EXIT兼近大樹『むき出し』の名言はこう解釈できる!あらすじと魅力も語ります

更新:2021.11.18

「恋人にしたい芸人ランキング」のような数々の人気投票で1位の座を獲得し続けている、EXIT兼近大樹。初の小説『むき出し』を発表しました。 「どこまでが実話なの?」と思ってしまうほど、兼近自身に重なる点の多い物語。この記事では『むき出し』作中から、名言を引用しつつそのあらすじと魅力を紹介します。

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『むき出し』どこまでも自分をさらけ出したEXIT兼近大樹の初小説!

【概要】こんな方におすすめ

「ネオ渋谷系漫才師」と呼ばれるチャラ男のキャラクターで、一躍バラエティ界の人気者となったEXITの兼近大樹。2021年11月に、初の小説『むき出し』を書き下ろして発表しました。

『むき出し』は自身の過去に重なるエピソードを交えながら、北海道の貧しい家庭に生まれた少年が一人の芸人となるまでを描いた私小説的作品です。EXITのファンの方はもちろん、EXIT以外の芸人さんのファンの方普段本を読まない方勉強や学校が好きじゃなかった方に特におすすめ。

また、主人公(石山大樹)の子ども時代から学生、社会人と年代に合わせて物語の語り口や状況を解釈する精神年齢も巧みに使い分けられています。そのため主人公の心情の変化を追いかけながら物語が読みたい方や、教育や子育てに関わるなど子どもの心理状態と行動に関心を持つ方にもおすすめしたいと思います。

著者
兼近 大樹
出版日

帯の推薦コメントを寄せたピースの又吉直樹との関係性

実は兼近は、ピースの又吉直樹の著書を読んで芸人を志したという経緯が。兼近が前身のコンビでデビューしたばかりの時から、又吉が気にかけていたというエピソードもあります。

作中で石山は20歳のころ色々な経緯があり留置場に収容されていましたが、その時ある女性から本の差し入れをもらいます。そのタイトルが『まさかジープで来るとは』『カキフライが無いなら来なかった』『第2図書係補佐』の3冊。これは又吉の実在の書籍です。この書籍を石山がどのように読み進めたのか、またそれが彼にどのような影響を及ぼしていくのか。ぜひ実際の小説を確認してほしいと思います。

『まさかジープで来るとは』ほか2作、又吉直樹の著作がどのような内容なのか気になる方はこちらの記事でぜひチェックしてみください。

又吉直樹の本おすすめ13選!小説以外もジャンル別紹介+又吉がおすすめする本も

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お笑い芸人でありながら、小説『火花』で芥川賞を受賞し、作家としても活動している又吉直樹。1度彼の作品を読んだことがある人は、圧倒的な情景描写と、どこか物悲しくも笑えてしまうその文章力に驚いたのではないでしょうか。この記事では、そんな彼の著作のなかから小説、エッセイ、共著などジャンル別に紹介していきます。又吉直樹がおすすめする本も紹介しますよ!

 

ここからは、『むき出し』の作中かライターの心に残った名言だと思うセリフや文章を4つ取り上げながら本作の魅力を紹介していきます。4つに分けたのは、主人公の成長ステージごとに選んだため。主人公に起きた出来事の変遷も一緒に解説しますので、後半に進むにつれてあらすじのネタバレを含みます

名言&あらすじ1:主人公にとっての「正義」が作られる瞬間

給食の牛乳を沢山飲まなくても、サッカーの試合中に突然バスケのルールでやりはじめなくても、かけっこで靴が脱げるようにセットしておいて派手に転ばなくても、悪い奴を倒せば、みんながおれを見ている。みんなおれを頼ってくれ。おれは、正義の味方だぜ。
(『むき出し』39ページより引用)

まずは印象に強く残ったこの物語の序盤における重要なポイントを抜粋。この1文のなかの「正義の味方」に、もう後戻りできないような違和感を感じました。

小学校で弱い者いじめをしているクラスメイトがいるという噂を聞いた主人公の石山が、その現場に駆けつけ、いじめていた生徒に殴りかかります。悪いことをしたクラスメイトを成敗したことに対して先生や周りが彼を誉めたことから、発された心の声が引用部分です。

その成敗の描写としては、グラウンドの砂に顔を押しつけて目を潰したり、何度もお腹を蹴ったりなどなど容赦がありません。小学生だからこそ手加減ができない、ということはあるかもしれませんが、この主人公の暴力には「それが正しくて仕方ないからやる」という歯止めの利かない威勢を感じてしまうのです。

