『アンデッドアンラック』の設定がすごい!妄想と考察が止まらない理由とは

更新:2021.11.29

今回は、ブログ「水溶性理論」を運営する漫画読みブロガー・カモズコツさんに、「次にくるマンガ大賞2020」を受賞した漫画『アンデッドアンラック』について語っていただきます。 一度でも読めば、妄想と考察が止められない!この物語に隠された、最高の「設定」とは……? 「ホンシェルジュ」編集部の大学生インターン・吉野シンゴのセレクトで、独自のファンを持つ読書ブロガーの方々に書評を寄稿していただきました。

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『アンデッドアンラック』は、なぜこんなにも面白いのか

『アンデッドアンラック』が読切から連載へ!

まずは作品の概要から説明を始めましょう。本作は「次にくるマンガ大賞2020」のコミックス部門1位を受賞した作品。多くの漫画ファンが本作に期待しているのは、紛れもない事実です。アニメ化にもついつい期待してしまう漫画です。

『アンデッドアンラック』は2020年1月より「週刊少年ジャンプ」で連載がスタート。作者は戸塚慶文で、本作が連載デビュー作となっています。

「否定者」と呼ばれる、世界の理(ルール)を否定する能力者たちが、自らの能力や世界そのものと向き合い、戦うというお話。とっても乱暴にくくってしまえば、能力者バトル物の一つです。

「週刊少年ジャンプ」新人作家の能力バトル物と聞くと、「はいはい、よくあるやつね」となる方もいらっしゃるでしょう。気持ちはとてもよくわかります。

ところが『アンデッドアンラック』はかなり読みごたえのある作品になっています。でなきゃ、ここでこんな記事は書いてないですからね。作品の魅力については後述、ということにしましょう。

本作は連載前にほぼ同じタイトル『アンデッド+アンラック』で読切版が掲載されています。これが2019年1月。読切から丸1年で連載デビューという事ですね。この読切版、大枠の展開は連載第1回とほぼ同じですが、それ故に、作者のレベルアップぶりをガッツリ見て取ることができます。

絵が見やすくなっているのは当然のこと、細かいユーモアや、構成もしっかりと進化しています。1年でここまでレベルアップしちゃうのだから、「週刊少年ジャンプ」という荒波の中で、これからさらに成長していくのは間違いないでしょう。

長くなってしまいましたが、本作の何が読者を惹きつけているのか。そのあたりを私なりの視点で語っていきましょう。

著者
戸塚 慶文
出版日
2020-04-03

『アンデッドアンラック』のあらすじ

特異な体質に悩み、自分の人生を終わらせようとした少女・風子。死ぬ直前の彼女の前に現れたのは、不死の体を持つという謎の男。彼らは「否定者」と呼ばれる能力者だったのです。

触れた者に不運を呼ぶ「不運(アンラック)」の否定者・風子と、死ぬことができない「不死(アンデッド)」の否定者の男・アンディ。彼は死ぬために、風子と行動をともにすることを決めたのですが、ある組織からの追手が迫ってきて……!?

『アンデッドアンラック』の抑えておくべき世界観と設定

「否定者」の能力や「ルール」とは?

本作の魅力に触れていく前に、世界観や設定を簡単にさらっておきたいと思います。

まずはお話の中心になる「否定者」について。この世界には「否定者」と「否定者ではない人たち」がいます。幸か不幸か、何らかの理由で選ばれてしまった人が「否定者」という運命を背負う事になります。

誰がどういう理由で「否定者」となるのかは、現段階で明らかにされてはいません。ただおそらく後天的なものではありそうです。はっきりと生まれつきの「否定者」という人物は、今のところ登場していません。

さて、では「否定者」とは何者なのか。彼らの能力とはどういったものか。
 

「否定者」の能力はその名の通り、「世界のルールを否定する」事です。あるいは、「ルールから否定されている」とも言えます。

ここでいうルールとは、当然できる事、当然起こる事、当然持っているものへの否定というわけです。

作中に登場する「不壊(ふえ)」という能力で説明します。たとえばグラスなどの「物」などは、強度は違えど、衝撃があったら壊れますよね。しかし「不壊」の能力で作られた「物」は絶対に壊れません。どれだけ乱暴に扱っても、たとえ上から隕石が降ってきても、キズ一つ付かないのです。「壊れる」という世界の当たり前を否定しているんですね。やだ、便利。

