2021年読んでよかった2冊の本【発禁になった物語、才能を蘇らせるAIプロジェクト】

更新:2021.12.30

今年も終わりますね。今年読んだ本は約200冊。その中で、読んでよかった本を2冊紹介します。2冊だけ。みなさんの2021年のベスト本はなんでしたか。

ブックカルテ リンク

定本 消されたマンガ

本書では、作者の意志とは無関係に、何らかの外的要因によって市場から抹殺されてしまった「消されたマンガ」を60本超取り上げている。
人食い人種が登場する『サザエさん』やロボトミー手術が問題になった『ブラック・ジャック』などの誰もが知る作品から、
全ページから盗用が発覚した『メガバカ』、原発ネタの超ブラックな作品『ラジヲマン』などの知る人ぞ知る問題作まで網羅。
本書を読むことで、マンガと社会の新しい関わり方を垣間見ることができるだろう。

ー引用:Amazon 定本 消されたマンガ

世に出回らなかった漫画は多く、その理由はさまざまです。作者が逮捕されたり、教育上悪いと批判が集まったり、盗用疑惑があったり、そもそも倫理的にどうなのかという問題があったり。表現の自由という言葉はありますが、あれは好き放題やって良いという意味ではなく、大勢の理解の上に成り立つものですから、誰かが不幸になるのなら抑圧されます。その線引きは難しく、一見正当性がなさそうな意見だとしても、発禁などの措置が取られることが多いです。

また、発禁は避けられたものの、単行本化にあたって内容を書き換えざるを得なかったものもあります。有名なのは『火の鳥・羽衣編』でしょうか。

<あらすじ>
起:舞台は平安時代。猟師のズクの家に、薄い羽衣が落ちてくる。
承:ズクが羽衣を売ろうとしたところ、羽衣の持ち主「おとき」が現れ、返してほしいと訴える。ズクは「3年一緒にくらしたら返してやる」と言い、おときはこれを受け入れる。
転:一緒に暮らすうち、二人の間に子供ができる。しかし、おときは未来からきた存在であることが明かされ、過去で子供を作ってしまったことでタイムパラドックスが起こる。
結:本来存在してはいけないという理由から、おときは子供を一度殺そうとする。しかしそれはできず、未来へ連れて帰り、終幕。

上記が現在見られる内容ですが、雑誌COMで掲載されていたバージョンとは違っています。

元々は
・おときが未来で起こった核戦争を体験しており、放射能によって被爆していた。
・その状態で過去へ行ったが、生まれた子供も被爆しており、奇形児だった。
・おときは奇形で生まれた子供を嘆き、殺そうとする。
という内容でした。「おときが未来からきて子供を授かるが、その子供のことで問題が起こる」という点はどちらも同じですが、扱う問題はかなり変わりますね。

それと、最近ですと藤本タツキ氏の『ルックバック』が、読者からの声を受けて内容を修正、さらに単行本化するにあたり、再度修正が加えられたことで話題になりました。実在の事件・犯罪者を想起させるような描写があり、その部分を指して修正を要求した人が一定数いたようです。1度目の修正では抗議にほぼ100%則ったような内容になっていましたが、単行本化にあたって再度行われた修正では、作者や編集の意図が反映されたちょうどいい落とし所になっていたと再度話題になっていました。

詳しくはこちらの記事で解説していますので、読んでみてください。

『ルックバック』を考察!創作の意味を問う、最も読むべき名作【このマンガがすごい!】

『ルックバック』を考察!創作の意味を問う、最も読むべき名作【このマンガがすごい!】

2021年7月、配信1日で250万の閲覧数を記録した漫画がありました。『チェンソーマン』で知られる奇才・藤本タツキの新作読切漫画『ルックバック』。紙のコミックスも発売され、「このマンガがすごい!2022」のオトコ編第1位にも輝きました。そんな大人気漫画『ルックバック』を考察を交えて紹介します。

創作物の描写が現実に与える影響はただならぬものがあります。それによって人生が悪い方向に行ってしまう人もいれば、良い方向に行く人もいるでしょう。100%良い、100%悪いと片付けることはどうかと思いますが、人間が作り、人間が受け入れるものである以上、歴史の影に葬られることもやむなしという作品があることは仕方のないことだと思います。

