『葬送のフリーレン』は、魔王討伐を終えた勇者一行の「その後」から始まる漫画。エルフのフリーレンがともに過ごした仲間たちの死をきっかけに、人間との間に流れる時間の違いや、その命の価値に向き合っていく冒険ファンタジーです。 「小説家になろう」らしい設定でありながら、人との向き合い方について考えさせられるストーリー。ファンタジー好きだけでなく、ファンタジーものをあまり読まない初心者にもおすすめです。
週刊少年サンデーにて連載開始後、SNSを中心に注目を集めている漫画『葬送のフリーレン』。本作は魔王を倒し、冒険を終えた勇者一行のその後を描いた後日譚ファンタジーです。
主人公となるのはエルフという種族のフリーレン。一般的にファンタジー作品に登場するエルフは何百年以上も生きたり、無限の寿命を持っていたりという設定で登場します。人間の人物とは時間の感覚に差異があるというところに着目した作品です。
2021年3月17日に第4巻まで出版。まだ少ない巻数なので「青田買い」できる漫画としてもおすすめです。マンガ大賞2021も受賞し、今後の勢いも増していく作品です。
第2巻発売を記念して、漫画の内容をまとめたPVが公開されていますので、ぜひ作品の空気感を味わってみてください。本記事では『葬送のフリーレン』のあらすじや登場人物紹介のほか、なぜ面白いのかも解説しています!
10年にもおよぶ冒険を終え、王都へと凱旋した勇者ヒンメル、僧侶ハイター、魔法使いフリーレン(エルフ)、戦士アイゼン(ドワーフ)。50年に一度見られる「半世紀(エーラ)流星」を眺めながら10年間の旅を振り返り、「50年後、もう一度見よう」と約束して解散しました。
解散してから50年後。1人魔法収集の旅に出ていたフリーレンは、ヒンメルたちに会うため町へと戻ります。50年ぶりに再会したフリーレンたちは、半世紀流星を見るという約束を果たすため、最後の旅へと出かけました。
しかし、ヒンメルは寿命で死去。大切な仲間を見送ることになったフリーレンは、初めてそこで仲間と過ごした日々の大切さに気づかされます。
「人間についてもっと知りたい」
そう強く感じた彼女は、ヒンメルの葬儀後、再び旅へ。
そしてヒンメルの死から20年後、ハイターに再会したフリーレン。彼は戦災孤児で引き取った少女・フェルンと生活していました。しかし彼も数年後、亡くなってしまいます。
また1人、大切な仲間を見送った彼女。ハイターが死ぬ前に残した「ある言葉」を受けて、フェルンとともに旅に出ることを決意します。
彼女がハイターから受け取った「ある言葉」とは?次の章で解説していきます。
- 著者
- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
- 出版日
物語は人間よりも長生きするフリーレンを中心に進んでいきます。ここでは彼女に深く関わっていく登場人物を紹介します。
本作の主人公で、かつて魔王を倒した勇者一行の魔法使い。エルフのため長寿で、ヒンメルたちよりもはるかに年上です。人間に対してあまり関心を持っていませんでしたが、10年間ともに旅をしたヒンメルやハイターの死をきっかけに、人間のことをもっと知りたいと思うように。ハイターが引き取ったフェルンと旅を始めます。
勇者一行の勇者。仲間想いの人格者ですが、ナルシストで自分のことをイケメンだと思っています(実際本当にイケメンではある)。フリーレンと再会後、寿命で死去。彼の死はフリーレンにとって大きな影響を与えました。
勇者一行の僧侶。お酒が大好きで、旅をしていた頃は二日酔いになっては仲間に迷惑をかけ、フリーレンからは「生臭坊主」と呼ばれていました。ヒンメルの死後は20年以上長生きし、戦災孤児のフェルンを引き取り育てます。
勇者一行の戦士。エルフほどではありませんが、ドワーフのため人間よりは長生きです。年をとっても見た目に大きな変化は見られませんが、肉体的には老化しており、ヒンメルの死後、フリーレンから旅の同行を求められますが断ります。寡黙ではありますが、ヒンメル同様に仲間想いな一面も。
戦災孤児だったところをハイターに引き取られ、ともに過ごします。魔法使いの素質を持っており、ハイターの死後は彼女の弟子となって2人で旅を始めることに。
