5分でわかるゲノム編集!原理、遺伝子組み換えとの違い、危険性などを解説!

更新:2020.12.26 作成:2020.11.15

近年、遺伝子に関わるさまざまな研究が進展を続けていますが、なかでもとりわけ注目を集めているのが「ゲノム編集」と呼ばれる技術です。ここでは、その原理や具体的な利用例、危険性などをわかりやすく解説していきます。

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ゲノム編集とは。遺伝子組み換えとの違いも含めて概要を簡単に解説

対象となる遺伝子の塩基配列を意図的に変化させる技術を「ゲノム編集(genome editing)」といいます。塩基配列とは、DNAの中にある遺伝情報の発現を決める要素のこと。つまり塩基配列の並び方が、その生物がもつさまざまな性質を規定しているのです。

何らかの要因でDNAが切断されると、そのDNAは元通りに復元することを試みます。その過程で塩基配列の並び方が変化すると「突然変異」が生じ、その生物のもつ性質が変化します。ゲノム編集は、DNAの特定部分を意図的に切断し、突然変異を起こして遺伝子を改変する技術なのです。

よく似たものとして「遺伝子組み換え」がありますが、これは外部から新たな遺伝子を挿入し、生物の性質を変化させる技術。突然変異を意図的に起こしてその生物がもともともっていた性質を変化させるゲノム編集とは、アプローチ方法が異なります。また遺伝子組み換えは自然界で起こりえない変化を生じさせているのですが、ゲノム編集はあくまで突然変異を操作しているだけで、根本的には自然界で生じる変化と同一である点が大きな違いだといえるでしょう。

ただ両者の明確な区分はあいまいで、国や地域によってはゲノム編集を遺伝子組み換えの一種とみなす場合もあるようです。

ゲノム編集の原理をわかりやすく解説

内閣府が実施している「戦略的イノベーション創造プログラム」のうち、「バイオテクノロジーに関する国民理解の増進と技術動向等の調査研究」を推進しているメンバーが作成・運営しているWEBサイト「バイオステーション」をもとに、ゲノム編集の原理を解説していきます。

品種改良で使われる一般的なゲノム編集技術のポイントは、生物が持つゲノムの中の特定の塩基配列(DNA配列)を「狙って切断する」ことです。(中略)

ゲノム編集を行うためには、ゲノム中の特定の場所を切るハサミの役目をするものが必要です。そのために開発されたのが「人工ヌクレアーゼ」というDNA切断酵素です。ZFNやTALEN、CRISPR/Cas9などがありますが、いずれも、DNAの4種類の塩基(A、T、G、C)の並び方を目印にして結合し、そこで塩基配列を切断するということは共通しています。

さらに、最近では、DNAを「切らずに書き換える」ゲノム編集技術も開発され、利用が進みつつあります。例えば、ハサミの働きを弱めたDNA切断酵素と塩基置換用の酵素を組み合わせて、DNAを切らずにピンポイントにゲノムの1塩基を別の塩基に変換することができます(塩基編集)。「狙って切断する」場合には、一般的に遺伝子の働きを止めることになりますが、「切らずに書き換える」方法では遺伝子の働きを変えることもできるようになります。

ゲノムの中にある塩基配列の特定の場所を「狙って切る」ことで、どこに突然変異を起こさせるかをあらかじめ決めることができるのが特徴。そして、いわばハサミの役割をするのが「人工ヌクレアーゼ」という酵素なのです。

ゲノム編集はどんなものに用いられてる?農作物や医療など具体例を紹介

たとえば農業の分野では、品種改良をよりスピーディに、そして省力化しておこなうためにゲノム編集が活用されています。

そもそも従来からおこなわれてきた品種改良も、異なる品種を交配させたり生育環境を操作したりすることで突然変異を誘発させ、新たな品種を作り出してきました。ただ、有用な新しい品種を生み出すのには膨大な時間と資金が必要。突然変異によってどのような変化が生じるかわからないため、商品として実用化されるには一般的に十数年の年月がかかるといわれています。

