本格派ミステリ作家として活躍している、有栖川有栖。特徴的な名前に目を引かれたことがある方も、少なくないことでしょう。今回は、有栖川有栖の代表シリーズとも言える「アリス」シリーズに焦点を当てて、ご紹介していきたいと思います。
有栖川有栖は1959年に大阪で生まれ、育ちも大阪なせいか、作品の多くが関西を舞台としています。
子供の頃から、作家を目指し、江戸川乱歩賞に応募するも落選。有栖川有栖のデビュー作でもある『月光ゲーム』も、江戸川乱歩賞に応募しますが、予選すら通過せずに落選しています。
しかし、この『月光ゲーム』は東京創元社の編集長の目にとまり、さらに同じく推理作家でもある鮎川哲也の推薦を受け、大幅に改稿した上で「鮎川哲也と十三の謎」の第四回配本として刊行されることになるのです。
本格的な小説家デビューはこの『月光ゲーム』ですが、有栖川有栖の作品は大学時代に、鉄道ミステリーアンソロジーに収録されています。実は、このアンソロジーを編集していたのも、鮎川哲也なのです。鮎川哲也は当時、若手の育成に力をいれており、そんな鮎川に見出され、有栖川は作家デビューを果たすことになります。
その作風は、アメリカの作家エラリー・クイーンの影響を大きく受けており、創元社から刊行している作品の多くには「読者への挑戦状」を挟んでいます。
有栖川有栖を代表するシリーズと言えば、「アリス」シリーズではないでしょうか。作者と同名の主人公が登場するこの「アリス」シリーズには2種類があります。1つは大学生のアリスが活躍する「学生アリス」シリーズ、そしてもう1つは小説家のアリスが登場する「作家アリス」シリーズです。
「学生アリス」シリーズは、京都にある私大・英都大学の推理小説研究会「英都大学推理小説研究会(通称EMC)」の部員たちが活躍する有栖川有栖の作品です。学生アリスの視点で綴られる本シリーズは、探偵役に部長である江神二郎を据えています。学生アリスは、推理小説家を志望しており、この学生アリスの書く作品が「作家アリス」シリーズとされています。
一方「作家アリス」シリーズは、学生時代からの友人でもある火村英生とアリスのコンビが活躍する有栖川有栖のシリーズ作品です。探偵役の火村は、二人の母校英都大学の社会学部准教授。そしてアリスは推理小説家。作家であるアリスが書く小説が「学生アリス」シリーズとされているのです。
有栖川有栖の「学生アリス」シリーズは、意図せず事件に巻き込まれてしまうことが多いことに対して、こちらの「作家アリス」シリーズは、探偵役の火村がフィードワークと称して警察の捜査に加わる形となっています。
両シリーズとも複雑なトリックを駆使した作品で、読み応えがあります。しかし、特に謎解きがしたい!という方には、有栖川有栖の「学生アリス」シリーズを。颯爽と現れる探偵の姿が読みたいという方には「作家アリス」シリーズをおすすめします。
『双頭の悪魔』は有栖川有栖の「学生アリス」シリーズ第3弾の作品です。
アリスたちEMCのメンバーは、マリアが木更村から戻ってこないことを心配します。マリアを迎えに行くEMCのメンバーですが、江神がマリアと接触しているときに、大雨により橋が破壊されてしまい、EMCメンバーは分断されてしまいます。そんなときに、互いのいる村で殺人事件が発生。江神不在のアリスたちに事件は解決できるのか?
