共感や理解に役立つ『ハリー・ポッター』が偏見を減らす理由

更新:2021.12.14

J.K.ローリングの大人気ファンタジー作品が、被差別集団への偏見を改善するという研究結果があるという。

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『ハリー・ポッター』は被差別集団に対する姿勢の改善を促す

ソーシャル・メディア愛好者なら、最近の政治事象と『ハリー・ポッター』ワールドを比較した書き込みが驚くほど多いことにお気づきだろう。ハリポタ・ファンたちはドナルド・トランプの衝撃的勝利やトランプへの激しい抗議運動を『不死鳥の騎士団』の登場人物や場面に重ね合わせており、なかでもヴォルデモートによる魔法省の占拠とダンブルドア軍への言及が目立つ。

そんなのはただの現実逃避じゃないか、と思われるかもしれないが、それは違う。『ハリー・ポッター』が引用されているのは偶然でも何でもない。J.K.ローリングの人気シリーズは実際、若者たちの中に共感を、そして否定的な態度や偏見と戦う姿勢を育む重要な存在になっている。

著者
J.K.ローリング
出版日

2014年、米心理学会が刊行する学術誌、Journal of Applied Social Psychology で発表(サイエンティフィック・アメリカン誌に転載)された研究でも、『ハリー・ポッター』は被差別集団に対する姿勢の改善を促すとの結果が出ている。物語にそうした力があることは古くから知られており、集団間の接触を、とりわけ読者が同一視する“内集団”と、同一視しない、あるいは脅威と見なす“外集団”との接触を見せることで、情操を育む。

『ハリー・ポッター』では、ハリーが被差別者集団と絶えず接触し、友情を育む姿を通じてそれを実現している。被差別者たちはマグル(非魔法族)と魔法族の混血として描かれており、彼らは“純血”な魔法使いの権威に固執するヴォルデモート卿から“穢れた血”と蔑まれ、迫害を受ける。
 

著者
J.K.ローリング
出版日
1999-12-01

2014年の調査は、イタリアはモデナ・レッジョ・エミリア大学のロリス・ヴェッザーリ率いる研究班が実施したもので、被験者を3つのグループに分け、まずは小学生34人を対象に、移民に対する姿勢を調べるアンケートを行なった。続いて彼らを2つに分け、各グループに『ハリー・ポッター』の抜粋を読み、それについて話し合う場を毎週1回、6週にわたり持たせた。

片方のグループには、ドラコ・マルフォイがハーマイオニーを「穢れた血」と呼ぶ場面など、偏見が出てくる部分を読ませ、もう一方のグループには、ハリーが杖を初めて買う場面など、偏見の出てこない部分を読ませた。

6週間後、被験者の移民に対する感じ方を再び調べた。偏見を扱った部分を読み、ハリー・ポッターに自分を重ねた子どもたちには、“外集団”に対する姿勢の顕著な改善が認められたのに対し、偏見の出てこない部分を読んだ子どもたちには、変化が見られなかった。

続いて実施された調査でも、同様の結果が出た。『ハリー・ポッター』を読んだことで、イタリアの高校生らにはホモセクシャリティに対する姿勢の改善が、イギリスの大学生らには難民に対する姿勢の改善がそれぞれ認められた。

『ハリー・ポッター』は“内集団”または“外集団”との同一化を促す傾向のほうが強いが、2013年のサイエンス誌上発表の研究でも明らかになった、文芸小説が読者の「思いやり」を育む共感や理解に役立っていることは間違いない。

著者
J.K.ローリング
出版日
2000-09-01

映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』シリーズでは、ダンブルドアのセクシャリティが詳しく描かれるとも言われており、『ハリー・ポッター』ワールドがファンたちの中にLGBTコミュニティへのさらなる理解と思いやりを育むことは十二分に予想される。こんな時代だからこそ、それは絶対に必要なことなのだ。

Photo:(C)WENN / Zeta Image
Text:(C)The Independent / Zeta Image
Translation:Takatsugu Arai

著者
J.K.ローリング
出版日
2014-05-08
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