アントレプレナーとは起業家のことを指します。日本ではその特性に対する期待からあえてカタカナのこの名称が使われています。今では誰もが起業可能で、そのハードルは低くなっていることもあり、起業家精神を指すアントレプレナーシップという言葉も頻繁に耳にするようになりました。会社に属す人間であれ、起業する人間であれ、全員が経営者目線を持つことが重要だと考えている方も少なくありません。 本記事では、具体的にはどういう起業家のことを指すのか、実際に起業するとしたらどうやってやるのかなどの疑問にお答えします。起業することそのものが目標にならないためにはどうしたらいいのか。参考となる書籍も紹介しています。
まずはアントレプレナーという耳なじみのない単語について紹介します。起業家とあえて呼ばない理由は何でしょうか。
アントレプレナー(entrepreneur)とはフランス語由来の英語で、自分で事業を興す方のことを指します。特に日本では、ベンチャー企業、そのなかでも独自性・創造性のある商売をする企業を興した方のことを指すために使われます。
なぜアントレプレナーが注目されているのでしょうか。理由はいくつかありますが、もっとも大きいのはその創造性や自発性が市場に活気を与え、イノベーションを生むことが期待されているからでしょう。
アメリカにはGAFA(Google、ECサイト、Facebook、Apple)などのビッグテック企業や、ユニコーンと呼ばれる急成長企業があります。それらも、もとを辿ればアントレプレナーが興した事業です。先見性があるひとりの起業家が将来的に生み出す影響の強さが期待されているわけです。
アントレプレナーシップ(entrepreneurship)とは、起業家精神のことを指します。失敗を恐れずに新たな価値を見出し、創造していくマインドを持つ方を、アントレプレナーシップがあると言ったりします。
アントレプレナーシップを掲げているメガベンチャーとして有名なのはリクルートホールディングスです。リクルートは社員皆経営者主義を掲げ、社内で新規事業を創造する制度を構築しています。これにより企業にいながら企業することができ、アントレプレナーシップを養うことができるというわけです。
参照:新規事業支援制度の現場から見えてくる、 スタートアップを成功させるためのヒント
武蔵野大学では「アントレプレナーシップ学部」の開設を2021年に予定しており、ことを成す人を育てることを学部の目的としています。卒業後の進路には、起業(スタートアップ/NPO/NGO)、ビジネス開発・新規事業(スタートアップ/大企業)、地域創生などがあげられ、新設の学部としての今後の動向が気になるところです。
大学の卒業生に起業した人がいる、ゼミの先輩がベンチャーに就職したなど、最近では起業が身近になってきました。自分自身も起業してみたいと思っている方向けに、まずどうやって始めるのかを紹介します。
法人にしなくても起業はできます。最も簡単な方法は税務署に行って「開業届」を出すことです。これだけで事業主になることができます。経理についてよく分からないのであれば、複雑な会計処理を求められない「白色申告事業者」から始めるという方法もあります。
ただし、事業の種類によっては個人事業主のままでは不利かも知れません。「法人としか取引をしない」という決まりのある大企業があるためです。事業のために会社を作るのであれば、まず登記をするための費用や資本金の準備が必要です。
これらの最初期にかかる費用を自分の資金で賄うのは、地道ではあるもののもっとも確実な方法です。ただしひとりで準備できる資金には限りがあるため、多額の投資が必要な事業を始めるのは難しいでしょう。
一方、最近ではスモールステップで事業を始めるための制度やサービスも増えてきています。製造業であればオンデマンドで作成して出荷するサービスや、小ロットで発注できる工場も増えてきています。IT系でもサーバなどの設備をクラウド化することで、自分自身はノートパソコンひとつで製品開発するのも夢ではありません。
スモールステップ起業のよいところは、他の仕事をしながら自分のペースで進められることです。副業が可能な会社であれば、会社員をしながら週末に起業をすることも可能です。一方、他に収入源があると事業に集中しにくい、本業が忙しくてなかなか計画通りに進まないといったデメリットも考えられます。
飲食店などでよくあるパターンが、設備投資に必要な資金を借りての起業です。飲食店であればキッチン、美容室などであれば様々な機器を最初に準備するのにまとまった資金が必要です。また、経営が安定するまでは赤字になることも珍しくないため、補填するための運転資金も借りることができます。
開業のための貸付は政策金融公庫などが行っています。事業計画もしっかり確認されますので、融資を希望する場合はある程度期間に余裕を持って相談に行くとよいでしょう。
国や自治体が新規創業者向けに補助金を出す制度もあります。様々なものがあり、ひとりで調べるだけでは網羅することが難しいかもしれません。創業する自治体に起業支援の部署があれば、そちらに問い合わせてみるのがよいでしょう。