ヒンメルだけでなく、ハイターも見送ったフリーレン。ヒンメルの死によって、人間と過ごせる時間の短さに気づかされ、人間についてもっと知っていこうと決意。
くわえてハイターの死の前に、先に亡くなったヒンメルとの大切な想い出を受け継ぎます。この時、彼女はハイターが亡くなる前に、ある質問をしています。それは「なぜフェルンを救ったのか」ということ。この質問にハイターは、次のように答えます。
「勇者ヒンメルならそうしました。」
(『葬送のフリーレン』第1巻より)
4人の中で、誰よりも信頼されていたヒンメル。彼は困っている人を決して見捨てない、どんな人の心も引きつけてしまう人物でした。ハイターはともに過ごていく中で、彼から勇気や友情を学び、その意志を無駄にしたくないと強く感じたのです。
その想いは、フリーレンも同じでした。ヒンメルの死は、仲間たちに大きな影響を与えていたのです。
本作で何度も描かれているのが、長寿族エルフと人間の時間感覚のズレ。
たとえば魔王討伐を終え、10年にも及ぶ冒険の日々をしみじみ振り返る仲間たちに対し、「短い間だったけどね」と返したり。50年に一度見られる流星群を眺めながら「じゃあ次。50年後。もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」と簡単に約束したり。
パーティを解散後、ヒンメルにこれからどうするのか聞かれた時も、100年ほど魔法収集の旅に出るとさらっと答えたり……。
ヒンメルたちとは、明らかに違う時間感覚を持っていることが伺えます。
物語の中で彼女が何年生きているのかは明かされていませんが、おそらく1000年近くは生きているのではないでしょうか。彼女にとって10年や50年、100年は、気にも留めない些細な年月なのです。
しかし、その感覚のズレが切なくも感じます。なぜなら、長寿である彼女はいずれ、仲間たちの死を見送ることになるから。そうなった時、彼女は彼らの死を、どのように感じるのでしょうか。
パーティを解散後、50年ぶりに再会したフリーレンたちは、「流星群をもう一度見る」という約束を果たします。しかしその後、ヒンメルは死去。彼の葬儀に参加したフリーレンはそこで初めて、彼の存在の大きさに気づかされ、涙を流します。
「…人間の寿命は短いってわかっていたのに…
…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」
(『葬送のフリーレン』第1巻より)
人間はエルフである自分に比べて寿命が短く、一緒にいられる時間にも限りがある……。そんな簡単なことに気づいていたのにも関わらず、なぜ自分は何もしなかったのだろうか、と後悔するのです。
いつも無表情で、顔に感情が現れることがなかったフリーレンが、初めて感情をあらわにしたシーン。その表情に胸がギュッと締め付けられました。
そして、大切な仲間の死を経験した彼女は、再び旅に出ます。今度は、人間についてもっと知っていく旅です。この時から、彼女の表情にも変化が現れます。相変わらず言葉にトゲはあるものの、柔らかく優しい表情を浮かべるようになるのです。
エルフと人間の寿命をテーマにしている本作は、物語が何十年単位で進行していきます。その何十年という長い年月を、セリフなしの絵のみで表現する独特の演出が見所の1つ。
登場人物たちの会話はゼロ、表情や動きのみで旅の様子や日常を描いています。セリフがなくても、充分にその様子が伝わってきます。漫画という表現方法だからこその手法だといえるでしょう。
ヒンメルたちと別れて1人魔法収集の旅に出たフリーレンの様子も、ハイターとフェルンと過ごした穏やかで優しい時間も、本作では絵のみ。詳しくは描かれていません。そのほうが物語の流れが掴みやすく、無駄がないのです。まるで大切な仲間との思い出を、宝箱のように一つひとつ丁寧に開けていくような感覚。
細部まで拡大して見たいほど緻密に描き込まれた作品世界は、ゲームの世界をも思わせます。どちらかというと読者の視点というよりも、自分自身もその世界に入っているような感覚を味わえるでしょう。
文字の説明がないことで、読者が彼女たちの会話や感情を想像でき、より作品の世界に入り込みやすくなっています。フリーレンが人間について知っていく長い旅を。没頭して見守ることができる見事な演出です。
