“旅のコンセプト”の違いで入る、宮脇俊三作品おすすめ5選!

更新:2021.12.14

内田百閒、阿川弘之と並び、鉄道文学の御三家に数えられる宮脇俊三。国鉄全線の完乗を成し遂げた筋金入りの鉄道愛好家です。そんな著者には、いっぷう変わった旅を綴った著作が多くあります。今回は、“旅のコンセプト”の違いで入る、宮脇俊三作品おすすめ5選をご紹介します。

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宮脇俊三ってどんな人?

宮脇俊三は、1926年に埼玉県川越市で生まれました。東京大学文学部西洋史学科を卒業後、中央公論社に入社。雑誌『中央公論』の編集者、編集長を務め、北杜夫などを世に送り出します。同社の編集局長、開発室長、常務取締役などの重役を経て、1978年に退社。以後は執筆業に専念し、紀行作家として多くの作品を残しました。

主な著作には、日本ノンフィクション賞を受賞した『時刻表2万キロ』、交通図書賞を受賞した『時刻表昭和史』、泉鏡花賞を受賞した『殺意の風景』など。1977年には、国鉄全線を完乗するという偉業を成し遂げました。1999年には「鉄道紀行を文芸の一ジャンルとした」との理由から菊池寛賞を受賞。2003年に76歳で逝去しました。

宮脇俊三は、内田百閒、阿川弘之と並んで“鉄道文学”の大家に数えられる紀行作家です。

国鉄全線を完全制覇しろ!宮脇俊三の記念すべきデビュー作!

幼少期から時刻表を愛読してきた著者が、国鉄全線の完乗の旅程を綴った著者のデビュー作です。当時の国鉄全線の総営業キロ数は約2万8千キロ。これまで全国の約9割近くの路線を乗車してきた著者が、国鉄の全線完乗を成し遂げるため、各地の未乗車区間を踏破する旅へと出発します。

 

著者
宮脇 俊三
出版日


本書には、国鉄全線の路線図を記した図版が収録されています。全国に張り巡らされた路線図を眺めると、完全制覇がいかに難事業であったか、一目で分かるようになっています。こうした旅を実現するには、能率のいい旅の計画を立て、どの線に乗り継ぎ、どの区間が未踏破なのか、といった旅の整理と記録がかかせません。

第1章の富山県内をめぐる旅では、時刻表の巻末に付いた索引を駆使して、各線の重複区間を選り分け、旅の行程を記録する方法が仔細に明かされています。実際の列車に乗る旅はもちろんのこと、このような繊細で神経質な作業を踏まえなければ全線完乗を成し遂げられなかったのです。宮脇俊三が難事業に挑んだ旅を、ぜひ満喫してください。

最長ルートで全線を電車縦断する、遊び心にあふれた旅の記録

宮脇俊三が、北海道・帯広から鹿児島枕崎までの国鉄路線の最長ルートを、ひと筆書きで辿る全長13319.4キロに及ぶ旅を記録した紀行文です。ルートの総計は、地球の直径に相当する途方もない距離となり、宮脇は時刻表と地図を片手に、34日間にわたる旅の全容を綴ります。

 

著者
宮脇 俊三
出版日


会社勤めから解放された宮脇俊三は、空いた時間を利用して、「制約」と「自由」の要素を損なわない、旅のプランを練ります。ある程度、自由があり、いかに旅の醍醐味を感じる制約のなかで旅を味わえるのか、といった要素を加味して、そのプランを練るのです。そうして著者が立案したのは、北海道・帯広から鹿児島・枕崎まで伸びる国鉄の全線から、最長ルートを導きだし、日本を縦断するという旅程。

旅とはそもそも、時間に縛られるという制約の上ではじめて成り立つものです。「制約があるから日程が必要になる」という著者の言葉を念頭に置けば、制約のない旅は、むしろ張り合いのない味気のないものに成り果てます。ましてそれが、緻密にダイヤの組まれた時刻表を相手にする鉄道旅とあっては、その醍醐味の大半は失われてしまうでしょう。技巧を凝らすいっぷう変わった鉄道紀行を、本書で満喫してください。

“失われた鉄道を求めて”各地を訪ね歩く、歴史ロマンが香る1冊

本書は7つの廃線跡を訪ね歩く紀行文集です。沖縄では、戦前に県中枢部の交通手段として県民に利用された沖縄県営鉄道の跡を訪ね、島根県では、大正15年に現在の出雲市と広島県三次市を繋いでいた大社宮島鉄道の痕跡を探すなど、著者は往時の鉄道の痕跡を求めて各地を訪ね歩きます。

