音楽好きなら一度は憧れる歌手という職業。俗に言う一般的な職業ではないため、歌手になるにはどんな方法があるのか、なんとなく不透明ですよね。昭和から平成にかけてはオーディションを通過し、デビューが一般的でした。しかし令和の時代においては、SNSがきっかけとなってデビューした方も少なくありません。以前より挑戦しやすい環境です。主流がCDからサブスクリプションに変わったことで収入源も増えています。 本記事では、歌手の種類や、歌手のなり方、作詞作曲のスキルを身につける方法などについて詳細に解説しています。記事の最後には曲作りの勉強に使える書籍もご紹介しています。こちらもぜひ目を通してみてくださいね。
現代は、誰でも歌っているところを簡単にインターネットに流せる。だから誰でも歌手になれる時代、そんな言葉を見聞きしたことがあるでしょうか。誰でも歌手になれるからこそ、プロになりたいのであれば工夫をする必要があります。まずは、自分はどういう歌手になりたいのかを考えてみましょう。
いわゆるシンガーソングライター(SSW)は、シンガー(歌手)とソングライター(作詞作曲)を両方自分でおこなう人です。最近人気のあるソロ歌手では、あいみょんや瑛人が該当します。
作曲ができることにはいくつかのメリットがあります。まず、デビュー前から自分の世界観を作り込んでいくことができます。また、自分で作った曲なら配信や動画アップが制限なく自由にできるのもメリットです。
デビューした後のメリットには印税があります。印税というのは楽曲の売上のうち一定の額を自分の取り分として受け取れる仕組みです。大手のレコード会社では、作曲者・作詞者・歌唱者にそれぞれ印税を配分するのが一般的です。
つまり作詞・作曲ができる方は、そうでない方に比べて受け取れる印税の額が高くなりやすいということになります。
音楽を専門的に勉強したことがない方にとって、作曲はハードルが高く感じるかもしれません。しかし、勉強する方法はある程度確立していますので、時間のあるときに挑戦してみると選択肢が広がりそうです。
作曲はしないものの、提供してもらった曲に歌詞を自分でつける歌手もいます。最近だとLiSAがそのスタイルでヒットを飛ばしています。作詞分の印税が受け取れることに加え、自分の言葉で歌えるので気持ちを込めやすい、伝えたいことを書けるなど、表現者としても達成感を持てます。
ただし、このやり方をするには、レーベル側に歌詞が書ける歌手だと認識してもらう必要があります。ある程度実績があったほうが説得力があるので、やはりデビュー前からオリジナルの曲を持っている方のほうが有利かもしれません。
上記以外の歌手は、プロの作曲家などに楽曲を提供してもらっています。事務所やレコード会社は普段から未発表楽曲をたくさんストックしています。そのなかから、アーティストのブランドイメージを作りこめるものを選んで提供する仕組みです。もちろん、新しく書き下ろしてもらうこともあります。
複数人のグループは歌割りやダンスの都合があることもあり、プロの作曲家から楽曲提供を受けるのが一般的です。また、YOASOBIの有名曲『夜に駆ける』、は当時面識のなかったボーカルに歌ってもらうために書き下ろした曲だという経緯があるためこの形態に近いといえます。
昔は歌手として生活するためにはテレビ出演が欠かせませんでしたが、現代は違ったアプローチも可能です。さまざまな活躍の仕方があるのが、現代の歌手なのです。
TikTokから人気が出た瑛人や、知人に聞かせるために開設したサウンドクラウドがバズを生んだビリー・アイリッシュのように、マスメディアを介さずに有名になる手段が増えています。特に最近は、短い動画としてシェアしたときに人の心を掴めるかが重視されており、メジャーアーティストもそのようなプロモーション方法を積極的に取り入れています。
このようなトレンドは目まぐるしく変わるため、これから世の中に出ていく方は流行のチェックが欠かせないでしょう。そのなかには、あまり好きではないと感じる手法もあるでしょう。
人によってSNSやストリーミングサービスには向き不向き、合う合わないがあります。自分のしっくりくる活躍の場を探してみましょう。
