マーケティングとは何なのでしょうか?多くの方が「広告・宣伝、集客、販売のための手法やテクニック」をイメージされるかもしれません。たしかに、それもひとつの要素です。しかし、本来は「顧客に価値を生み出して提供する」プロセス全体を指します。それはどういうことなのでしょうか?マーケティングの戦略立案・戦術策定・実行などに一気通貫して取り組むひとりの現役マーケターの視点から、主にマーケティングに関心のある方、今後マーケティングに携われる方を対象に参考にしていただけそうな本を紹介していきたいと思います。
マーケティングとは何なのでしょうか?多くの方が「広告・宣伝、集客、販売のための手法やテクニック」をイメージされるかもしれません。たしかに、それもひとつの要素です。しかし、本来は「顧客に価値を生み出して提供する」プロセス全体を指します。それはどういうことなのでしょうか?マーケティングの戦略立案・戦術策定・実行などに一気通貫して取り組むひとりの現役マーケターの視点から、主にマーケティングに関心のある方、今後マーケティングに携われる方を対象に参考にしていただけそうな本を紹介していきたいと思います。
- 著者
- 平久保 仲人
- 出版日
- 2013-05-29
マーケティングを始めようというと手法やテクニックに走りがちです。ただ、どんなに優れた手法やテクニックがあったとしても、顧客から信用を得ることができなければ製品やサービスを選び続けてもらうことは困難。企業(事業)として成長し続けていくことは難しいのではないでしょうか。よく言われますが、商売は信用第一。
著者はニューヨーク市立大学ブルックリン校で経営学部准教授を務める平久保仲人氏。日本ではボンド大学大学院ビジネススクールでも教鞭をとられています。
企業は顧客との間にある溝を埋め、顔が見える関係を結び、信用されることで新たなチャンスを得られるという平久保氏。そのような関係を築くには当然、手間暇がかかってきます。その積み重ねを通して顧客との約束(組織として提供する価値)を守り続けることで、信用は勝ち得ていくもの。そして、それがブランディングにもつながっていきます。
マーケティングには近道も魔法の杖もありません。ある意味、とても泥臭いものです。マーケティングを“売れる仕組みを作ること”と矮小化して捉えるのではなく、顧客にとっての“価値創造の活動”として捉えることが大切であると平久保氏も指摘しています。つまり、「どうすれば顧客に価値を生み出すことができるのか?(顧客のためになるのか?)」と顧客目線で考えることが必要。そのためには、頭だけでなく自らも足を使って汗をかきながら顧客に向き合っていく地道な活動が不可欠です。
その重要性を、本著では日本国内外の事例を取り上げながら具体的に解説しています。ジョンソン&ジョンソンなど皆様もよくご存じの企業のケースもありますが、個人的にとても興味深かったのが『「善き隣人」という戦略』というパートで紹介されている「でんかのヤマグチ」という町の電気屋さん。地域の家電販売店は大型店やオンラインショップに押され、多くがなくなってしまうという苦境に立たされていますが、その環境下でも十四期連続で黒字を達成しているとのこと(本著が出版された当時)。それはなぜでしょうか?
マーケティングを考える上で有益な事例もたくさん紹介されているので、ぜひご覧になってみてください。「信用」とはいったい何なのか?一度、原点に立ち返ってみることで新たな気付きがあるかもしれません。
- 著者
- グロービス経営大学院
- 出版日
- 2009-08-28
「守破離」という言葉がありますが、まずは「型」を覚えるのは大切なこと。マーケティングのプロセスにも基本的な「型」がやはりあります。
それを網羅してザクッと全体像を掴む上で役立つのが、グロービス経営大学院が出版する本著。マーケティングがなぜ今の時代に求められているのかという背景から始まり、マーケティング戦略策定のプロセス(環境分析、マーケティング課題の特定、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、マーケティング・ミックス、実行計画の策定など)や最近の傾向まで、基本として知っておいた方がよいことをザッと理解することができる入門的な内容になっています。組織の中でのマーケティングの位置づけ・役割といった基本スタンス、マーケティングの話をする上で頻出のフレームワークや用語なども一通りおさえることができるのが利点です。
読み進めていく中で、さらに理解を深めたい点、よくわからない点が出てきたらその分野にテーマを絞った別の書籍を読むとより理解が深まります。全体像をつかみながら部分をおさえていく。部分最適に陥らないために必要なことでもあります。それを繰り返していきながら同時に実践を。インプットしたことは繰り返しアウトプットしないとやはり身に付かないですし、使いこなせるようにはなりません。まずは実践あるのみです!
