事実が淡々と書かれた文章を正確に読み取れる、すなわち読解力がある子どもたちはどのくらいいるでしょうか?単純な計算ドリルはできても、文章問題はできないという子どもは多いはずです。ではAIが苦手とする「読解力」を身につけるにはどうしたらいいのか?本記事では『AIに負けない子どもを育てる』の内容まとめに加え、前作『AI vs 教科書が読めない子どもたち』についても詳しく紹介します!
『AIに負けない子どもを育てる』は、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の続編として2019年に発行されました。本書は体験版のリーディングスキルテスト付きで、その結果を踏まえた読解力アップの実践方法について書かれています。親、学校、個人がそれぞれできることを提言しているため、参考にしやすいです。また、小・中学校で実際に行われて成果をあげている取組みが紹介されているのもポイント!
- 著者
- 紀子, 新井
- 出版日
タイトルを見ると子どもを対象としているようにも見えますが、実は読解力がなくて損をしている大人もたくさんいるといいます。読解力がなければ円滑に仕事ができないはずの大人でも、実は読めていないという事実がリーディングスキルテストで明らかになりました。
「文章が読める」というのは、ただ「文字が読める」ということではありません。文字そのものを読む力でなく、「文章の意味を理解する力」が読解力です。なんとなく読めていると感じている人は「キーワードだけで文章の意味を理解している」、つまりAI読みをしていると著者の新井氏はいいます。
このAI読みで文章を読んでいる気になっているのが本当に怖いところ。「AI読みをしている人は、絶対にAI人材になれない」と新井氏も言っていますが、AIに負けないためにはまずこのAI読みから脱却する必要がありそうです。
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ここからは早速詳しい内容について解説していきます。まずは気になるリーディングスキルテストについてです。
リーディングスキルテストは6分野7項目から構成されています。あくまで読解力のみを測ることができる、計70点満点のテストです。
①係り受け解析・・・・・・文の基本構造(主語・述語・目的語など)把握する力
②照応解決・・・・・・指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力
③同義文判定・・・・・・2文の意味が同一であるかどうかを正しく判断する力
④推論・・・・・・小学校6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力
⑤イメージ同定・・・・・・文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する力
⑥具体例同定・・・・・・言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する力
具体例同定は、辞書由来の問題群(具体例同定(辞書))と理数系の教科書由来の問題群(具体例同定(理数))の2項目に分類されます。(『AIに負けない子どもを育てる』p82より)
本書に収録されている体験版リーディングスキルテストは、7項目から各4問ずつ出題。ぜひお試しでやってみてください。もっと正確な能力値を知りたいという方は、「教育のための科学研究所」のサイトを通じて、有償版のリーディングスキルテストに申し込むことをおすすめします。
これまで、11万人が受験したという有償版リーディングスキルテスト。著者の新井氏は、その結果を眺めているうちにいくつかの特徴的タイプに分類されることに気づいたといいます。ここでは、代表的なタイプについて3つ紹介します。
1つ目は「前高後低型」。係り受け解析・照応解決・同義文判定6点以上、推論・イメージ同定・具体例同定の2つ以上が3点以下の層です。
活字を読むのは嫌いじゃないし、知的好奇心はある。でも理数やITに対して苦手意識が強いタイプです。ひとつひとつ確実に読むよりも、キーワードを拾ってざっくり理解しようとする傾向があります。このタイプは、MARCHや関関同立などの有名私立大学の学生でも少なからずいるという結果も出ているようです。