ただこの否定能力、決して便利なものばかりではないです。

たとえば「不可触」という能力。「接触」という当たり前を否定してしまうために、何にも触れないどころか、近くにいるものを問答無用で消し飛ばしてしまいます。

能力の制御ができないと取り返しのつかない事が簡単に起こる、そんな運命を背負わされているのが「否定者」というわけです。

否定者たちは、一体何のために戦うのか

これは否定者の置かれている立場によってさまざまですが、主人公サイドに絞って言うと「否定能力からの解放」です。否定を否定していくわけですね。

あとなんか人類も滅亡しそうなんで、救っていきたい構え。

本作の大事な世界設定として、「神」の存在があります。実際に姿形は出てきていないものの、どうやら確実に存在するものとして描かれています。

この神様がなかなか厄介な奴で、主人公ら否定者たちに「クエスト」なるものを課してきます。

クエストの内容は、否定者を捕獲してこい、とかUMAを倒してこいとかそういう類。UMAというのは、ネッシーとか雪男とかそういうのではなくて、この世界のルールを司っているようなクリーチャーです。ちょっとまだ設定が明らかになっていない部分でもあるので、UMAはとりあえず何かバケモノみたいなものかなと思っていてください。

このクエストはどれもこれも一筋縄ではいかなそうなものばかりな上に、敵サイドの否定者が横槍を入れてくる始末。

そしてこれを失敗してしまうと、世界は滅亡に近付くという仕組みです。

主人公たちは否定能力からの解放を目指して、この神なる存在に立ち向かっていくわけですね。その道程として、クエストクリアが必要という設定。

シンプルに「世界を救うお話」という事でも、よいとは思うんです。しかし「世界」とは別に「個人」の幸せを追求するスジがちゃんとある、というのが本作のいいところですね。

個性的なキャラクターから目を離せない!アンディと風子、主人公コンビの魅力を解説!

『アンデッドアンラック』を語る際によく言われているのが、キャラクターの魅力。ここでは主人公2人にしぼって紹介します。

1人目は「不死(アンデッド)」の否定者・アンディ。「不死」の否定者、って言うと二重否定みたいでよくわかんなくなるけど、要は不死身って事です。

見た目は20代の男性だけども、国籍、年齢、生い立ちなど一切不明。読切版では「25歳の体で再生する」って言ってましたね。

本人の異常行動と風子の能力のせいで、ほとんど下半身まるだし君になっています。

そんなだらしなさもありつつ、彼の魅力は何といっても頼れる兄貴分なところ。口癖は「いいね!最高だ!」。これは彼のキャラを非常に端的に表しています。不死身故の長寿から生まれる精神的余裕が、ありありと感じ取れます。

物語の序盤では風子へのセクハラや衝動的な言動など、エキセントリックな面がありましたが、徐々に「兄貴キャラ」へシフトしていっている感じです。パートナーである風子や年少の子などを思いやり守る。頼れる兄貴。顔もどんどんイケメンになってますね。眉毛ないけど!

そしてもう1人の主人公がアンディのパートナー、「不運(アンラック)」の否定者でヒロインの風子。

パッと見普通の女の子だけど、彼女が人に触れると能力が発動し触れた人に不幸が訪れます。最悪死に至ることもあり、能力を自覚してからは美容院にも行けず……。不憫な子です。そんな能力に苦しんでいましたが、アンディとの出会いで自らの生きる道を見つけます。

否定者たちが抱える悲しさ、辛さに強く共感できる彼女はとても優しいヒロイン。そして少年漫画における「戦うヒロイン」としての要素も兼ね備えていますね。

この作品、世界の謎とか神を殺すとかどでかい風呂敷を広げているんですが、何より気になるストーリーラインは「アンディと風子がラブラブになること」なんです。いや、マジで。

風子がどういう過程を経て、アンディとの恋に落ちていくのか。「いや、もうほとんど落ちてるだろ風子チョロすぎ」とおっしゃる有識者もいますが、その辺は飲み込んで!2人のラブコメぶりもこの作品の魅力になっておりますよ、と。

そんな主人公2人がとにかく最高なんですけど、脇を固める面々も負けず劣らず良キャラ揃いなんです。

魅力的なキャラクターを惜しげもなくガンガン登場させてくるのは、『鬼滅の刃』を彷彿とさせます。上手いやり方だなと思いますけど、これ実際にやり遂げるのは相当至難なはず。主人公がキチンと魅力的だと受け入れられてないと、絶対不可能だと思うんですよ。

そういう観点からも、この漫画のレベルの高さがうかがい知れるというもの。本当に新人なのかこの作者。天才では?

著者
戸塚 慶文
出版日
2020-04-03

『アンデッドアンラック』は「不死身」の能力を活かしたバトルが面白い!