もっとガッツリ、マーケティング全体について学ばれたい方のために、後日よりつっこんだ内容の書籍もご紹介できればと思います。テーマ別の本もご紹介しますので、よろしければご覧ください。
- 著者
- 河瀬 誠
- 出版日
- 2003-07-10
フレームワークや分析手法はとても便利なツール。事実の把握や情報整理をするために効果的で、複雑に絡み合う現象を理解しやすくしたり、関係者で共通認識をもったりするためなど、様々なシーンで威力を発揮します。
ただ、その際に陥ってしまうことが多いのが、情報を整理したり、分析して結果を出したりすることだけで満足してしまうこと。本来の目的である「仮説を構築・検証し、成果を上げるための行動につなげる」というアウトプットに至らずに終わることが意外と多くあります。手段の目的化です。
そうならないために、どのような視点で物事を考えればいいのか「思考法」がとても大切になってきます。
それをとてもわかりやすく紐解いているのが本著。著者は、経営者や中堅のビジネスパーソンに戦略思考や戦略策定のワークショップを提供している河瀬誠氏。他にも多くの著書がありますが、どれもとてもわかりやすく、多くのビジネスパーソンから支持を得ています。
著者が重要性を指摘するのが、「戦略思考」。マーケティングなどの専門知識があったとしても、それを的確に使いこなせる思考力がないと成果にはつながりません。コンピューターに例えると、専門知識はアプリケーション、戦略思考はそれらを動かすOSです。OSの性能によって、アウトプットできる成果の質も量も異なってきます。
数多くの研修を通して見えてきた著者の考える「頭の動かし方」の基礎を学ぶことができるのが、本著。キーワードは「ファクトをアクトに落とし込め」。
- 著者
- 宇宙航空研究開発機構
- 出版日
- 2014-03-15
マーケティングにおいて当然、スキルや知見は大切です。ただ、それと同時に大切なのは社内外の関係者の協力を得、連携していくことではないでしょうか。
大きな成果を上げるためには、人がお互いの強みや情報を持ち寄りながら連携して仕事を進めていくことが不可欠。たまに「俺らが稼いでいるのだから(仕事をあげているのだから)あなた達は協力しなさい」といった主旨のコミュニケーションを見かけますが、それでは人を巻き込むことはできません。協力をする気も起きないでしょう。わかっていても、意外と疎かにしてしまう点ではないでしょうか。
本著は、日本の宇宙開発を担うJAXAで働く職員の方々がどのように仕事を進めているのか、そのエッセンスをまとめたものです。JAXAは最先端の技術を扱っているというイメージがありますが(もちろん、そうなのですが)、実は仕事のスタイルはとてもアナログだそうです。
JAXAの職員の方々は突発的な問題に対処するために、普段から情報が集まる部署に足を運び、情報を手元に集めておくことを習慣づけているといいます。情報収集のポイントは「全体像をつかむこと」。まずは組織を統括する部署で情報(縦軸)を集め、次に隣の部署(横軸)の情報を聞いて回る。そうすることで、急な問題が発生しても部署間で連携しながら速やかに対応することができるそうです。ちょっとした雑談からでも十分。信頼関係の構築はもちろん、ちょっとした会話からヒントを得ることも。
マーケティングでも、強みの棚卸であったり、対外的に発信する情報のネタを探したりするためなどに社内の情報は重要です。また、施策を実施する上で他部署の協力を仰ぐことも当然あること。
本著でも「相手の状況や立場をよく理解したうえで、自分の意見を主張するのが「和」を重んじるJAXA流」と紹介されていますが、ビジネスにおいてもせっかくならこのような関係をもち、お互い気持ちよく仕事をして成果を上げたいですね。
他にも、JAXAの問題解決方法など、興味深くて勉強になる内容も盛りだくさん。ご興味があればぜひご一読を。
- 著者
- マーク・M・ムネヨシ
- 出版日
- 2010-12-14
顧客に価値を提供することで満足度を高め、収益を上げていくことはとても大切なことです。それができなければマーケティングが機能しているとは言えないでしょう。
では、成長社会から成熟社会にシフトしたといわれる現在(使い古された言葉ですが)、そのためには何が大切なのでしょうか?
