今年の夏は、あっという間に過ぎてしまったような気がします。浴衣で花火に夏祭り、海水浴。夏らしいこと、ぼーっとしている間になにも満喫できないまま過ぎていってしまいました……。しかし!落ち込んでいる暇はありません。これからは「読書の秋」。日頃の疲れや日常の悩み事からいったん自分を解放して、美しい情景描写で心を溶かしてくれる女性作家さんの小説3冊を厳選しました。
今回は、本当にわたしの好み全開の3冊なのですこし恥ずかしいですが、どれも柔らかく読みやすい文章で描かれている反面、ただふんわり美しいだけでは終わらないので、どなたにもゾクゾクしていただける作品ばかりではないかと思います。食にスポーツに芸術にと、いろんな分野を楽しみたくなる季節ですが、疲れてしまった時にはふと足を止めて、一緒に読書を楽しみましょう。
掃除機に恋する女性を描く珠玉の短編
私はついつい半身浴しながら本を読んでしまいます。この本も、そうやって読み返すうちにぼろぼろになってしまって新しいものを買い直したくらい大好きな一冊。7人の作家さんによる恋愛小説アンソロジーです。
私が特に好きなのは、蛭田亜紗子さんの『掃除機ラヴ」。掃除機に恋してしまった女性が、さらにその掃除機に似ている女の子を好きになってしまうというとんでもないストーリーです。蛭田さんは人物描写が生々しく、それでいて美しいので、掃除機に恋した女性に恋心を持たれてしまう女の子「薔子」に読者は一人残らず魅了されてしまうと思います。私もその一人です。薔子に憧れて、髪をベリーショートにばっさり切ったのが懐かしい……。
そのほかの物語も、生活臭のない優美さを感じる表現の中にどこかきゅんとする切なさを含んでいます。短編集とは思えない、爽やかな読後感が残る一冊です。
小池真理子が紡ぐ長編サスペンス
小池真理子さんの小説が好き、というだけで、あらすじも知らず手に取った作品。私が小池さんを知ったのは恋愛小説をよく書かれるようになってからだったので忘れがちでしたが、この物語は愛に狂った女性たちのお話。小池さんの本質であるサスペンス小説であるといえるのではないでしょうか。
最後の最後まで上品な文章なのに、まるで実際に見たことを記したかのようなリアルな描写で登場人物たちの心情を抉り出しています。
他にも生々しい表現の物語はあると思いますが、このお話はそんな人間の醜い部分を生々しくも美しく描くという面で突出していると思います。いろいろな感情が混ざり合って起こってしまった悲劇の連鎖と、衝撃の真実。
最後の最後まで何度も胸を突かれるのに、決して重たい気持ちだけが残るわけではない、不思議な物語でした。