インターネットにアクセスするのはスマートフォンひとつで可能ですが、ライブハウスやコンサートホールなどでライブをするのは少しハードルが高いものです。無名の若手アーティストの多くは、比較的小規模なライブハウスなどが主催するイベントに出演することで経験を積んでいきます。
多くのライブハウスは、チケットノルマという制度を使っています。これは事前に1000円分を20枚などの単価で出演者がチケットを買い取る約束をするもので、出演者がお客さんにチケットを売れると支払わなければならない金額が下がります。
人気が出るまではノルマ分のチケットを捌ききることはなかなかできません。自腹でお金を払う準備が必要になってきます。
一方、ライブ会場である程度の評価がつくと、即戦力のあるアーティストとしてレコード会社が興味を持ってくれる確率が上がります。また、音楽フェスティバル出演が叶えばかなり早い段階で大きなステージに上がるのも不可能ではありません。
2021年4月現在はライブ活動がかなり厳しい状況ですが、今後の活動を考えていく上では検討してみてもよいでしょう。
テレビ番組に出演できるアーティストには大きくわけて2種類の道筋があります。ひとつはデビューしたばかりなど、知名度があまりない状態でレコード会社が売り出すために出演させるものです。計画的なプロモーションには費用がかかるので、これはいわゆる、本命アーティストに限って使われる手法です。
もうひとつは、有名になったためテレビ番組から呼ばれるパターンです。現代ではインターネット経由で人気が出るアーティストが増えたので、こちらのほうが目立つのではないでしょうか。昔はCDを出していないアーティストは出演不可という風潮もあったのですが、それも昨今ではほとんど障壁にならなくなりました。
仮に、大手のレコード会社からデビューできるとして、自分がどちらのパターンになるかはそのときの会社の状況、流行との相性などによっても変わってきます。さまざまなパターンを想定して戦略を練ってみるとよいでしょう。
最後に、どうやったら歌手になれるのかを環境ごとに考えていきましょう。
インターネットを利用して活動を始めるのなら、最初に目標を立てておくことをおすすめします。週に1回動画をアップする、YouTubeチャンネルの収益化を目指す、フォロワーを1万人にするなどがあります。
何をしたら好評だったか、逆にあまり評価されなかったコンテンツは何かを並べて考えていくと自分の方向性が定まってくるでしょう。
ライブでまず気にしたいのは会場選びです。自分の音楽性・方向性と合っている場所を探しましょう。また、ライブ後は録画を見たり、音声を聞いたりして修正点や今後の方向性を考えていきましょう。
ライブをすることを次にどうつなげたいのか(上手になりたい、ライブだけで黒字にしたい、レコード会社の目に留まりたいなど)も常に考えておくとよいでしょう。
レコード会社やマネジメント事務所は、普段からよくオーディションを開催しています。特定のグループに入りたいという希望があるのでなければ、気になったものからどんどん受けてみるのも方法のひとつです。
デビュー後に大ヒットを飛ばした過去を持つ歌手のなかには、オーディションにはなかなか受からずに苦労したという話は珍しくありません。会社との相性だけでなく、そのタイミングでの流行など社会の状況にも大きく左右されるのがエンタメ業界です。
オーディションに受からなくても、こことは縁がなかったんだなと前向きに捉えて活動し続けることをおすすめします。
楽器が弾けるようになりたい、歌がうまくなりたい、作詞・作曲ができるようになりたい。これらを独学で進めると、あるとき行き詰まることがあるでしょう。
そういう方におすすめなのは、音楽の専門学校に通うことです。専門学校に通ったからといって必ずデビューできるわけではありませんが、プロから専門的な教育を受けられるのは、なかなか得られない機会です。学費など金銭面もありますので、未成年者は親ともよく相談して検討してみましょう。