「悪いことをした相手には、どのような暴力を振るってもいい」という価値観が主人公に植え付けられた瞬間だといえます。それまでも数々、結構な悪さをしていた主人公でしたが、ここからこの物語(主人公の人生)は少しずつボタンを掛け違えていくような感覚に襲われました。

名言&あらすじ2:気付き始める主人公

捕まって済むならそれで終わりたかった。法律ってなんだ?マジの罪ってこれじゃないの?罪を与えてくれよ。これよりも軽い罪で捕まってる奴らばっかりだろ。許してくれよ。

でもさ、人に危害を加えておいて許されたいと願うって、とんでもない罪なんじゃないのかな。

俺は、反省したフリして、許された気になって、何度も罪を重ねてきたんだ。
(『むき出し』160ページより引用)

中学卒業後の石山は、定時制の高校も2日しか行かずテレアポの会社で働くことにします。しかしその仕事に詐欺の疑問を抱いた彼はすぐにビルを飛び出しました。その時たまたま外で煙草を吸っていた大学生のバイトの1人に声をかけられ、喧嘩に。

「詐欺で騙されたおじいちゃん、おばあちゃんの分まで」という自分勝手な大義名分で、殺人未遂の疑いで警察が出動するほど激しく相手を殴ります。相手は鼻の骨が折れ、頬の骨が陥没骨折、歯も折れ顔面麻痺が残る可能性もある状態にも関わらず被害届を出しませんでした。罪には問われなかった石山ですが、母とともに相手の家へ謝罪に行き相手の家庭の事情を知るのです

その帰り道、刑事的な罪には問われなかったからこそ逆に自発的に罪の意識が芽生えた石山。心の中で「反省」ということを知ります。そして、相手には相手の人生があること、それを尊重するべきだということに少しずつ気付いていくのです。

名言&あらすじ3:人と人との間の「分断」を諦観していた主人公【ネタバレ注意】

「逆もまた然りってやつじゃね」

「ん?」

「どっちもそれぞれの常識からみてそう思ってるんだよ。完全に分断されちゃってんの!」
(『むき出し』218ページより引用)

留置所の取調室にて、刑事とやり取りをする石山。札幌でお世話になってきた(その結果として留置所にいることにつながった)人々に「利用されているだけだ」と言われてこのように返します。この生き方しかできない自分たちのことを理解しえない刑事と、彼らを含めた自分たちの間は「分断」されている、となかばあきらめのように言い放つのです

この後、留置所で知り合った人とともにBARで働きますがその人に利用され、また警察に容疑をかけられてしまいます。ここにずっといれば何も変わらないと考え、石山は芸人を志して東京へ行くことを決意します。

芸人になったのちも、「分断」の意識は消えることのない石山。しかし彼はその「普通の人との違い」を冷静に見つめることで、舞台に立った時のお客さんになにがウケるのかを客観的に身に着けていくことにつながります。

そして晴れて芸人として受け入れていった彼は「分断」に対してどのような考えになっていくのでしょうか?ぜひ小説を読んで確かめてみてほしいと思います。

ただ事実として言えることは彼……いや、作者である兼近は、かつて自身の過去を暴いた雑誌を出している出版社からこの小説を出版しているということ。このことこそが、本作1番のメッセージなのかもしれませんね。

名言&あらすじ4:芸人を志す主人公

人を笑わせる毎日って楽しそうだよな。今まで嫌な思いをさせてきた人達の分まで、誰かを幸せにする。いいねぇ。かっけぇじゃん。

許される為じゃなく、自分も楽しむ為。

沢山の人を笑わせて、日々の辛いことの出口になれる存在になりたい。
(『むき出し』226ページより引用)

自分の夢を確信した時の名言。作者のファンでもそうでなくても、ここまでページを読み進めてきた読者なら誰でもぐっときてしまうこと間違いなしです。

すべてのお笑い好きは、一度は自分の推している芸人に「芸人という職業に就いてくれて本当にありがとうございます」と思ったことがあるはず。『むき出し』を読み、主人公に、作者に、そしてあらためて自分の好きな芸人に対してそのように思いました。


4つのポイントに焦点を当てたあらすじですので、取りこぼしたエピソードもあります。ぜひ実際の作品を手に取って味わうことをおすすめします。そして読んだら感想をSNSなどで作者に届けてみてはいかがでしょうか。実話を多く交えた私小説以外の作品も、今後期待したいですね!作者のTwitterはこちら。

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