近年はお正月の風習が簡略化され、伝統的な文化を子どもたちに伝えることが難しくなりました。しかしこの時期の過ごし方には先人たちの知恵や願いが込められたものも多く、今の生活にも役立つ情報がたくさんあります。今回は、子どもたちがお正月文化を絵本で体験できるおすすめの作品を紹介します。
「いちがつ ついたち いちねんの はじまりの ひ だから あけましておめでとう」(『あけましておめでとう』より引用)
お正月の朝、お家の門には門松、玄関にはお飾りが飾られています。おせち料理にお豆や蓮根や昆布などが欠かせないのは、それぞれに願いが込められているからです。子どもたちは、お父さんからお年玉をもらって大喜びしています。お正月一番の楽しみですものね。
お正月ならではの遊びを楽しんだり、家族で初詣にでかけたり。ところで、元旦に特別な過ごし方をするのはなぜでしょう?
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
- 1999-10-20
人気絵本作家の中川ひろたかと村上康成のコラボ作品で、1999年に刊行されました。
お正月の定番を紹介した作品です。本文中には、「あけましておめでとう」という新年の挨拶が繰り返し登場し、気分が盛り上がります。床の間のお正月飾りは、掛け軸と鏡餅だけが描かれるなど、一目で分かる無駄の無い絵も魅力です。
お正月に着物を着る家庭が少なくなりました。袂からお年玉を取り出すお父さんの描写なども、子どもたちには新鮮に映ることでしょう。
むかしむかし、年の暮れに神様が動物達にお触れを出しました。
お正月の朝に御殿に来ること、その到着順を一年ごとの大将の順とする、と書かれた内容に、動物たちは大興奮です。張り切り過ぎた猫は、御殿に行く日を忘れるほど。
そして正月の朝、御殿の門が開き……。
- 著者
- ["岩崎 京子", "二俣 英五郎"]
- 出版日
児童文学の大御所である岩崎京子と、絵本や紙芝居を多く手掛ける画家の二俣 英五郎の作品で、1997年に刊行されました。
十二支の民話を底本とし、「だと。」という結びの言葉が、耳に心地良く響きます。十二支には含まれない猫の経緯と顛末も紹介され、十二支について知るには十分な内容です。
独特な味わいを感じさせる絵も、見どころ。動物たちの個性が良く伝わり、子どもたちの理解をサポートしてくれます。
お餅つきの日。杵の中で、お餅が苦々しい顔をのぞかせています。
それもそのはず。お餅は何回も上から叩かれた上に、伸ばされたり切られたりして出来るからです。そして、餡子や納豆を絡められ、ぺろりと人間に食べられてしまいます。なんて悲惨な運命なのでしょう。
ところが、鏡餅だけは待遇が違いました。綺麗に形を整えられ、床の間に堂々と飾られるのです。そんな鏡餅も、いつ食べられてしまうかと気が気ではありません。ついに鏡餅は家を飛び出してしまい……。
- 著者
- 加岳井 広
- 出版日
『だるまさんが』でお馴染みのかがくいひろしの作品で、2005年に刊行されました。
奇想天外で、笑わずにはいられません。とりわけ家を飛び出す鏡餅の姿が、とてもユニーク。タコのようにビローンと伸びた足が走る様子は、一度見たら忘れられないでしょう。
お餅の散々な様子が紹介された後は、鏡餅の脱走へと話は移り、思いがけない展開へ。テンポが良く、読みやすさも抜群です。
最後にお餅が自覚したのは、自分の美味さでした。そのシュールな理由は、ぜひ本書でお楽しみください。
箱田さん一家は、新年の支度に大忙し。そして隣のお部屋に置かれた重箱の中でも、おせちの一家が慌ただしい年の瀬を迎えていました。
重箱の真ん中では、くわいパパや伊達巻ママたちが、炬燵で年越し蕎麦を囲んでいます。大晦日の夜に蕎麦を食べる理由を話すのは、えびばあちゃん。双子の蒲鉾は、感心して聞いています。
年が明けて、おせち一家は、たべもの神社に初詣に出掛け……。
- 著者
- わたなべ あや
- 出版日
食べ物を擬人化した絵本を得意とするわたなべあやの作品で、2008年に刊行されました。
食べてしまうのがもったいないような、可愛らしいお料理の絵が印象的です。一家が出掛けて空になった重箱の様子は、読者を驚かせ、笑いを誘います。
巻末には、おせち料理の名前や由来も紹介され、楽しくその風習を学ぶことができる絵本です。本書を片手に、おせち料理の品々を確認しながら食べても良いですね。家庭でおせち料理を作る習慣が薄れつつありますが、子どもたちが楽しく読む姿を見て、おせち料理にチャレンジしてみようと思う保護者もいることでしょう。
宝船に乗ってやってきたのは、七福神です。
自慢の釣竿で鯛を釣るのは、恵比須様、大黒天様は打ち出の小槌を握り、布袋様は太鼓腹……。
船には米や金銀などが積まれ、出発の準備です。さて、7人揃ってどこに行くのでしょう?
- 著者
- みき つきみ
- 出版日
赤ちゃん絵本からキャラクター制作まで、幅広く活躍した人気イラストレーターの柳原良平と、コピーライターのみきつみきの作品で、2011年に刊行されました。
柳原良平は、子どもの頃から七福神が好きで、自ら本書を企画したそうです。一方のみきつみきは、本書が初めての絵本の仕事でした。みきが提案したという数え歌で進む文は、リズムが良く、節をつけて読んでも楽しめるので、読み聞かせにお薦めです。
二人は『十二支のしんねんかい』でもコンビを組んでおり、合わせて読んでみてはいかがでしょうか。
ねずみの一家のお餅つき。
お父さんが割った薪を、かまどで火を付けるのはおじいさん。もち米の準備は、お母さんとおばあさんがしています。起きてきた子どもたちは、お手伝いをして……。
準備が整ったところで、杵と臼でお餅をつき始めます。
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
14匹のねずみ一家の生活を描いたシリーズ絵本の一冊で、2007年に刊行されました。作者のいわむらかずおは、動物を擬人化した絵本を多く手掛け、栃木県で絵本専門美術館も運営しています。
本書は下準備からのし餅作りまで、伝統的な餅つきの様子を丁寧に紹介しています。杵や臼を見たことが無い子どもも、かまどで火を起こしたことのない大人にも、新鮮で気付きを与えてくれる内容です。
シリーズで一貫しているのは、協力し合う大家族の暮らし。好感が持て、安心して子供に手渡せる作品です。