4年に1度、11月に実施されるアメリカ大統領選挙。しかし選挙戦は、およそ1年をかけておこなわれているのをご存知でしょうか。この記事では、予備選挙や党員集会、全国党大会、そして本選挙など、アメリカ大統領選挙の仕組みと流れをわかりやすく解説していきます。
近代以降、多くの国家は権力の暴走を防ぐために「三権分立」を導入しています。ただその実態は国ごとに異なるのが現状です。
日本が採用しているのは「議院内閣制」というもの。行政の長である総理大臣は国会に議席をもち、内閣も国会の信認にもとづいて成立しています。「議院内閣制」は、行政である内閣と、立法である国会の距離が比較的近いのが特徴です。
一方のアメリカが採用しているのは「大統領制」です。行政を担当する大統領や各大臣は、議会に議席をもっていません。さらに、大統領と上下両院の議員はそれぞれ異なる選挙で選ばれるため、分立が強くなる傾向があります。
大統領は議会の招集や解散をおこなう権限をもたず、議会に法案を提出する権限ももっていません。「一般教書」や「特別教書」という形で法律の制定を議会に勧告できるものの、必ずしも議会がそれに従うとは限らないのです。
また日本とは異なり、議会も行政に不信任決議案を提出する権限をもっていません。アメリカ合衆国憲法では、上下両院それぞれで3分の2以上の多数が賛成した場合に、弾劾で大統領を罷免することができるよう定められています。ただ、これまでに弾劾で大統領が辞任した例はありません。アメリカの大統領は任期満了まで務める場合がほとんどで、安定した長期政権を築く傾向にあります。
アメリカ合衆国憲法では、大統領に立候補できる条件として、アメリカ生まれであること、市民権をとって14年以上アメリカで暮らしていること、35歳以上であることが決められています。任期は4年間で、最長で2期8年まで務めることが可能です。
また大統領選挙は、アメリカ国籍を有する18歳以上の人が投票できます。ただ投票するためには、居住地の選挙管理委員会に、選挙人名簿への登録を申請しなくてはいけません。
選挙は1年近い期間といくつものプロセスを経て、最終的には州ごとに「大統領選挙人」を選び、選挙人の獲得数で大統領が決まる間接投票の形式をとっています。
アメリカの大統領選挙は長期間にわたって実施され、その仕組みは日本人にとっては馴染みの薄いものではないでしょうか。ここでは、具体的な流れを時系列ごとにまとめていきます。
まず大統領選挙が実施される年の2月から6月にかけて、アメリカの各州では「予備選挙」や「党員集会」がおこなわれます。この目的は、民主党と共和党の二大政党をはじめ、各党が党の「代議員」を選ぶことです。
州によって「予備選挙」と「党員集会」のどちらを実施するのか異なり、同じ州でも党によって方法が違う場合もあります。たとえばワシントン州では、民主党は「党員集会」を開き、共和党は「予備選挙」を実施しています。
ここで選ばれる「代議員」は、後述する「全国党大会」で各党の大統領候補者を指名することができます。彼らはあらかじめ支持している大統領候補を表明しているため、「代議員」の選出が間接的に大統領の選出に繋がっているのです。
特に3月の第2火曜日は、アメリカの各州で「党員集会」や「予備選挙」が集中しておこなわれる日。大統領候補者を決める重要な日と考えられていて、「スーパー・チューズデー」と呼ばれています。
詳細は州ごとに異なりますが、「党員集会」は候補者同士で議論をした後に、投票で「代議員」を決めることがほとんどです。選挙に投票できるのは、各党員のみの場合もあれば、党員以外の投票を認めている場合もあり州ごとに異なります。
一方で「予備選挙」は、通常の選挙と同じように有権者が投票をします。民意を反映しやすく手続きも煩雑でないため、近年では「予備選挙」で「代議員」を決める州が増えています。
「党員集会」や「予備選挙」が終わった後、7月から8月にかけて「全国党大会」が開かれます。
この目的は、「党員集会」や「予備選挙」で選出された代議員たちが、大統領候補と副大統領候補を指名すること。指名されたそれぞれの党の候補者たちが「本選挙」に臨みます。