一方でゲノム編集は、塩基配列のどの部分を切断するか決めることができるので、有用な突然変異が発現する確率が高くなり、品種改良にかかる時間やコストを削減することが可能になりました。

またゲノム編集は、医療の分野でも新たな治療法や新薬の開発に役立てられています。たとえばエイズは、リンパ球のT細胞にエイズウイルスが付着することで免疫が低下してしまうもの。エイズウイルスはT細胞と結合する際、T細胞だけがもっているタンパク質に結合することが明らかになっています。ゲノム編集でT細胞がタンパク質を作らないように変異させれば、エイズウイルスがT細胞と結合することを防ぐことが可能になるかもしれません。

さらにゲノム編集などを通じて蓄積された遺伝子情報は、病気に関係する遺伝子の特定にも活用できます。これにより新薬の開発時間を短縮することができました。このように遺伝子情報を活用して薬を開発することを「ゲノム創薬」といいます。

そのほかゲノム編集は、感染症対策やバイオ燃料の開発などさまざまな分野に用いられています。

ゲノム編集の危険性。メリットとデメリットを解説

ここまで見てきたように、ゲノム編集は「従来の品種改良よりも、大幅にコストや時間を削減することができる」「遺伝子治療や創薬など先端医療の進展に役立つ」などのメリットのほか、遺伝子組み換えと比較すると自然に反する側面が小さいことなどから、遺伝子を扱う技術のなかでも特に注目が集まっています。

一方で遺伝子に人為的に手を加えていることは確かで、そのことを危惧する声があるのも事実です。

2018年11月、中国でゲノム編集をおこなった双子が誕生したと報道され、世界中で大きな反響を呼びました。人為的にヒトの受精卵を操作し、生まれてくる子どもの性質を決めることは、長期的に見て子孫に悪影響を及ぼす可能性があるだけでなく、性質によってヒトを選別する優生思想をもたらしかねません。このゲノム編集を実行した研究者は、懲役3年罰金300万元の判決を下されています。

これまで「神の領域」とされていた分野を操作できるようになったゲノム編集。この技術とどのように向きあうべきなのか、倫理的な面からも議論が必要でしょう。

幅広い観点から、ゲノム編集のあり方に迫る

著者
["NHK「ゲノム編集」取材班", " "]
出版日

本書は、2015年にNHK「クローズアップ現代」で放送されたゲノム編集の特集を書籍化したもの。その内容から、2017年に「科学ジャーナリスト賞」を受賞しました。

遺伝子を扱う書籍はどうしても専門的な説明が多くなりがちですが、本書は図解を用いたり簡単な言葉で説明することを心がけたりすることで、予備知識が無くても理解できるよう配慮されています。

またゲノム編集の技術的な側面だけでなく、この技術を扱う研究者たちの考えも多く取りあげているのが魅力的。巻末には日本におけるゲノム編集の第一人者である山本卓教授へのインタビューも掲載されていて、ゲノム編集をめぐるさまざまな論点を知ることができるでしょう。

ゲノム編集の第一人者が、今後のゲノム編集のあり方を問う

著者
["ジェニファー・ダウドナ", "サミュエル・スターンバーグ", "櫻井 祐子"]
出版日

作者のひとりジェニファー・ダウドナは、ゲノム編集の世界的権威で、その業績から2020年の「ノーベル化学賞」を受賞した人物です。本書は二部構成となっていて、第一部は作者たちが2012年に発見した「CRISPR-Cas9」という遺伝子改変技術を見出すまでの過程や、この技術が瞬く間に世界中に広まっていった経緯がまとめられています。

第二部では、この技術がさまざまな分野で応用されている様子を紹介する一方で、濫用・悪用されることへの懸念と、これに対する作者の取り組みが紹介されています。

科学がしていることを一般の人たちと共有し、対話を通じてその在り方を考えていく必要性を提言した内容で、ゲノム編集や遺伝子の扱いについて考えさせてくれる一冊です。