推論が苦手なため、それを補おうとすると経験値か空気(同調圧力)かネットの情報に頼ることになります。そうなることで多いのが、
・情報を大量に取り込みながらも新しいことに尻込みしたり、反対するパターン
・ベンチャー企業を立ち上げたり、積極性を無理にアピールするためにやたらと提案したりすることで自滅するか部下や同僚を疲弊させるパターン(『AIに負けない子どもを育てる』p99〜100より)
情報量が多く、論理力不足であることが招く結果です。
次に多いのが「全分野そこそこ型」。ほぼ全て6点をとることができたのに、なかなか10点をとれなかった層です。
真面目で優秀で、それなりに論理的なタイプ。自分で勉強もできるため、地元の国立大や都市圏の有名私大へ合格する人も多いです。組織の中でも頼られる存在であるからこそ、板挟みにあい、忙しいことも少なくないでしょう。
ほぼ全ての分野で10点をとれる読解力があれば、そんな状況から抜け出し、さらに優良な企業に勤めることも可能です。基本的に自力で能力を伸ばすことができる人のため、読解力をさらに磨くことで、人生のリスクヘッジの準備をしてみてください。
最後に紹介するのは「前低型」。ほぼ全ての分野で3点以下だった層です。
テレビや動画でないと頭に入ってこない、という人が多いタイプ。「活字はつまらない、効率が悪い」と感じる傾向があります。5教科まんべんなく点を取ることが難しく、AOや推薦で大学に行くという人も少なくないです。
しかし、リーディングスキルテストは天性的なものではありません。子どもはもちろん、30代後半でもあげることができます。どうにかしたいと本気で思えば、半年くらいで改善できる余地はあります。
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リーディングスキルテストで垣間見えた読解力。思ったより点数が取れなかった人、そこそこ取れた人、様々でしょう。ではその読解力(リーディングスキル)はあげることができるのでしょうか?ここではリーディングスキルテストの注意点を踏まえながら、読解力はあげられるのか解説していきます。
結論からいうと、読解力はあげることができます。子どもはもちろん、社会人になった大人もです。しかし、「なぜ読解力をあげたいのか」という目的の方が重要。残念ながら読解力をあげたい全ての人に適用できて、誰もがすぐ実践できるような処方箋はありません。
多くの人手っ取り早い方法を求めたために、本書で紹介したリーディングスキルテストの問題をドリルとして毎日やらせる自治体や学校が増えました。リーディングスキルテストは、100点を目指して行うものではなく、いくつかの指標を元に読解力を測るツールでしかありません。まずはそこを理解しましょう。
本書にあった調査を元に、新井氏が実際に行った読解力をあげるための学習アドバイスを紹介します。
・小学校を卒業するまでに板書をリアルタイムで写せるようにする。
・小学校のうちに穴埋めプリントを卒業する。
・中学校ではプリントを使わないことを目標にする。
(『AIに負けない子どもを育てる』p191より)
効率よく数式や漢字、キーワードを覚えさせるための穴埋めドリルやプリント。それを多用するのではなく、自分の力加減や気分をコントロールしながら作業に集中する力を身につけることが重要です。一見単純作業にも見える、「板書をリアルタイムで写すこと」はそれが目的になっています。
しかし、文の意味を理解しなければ板書をリアルタイムで写すことは難しいでしょう。効率が重視された穴埋めドリルによって、生徒が文章の意味を考える機会を奪うことになると新井氏はいいます。「小学校を卒業するまでに板書をリアルタイムで写せるようにする」と考える根拠はそこにあるのです。
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内容解説最後の章では、子どもの読解力を上げるために必要なことについて3つ、抜粋して紹介します。
1つ目は「文章を理解する癖をつける」こと。前の章でも少しだけ触れましたが、詳しく解説していきます。
黒板に先生が書いていることを板書する時、「文章の意味を理解して書く」のと「文字だけ見てそれをただ写している」とでは大きな差が生まれていることは知っていますか?後者では明らかに板書する際に黒板を見る回数が多くなります。授業参観など、自分の子供を見る機会があるときはここに注意してみてみると良いでしょう。
