今やニュースや新聞で経済について取り上げられない日はないでしょう。しかし、それらをただ聞き流しているだけでは本当の教養は身につきません。何事も相対的な関係性によって決まるという経済学的思考は、ビジネスの現場でますます必要になるのです。 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』は、ある経済の動きがどんな意味を持つのかを理解するために役に立ちます。本記事を読んで、経済学的思考を身につけるきっかけになれば嬉しいです。
『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』では、これだけは知っておいてほしい項目が計20個取り上げられています。なんと1項目約30分で読めるボリューム感。つまり10時間で大学4年間の経済学が学べるということになるのです。
「10時間も時間が取れない」「難しいことは省きたい」という人のために、「ココだけ読めばいい」という項目が8つあります。それだけ読んでおけば、最低限の知識を身につけることも可能。また、重要な経済用語などが図解されているので、経済学初心者でも理解しやすいです。
- 著者
- 井堀 利宏
- 出版日
ではここで、本書の肝でもある「経済学とは?」について説明します。
ひと言でいえば、
「さまざまな人や組織(=経済主体、家計、企業、政府など)が市場でモノ(=財、サービス)やお金を交換しあう行動(=経済活動)を、ある仮説をもとにモデル化し、シンプルかつ理論的に説明しようとする学問」です。(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p16より)
つまり、生産や消費、売買といったお金の流れを学ぶ学問なのです。人が常に損得を計算して行動することを前提として考えています。多くの経済活動はその考え方で説明がつくため、本書を読むことで経済に関するニュースの見方が変わってくるでしょう。
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経済学はミクロ経済学とマクロ経済学の2つに分けられます。ミクロ経済学は、家計・企業など、ミクロの経済主体の行動分析をするものです。ここでは、ミクロ経済学の基本についてまとめていきます。
物の値段は需要と供給の相対的な関係で決まります。しかし、ある物の需要量と供給量はあらかじめ決まっているわけではありません。価格の変化も、家計の消費行動に影響を与えます。それらを踏まえた最適な消費決定の条件は、限界メリットと限界コストが一致することです。
限界メリットは、
財をひとつ買うことで得られる満足度を金銭的な大きさに置き直したもの(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p27より)限界コストは、
1単位だけ余計にその財を購入するときにかかる総コストの増加分(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p27より)
つまり限界メリット>限界コストになるよう消費行動をとることが望ましい、ということになります。
家計は財やサービスによって、経済的な満足度を高める消費行動をしています。
その財の消費量の増加分とその財の消費から得られる効用の増加分との比率を限界効用といいます。(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p38より)
財を消費すると満足感が得られますが、追加的に同じものを消費していくと新鮮さが感じられなくなるものです。経済学的にこれを限界効用逓減の法則といいます。つまり限界効用はだんだん減っていくのです。
私たち消費者はそのバランスをうまく取り、効用を最大化していくことが重要となります。
家計に対して、企業の目的は労働者や資本を用いて長期的な利潤を追求することです。これを基準に、企業の行動原理を説明します。
企業には限界生産逓減の法則があります。これは
生産要素を投入すると生産量は増えていくが、生産量が増える割合は次第に少なくなっていくこと(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p49より)
です。企業の生産活動を理論的に式に置き換えグラフにすると、上記の限界生産逓減の法則に沿って生産量が増える割合が減っていくことが分かります。企業の利潤を最大化するために重要なのは、総費用と売上高の差です。この2つの差が一番大きいところで生産すると、企業にとって最も有利になります。
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ミクロ経済学に対して、マクロ経済学は物価・インフレ・国民総生産の決定など国民経済全体の動きに注目する学問です。ここでは、マクロ経済も基本についてまとめていきます。
GDP、経済成長、インフレやデフレなど、普段ニュースなどでよく耳にする消費経済の大きな動きを対象とするマクロ経済。そしてそこには付加価値が生まれます。
付加価値とは、生産学(生産量を金額に直したもの)から中間投入額(簡単にいえば原材料代)を差し引いたもの。(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p122より)
生産活動の過程で生み出されたこの付加価値から、税などを取り除いたものが所得になるのです。資金に余剰が生じた場合は資金運用の貯蓄活動を行い、不足した場合は金融機関からの貸し入れなどを行います。
ニュースなどでもよく聞くGDP。これは国の一定期間の経済活動の良し悪しを示す数値です。新しく生産された財やサービスの付加価値の合計が表されています。
実際に利益となっていても、GDPに含まれないものもあります。以下の2つが例です。
1.土地の値上がりによる儲け
2.家庭内での掃除・洗濯・料理などの労働
生産活動の結果生み出された付加価値ではなかったり、市場で取引されない家庭内労働だったりするものをGDPに含むのはとても難しいです。
逆に市場で取引されていなくてもGDPに含まれるもののあります。
1.政府活動
2.農家などが自家消費したもの
以上の2つは、客観的に計測することが困難であるため、GDPに計上します。
マクロ経済において、家計の消費行動はどのように変化するのか解説します。まず家計は、所得・消費・貯蓄に配分されます。そのうち所得と消費を定式化したものが消費関数です。消費は所得とともに増加します。
貯蓄の側から家計を考えるとすると、将来の不安があげられます。現役世代の消費の一部を抑えて貯蓄に回し、資産を増やすことで、引退後の消費に充てようとします。長い目で見て現在と将来の消費水準を一定にすることが重要です。
企業の投資行動を考えるときは、生産に投入される資本が最適水準にあるかどうかがポイント。資本をどこまで投入し続けるのが良いかを考える必要があります。企業は生産が増えたことにより得られた額が、生産に必要なコストを下回るまで資本を投入し続けたほうが良いです。