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
「私が自分の意志でここに滞在することを疑わないでください。」そんな言葉が添えられた手紙がマリアから送られてきたマリアの父は、EMCメンバーを訪ねます。
何度も「自分の意志」であることを強調する手紙には、逆に不安を覚えてしまいます。マリアの父親に対して、「保証はできない」と前置きしながらも、江神は微かに笑いながら「連れて帰れるかもしれない」と言います。
「お任せください!」と胸を張って答える探偵とは違い、江神は穏やかに淡々と事実のみを告げます。積極的に事件に関わるというよりは、仲間を守るために掛かろうとする火の粉をやさしく払いのけるような江神の姿には、頼もしさを感じます。
有栖川有栖の今作では、「読者への挑戦状」がなんと3回も挿入されています。これは推理小説の中でも、かなり希なこと。3回も突きつけられた挑戦状。つい何度もページを戻して読み直してしまうこと間違いなしです。
有栖川有栖の「学生アリス」シリーズ第4弾の作品です。こちらも長編小説となっていて、読み応えは抜群です。
「ちょっと遠出するかもしれん」そう言って姿を見せなくなった江神が、<女王>のいる宗教団体の聖地にいるかもしれない。そう気付いたEMCのメンバーは、『双頭の悪魔』のときのように、今度は江神を迎えに行きます。EMCメンバーは無事、部長である江神と再会できるのでしょうか。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 2011-01-26
物語序盤に、EMCメンバーの賑やかさを感じる何気ないシーンがあります。しかし有栖川有栖は、そんな些細なシーンですら、無駄にはしません。ラストに序盤を思い出させるハッ!とする瞬間が訪れるのも、有栖川作品の面白いところではないでしょうか。
本作は、「学生アリス」シリーズの中でも特に長い作品となっています。しかし、読み始めるとその長さを感じる暇もなく、あっという間に読了してしまうでしょう。読みながら「どうして?」と感じていた謎が、最後見事にクリアになっていくその瞬間は、「そうか!」とスッキリすることでしょう。
有栖川有栖の「作家アリス」シリーズ第1弾の作品です。アリスは招待された巨匠作家のパーティで、殺人事件に巻き込まれてしまいます。複雑な人間関係と、トリックが絡み合う珠玉の1作です。
「単に保護者でなく、助手として同席させたいんですが」その一言がきっかけで、アリスは火村のフィードワークに参加するようになっていきます。アリス視点で描かれる「作家アリス」シリーズの起点となるシーンです。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 2012-09-29
有栖川有栖の今作の特徴は、ミステリ作家の集まる場所で、ミステリ作家が密室で殺害されるという特異な状況にあります。
「探偵とは……実在するんですね」数々の探偵を書いてきたはずの推理作家から出るこの一言は、このときの発言者の気持ちをよく現しています。トリックの謎だけでなく、複雑な人間模様も描かれた有栖川有栖の今作は、ミステリファン以外の方でも楽しめる作品となっています。
特徴的な髭を持つ宝石チェーンの社長が殺害され、なぜか遺体には特徴だったはずの髭がなくなっています。どうしてトレードマークだった髭がなくなってしまったのか?その殺人事件には、アリスの旧友も容疑者になってしまっているという有栖川有栖の作品です。
「こりゃ駄目だ。わけが判んねぇぞ、畜生」探偵役である火村が、どんどん複雑になっていく謎に思わず漏らしてしまう一言です。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 2013-05-31
有栖川有栖の今作品は、簡単に犯人が見つかりそうに見えたところで、新たな謎が見つかって……と、謎が謎を呼び事件がどんどん複雑になっていきます。しかし、正しい1本をスッと引くとリボンが解けるように、火村は鮮やかな手段で事件を解決へと導きます。
単純な恋愛関係のもつれにもなってしまいそうな作品ですが、そこは有栖川有栖。しっかりと読み応えのあるミステリ小説となっています。
「作家」アリスシリーズの中でも、さらにシリーズ分けされた有栖川有栖の「国名」シリーズの短編集です。
その中でもオススメなのが、タイトルにもなっている『スイス時計の謎』。いつものようにフィールドワークに呼ばれたアリスは、その事件現場で意外な再会を果たしてしまうという物語。学生時代のアリスが垣間見える作品です。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 2006-05-16
有栖川有栖の今作の大きな謎は、「被害者の腕時計はなぜなくなったのか」ということです。
時計を持ち去った理由がわかったとき、火村は犯人へとたどり着きます。「未来の中にも過去はある。やり直せることを、やり直せ」と犯人を諭す言葉は、作品を読んだ読者の胸にも響くものがあるのではないでしょうか。
今回は、有栖川有栖作品の中でも特に人気の高い「作家アリス」「学生アリス」の両シリーズから作品をご紹介しました。どの作品も魅力的な登場人物と、ドキドキするようなストーリー展開で、ページをめくる手が止められません。読むだけでなく、探偵気分を味わうのも面白いかもしれませんね。