製品開発の段階でそれなりの額の投資と時間が必要で、かつ自己資金では準備が難しい場合におこなわれるのが出資者探しです。会社が発行する株式を買ってもらうことで資本金を増やし、それを使って商品開発をおこないます。経済ニュースで目にする資金調達や出資に関するニュースなどはこのパターンです。
VC(ベンチャーキャピタル)は、さまざまなベンチャー起業に投資をしています。その企業が成功して上場すると、持っている株式の価値が上がるため利益が生まれます。逆に言うと多くのベンチャーキャピタルは「この事業は成長の見込みがあるか」を厳しく見ています。株主になってもらうということは会社の経営権を与えることでもあるので、後悔のないように進めてください。
最後に起業するために覚えておきたい大切なことをまとめます。
起業する人は「起業すること」への憧れを持ちがちです。これはもちろん悪いことではないのですが、実際に起業するときは「起業して何を売るのか」をしっかり考えるようにしてください。自己資金で始めるにしろ、何らかの形で資金調達するにしろ、売るものが定まっていないと資金を使い果たして終わり、ということになってしまい兼ねません。
また、事業で利益が出るまで自分がどうやって生活するのかも考えて起きましょう。法人から役員報酬を払うのであれば、売上ゼロの期間は何カ月間許されるのか。他の仕事をして賄うのであれば、事業とのバランスは大丈夫かどうか。
お金がなくなると視野が狭くなり、普段しないような失敗をしてしまうことがあります。自分の生活は大切にしましょう。
「これは売れるはずだ」と思って取り組んだ製品が売れないということは珍しくありません。マーケティング戦略で何とか頑張って売るという方法もありますが、いったん諦めて別の道を選ぶことも大切です。別の道とは、売るものを変える、分野を変える、事業自体をたたむなど様々あります
。起業するタイミングから「もしうまくいかなかったらどうするのか」「どのくらいの期間で今やっていることの成果を見極めるか」について考えておくとよいでしょう。
- 著者
- ["スティーブン G ブランク", "堤 孝志", "渡邊 哲"]
- 出版日
アントレプレナーという概念を日本に知らしめた、定番のビジネス書です。さまざまなものが溢れる現代において、商品開発は市場開拓と表裏一体です。市場開拓とは「それまでになかったものを欲しいと消費者に思わせること」。起業家だけでなくマーケティングの教科書としてもおすすめです。
大多数のスタートアップは、ニーズにこたえられずに倒産してしまいます。新規事業には、典型的な失敗パターンがあるのです。それらを回避し、大企業へと成長するために必要なマーケティング戦略とはなんでしょうか。
起業するしないに関わらず、社内の新規事業を成長させたいと考えている勤め人にもおすすめできる内容となっています。チェックリストが付録になっているので、読んで終わりではなく次の行動にもつなげることができるでしょう。
- 著者
- ["忽那 憲治", "長谷川 博和", "高橋 徳行", "五十嵐 伸吾", "山田 仁一郎"]
- 出版日
ビジネス書になじみのない方、10代の若者などにもおすすめな、平易な文章で書かれた起業の教科書です。現代で有名なテック企業の事例を読めるので、「あの会社はこうやって今にいたるのか」と知れるのもポイントです。
この本ではまず、AppleやFacebookなどがどうやって生まれたのかを学びます。起業に必要な3要素を知り、機会やリソースのかけ方、チーム作りについて知ることで、起業の最初のステップに進むことができるでしょう。
- 著者
- 佐俣 アンリ
- 出版日
もし大規模な資金調達をしたいと考えているなら、投資家がベンチャー企業をどう見ているのか知るのも大切です。本書は、若手NO.1ベンチャーキャピタリストである佐俣アンリが「どうやって投資先を選んでいるのか」「投資先には何を期待してるのか」を解説。とくに事業規模を大きくし、市場での存在感を持ちたいという野望がある人におすすめです。
起業家に大切なのは、熱量です。その熱量が投資家を動かし、そこから生まれた出資によて企業を大きく成長させるスタートを切ることができます。会社は資金がなければ成長していくことも、継続していくことも難しい。しかし、ただ出資を得るために会社を動かしていくのではなく、出資を得た先で何を社会に還元していくのかが大切だということも忘れてはいけません。
起業家、アントレプレナーについて解説しました。「どうやってなるのか」というよりは「いつの間にかなっていた」という類いの職業ですが、実際に起業するためにはそれなりの準備が大切です。何を売って、どう稼ぐのか、記事で紹介した本にも目を通してじっくり考えてみてください。
また自分だけで起業することに目を向けすぎないことも大事でしょう。企業内での起業を推進している会社に属し、まずはそこでの新規事業開発を最初のステップにするのも検討してみてください。起業するのはそれからでも遅くはありません。