また国内に限らず、アメリカ合衆国の自治領であるサイパン島で、戦前に日本人がサトウキビを搬出するために敷設した砂糖鉄道の跡を探訪するなど、往時の痕跡を求めて、国内外の廃線跡を追う旅へと出るのです。

 

著者
宮脇 俊三
出版日
2011-05-10


鉄道ファンにとっては、現役で走る列車のみが嗜好の対象とはなりません。往時の鉄道を偲びその線路跡を訪ねることも、人々の好奇心を満たす嗜好のひとつなのです。宮脇俊三は、全国のローカル路線が消えてゆく現状を嘆きながら、いまだ路線が咲き乱れていた昭和30年代以前の鉄道跡を訪ねる旅へと出発します。

『失われた鉄道を求めて』というタイトルが表すように、本書から伺えるのは、ノスタルジックと好奇心、冒険心とが織りまぜになった宮脇の心中が、本文から立ちのぼってくるところにあるでしょうか。通常の列車旅とはひと味違った、歴史ロマンあふれる旅を、ぜひ堪能してください。

幼少期と当時の鉄道の記憶が交錯する出色の昭和体験史!

本書は、自身の幼少期と列車との記憶を絡めながら、昭和8年から昭和23年までの出来事を回想してゆく、体験的昭和史ともいえるエッセイ集。宮脇俊三が作中で「古い時刻表を眺めていると、私の記憶を甦らせてくれることが多い。もうろうとした記憶がはっきりしてきて、忘れていたことさえ思い出してくる」と述べる通り、私たちが教科書でしか知らない当時の記憶が回想されていきます。

 

著者
宮脇 俊三
出版日
2015-04-25


たとえば、第1章の「山手線」では、渋谷駅の改札口前で、主人の帰りを待つハチ公を目撃した際の光景を綴り、第4章の「不定期231列車横浜港行」では、2.26事件が起こった早朝、市電が運休し学校まで徒歩で通った出来事が回想されています。また、国民に敗戦が告げられた玉音放送が流れた当日、地方の列車は通常通りに運航していた、といった貴重な証言も記されています。

宮脇俊三の生い立ちと列車とのかかわりを綴る本書は、現在から過去へと移動するタイムトラベル小説のような趣を醸します。本書は個人史としても昭和史としても楽しめる、出色の一冊なのです。

バスに揺られてひなびた地方をまわる、ローカル路線バスの旅

本書は鉄道が通じない国内の僻地を、宮脇俊三がローカルバスで旅をしたバス紀行集です。

著者は旅の基準として、①乗車時間が一時間以上であること。②行先が有名観光地でないこと。③年間を通じて運行される路線に限ること。④著者にとって未知の路線・終点であること、の4つの項目が挙げています。またこの他に、各地の地名に魅了されたり、地図からその土地に興趣を覚えたりといった、上記に記されていない旅の条件も加味されているようです。

 

著者
宮脇 俊三
出版日
2010-12-04


宮脇俊三といえば、鉄道をこよなく愛した作家として世に知られています。しかしながら、鉄道紀行のみを愛したのではありません。国内のひなびた場所へ、バスでの旅も敢行しているのです。著者はローカルバスに魅かれる理由を、「行くほどに客が降りて、終点に着くときは私ひとりということもあり、ローカル鉄道に似通うものであったが、終点の風情は鉄道よりも一段と鄙びていた。心を惹かれた。」と述べています。

近年は、ローカルバスを乗り継ぐ旅番組が頻繁に放映されることもあり、バス旅がブームとなっていますが、文字を追って各地を訪ねることも、映像では感じられない旅情が感じられるのではないでしょうか。国内各地をめぐるバス旅を、本書で味わってください。

以上の5作品をご紹介しました。ひと口に鉄道旅といっても、その内容はさまざまです。国鉄の全路線を完乗すること、失われた鉄道の痕跡を求めて各地を訪ね歩くこと、ローカルバスで各地を旅すること、ひと筆書きのように列車で日本を縦断すること。その紀行文のいずれもが、旅情を感じられる作品ばかりです。上に挙げた作品を参考に、風趣あふれる国内の旅を味わってみてください。

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