父親が「これは、泣くで」と手渡して来た、猫と人間の絆を描いたロードノベル

更新:2021.11.23

9月は地元茨城で上演される舞台に出演するため、約1カ月間実家で過ごしました。久しぶりに実家で過ごす日々は、それはもう! 最高に快適! 帰ったらご飯出来てるし、お風呂沸いてるし、なんてたってうちにはモッフモフの家族がいるんですもの!

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私が中学生の時に、猫を飼い始めました。母の知り合いの方が、飼えなくなってしまったので、うちが引き取ることに。まだ手のひらサイズの黒猫の3兄妹でした。うちはそれまで、金魚とか亀、一番な大きな生き物でも懐かしのウーパールーパーしか飼ったことがありませんでした。毛が生えた動物がうちにいるのが初めてで、母親以外その類いの動物との接し方に慣れておらず、「かわいい!」とかよりも、「は、初めまして……。よろしくお願いしますぅ……」みたいな人見知りの空気がしばらく家に流れていたのを覚えています。

引き取って間もない頃

まぁ、でも、戸惑ったのは最初だけ! あっという間にうちの生活は「猫リズム」になりました。今まで猫がいなかったのが嘘みたい! ご飯食べてるときは、猫がどこにいるかみんなで確認する時間が最低でも2回はあるし、新聞は読んでると乗ってきちゃうからほとんど読めないし、ソファに座ったら膝に乗ってくるからトイレ行けなくなっちゃうし!   もう1日中家にいたら「尊い祭り」。寝てても起きてても何しててもかわいい! 尊い!

その後、なんだかんだあって、白猫2匹も引き取り、うちは猫まみれのお家になりました。猫のご機嫌をうかがいまくるうちの家族で「猫大好きデレデレ家族でーす!」とか言って、アメトーーク!に出演したいな!(笑)

そんな猫大好きな私が今回紹介するのは、こちら。

旅猫リポート

著者
有川 浩
出版日
2017-02-15

物語の主人公は、1人の男と1匹の猫。

小生意気な誇り高き野良猫「ナナ」は、ある日交通事故で大怪我をしてしまう。瀕死のナナを助けたのは心優しい「サトル」。事故を機に一緒に暮らし始め、5年程経った頃、サトルはある事情からナナを手離すことになり、ナナの引き取り手を探すため、銀色のワゴンで1人と1匹とで「最後の旅」に出る。旅が進むにつれ明かされるサトルの秘密とは。サトルとナナの強い絆を描いた物語です。

これはぁ……! だいぶ泣きましたね。私が猫好きだからってのももちろんあるんですけど、猫好きじゃなくても結構ぐっと来るんではないでしょうか。

「動物のお涙ちょうだいのやつでしょ?」って思ったそこのあなた。私も最初はそう思っていたので食わず嫌いならぬ、読まず嫌いをして読んでいませんでした。でも、これは違うんです。ただパートナーが猫だっただけ。友人でもあり兄弟なのが猫だっただけ。「絆」や「家族」がテーマの作品なんです。

主人公のサトルには辛い過去があります。私なんかが到底想像もできないような人生を歩いてきたサトルの生い立ちを語るのは、旅で会う懐かしい友人たち。サトル視点で話が進むのではなく、ナナの目線、友人らの目線とが交互に描かれながら物語が進んでいくため、サトル本人の真意は分からない。ただ、それが多くを語らないサトルという人間を描くのにズルいくらい効果的なんです。少し影を感じるほっとけない人柄で面倒見がよく、母性本能がくすぐられるサトルはどことなく、猫に似てるような……。

そうそう、この作品でくすりと笑える、そして猫のご機嫌をうかがいまくる私にとって勉強になる「猫の気持ち」が本当にすごい。有川浩さんの正体は猫なんじゃないかな?と本気で思わせてくるのには脱帽です。

猫って段ボール大好きなんですけど、「え! それ絶対小さいよ!」ってサイズのにも入っていくんですよね。生意気で勝ち気なナナもそんなサイズの箱に入っちゃう時のかわいい描写がこちら。

「この前、アクセサリーが入った空き箱に前足を突っ込んでたわよ」
「そうそう、猫ってそうなんだよね」
サトルが嬉しそうに相槌を打った。
「腕時計が入ってたような小さな箱にも一応は手を入れてみるんだよね」
こればっかりは、本能としか言いようがない。あまねく猫は自分がすっぽり収まるすてきな隙間を常に探し続けているのである。
だから、ぽかりと口を開けている四角い箱を見かけると、本能が見過ごさせてくれないのだ。だって、もしかしてもしかすると、僕が手を入れたら、なにの仕掛けで伸びるかもよ?

んな訳あるかい! かわいいかよ! 人間の言葉は理解してて、めちゃくちゃ賢いのに、本能には逆らえない野良猫出身ナナはどこまでも憎めないんです。

最近気を張りすぎてるなとか、余裕がないなって時に、一度立ち止まって読むのにぴったりの一冊かもしれません。サトルとナナののように、途中で車を停めながらゆっくり歩みを進めていくのも大事な時期があるのかなーって思ったりします。ただ、涙もろい方は電車の中で読むことはあまりお勧めしません(笑)。

父親が「これは、泣くで」と手渡して来たこの作品。父親が泣いてる姿は想像できないけど、泣いたんだなって思うとほっこりしました(笑)。私も最近めっきり涙腺が弱くなってきたので、マスクをしなくてよくなった暁には、電車で読む本は選んだ方が良いかもしれません……。今月もお読みいただきありがとうございました! また来月お会いしましょう!

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