加えて肝心のバトル描写ですが、これも相当評価が高いです。否定者の能力解釈や推理、考察ポイントがたくさんある本作。『ジョジョの奇妙な冒険』や『HUNTER×HUNTER』が好きな人はとくに楽しめるようになっていると思います。

主人公が不死身という設定で、戦闘ではこのギミックがこれでもかと使われまくるんですが、実はこれが結構難しい。不死身ギミックってネタとしてかなり擦られちゃってるんですよ。直近では『亜人』がありますしね。

そこで本作が上手いこと工夫したのは、アンディの「不死」という能力に、風子の「不運」という能力をコンボさせている点。これは発明。巧み。

たとえば、こんなシーンがありました。

風子に触れられたアンディが敵の動きを止め、風子はアンディに対して「隕石を落とす」という特大の「不運」を発動させます。その隕石は、アンディの周囲もろとも木っ端微塵にしてしまうほどの最強クラスの破壊力。

しかしアンディだけは「不死」なので、当時の風子の不運なら彼だけがノーダメージで生還することができたのです。

このように「不運」という作中最強クラスの攻撃力を、「不死」という絶対無敵防御を媒介にして相手にぶつけるという戦い方は、見た目も派手で少年漫画らしくて実によい。おじさんこういうの大好きです。

そして能力の解釈に無理がないところもポイント。論理的に腑に落ちるレベルで能力バトルを展開してくれます。伏線の張り方もめちゃくちゃうまい。気になる方は、ぜひご自分の目で確かめていただきたいです。

著者
戸塚 慶文
出版日

『アンデッドアンラック』の真の魅力は、世界観の「設定」だ!

唐突ですが、『進撃の巨人』にこんなやりとりがありました。

「上手い嘘のつき方を知っとるか?
 時折り事実を交ぜて喋ることじゃ」(『進撃の巨人』28巻より引用)

いやこれなんですよ。『アンデッドアンラック』の世界設定がまさにこれ。という話をします。

本作、舞台は2020年の地球。日本もあるしアメリカもある。風子は日本人だし、中国人の否定者もいる。これは「混ぜこまれた一握りの真実」です。つまり、我々の暮らす現実世界との接触点。

では「嘘」はどこか。否定者と呼ばれるトンデモ能力者か、UMAと呼ばれるバケモノか。近いけど、厳密にはそこじゃないです。

この漫画で描かれる「嘘」は、「創造主=神」の存在、これです。これが全て。

ちょっと噛み砕いて説明していきます。作中世界では神と呼ばれる存在が、理(ルール)を世界に課し続けているという設定です。「理」はもともと地球に存在せず、後から足されたもの。性別や死といったものも「理」に入ります。アンディたちは神が「理」を課すのを阻止するために苦心することに。

ちなみに物語の中では神という存在は出てきていますが、その詳細はほとんどまだ明らかになっていません。まあ、この記事書いてる時点で3巻までしか出てませんし。

やたら展開の早い作品なので、この「創造主=神」周りの設定もどんどん明示されていくと思います。「ジャンプ」本誌では最近、なにやら重要っぽい設定をぽろりしてましたので、コミックス派の人は4巻をお楽しみにです。

それではここでこれまで明らかになっている、すでに世界に課せられちゃった「理」を挙げておきます。こんな感じ。

  • 性別
     
  • 言語
     
  • 人種
     

  •  
  • 病気
     
  • 銀河
     

これらはほんの一部だそうで。

これって、どれも我々にとって当たり前のものですよね。元々この現実の世界に当然あるものたち。

でも『アンデッドアンラック』の世界では、こいつらは後から付け足されたものなんです。「死」がしれっと含まれちゃってて、やべーなって思いますけど。

つまりどういう事かと言うと、『アンデッドアンラック』の世界は、神の力によって徐々に私たちの住む現実世界に近付けられている、という事です。

ついこの間は「銀河」という理が追加されたことによって、夜空にお星さまが生まれました。というわけで、「銀河」が課せられるシーンをちょっと説明。

もともと作中世界では、太陽と月と地球しかない世界だったんです。だから夜空には月しかないし、「曜日」という概念も存在しなかった。ここは本当に天才的で、確かに銀河が追加されるまで星の描写が一切ないんですよ。描写がないどころか「星がない」伏線もきっちり張っている。これは上手すぎるんで、ぜひ本編を読んで確認してほしいです。

話を戻します。

要するに、我々の住む世界と非常によく似た世界を舞台にしていて、その世界の「成り立ち」を設定している恐ろしい作品、という事が言いたかった。

私たちの生きているこの世界って、どうやって始まったのか絶対わからないじゃないですか。

ビッグバンとかあったらしいですけど?見た事ないし?じゃあビッグバンの前って何があったのさ、とか。誰かわかる人いますかって話ですよ。

その辺の、絶対わかるはずのない世界の秘密が、もしかしたら暴かれてしまうかもしれない。『アンデッドアンラック』の世界は、そんな高揚感を抱かせてくれる激熱設定なんですね。

『アンデッドアンラック』の作品世界は、我々の住む現実世界なのかも……?