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最後に、インフレとデフレについて解説していきます。最初に用語の説明をしておきましょう。
インフレーションは、継続的に一般物価水準が上昇を続ける現象です。反対にデフレーションは一般物価水準が下落を続ける現象です。(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p200より)
一般的にインフレの方が良いと思われがちですが、実はそうではないのです。
インフレこそが良いとされ、日本銀行は2%程度のインフレ率実現を目標としています。しかし、インフレには良いものと悪いものの2種類あるのです。
良いインフレは「ディマンド・ブル・インフレ」といわれます。これは需要量の増加に対して生産量が追いつかないために生じる「良いインフレ」です。対して悪いインフレは「コスト・プッシュ・インフレ」といわれます。これは賃金や原材料費などのコスト上昇率が労働生産性の増加量を上回ることによって起こる「悪いインフレ」です。
また、激しいインフレやデフレも、円滑な経済活動のための望ましい現象とはいえません。一般的には景気が良い時に生じる緩やかなインフレが望ましいのです。
日本経済は、1980年代後半に「バブル経済」、1990年代に入り「バブル崩壊」を経験しました。値上がりした株価や土地は急激に値下がりし、連鎖的にマクロ経済も低迷。不良債権処理が本格化しましたが、それによって金融機関に多額の税金が注ぎ込まれることが社会問題にもなりました。
資産価値の理論値(ファンダメンタルズ)と現実の値との乖離が、バブルです。(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』p208より)
「バブルが続いていれば」と思う人もいるかもしれません。しかし、他人の資産を借り入れた人がその返済を先送りにする状況に似ているため、どこかで必ずバブルは崩壊します。
ここでは、本書の著者であり東京大学名誉教授の井堀利宏氏について紹介していきます。
井堀氏は1952年、岡山県で生まれました。東京大学経済学部卒業後、ジョンズ・ホブキンズ大学博士号を取得。東京大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授を経て、1994年には同大学教授となります。1993年に東京大学経済学部助教授となり、2015年までの22年間、東京大学で教鞭をとりました。
著書には『あなたが払った税金の使われ方』、『図解雑学 マクロ経済学』など、彼の専門である経済学に関するものが数多くあります。
- 著者
- 利宏, 井堀
- 出版日
- 著者
- ["紘輝, 嶋村", "将義, 横山"]
- 出版日
ダイヤモンド・オンラインでは、「井堀利宏・東大名誉教授の社会人向け学び直し講座」として、社会人向けに動画が発信されているため、チェックしてみてください。その際、無料の会員登録が必要となります。経済学の基本的な考え方や重要な概念がわかるトピックです。
「大学4年間の〇〇学が10時間で学べる」シリーズは、累計50万部を突破しました。大人になって「あの分野をもっと勉強しておけばよかった」「この学問についてもっと知りたい」と思った人におすすめです。ここでは、「大学4年間の〇〇学が10時間で学べるシリーズ」から、3冊の関連本を紹介します!
まず最初に紹介するのは、『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』の漫画版です。本を読むのが苦手な人、経済学超初心者の方におすすめです。井堀氏が伝えたい経済学のポイントを、経済学初心者のカツヤマ氏がこれ以上ないくらいに噛み砕いてくれています。
- 著者
- ["井堀 利宏", "カツヤマ ケイコ"]
- 出版日
目次は、『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』と同様。経済学部に通っていなくても、数字に弱くても「こういうことだったのか」と納得感が得られる1冊です!
続いて紹介するのは経営に関する本です。東大生では必須科目である経営学。もちろん10時間で学ぶことができます。著者は経営学者で、東京大学大学院経済学研究科教授の高橋氏。
- 著者
- 高橋 伸夫
- 出版日
経営管理から事業戦略、マーケティング論やイノベーションなど、現代のビジネスマンに必須の経営学に関する知識をわかりやすく解説しています。経営学という考え方が生まれた起源から説き、初心者でもその概念をつかむことができる一冊!現役の学生はもちろん、新入社員、管理職も知っておきたい項目が盛り沢山です。
人生100年時代に突入した今、お金のことについて知らないというのは不安ですよね?でも、「金融って聞くと難しそう」というイメージを持っている人も多いと思います。そんな人におすすめしたいのがこちらの『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』です。
- 著者
- 植田 和男
- 出版日
そもそも金融とは、お金があるところからお金のないところへ流れること。現在のシステムのなかではさまざまな形でお金のやり取りがされていますが、そんなやり取りを説明するのが金融学です。こちらの本では金融の基本からファイナンス理論、国際金融まで網羅しています。
今まで難しいと遠ざけていたお金の話が、よくわかるようになるでしょう!
では最後に、経済学がもっとわかるようになるおすすめYouTubeを紹介します。
1つ目は、アニメでケインズ経済がわかるようになるこちらの動画。何かを学ぶ上で、視覚的に理解するというのはとても重要です。記憶にも残りやすいというメリットがあります。
また、たった4分の動画であるという点にも驚きです。通勤や料理中、寝る前の隙間時間にぜひ視聴してみてください。
2つ目は大人気シリーズ中田敦彦のYouTube大学から。
コロナ後の経済復興についていち早く発信しています。ホワイトボードを用いて、コロナ後の経済のステップについて4つに分けて説明。身近な話題ということもありますが、経済について勉強したことがない人でも理解できる内容にまとめられています。
こちらは①コロナ後の経済復興の動画です。気になる人は②も視聴してみてください!
コロナウイルスによる経済打撃等で、これまで以上に経済について関心を持つ人は増えたと思います。経済学を体系的に理解していくには、まず用語や概念を点で理解していき、線で繋いでいくイメージを持つと良いです。その第一ステップとして、『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』がおすすめ!
ぜひ本書を手にとって、社会人であっても経済学を学ぶきっかけとなってくれたら嬉しいです。