なにはともあれ、どういう経緯で、どういう理由で作品たちが表舞台から身を引くことになってしまったのかが詳細に語られている本ですので、大変興味深かったです。

ゴールデンタイムの消費期限

著者
斜線堂有紀
出版日

斜線堂有紀先生の作品は『キネマ探偵 カレイドミステリー』シリーズ(ミステリ×映画×バディもの)の頃から好きで、特にその軽快で綺麗な、そしてちょっとクセのある文章がたまりませんでした。『ゴールデンタイムの消費期限』のような爽やかで少し毒のある作品とは、そりゃもう相性抜群です。

自分の消費期限は、もう切れているのか──

小学生でデビューし、天才の名をほしいままにしていた小説家・綴喜文彰(つづき・ふみあき)は、ある事件をきっかけに新作を発表出来なくなっていた。孤独と焦りに押し潰されそうになりながら迎えた高校三年生の春、綴喜は『レミントン・プロジェクト』に招待される。それは若き天才を集め交流を図る十一日間のプロジェクトだった。「また傑作を書けるようになる」という言葉に参加を決める綴喜。そして向かった山中の施設には料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士の、若き五人の天才たちがいた。やがて、参加者たちにプロジェクトの真の目的が明かされる。招かれた全員が世間から見放された元・天才たちであること。このプロジェクトが人工知能「レミントン」とのセッションを通じた自分たちの「リサイクル計画」であることを──。

引用:Amazon 『ゴールデンタイムの消費期限』

『ゴールデンタイムの消費期限』では冒頭も冒頭から天才たちがクローズドサークルに閉じ込められるので、「いつ殺人が起こるんだ」とドキドキしながら読み進めていましたが、今回はなんと最後まで事件は起きません。ミステリではありませんからね。舞台が閉塞的な研究所のみということで、物理的な広がりはありませんが、その分人間関係と登場人物の心情が深く描かれます。

斜線堂作品は、人間の描き方が巧みです。彼らが長年積み重ねてきた苦悩や葛藤をみると、どうか最後は幸せになってほしい願わざるを得ません。

今回、主人公たちは高校生です。一度はその才能によって若くして世に認められた人物たちですが、すでに才能は枯れ、そこに苦悩しています。感受性が豊かな時期に絶頂とどん底を味わったのですから、その苦悩は計り知れません。そこに「AIによって才能を蘇らせることができる」と言われたら、抗える人はいるのでしょうか。

ネットで反応をみてみると、最後の主人公の選択に対して賛否がかなり別れていました。しかしどちらにせよ主人公が自分で一つの答えを出せたことに「よかった」と言っている人が多いようでした。どういう選択をしたにせよ、主人公がちゃんと立ち直れたのならよかったと思えるくらい感情移入ができるのが、斜線堂作品の魅力だと思います。

ちなみに斜線堂有紀先生は当サイト内で連載をされております。ジャンル別におすすめの本を10冊セレクトしてもらうという連載企画です。そちらもどうぞよろしくお願い致します。

【第一回】斜線堂有紀の『××にハマる徹夜本10選』【純文学編】

【第一回】斜線堂有紀の『××にハマる徹夜本10選』【純文学編】

本を読むのは深夜に限る。何故なら夜はページの滑りをなめらかにするからである。 というわけで「××にハマる徹夜本100選」では、本当に面白い100冊をさまざまなジャンルに渡って紹介していこうと思います。第一回のテーマは「純文学」。よく、大衆文学と純文学は何が違うの?(類似質問:芥川賞と直木賞は何が違うの?)と尋ねられることが多いのですが、個人的には純文学は人間や世界について重点的に書かれてあって、かつ、それを読み手が解釈する物語なのではないかと思います。対して大衆文学は、読者を楽しませる為にある程度書き手が読み手の反応を予想・規定して書き上げるものなのではないでしょうか。という個人的な定義を掲げつつ、それでは早速ご紹介していきます。

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