10年間、ともに時間を過ごしてきたフリーレンとヒンメルたち。彼らの会話は本当に魔王を倒してきた勇者一行なのだろうか?と思えるほど、穏やかで緩い内容ばかりでした。
そこにストレートパンチのごとく、辛辣な言葉を投げかけるのがフリーレン。50年後に再会したヒンメルたちを見て「老いぼれてる…」「ハゲ」「貫禄が出た」と、なかなか辛辣な言葉を投げかけますが、誰も彼女のことを嫌いになりません。なぜなら、彼らはお互いを心から信頼しているから。
年齢も性格も種族も違う彼らは、旅の始まりからハプニングだらけでした。きっと初めはバラバラなパーティだったことでしょう。それでも最後まで諦めず、最後まで仲間として旅を続けました。
旅の終わりを迎えた時、ヒンメルたちは仲間に向けて感謝の言葉を述べます。苦労もあったし、取るに足らない笑える思い出もありました。それがあったからこそ、彼らは最後まで笑って旅を終えられたのでしょう。
フリーレンもなかなか言葉にしませんが、彼らと過ごした日々がどれだけ貴重なものであったか気づいています。10年という歳月が、バラバラだった彼らを強い絆で結ばせたのです。言葉では言い表せない、フリーレンとヒンメルたちとの強い絆に、胸が熱くなります。
- 著者
- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
- 出版日
ここまでの熱い内容が、1巻の2話までに収められている『葬送のフリーレン』。ここから先、フェルンとともに旅に出たフリーレンの内面がどのように成長していくのか。そして、フリーレンよりも早く年を取るフェルンとの関係性はどうなるのでしょうか?2巻以降も深みのある展開が期待できます。
冒険の終わりから始まるという新たなファンタジー漫画『葬送のフリーレン』を描いたのは、新鋭漫画家の2人。まだ知らないという方も多いと思いますので、原作を担当した山田鐘人と、作画を担当したアベツカサについて紹介します。
まず、原作担当の山田鐘人。2009年に『クラスシフト』で「週刊少年サンデー」のまんがカレッジへの入選が転機となりました。
代表作としては、記憶を失った主人公が、自身の正体を知るために探っていくミステリー『名無しは一体誰でしょう?』。また、ぼっちとなった博士と彼が作ったロボット少女が、人類が滅亡した世界で生きる日常コメディ『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』も発表しています。
悲しさや切なさ、虚しさのある世界で、心が軽くなるような笑いを描くことが多い山田鐘人。『葬送のフリーレン』では、長寿であるがゆえに大切な仲間の死を見送る主人公が、人間について知っていく温かさや優しさが詰まったストーリーが人気を集めています。
- 著者
- 山田 鐘人
- 出版日
次に、作画担当のアベツカサについて。2018年に小学館新人コミック大賞少年部門にて『MEET UP』が佳作を受賞した新人漫画家です。本作が初の連載でした。
佳作を受賞した際には、審査員の青山剛昌や畑健二郎らから絵の上手さを高く評価されました。本作においてもその力が発揮されており、登場人物の表情や風景に冒頭から作品の世界観に惹きこまれる読者が続出しています。
第1巻発売時には自身のTwitterにて、ラフから着色までの工程を撮った動画を公開して話題に。漫画家による貴重な作業風景をぜひご覧ください。
冒険ファンタジーに寿命というテーマを組み込んだシナリオと、仲間たちの死を見送りながら人間について知っていくフリーレンの美しくも切ない旅を描く作画力。新鋭漫画家2人が描く『葬送のフリーレン』の今後に期待が膨らみます。
人間に関心のなかったフリーレンが、かつてともに旅をした仲間たちの死を見送ったことで気づく、人間たちと過ごす時間の尊さ。亡くなっていった仲間たちの意志を継いで、彼女はまた新たな冒険を始めます。寿命が尽き、最期を迎える時、彼女は何を感じるのでしょうか。今後の展開に目が離せません。
- 著者
- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
- 出版日