まだ設定の話がつづきますよ。

いやもう本当に。『アンデッドアンラック』最大の魅力だと思ってます。この世界の設定が。思わず倒置法を使うほど。

前段でちらっと書いてしまったけど、本作の世界は少しずつ現実の世界に近づいてるんです。嘘の世界が、真実になってしまう。

いや、これは決してこの漫画の落ちがそこになる、なんてつまらない事を言いたいのではないです。

言いたいことは全然真逆で、俺たちの住むこの現実にも、もしかしたら『アンデッドアンラック』と同じことが起きてるんじゃないか、なんて。

大丈夫大丈夫。俺ももういい年だし、政治のニュースとか見るし。漫画の世界の話だから、現実じゃない。わかってる。

でも実は、もしかして、と思わせる魅力が、『アンデッドアンラック』にはある。絶対にある。

その魅力の根源は、作中にちりばめられた伏線の上手さやそれをきちんと回収していく安心感、緻密に設定された世界の設定にもあると思う。

特に世界の設定については、前段で取り上げた通り。現実とよく似た、でもどこか違う……という世界を作り上げた点は上手すぎる。

誤解を恐れずに言うと、この世界の作り方は『新世紀エヴァンゲリオン』とか「Fateシリーズ」に結構近いかもしれない。

現実を舞台にしながら、現実とは違う所を作る。そして、現実とは違う理由・原因を明確に設定する、というやり方。世界の仕組み・成り立ちに触れていくところも一緒。

でもそういう世界の作り方だけでは足りない。この錯覚は、小手先だけのテクニックだけで生み出せるものじゃないと思う。

ではこの漫画の何が俺にこんな妄想をさせるのか。答えはコミックス2巻の作者コメントにありました。以下一部抜粋します。

僕はUMAとか陰謀論とか宇宙の謎っていう「そんなの現実にあるわけないじゃん」と鼻で笑われちゃうような不確かなものが大好きです。
この『アンデッドアンラック』はその「不確か」が本当にある世界です。
(僕達の世界にもあると思ってますけど)

(『アンデッドアンラック』2巻より引用)

このコメント、最高に熱かったのが、最後の()内の文「僕達の世界にもあると思ってますけど」。これに尽きる。これが錯覚を生み出す最強の原動力なんだと思う。

作者が信じて作っちゃってるんですよ。『アンデッドアンラック』は、戸塚先生による「世界創世の秘密を暴く論文」だったんだ。これ漫画じゃなかったわ。

というわけで、俺もずっと信じることにします。今日も世界のどこかでアンディが下半身丸出しになってるんだって。

著者
戸塚 慶文
出版日

『アンデッドアンラック』に詰め込まれた「不確か」なものへの憧れ

さて『アンデッドアンラック』の魅力は伝わったでしょうか。こんな風に漫画のことを感じちゃってもいいじゃんね、というスタイルでお届けしました。

最後に、この作品に触れて考えた事をちょっとだけ。

クリエイターのやりたい事(独自性)と受け入れてもらう作戦(大衆性)のバランス取りって、めちゃくちゃ大事かつ大変だよな、という事。

「不確か」なものへの憧れ。ここから生まれる数々の設定・キャラクター・物語等々が戸塚先生の独自性なんだけど、これを「週間少年ジャンプ」で全て描き切るには相当のチューニングが必要になってくるはず。その難しさは、読切版を読んでもわかるし、残念ながら成し遂げられず消えていった数多の打ち切り作品からも伝わってくる。

やりたい事をきちんと受け取ってもらうのは、難しいですよ。

だからといって大衆性に振りすぎると、記憶に残らない作品になるかもしれない。本当に厳しい世界。

いまのところ『アンデッドアンラック』は、とても素晴らしいレベルでこのバランスを取っていると思います。「いまのところ」なんてもんじゃないな。何度も言うけど、作者の上達の速度は尋常じゃないので、作品はどんどん面白くなってるし、やりたい事は1㎜もずれてない。

これからも妄想と考察がはかどる物語を紡いでいってくれると思います。新人作家なのに、安心して見ていられる。

作者・戸塚が大好きだ!というところで今回はここまで。ありがとうございました。

著者
戸塚 慶文
出版日
2020-04-03

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