オーケストラにおいて演奏家を統率し、素晴らしい演奏へ導くのが指揮者の役目です。指揮の技術以外に必要な要素は多く、オーケストラに参加する楽器への深い理解と、譜面を読んで音楽を構築する能力も求められます。独学での習得は難しいため、多くの方が音楽大学の指揮科に進学し、音楽理論を学びながら、演習の経験を積んで一人前の指揮者として実力を身に付けていきます。 本記事では、そんな指揮者の仕事ついて解説します。仕事内容、進学先、年収なども解説。また、記事の最後には指揮者を目指す人におすすめしたい本の紹介もしていますので、興味のある方はこちらもぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
さまざまな能力を身につけていることが指揮者として大成する条件です。具体的には以下の内容が、指揮者の仕事において大切なこととしてあげられます。
楽器の演奏に秀でている必要はありませんが、個性あふれる演奏家たちとともに演奏会の成功を目指すため、総合的な理解と、周囲を引っ張っていく力が必要です。
指揮者は、楽器演奏者に音の「入り」や「切り」の指示、テンポ・強弱など演奏の指示をしたり、リハーサルで音楽のイメージを演奏者に伝えたりといった役割を担います。
まず指揮する曲が決まり次第、曲の時代背景や作曲者の意図の研究や、他のオーケストラの演奏を聴いて、どのような表現・音にするかを決めます。そして、何度もリハサルを重ね、演奏家それぞれと曲のイメージを統一させることが最も重要なお仕事です。
また、交響楽団などに所属している指揮者は、楽団での演奏の総責任者という要素も強いため、プロデューサーとしての資質のある方が向いています。
専門のピアニストのように卓越した演奏技術は必要ありませんが、さまざまなジャンルの音楽にまつわる知識や能力が必要となるため、演奏者や作曲家から指揮者へ転身する人も少なくありません。
具体的には、以下のような知識を備えている必要があります。
演奏する曲で伝えたいイメージや何を表現しているのかを正確につかむ必要があるため、複数の能力や知識を身につけましょう。
なお、世界的に著名な指揮者のなかには、楽団に所属せずに活動する人も多くいます。音楽会のポスターなどでは指揮者の名前が先頭に表記され、「オーケストラの顔」ともいえる存在です。
指揮者には、オーケストラにおいて指揮者がどんな立場にあるのかを示す称号がいくつか設けられています。厳密なルールはないため、オーケストラによって多少ニュアンスが異なります。
オーケストラのなかで最も大きな権限を持ちます。音楽的な能力が高いだけでなく、オーケストラ全体のバランスを整える視野の広さも求められる立場です。よりよいオーケストラを作り上げるために、役員や人事にも関わります。小澤征爾さんや久石譲さんなど、第一線で活躍する有名な指揮者のほとんどが音楽監督を経験しています。
年間の定期演奏会の1/3を指揮します。オーケストラのプログラミングやソリストの選考などにも携わり、オーケストラの1年間の活動内容や演奏の成否にも関わる重要な人物でもあります。音楽的な能力だけでなく、楽員がついていきたくなるような人格者であることも重要な要素です。
常任指揮者や音楽監督を務め、オーケストラに長年貢献してきた人物に与えられる称号です。ごくまれに、素晴らしい演奏をした方も名誉指揮者の称号を贈られることがあります。
定期演奏会に招かれる指揮者の称号です。客演指揮者になるには楽員と聴衆からの人気が不可欠で、客演指揮者から実力が認められ、常任指揮者や音楽監督になる指揮者もいます。
素晴らしい演奏の回数が多い客演指揮者に対して、オーケストラ側からの感謝の気持ちを込めて贈られる称号です。いつまでも人の心に響くような指揮を続けてくださいという意味も込められています。
オーケストラや楽員にとって永遠の指揮者であるという意味を込められた称号です。オーケストラにおける権限や演奏回数の約束はありませんが、名誉ある称号であることは間違いありません。たとえば、数多くジブリの音楽を生み出してきた指揮者の久石譲さんは、2021年4月から日本センチュリー交響楽団の正指揮者に就任しています。
このような形でオーケストラ側から依頼があり、正指揮者に就くことは珍しくありません。
その名の通り、一人前になる前の指揮者をアシスタント指揮者と呼びます。オーケストラの練習や本番の現場に立ち合い、プロの指揮者の動きや団員とのコミュニケーションなどを実際に目で見て学んでいきます。
指揮者の収入源は、公演の際に発生する指揮報酬となります。
指揮報集は、海外のコンクールでの入賞経験のある若手指揮者で、1回につき約20万円〜30万円程度です。
若手指揮者の場合、年収は400万円から900万円の間となっています。日本にはプロのオーケストラが約30程度しかなく、すでに指揮者が決められていることがほとんどです。そのため、若手からプロのオーケストラで指揮を執ることは難しいといえます。
指揮者としてより多くの収入を得るためには、世界的に認められる以外の道が少ないのです。現に2017-18年のシーズンで最も収入が高かったとされる指揮者は、 シカゴ交響楽団のムーティで、日本円にして約3億9000万円の収入があったと言われています。