それを考える上で参考になるのが本著。日本コンサルティング協会で理事を務めるマーク・E・ムネヨシ氏が、自身の経験などをもとに成熟社会で顧客のロイヤリティを高めるために必要なことを述べています。
顧客ロイヤリティを高めるためには、マニュアルやルールに束縛されすぎずに顧客に対してワンストップで柔軟に対応できることが重要と著者は指摘しています。もちろん、コアとなる業務をプロフェッショナルとして高いレベルで行えることが前提です。成熟した社会では個々の価値観やニーズは多様化するもの。成長社会のときのように組織としてマスにアプローチするコミュニケーションは通用しにくくなってきているとする著者。個である社員と顧客である個人のつながりを通した信頼関係がより重要になってきているといいます。
では、コア業務を中心にワンストップで周辺業務までカバーできていたらそれでよいのでしょうか?決してそうではありません。最も大切なのは、「顧客のためになろうと考える心」です。やらされ仕事ではそのような気持ちをもつことができません。そのためには、「会社のエクセレンス構想」と「個人のエクセレンス構想」を融合させて「社員のエクセレンス構想」を作り上げることが大切だと著者は指摘しています。つまり、「組織としては○○を目指したい。あなたは●●を目指したいか。なら、向かう方向は一緒だから協力してそれぞれが実現したいことを実現しよう!」ということです。仕事を通して実現したいことが実現できる。それが社員個人のモチベーションを高め、自発的にそのような価値を提供するようになると考えています。
「会社」を「チーム」や「プロジェクト」に言い換えても同じことが言えるのではないでしょうか。マーケティングを通して顧客に最高の価値を提供し続けていくために、最高のチームを創り上げていきたいですね。
ただ、組織の最適な在り方は置かれている状況によって異なると思います。こちらで紹介している在り方も唯一の正解ではないのではないでしょうか。状況に応じて、最適な在り方を模索したいですね。
今回ご紹介した内容はいかがでしたでしょうか? “「マーケティングを基礎から学びたいとき」に読む5冊”とタイトルに記載があったので、すべてマーケティング本なのかと思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
マーケティングを実施していく上でマーケティングそのものを学ぶことはもちろん大切なのですが、それだけでは機能しないことも事実。学んだら実践しなくてはならないのはもちろん、立場によるとは思いますがマーケティング以外にも学んだ方がよい分野は多領域にわたります。その一端を、今回はご紹介しました。今後は、もう少しテーマを絞ってマーケティングに取り組む上で参考にしていただけそうな本を紹介していきたいと思います。
…というようなことを言っている自分自身も日頃、あ~でもない、こ~でもないと頭を捻りながらマーケティングに取り組む現役マーケターのひとりです。日々の試行錯誤で得られたこと、感じたことを本の紹介を通してお伝えできればと考えています。皆さんも何かお勧めの本がありましたらぜひご紹介くださいね!