「このマンガがすごい!2022」が今年も発表されました。この記事では、オトコ編、オンナ編の第1位に選ばれた『ルックバック』と『海が走るエンドロール』を徹底比較。それぞれの作品のなにが「すごい」のか、その相違点を考察していきます。
「このマンガがすごい!2022」の入賞作品が発表されました。
オトコ編の第1位に選ばれたのは『ルックバック』。『チェンソーマン』の作者藤本タツキによる短編作品です。「このマンガがすごい!」への入賞は、去年のオトコ編第1位『チェンソーマン』に引き続き2年連続。さかのぼれば、『ファイアパンチ』も2017のオトコ編第3位へランクインしていました。
オンナ編の第1位に輝いたのは『海が走るエンドロール』。1話がTwitterで公開された時から話題でしたが、単行本は1巻しか出ていないタイミングでの受賞となりました。
『ルックバック』が小学生の頃から漫画を描くことに没頭する主人公が大人になるまでを描くのに対して、『海が走るエンドロール』は映画制作を始める65歳の主人公の物語。どちらも「創作」にとことん向き合うという物語であることが共通しています。
創作を趣味や仕事でおこなっているという方にはもちろんですが、クリエイティブとはいえなくとも働いてなにかしらの価値を生み出すということをしている方に強くおすすめできる両作。読後には自分の仕事に立ち返り、自分も頑張ろうと思えるのではないでしょうか。
とはいえ、2作をひとまとめに語るのも強引。それぞれの作品における「創作」がどのように描かれているのか、それぞれ紹介していきます。
主人公のうみ子が映画制作に向かうきっかけを作ったのは、他者の存在。久しぶりに訪れた映画館で出会った、美大生の青年・海(かい)に「映画を作る側の人間なのでは」と指摘されて自分の気持ちに気がついたのです。
その時の表現が特徴的。主人公の足元に、青年のほうからさざなみが向かってきます。その波に誘われるように、自分のあふれ出る創作意欲にフタをできなくなっていきます。
また主人公の65歳という年齢も、この漫画を読み解く時に無視できない要素です。何歳になっても、なにかを始めるのに遅くないというメッセージに取れます。
年齢というわかりやすい形で描かれていますが、これは年齢だけでなく様々な障壁に置き換えられるかもしれません。「やってみたい、でも……」と言い訳して、その障壁を作ってしまうのは自分。そのことを問うような作品です。挑戦してみたいことがある方におすすめの漫画です。
- 著者
- たらちねジョン
- 出版日
一方『ルックバック』の主人公は物語の始まりから、学年新聞に4コマ漫画を掲載しています。小学生ながら、自分の描いた漫画を読んでもらうことの喜びも知っています。
他者の存在がまったく介在しないかといえば、そうではありません。隣のクラスの不登校の生徒・京本も、学年新聞で4コマ漫画を描き始めたことで画力を比較されはじめます。他者と出会って、自分をさらに高めようと創作に向き合い続けるのです。
その机に向かう孤独な背中の描写は、コミックスの表紙にも選ばれています。作中では、周りの景色だけが季節を変えていき、主人公はひたすら机にかじりつき続ける印象的な表現もありました。
しかしある事件が起きて、京本は創作への道を絶たれてしまいます。
ここからは、誰にも創作に向かう心を邪魔する権利はないのだというメッセージを感じることができます。そして、読者にとっての「創作とは?」を問いかける作品となっています。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
『ルックバック』の詳しい内容について知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
『ルックバック』を考察!創作の意味を問う、最も読むべき名作【このマンガがすごい!】
2021年7月、配信1日で250万の閲覧数を記録した漫画がありました。『チェンソーマン』で知られる奇才・藤本タツキの新作読切漫画『ルックバック』。紙のコミックスも発売され、「このマンガがすごい!2022」のオトコ編第1位にも輝きました。そんな大人気漫画『ルックバック』を考察を交えて紹介します。
いずれも、メッセージ性をしっかりと味わうことのできる漫画だといえます。漫画というものが、娯楽作品として読者を楽しませるものである以上に果たす役割を感じることができるでしょう。それこそが、このマンガが【すごい】と言われるに値するところなのかもしれません。