所属する団体によっても平均年収は異なります。
活躍するためには、音楽の知識・能力はもちろんのこと、多国籍の演奏者と円滑にコミュニケーションを取れるだけの言語能力が必要です。
日本人の指揮者として世界で活躍する姿をたくさんの人に認知してもらうことができれば、指揮者という職業の価値が上がり、魅力を感じた方から多くの報酬が得られるようになるのではないでしょうか。
指揮者を目指すなら、音楽大学に入学し、そこで指揮者に必要な技術や知識を学ぶのが一般的です。
音楽大学の指揮科に入学すると、オーケストラで使われるさまざまな楽器とその演奏法について勉強します。その他、音楽の歴史や作曲された時代の背景、指揮のテクニック、作曲家の表現したいことなど学ぶべきことは多数あります。楽団をまとめる力も学べるので、指揮科への入学は指揮者を目指すための最も近道です。
音楽大学には指揮について学べるコースが設けられています。
音楽大学の数ある学部、学科、専攻のなかでも、指揮を学ぶコースに所属できるのは少数の方のみ。たとえば、東京藝術大学指揮科の入学定員数は2名と少数であることで有名ですよね。東京音楽大学の指揮専攻も入学定員数は28名と、入学が狭き門であることが分かります。
その理由としては、音楽に関する膨大な知識と技術を指揮者は非常に高いレベルで求められるからです。ピアノを弾けることはもちろん、オーケストラで演奏する楽器ごとのスコアを読み、それぞれどの程度の音量で出すのか、指揮の振り方をどうするのかなど総合的に考えなくてはなりません。
そのため指揮科や指揮専攻に入学するには、約3年ほどの勉強時間が必要だと言われています。
学校を卒業したからといって、そこですぐにプロの指揮者になれるわけではありません。一般的には、下積み経験を経て実力をつけてからオーケストラに所属し、プロデビューという流れが多いです。
すぐにオーケストラに所属できない場合でも、プロの指揮者のもとに弟子入りしたり、管弦楽団や合唱団に所属したりして指揮者としてのスキルを磨けます。磨き上げたスキルを武器にコンクールの入賞を目指し、自分で探したオーケストラや楽団に所属することで多くの公演をこなし、人気の指揮者を目指していきましょう。
- 著者
- ["音楽の友", "レコード芸術"]
- 出版日
本書では、19世紀以降の世界の名門オーケストラの黄金期を築いた名指揮者たちを厳選し、その「技」と「芸術」に着目して紹介しています。
名指揮者たちへのインタビューや、『音楽の友』『レコード芸術』編集だからこそ発表できる強力な音楽評論家の書下ろし原稿、その他、作品論・演奏論について語られています。また、指揮者とは何か、名指揮者の条件とは、指揮者とオーケストラの幸せな関係という点にもフォーカスを当て、指揮者について複数の角度から分析されています。
名指揮者がなぜ名指揮者とまで呼ばれているのか、指揮者についてのイメージや理想を固める手助けとなるでしょう。
- 著者
- ["ジョン・マウチェリ", "松村 哲哉"]
- 出版日
著者はアメリカの指揮者・教育者であるジョン・マウチェリ。グラミー賞など多数の受賞実績を持っています。彼が指揮をアートや職業などあらゆる角度からの検証をおこなったのが本書です。
指揮者の歴史から、指揮者を目指すための勉強法、指揮者を取り巻く様々な関係性など、基本的なところから指揮者についての理解を深められます。著名な音楽家と著者自身のエピソードもふんだんに盛り込まれ、音楽や指揮についての深い解説に触れられます。
音楽ファンから指揮者を志す方まで、楽しみながら指揮者への理解を高められる作品です。
- 著者
- 裕, 佐渡
- 出版日
著者の佐渡裕は指揮者としての正式な教育を受けておらず、音楽界の雑草と自称しているほど。しかし、彼は巨匠レナード・バーンスタインに才能を認められ、後にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など世界中のオーケストラで指揮をすることとなります。
なぜ巨匠に認められたのか。小学生の卒業文集に書いた「大人になったらベルリン・フィルの指揮者になる」という夢を叶えるまでの人生が記されています。
夢を実現させるにいたった行動や、勇気、情熱、つながっていく周囲の人々など、先人の生きてきた道を覗いて、指揮者への夢を叶える指標としてみてはいかがでしょうか。
指揮者は、高い音楽の知識・技術に加えて、言語能力やリーダーシップなどさまざまなスキルが必要となります。音楽学校を卒業してからプロのオーケストラで指揮ができるかというと、日本国内のプロのオーケストラの数から考えると難しいかもしれません。
しかし、培った能力をフル活用し、オーケストラを率いて音楽を表現するということは指揮者にしかできないことです。指揮者としての能力を高めて、世界で認められるようになれば高い収入も得られます。指揮者に魅力を感じ夢見ている方は当記事とあわせて、紹介した本も読んでみてはいかがでしょうか。