“音”にまつわる4つの話【荒井沙織】

更新:2021.11.28

前回の記事に書いた写真展も無事に閉幕、あっという間に12月がやってきたという印象だ。思い返せば、今年はいつも以上に自分と向き合わされる一年だった。それと同時に、いつも以上に、常に何か “音” を聴きながら生活をするようになったとも思う。音楽に限らず、音は空間を演出し、思考を刺激し、心を動かす力がある。今回は、 “音”についてのエピソードを書いていきます。

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無音はこわい!

私は無音が苦手だ。自分の鼓動の音が聞こえてくるほどに静かだと、ついつい呼吸も慎重になって、息が詰まりそうになるからだ。子どもの頃から、完全な無音で眠りにつくのも好まなかった。キーンとするほどに音の無い環境や、真っ暗な部屋の中では、思考が巡って妙に目が冴えてしまう。大人になってもそれは変わらない。むしろ、頭の中で順番待ちしている項目が増えていて、次々に押し寄せてくるような状態だ。

そんな時、気を紛らわせて助けてくれるのが、“音” なのだ。
音楽を流せば、真空のような空気が震えて、流れができるかのように、途端に呼吸が深くなる。

出張先でホテルに宿泊する時は特にそう感じる。部屋に入ってまず始めにするのが、テレビをつけることだ。そのあとは、できるだけつけたままにして過ごす。そうするようになったきっかけは、社会人になって間もない頃、ロケの前乗りで宿泊した、山の中にある古い宿。窓の外から聞こえる猫の泣き声が恐怖を演出するので、時おり微かに聞こえる建物の軋む音までも気になってきて、落ち着かなくなってしまった。一度気になると、なかなか意識の外に追いやるのは難しい。それで、それ以降は部屋に入ると最初にテレビをつけて、安心感を得ている。

音と文明―音の環境学ことはじめ

2003/10/28
大橋 力
岩波書店

集中のバロメーター

高校入試に向けた勉強をしていた頃、深夜に一人で机に向かっていると、ふと自分の呼吸の音やペンの音を意識してしまう瞬間があった。ちょうど集中が切れたタイミングだったのだが、そうなると、またすぐに集中を取り戻すには時間がかかる。

そこで私は、深夜には、あえて爆音で音楽を聴きながら勉強することにした。なぜ爆音なのかというと、小さい音の場合は、無意識のうちにその音を聞こうとして耳に意識がいってしまうし、聴きやすい音量の場合には、頭に歌詞が入ってきたり、メロディーを追ってしまうからだ。

ヘッドホンをつけて、耳が壊れない程度の大きな音でアルバムを再生する。すると、これが不思議なほどに集中を促してくれたのだ。おすすめなのは、アルバムをループして聴くことだ。ある曲を流していて、ふと気付いた時に「あれ?また同じ曲が始まった?」と思ったら、集中は大成功。1時間以上は、音に意識が向かわないほど集中していたということになる。一度の集中で、アルバムを2周していることもある。当時の私は、毎日この方法で集中を楽しんでいた。大きめの音、おすすめです。ただし、ヘッドホン難聴にはご注意を。

毎日耳トレ! ~1ヵ月で集中脳・記憶脳を鍛える~

2018/11/24
小松 正史
ヤマハミュージックメディア

言葉を引き出すクラシック

何か自分の中から引き出しながら文章を書く時、私はよくクラシック音楽を聴いている。ホンシェルジュや、写真作品につける詩を書く時は、意識的にそうしている。もちろん、何も聴かずに書き進めることもあるが、筆が止まると助けてくれるのがクラシックだ。

音楽の詳しいことは分からないけれど、ひらめきを待っていたり、視点を変えたい時に聴くと、頭の中の資料庫から、自分でも忘れていたようなファイルを持ってきてくれる。最近は日常的に、海外ドラマの「glee」をBGMとして流していることも多いが、やはり言葉を扱ったり何かをつくり出すような、私にとって特別な時間には、クラシック音楽がしっくりくる。

クラシック名曲全史 ビジネスに効く世界の教養

2019/10/3
松田 亜有子
ダイヤモンド社

聞こえるけれど、聞こえない音楽

この度の写真展でも、Island Galleryのオーナーが手がけた音楽が、会場のBGMとして空間を彩ってくれていた。これが、聞こえるけれど聞こえない、絶妙な音の数と音量なのだ。

例えば、会場内を歩いている時は聞こえているけれど、作品を鑑賞して詩を読んでいる間にはすぅっとフェードアウトしてくれているような、そんな感覚だ。会話の間は埋めてくれるけれど、決して言葉の邪魔はしない、そんな距離感でいてくれる。

私が今回出展した中で、ポン、ポン、ポン、と小さなオルゴールのような音が聴こえるイメージで作った作品があるのだが、初日に作品を眺めながら会場内をぐるりと回っていると、それまで意識していなかったBGMが、その作品の前に立った時に、ひときわ耳に届いたように感じたのが不思議だった。自分のイメージしていたものに近い音がしたから、ということもあるかもしれないが、環境音楽の面白さを感じた体験だった。

(撮影: 荒井沙織)

荒井沙織Instagramでは、IslandGallery「二人のさおり展」に出展した全18作品を、1日1点ずつ公開中です。
https://www.instagram.com/araisaori0310
ぜひ詩も併せてお楽しみくださいね。

作品のお問い合わせはIslandGalleryまで。
mail: infomail@islandgallery.jp

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