また、新井氏が本書の中で何度も指摘していたのが穴埋めドリルのようなプリントです。穴埋めで高得点を取るには当てはまるキーワードを覚えるだけで良いため、文章の意味を考える機会が奪われてしまいます。つまりAI読みを勧めてしまっているということ。リーディングスキルテストのように、文章全体を理解しなければ解けない問題にしないと、読解力は身につかないのです。
2つ目は「説明させる癖をつける」こと。これはかなり効果的で、すぐ実践できます。
自己採点をする時、消しゴムで消して正解を書くのではなく、赤で修正をしておきます。その後、「何が自分の答えと違ったのか」を論理的に説明をさせるというやり方です。こうすることで読解力は大きく向上。二度と同じ問題は間違わないことにも繋がります。まさに一石二鳥です。
その他、新井氏は
・自分が体験したことを時系列で文字や図にする
・表やグラフを使ってレポートとして表現させる
・興味のあるニュースを200字に要約+感想を200字で書かせる
などといった取り組みも推奨していました。
大人でも実践できるものなので、ぜひやってみてください。
3つ目は「相対に意識を向けさせる」こと。小学校中学年くらいから意識させたいことです。
算数で割り算や分数、理科では月の満ち欠けなどを習う時期。この時、子どもは初めて「相対」という概念と出会います。りんごの1個、2個は乳児でもわかりますよね?しかし、「1ドル100円から1ドル90円になったら円高」という概念は、大人でもわからない人は多いのではないでしょうか。
「1ドル100円の時、90円は何ドル?」という相対的な考え方は、これまで絶対的な価値観の中で生きてきた子供にとってはハードルが高いです。模型や身近な体験などを使って子供が納得しやすい「相対」に意識を向かせてあげることが効果的になります。
本記事で紹介した『AIに負けない子どもを育てる』は30万部の大ヒットとなった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編です。教育関係者や子を持つ親のみならず、ビジネスパーソンからも圧倒的支持を得ています。2019年にはビジネス書大賞を受賞し、テレビ・ラジオ・雑誌等さまざまなメディアで取り上げられました。
- 著者
- 新井 紀子
- 出版日
- 2018-02-02
こちらの本では、大規模な調査の結果わかった驚愕の実態が明かされます。それは、「日本の中高校生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できない」ということです。AIが話題になり、ビジネスにも取り入れられることが増えている今、「人類の未来は明るいぞ」なんて安心してはいられません。AIでもできる仕事は、この先どんどん奪われていくのです。
そんな中、人間には「AIにはできない仕事」ができるようになることが求められます。つまり国語や英語といった、文章の意味を理解することが苦手なAIに対抗する必要があります。しかしそこで、AIと同じように人間も「読解力がない」場合はどうでしょうか?多くの仕事がAIに代替される近い未来、読解力のない人間は失業するという危機に直面するのです。
教育に関する専門家でもある新井氏が導き出した最悪のシナリオと、教育への提言がされた一冊です。
ここではAIや教育に関する関連本を3冊紹介します。気になる人はぜひ読んでみてください!
少子高齢化による人口減少とAIの発達にフォーカス。定年はどこまで延びる?年金はどうなる?5年後、高学歴大量失業社会はやってくる?AI時代のビジネスエリートの条件とは何?様々な疑問に対し、経済アナリストが論理的でかつ説得力ある未来像を提示している本です。
- 著者
- 圭介, 中原
- 出版日
下記の全6章で構成。
第1章 人口減少という静かなる危機
第2章 私たちの社会はどう激変するのか
第3章 破壊的イノベーションは何をもたらすのか
第4章 私たちの仕事はどう激変するのか
第5章 人口減少に打ち勝つ方法はあるのか
第6章 AI社会とどう向き合うべきか
まずAI、人口減少を切り口に世界の見方を解説し、調査やエピソードなどを用いて時代の変化を先読みしています。そして誰もが気になる生活や仕事との関係についても整理!
