選書の要はトレンドと直感のバランス感覚〜CHIENOWA BOOK STORE 前編・伊藤さん〜

更新:2021.11.7

埼玉県朝霞市にある、“ギフトが選べるちょっといい街の書店” CHIENOWA BOOK STORE(チエノワブックストア)。1947年に「一進堂」としてリヤカーでの本の販売からスタートし、以降、地域に根差した書店業を展開し続けています。 地域の人々に愛される親しみやすさは、70年以上の時を経た今も健在。Twitterでは「昨日一番売れた本」と「昨日売れた本からオススメの1冊」を配信したり、書店員さんたちが日々のゆるい呟きをしていたりと、コミュニケーションの形も多様化しているようです。 そんな「CHIENOWA BOOK STORE」書店員さんのインタビューを前・後編にわたってお届け。前編ではコミック大好きな書店員・伊藤さんにお話を伺いました。

ブックカルテ リンク

書店員になるまでの道のり

『週刊少年ジャンプ』掲載のマンガ『バクマン。』の影響でマンガ編集者を志した伊藤さん。曰く、「僕ら世代でマンガの道を志した人の大半はこのマンガを読んでいる」とのこと。

大学卒業後、複数の出版社の採用面接を受験したものの、最終的には面接練習のために受けたはずのテレビ制作会社へ就職。

—浪人は大学受験でこりごりでした(笑)。(伊藤さん)

制作会社でADとして働いたのち、転職。現職の「CHIENOWA BOOK STORE」には、就職して1年と9ヶ月だそう。

—文藝作品はSF、ミステリーとノンフィクションが好きです。今注目しているのは、アフタヌーンの『メダリスト』(つるまいかだ 著)。ジャンプでは『SAKAMOTO DAYS』鈴木 祐斗著)もいいなとおもっていますが、既に売れている作品ではあるので、これから来そうという意味では『アオのハコ』(三浦 糀著)。あとはアフタヌーンの『うちの師匠はしっぽがない』(TNSK著)かな。(伊藤さん)

ひとたび本の話になると、新旧問わず作品が次々と出てくる伊藤さん。

『うちの師匠はしっぽがない』は先日アニメ化も決定し、先見の明がうかがえます。

お店の本を選ぶ際は、どんなことに意識を向けているのでしょうか?

選書する際のバランス感覚

—仕入れる本はトレンドと自分の直感のバランスで選んでいます。(伊藤さん)

そう話す伊藤さんの本の仕入れの基本的な判断基準は、「お店で何が売れているのか」。そしてそれをベースに、伊藤さん自身が面白いと思った本を店頭に並べて、お客さんの反応を見ることも。

—自分の「面白い」の基準は、コミックだとやはり『バクマン。』が根底にあります。「何かを犠牲にして、何かを得る」マンガが好きなので。最近の転生ものとは相性が悪いですよね。(伊藤さん)

読むのに四苦八苦する海外文芸は、好きな作家が影響を受けたものを芋づる式にセレクトすることが多いそう。

海外作家の作品に触れたのはチャンドラーの『長いお別れ』を読んだ大学生のときがはじまり。村上春樹、清水俊二訳の2版を読了し、そこからマーロウ作品もほぼ読破。ヘミングウェイも好きでよく読んでいるとのこと。

ヨーロッパ圏の作家ではヘッセの『車輪の下』やカフカも読んだものの、いまいちピンと来ず。「英語圏の作家が好みなのかも」と伊藤さんはいいます。

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伊藤さんのターニングポイントとなった本

父親の影響で『ブラックジャック』や『あしたのジョー』といった名作に小さい頃から触れていたという伊藤さん。小学生のときに『ケロロ軍曹』を読んでいた名残で、パロディ物も好きだといいます。

そんな伊藤さんに、人生の転機となった本を教えていただきました。

『バクマン。』

著者
小畑 健
出版日
2009-01-05

2008年から2012年の『週刊少年ジャンプ』で掲載された、原作・大場つぐみ、作画・小畑健によるマンガ作品。二人の少年がコンビを組んで漫画家を目指していく物語で、伊藤さんがマンガ編集者を志したきっかけになった。

長いお別れ

著者
レイモンド・チャンドラー
出版日

1953年に刊行された、アメリカの作家レイモンド・チャンドラーハードボイルド小説

—何を読んでいいのかわからないときに、ふと読んだジャンプ本誌の煽り文が気になって、調べてみたら、チャンドラーの『長いお別れ』の引用で。それで気になり読んでみたのがきっかけです。(伊藤さん)

『夜は短し歩けよ乙女』

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25

山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位を受賞した恋愛ファンタジー小説。

江戸川乱歩を読んで、次はポー、または同時代の他の作家を、というような横のつながり、縦のつながりを意識する森見流の読書術は、伊藤さんの選書にも活かされているそう。

『人間失格』

著者
太宰 治
出版日
1988-05-16

—影響を受けているというより、「自分のことが書いてある」と感じました。太宰治は影響を与える作家というより、共鳴する作家ですね。(伊藤さん)

ブックカルテを通して届けたい体験

選書をするときは横のつながり、縦のつながりを意識していると語っていた伊藤さん。ブックカルテでの選書も、ストレートにお客さんが好むジャンルの作品だけでなく、普段読まなさそうな本も同時に薦めているといいます。

そのときのポイントは、選んでいただいた本全体を通しての共通要素を探り、そこに当てはまる異なるジャンルの本を選ぶこと。

—見えないつながりを提示するんです。カルテで出てきた10冊の本をそれぞれググったり、ブックメーターやアマゾンレビューを参考にして、あらすじや登場人物といったこの本のどこに惹かれたかを探ります。例えば感動ものだったら、全然SFを読んでいないひとでも同じような感動を与えることができるんじゃないかと、あえてSFを薦めてみる。例えば「ミステリはたくさん読むけどSFはほとんど読まない」という人には『星を継ぐもの』を必ずオススメしてみたりしてますね(伊藤さん)

小説に限らずコミックへも深い造詣を持つ伊藤さん。長らくコンテンツに関わるキャリアを積んできたからこそ、お店でも多角的な面からお客さんの視点に立ったバランスのよい選書を実践していました。

そしてそのバランス感覚は、ブックカルテという新たな出会いの場を通しても発揮されています。本好き、マンガ好きの方だけでなく、伊藤さんの感覚にシンパシーを感じた方はぜひ選書をお願いしてみては?

CHIENOWA BOOK STORE 伊藤さんへの選書依頼はこちら

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