大統領候補になるには、過半数以上の代議員から指名されなくてはいけません。そのため、どの候補者も過半数を獲得できなかった場合は、あらためて決選投票がおこなわれます。かつては「ブローカード・コンベンション」といって、候補者たちが閣僚のポストや自身の政策を採用することを条件に、他候補との取引がされることもありました。
そのため番狂わせが生じ、「党員集会」や「予備選挙」でもっとも多くの代議員から支持されていた候補が、大統領候補にならないケースも。ただ近年はそのような事態は生じておらず、民主党は1952年、共和党は1948年を最後に「ブローカード・コンベンション」をしていません。
こうして大統領候補が決まると、それぞれの候補者が議論をする「公開討論会」が開かれます。
討論会は法的に実施を定められたものではありませんが、1976年に共和党のジェラルド・フォードと民主党のジミー・カーターがおこなってから毎回必ず開かれているものです。
そうしていよいよ11月に、それぞれの候補者が大統領の座を争う「本選挙」が実施。投開票日は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と決められていて、2020年の大統領選挙は11月3日に投開票されます。
このように期日が定められた背景として、合衆国の建国当初は農閑期である11月が比較的余裕のある時期であったこと、日曜日はほとんどの人が礼拝をするため、月曜日を投票日にしてしまうと移動手段が乏しかった時代は投票所に行けなかったことなどの事情があるそうです。
ただし厳密には、11月の投票ではまだ大統領は決まりません。この選挙で選出されるのは、選挙人集会で大統領と副大統領を選出する「大統領選挙人(以下、選挙人)」です。
選挙人は代議員と同じように、あらかじめ支持している大統領候補を表明しています。有権者は自身が望む候補者を支持している選挙人を選び、その後12月に選挙人たちがあらためて投票をおこなうことで、最終的に大統領が決められるのです。
選挙人は各州の人口などによって人数が割り当てられていて、その合計は538名です。過半数に当たる270名以上の選挙人から支持を得れば、最終的に大統領として選出されることになります。
ただしほとんどの州が、その州でもっとも得票率の高い候補者がすべての選挙人を獲得する「勝者総取り方式」を採用しています。つまり選挙人の数が多い州で勝つことができれば、仮に選挙人の数が少ない州で負けたとしても、最終的により多くの選挙人を獲得できるのです。そのため場合によっては、本選挙の得票数で優位だとしても、選挙人の獲得に失敗して大統領に選ばれないこともあります。
近年だと2016年の大統領選挙で、民主党のヒラリー・クリントンが共和党のドナルド・トランプよりも300万票ほど多くの票数を得ていました。しかし選挙人が多い激戦区ではトランプが勝利していたため、最終的には彼が大統領に選出されています。
- 著者
- 文響社編集部
- 出版日
アメリカ大統領選挙について、日本では11月におこなわれる投開票日は注目されるものの、それ以外の実態や仕組みはあまり知られていないのが現状です。本作では、具体的な流れはもちろん、人種や宗教が選挙に与える影響などさまざまな側面から大統領選挙を解説しています。共和党や民主党の方針や政策なども紹介されているので、基本から学ぶことができるでしょう。
イラストや図版が多用され、視覚的にわかりやすいよう配慮されているのが魅力的です。具体的なイメージを膨らませながら、大統領選挙について理解できる一冊になっています。
- 著者
- ["米国大統領研究編纂所", "開発社"]
- 出版日
2020年現在、アメリカの大統領を務めた人物は44人います。本作は、初代大統領のワシントンからトランプまで、全員の人物像や業績をまとめたもの。「大統領の成績表」と題して実行力、知力、決断力、カリスマ性、政治力の5項目で評価をつけるなど、興味深く読めるよう工夫されています。
人となりはもちろん、大統領として選ばれた時代背景を知れるのも嬉しいポイント。アメリカの歴史を学びたい人にもおすすめです。