経済について詳しくなくても、グラフや身近な事例を用いているのでわかりやすくなっています。
これからAI社会になり、職を失うことはないだろうか?文系人材が、AIでキャリアアップするにはどうしたらよいのか?そんな不安や疑問を解消するのがこちらの本です。今後は「AIをどう作るか?」より、「AIをどう使いこなすのか?」のほうが大きな課題になりつつあります。そこで重要になるのが、ビジネスの現場も知っている文系AI人材なのです。
文系AI人材になるために必要な内容を以下の流れで説明しています。
①AI社会で職を失わないために
②文系のためのAIキャリア
③AIのキホンは丸暗記で済ます
④AIの作り方をザックリ理解する
⑤AI企画力を磨く
⑥AI事例をトコトン知る(業種別×活用タイプ別の45事例)
⑦文系AI人材が社会を変える
- 著者
- 竜司, 野口
- 出版日
専門用語は必要最低限にしているため、わかりやすくなっています。また、45にも及ぶ業種別事例が用いられており、自分の仕事への適用・応用を検討しやすいことも魅力です。
興味のある方はこちらの本をチェックして、AIとの共働きスキルを身につけるきっかけにしてみてください。
最後に紹介するのは、即実践できる家庭での教育に関する本です。対象は主に3〜12才の子どもとなっています。
子どもに対する「ほめ方」「叱り方」。この2つの声かけ次第で、親子関係や子どもの育ち方に大きな影響が見られるといいます。特に日本人に多いとされる「自己肯定感」の低い子どもは、「ほめ不足」が原因ではなく、「非効率的なほめ方や叱り方」が原因かもしれないのです。
- 著者
- 島村 華子
- 出版日
まずはほめる。ほめるときのポイントは以下の3つです。
①成果よりもプロセス(努力・姿勢・やり方)をほめる
②もっと具体的にほめる
③もっと質問する
トイレトレーニングからテストの点数が良かった時など、10の事例を用いて解説しています。
次に叱る。叱るときのポイントは以下の4つです。
①叱るときの4つのポイント
②結果ではなく努力やプロセスに目を向ける
③好ましくない行動の理由を説明する
④親の気持ちを正直に伝える
いたずらをした時から門限を破った時など、こちらも10の事例を通して、本質を学ぶことができます。
巻末には気になるQ&Aも収録。子育て世代にはぜひ読んでほしい1冊です!
では最後に、『AIに負けない子どもを育てる』やその関連本についてわかりやすく求められたYouTubeを2つ紹介します。
まず1つ目はこちらの動画。
Twitterで半数が間違えたという以下の問題から始まります。
①誰もが、誰かをねたんでいる
②誰もが、誰かからねたまれている
この文章は同義か、という問題です。
たった5分の動画ですが、問題を用いて実践形式で『AIに負けない子どもを育てる』の内容について知ることが可能。マインドマップを用いているため、視覚的にもわかりやすくなっています。
時間がない人はこちらの動画でサクッと内容を知るもよし、一度本を読んだ後、理解力を高めるために動画を視聴してみても良いでしょう。
2つ目は大人気シリーズ中田敦彦のYouTube大学からピックアップしました。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を題材にした動画です。冒頭では、「AIが進出したことによって、人間の仕事が奪われてしまうのか?」という不安について言及しています。
まず、AIについて正しく理解するためにシンギュラリティ(技術的特異点)は絶対来ないということを知る必要があります。AIが自分より優れたAIを作れるようにはならない、ということです。これを踏まえて、AIの進出に伴い本当に恐れるべきことについて詳しく解説しています。
1冊の本がわずか30分の動画で理解できる、忙しい方にはぴったりの動画です!
これからは、ビジネスの世界にまで踏み込んできているAIについて正しく理解し、正しく恐れることが必要です。そしてAIが苦手とする読解力を磨き、うまく共存していくことが求められます。ぜひ本記事を読んで『AIに負けない子どもを育てる』を手に取り、AIに負けない子どもを育てるあるいは、自らの読解力を磨くきっかけとなれば嬉しいです。