歌手の年収は、認知度の高さと自分でどれだけの業務を担っているかによって変動します。
シンガーソングライターとして、作詞作曲も自分でおこなう場合は、印税収入が得られます。売上の1%が相場と言われており、分かりやすく言うと1000円のCDが1枚売れると歌手には10円が支払われることになります。
最近はCDよりもサブスクリプションサービスで音楽を聴くのが主流です。例として、Apple Musicでの1再生あたりのアーティストへの支払いは0.01円であることがわかっています。
参照:Apple Musicのアーティストへの支払い額は、1再生あたり「0.01円」
サブスクリプションサービスはApple Music以外にも、Spotify、LINE MUSIC、AWAなどその他にもさまざまあります。サブスクサービスによって1再生あたりの支払いは異なるので、複数配信をおこなうことで収入も増えると考えてよいでしょう。
歌手の収入について想像する時に、売れなければ収入はゼロだと考える方は多いかもしれません。しかし、事務所とマネジメント契約をしているアーティストのなかには、事務所から固定給をもらえる場合もあります。
固定給の額は大体20万円〜30万円の間です。あまり売れていない場合、アーティストにとっては生活を送るのに大変助かる制度です。人気が出てきて収入も上がってきた場合には、固定給から完全出来高制に切り替えるよう事務所と交渉する方がほとんどです。
印税、固定給の他に、ライブやライブグッズでの収入源も考えられます。
2021年4月時点では、実際に観客を招いてのコンサートはできないものの、オンラインでのコンサートを開催するアーティストも増えました。ライブチケット、ライブグッズなどの収入の多くは開催のための費用として使われますが、使用されなかった収入は、アーティスト、運営スタッフ、事務所、デザイナーなどさまざまな方に割り振られます。
最後に、令和に活躍する人気歌手・人気アーティストのデビューまでの道のりをご紹介します。
2020年に『香水』が大ヒットした瑛人さん。歌手デビューは2019年で、その際に『香水』をリリースしています。そこから時間をあけて2020年4月に同楽曲がヒットチャート上位にランクインするのですが、きっかけはTikTokの歌ってみた動画だったと言います。
2020年12月にはサブスクリプションサービスでの総再生回数は2億回を突破し、MVの再生は1億4000回を超えています。リリース時期に多くの方に聴かれなくても、時間をおいて楽曲・アーティストが人気なることも今後はあり得ると証明された出来事でした。
2人組みの音楽ユニット・YOASOBIも2020年に一気に認知度が高まったアーティストのひとりです。瑛人さん同様、CDはリリースせず、主にYoutubeとサブスクリプションサービスで楽曲を公開し、人気となりました。
楽曲制作を担当するAyaseさんは、元々ニコニコ動画でボカロPとして活動していた過去があります。ボーカルのIkuraさんは、Youtubeチャンネル『ぷらそにか』を中心に、個人でも音楽活動をしていました。
Youtube上で公開されていたIkuraさんが歌っている動画を見たAyaseさんがIkuraさんに声を掛け、2019年9月に音楽ユニット・YOASOBIが結成されます。大ヒットした楽曲『夜に駆ける』は、同月に公開された1stシングルです。
長く個人で活動していた2人が出会い、お互いのよさを伸ばしながら活動した結果、大人気アーティストとなったよい例です。ひとりでは芽が出なくても、得意分野が違う人間同士でユニットを結成することで、爆発的なヒットを生むことも可能なんですね。
参照:<インタビュー>YOASOBIが語るユニット結成の経緯、音楽と小説を行き来する面白さ
2015年にインディーズでデビューし、音楽業界の第一線で活躍するあいみょんさんは、実は作詞家としてのデビューが先でした。作詞は中学2年生から始めており、楽曲を作り始めたのは高校1年生の頃からです。シンガーソングライターとしては珍しく、路上ライブやライブハウスで活動していた期間はなく、地元の友人がYoutubeにアップしていた音楽番組の映像がきっかけで、デビューが決まっています。
