小林秀雄のおすすめ作品5選!代表作『考えるヒント』や名言集など

更新:2021.11.13

批評の神様と謳われ、数々の文学賞を受賞している小林秀雄。鋭い感性で読者の心と頭を刺激してきます。彼の名著のなかから、おすすめの5作品を厳選してご紹介しましょう。

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小林秀雄とは

 

1902年に東京の神田で生まれ、東京帝国大学仏文科卒業した作家、文芸評論家です。1929年『様々なる意匠』で文壇に登場し、『アシルと亀の子』をはじめとした独創的な批評活動を展開していきました。

在学中からフランスの詩人アルチュール・ランボーに傾倒し、初期の作品には特にその影響が垣間見えます。ほかに影響を受けたものとして、ドストエフスキー、ベルクソン、泉鏡花、志賀直哉、シャルル・ボードレールなどがあります。

小林の批評は、詩的な表現と独創的な文体を持ち、さまざまな人物に影響を与えました。その挑発的な批評スタイルと文学性は高い評価を受け、彼の活躍によって日本の本格的な近代批評が確立されていったのです。

1951年に日本芸術院賞受賞、1963年に文化功労者に顕彰、1967年に文化勲章を受章しています。

小林秀雄の死生観を学ぶ『モオツァルト・無常という事』

本作は、評論や随想などを集めた短編集。

批評でありながら文学的美観を押し出した「モオツァルト」や、戦時中の連作「無常という事」のほか、美術品に対する批評や、「平家物語」「実朝」など歴史に関するものがあり、あわせて16編が収められています。

著者
小林 秀雄
出版日
1961-05-17

読みやすいものもありますが、小林文学は難解なものが多いことでも有名です。表題作になっている「無常という事」も一見難解で、テーマを理解しなければなかなか読みにくいものであるといえます。

「無常という事」が書かれたのは戦時中で、死が身近に感じられた時代でした。この連作はまさしく「生と死」をテーマに書かれていて、それを念頭に置いて読み進めれば小林の感じていたことが読み取れるでしょう。

「生きている人間などというものは、どうも仕方のない代物だな。(中略)其処に行くと死んでしまった人間というものは大したものだ。なぜ、ああしっかりとして来るんだろう。まさに人間の形をしているよ。」(『モオツァルト・無常という事』より引用)

小林秀雄の鋭く穿った感性と、はつらつとして切れ味抜群の批評を読むことができます。彼の考えに触れたいと思う方はまず読むべき一冊でしょう。

今の時代に読むべき『考えるヒント』

普遍的なテーマから、自らの体験に関しての考察など、幅広いテーマに対して鋭い視点で切り込んでいるエッセイ集。

1編は短く読みやすいですが、読者の心を揺さぶり、頭を刺激します。読み進めながらもいつの間にか脳が考えを巡らせている感覚を味わえるでしょう。

著者
小林 秀雄
出版日

昭和30年代に書かれたものなので、レトロな香りを感じさせる話題もありますが、それらの考察は現代に通じるものばかりで驚きます。

「考えるとは、合理的に考えることだ。どうしてそんな馬鹿気た事が言いたいかというと、(中略)当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。物を考えるとは、物を掴んだら離さぬという事だ。」(『考えるヒント』より引用) 

世の中のあらゆることに興味を持ち、突き詰めるまで考察することが大事だと一貫して述べています。文章も短く平易で読みやすいので、持ち歩いてくり返し何度でも読みたい一冊です。

11年を費やした小林秀雄の大作『本居宣長』

本居宣長は医者でありながら、『源氏物語』などの古典を研究し、国学者として日本の文学界に大きく貢献しました。「国学の四大人(しうし)」にも数えられ、『古事記』を研究して訓読を施し、注釈をつけた『古事記伝』を執筆したことで有名です。

小林秀雄は晩年の11年を費やして、本作を完成させました。自ら考える力が大事と著書でも語る彼らしく、既存の概念にとらわれない見方と考え方、また古典の美しさをあらためて感じさせてくれる筆力は圧倒的です。

著者
小林 秀雄
出版日
1992-05-29

「宣長が求めたものは、いかに生くべきかという『道』であった。彼は『聖学』を求めて、出来る限りの『雑学』をして来たのである。彼は、どんな『道』も拒まなかったが、他人の説く『道』を自分の『道』とすることは出来なかった。」(『本居宣長』より引用) 

「言葉」は遠い昔から話されてきたものですが、「文字」は歴史が浅く、数千年程度のものです。その中で文字を持たない「やまとことば(日本古来の言語)」は変化していき、本来の姿も失われざるを得なかったと小林は考えています。

よってこの本書の中では、その古文の味わいを読者に伝えるための工夫として、古事記の原文や、それに対応する宣長の脚注などの引用を多用しています。それらは現代文に翻訳されてしまっては得られないものなのです。

随所にこだわりをもって書かれた、小林秀雄の集大成とも呼べる力作。丁寧に読み進めていけば、ここで語られている真意が深く理解できると思います。ぜひご一読ください。

読書のプロ・小林秀雄語る貴重な一冊『読書について』

「作家志願者への助言」「批評について」「文化について」など17篇を収録したエッセイです。美しく平明な文章で書かれているので、他の小林作品と比べても格段に読みやすくい一冊でしょう。

「批評の神様」、「文学の教祖」、「読書の達人」などと評される小林秀雄は、どのようにして読み、どのようにして書いていたのでしょうか。

著者
小林 秀雄
出版日
2013-09-21

表題作の「読書について」で、小林は次のように述べています。

「一流の作家なら誰でもいい、好きな作家でよい。あんまり多作の人は厄介だから、手頃なのを一人選べばよい。その人の全集を、日記や書簡の類に至るまで、隅から隅まで読んでみるのだ。」(『読書について』より引用) 

一流の作家の著作を隅々まで読めば、その人がどんなことを試み、どんなことを考えていたかがわかります。そうしてすべてが納得できるようになれば、作家の何気ないひと言にもその人間が感じられる、それが「文は人なり」という言葉の真意だと小林はいいます。

非常にわかりやすく、また具体的ですぐに実行に移せそうなアドバイスで、ユーモアも交えながら書かれているので楽しく読むことができるでしょう。

小林秀雄の名言集『人生の鍛錬―小林秀雄の言葉』

ここまで名著を紹介してきましたが、本作は小林の膨大な著書のなかから選りすぐりの言葉を収録した名言集となっています。手軽に小林の言葉に触れたいという方にはちょうどよい一冊だといえるでしょう。

年代ごとに章立てされており、またその時分の活躍や発表された作品などを細かく解説してあるので、彼のことをあまり知らないという方にもおすすめです。

著者
出版日

「自己嫌悪とは自分への一種の甘え方だ、最も逆説的な自己陶酔の形式だ。」
「自分自身と和する事の出来ぬ心が、どうして他人と和する事が出来ようか。そういう心は、同じて乱をなすより他に行く道がない。」(『人生の鍛錬―小林秀雄の言葉』より引用)

小林の厳しい自己鍛錬によって絞り出されてきた416の魂の言葉が収められています。

気に入った言葉を見つけたら、ぜひ元になった本も読んでみるとよいでしょう。作品全体を読むことで、より理解が深まり、批評の真髄を感じることができるはずです。

作家論、日本古典、美術論、学問論と多彩な活動を見せた小林秀雄。日本を代表する評論家の著書に触れてみてはいかがでしょうか。

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