かにとっては悪役でも、他の誰かにとっては救世主とも成り得る、そんな善悪だけでまかり通らない、割り切れない「リアル」を描いているからこそ、好きなのかもしれません。