あいみょんの名を広く知らしめるきっかけとなった『貴方解剖純愛歌 〜死ね〜』は初め、タワーレコード限定で販売された楽曲でした。過激な歌詞が注目を浴び、オリコンインディーズウィークリーチャートで10位にランクイン。
正式なメジャーデビューは『生きていたいんだよな』で、2016年11月です。あいみょんさんの活躍の軌跡から分かるのは、デビューから大ヒットまではやはり時間がかかることであり、独自の世界観を前面に出した楽曲はアーティストの武器になるということです。
もちろん時代の流れ、曲としての完成度、センスなども必要です。同じ時代を生きる人々の心に響かせるには、その時代の感性だけでなく、過去に人気となった曲の元となる感性、そして独自の感性を鍛え、育てあげることが欠かせなくなってきます。自分にはどんな強みがあるのか、考えながら楽曲制作・音楽活動をおこなってくださいね。
参照:【インタビュー】問題作「貴方解剖純愛歌~死ね~」でデビューする、あいみょん。「音楽は賛否両論あってこそだと思います」
- 著者
- 四月朔日 義昭
- 出版日
世のなかには、何となく作曲ができるようになってしまう方もいますが、そうでない方も理論を学べばある程度までは曲が作れるようになります。『ゼロからの作曲入門〜プロ直伝のメロディの作り方〜』は、メロディの作り方に焦点を絞り、楽器ができない方でも始められる手法が紹介されています。
歌手デビューの第一歩として、まずは曲を作りたい方は、曲作りに必要な理論から学ぶとよいでしょう。
- 著者
- 井筒 日美
- 出版日
作詞がただの詩と異なる点にはメロディと合わせなくてはならないこと、歌ったときに音と意味が聞き手に届きやすいように作らなくてはならないことなどがあります。また、当然ながら語彙力や想像力も必要です。どこから始めたらよいのかが分からない方も、自分なりにコツコツと書きためられるように練習してみましょう。
曲作りにおいてメロディはもちろん大切ですが、歌詞は自分独自の世界観を作るために必要な要素です。この曲を聴いた人に何を受け取ってもらいたいのか、そのためにはどんな言葉選びが適しているのか、作りながら自分の世界観を固めていきましょう。
- 著者
- ["大串 肇", "北村 崇", "染谷 昌利", "木村 剛大", "古賀 海人", "齋木 弘樹", "角田 綾佳", "木村 剛大", "小関 匡"]
- 出版日
音楽は著作物です。そのため勝手にコピーしたり、録音したものを再配布したりするのは違法です。これらの知識を何となく持ってはいても、原理からきちんと説明するのは難しくないでしょうか。
著作権だけでなく、音楽をやっているとさまざまな契約でもトラブルに見舞われることがあります。上記で解説した印税の割合などもトラブルに発展しやすいものです。本来巻き込まれずにすんだはずの問題が発生しないようにするためには、アーティスト側が知識をつけておくことが重要です。
『著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本』は、さまざまなケースごとに解説がされているので、ぜひ一度目を通してみてください。
身近にいることが少なく、仕事としては想像がしづらい歌手について解説しました。
まずは歌手のなり方ですが、なった後もどのように仕事をしていくのかは人によってさまざまです。判断に迷ったときは、周囲の業界関係者や法律に詳しい方にも相談しながら進めるのが大切です。夢に向かって悔いのない活動ができるよう、まずは自分についてしっかり考えるところから始めてみてください。
どの業界にもいえることですが、音楽業界でも次の世代を担うアーティストを日々探し続けています。ある程度の実力がついたら、曲が完成したらと考える前に、まずは発信し続けることを心掛けましょう。一般の方から見たら芽が出るか分からなくても、業界の方から見れば磨けば光る原石である場合も少なくないのです。遠い夢だと諦めず、一歩ずつ進み続けることが近道なのだと忘れないでくださいね。