2021年8月にwebコミックサイトヤングエースUPで連載スタートするや話題沸騰し、第一巻の単行本が即重版されたモクモクれん『光が死んだ夏』。 本作はBLとオカルトホラーを融合させた傑作であり、読者の背筋をぞくぞくさせる演出や謎多きストーリーが注目を集めています。 今回はそんな『光が死んだ夏』のあらすじや登場人物、魅力をご紹介していきます。
舞台となるのはある田舎の集落。駄菓子屋の軒先のベンチで、二人の高校生が会話しているシーンから始まります。
主人公・よしき(左)には幼い頃から何をする時もずっと一緒の幼馴染・光(右)がいました。高校生になってもガキっぽくアホでうるさい光ですが、よしきはそんな彼に単なる友人以上の感情を抱いており、卒業後に進路が分かれるかもしれない可能性を密かに憂えています。
そして訪れた夏、光が裏山で一週間行方不明になります。その後無事に帰ってきたものの、よしきは光の中身が別物になっているのを見破りました。
実は光は山で死亡しており、現在よしきの隣にいるのは光に成り代わった人外の存在だったのです。
衝撃の真相に動揺するよしき。されど化け物と知り得てなお光への思慕は断ち難く、幼馴染が完全にこの世からいなくなるよりマシだと受け入れます。
以降表面上は以前と変わらず友達付き合いを続けるよしきと光でしたが、光を「ノウヌキ様」と呼ぶ老婆の登場をきっかけに、村の日常はゆっくり狂い始めました……。
『光が死んだ夏』の見所は日本の田舎の原風景と、活字で表現される擬音のちぐはぐな怖さ。
ひぐらしが鳴く畦道、老婆が営む鄙びた駄菓子屋。その軒先のベンチに並んでアイスを齧る高校生たち……第一話からノスタルジーを誘われますね。
そんな情景描写に違和感を生み出しているのが、活字で表現される擬音。ひぐらしの鳴き声「シャワシャワ」がコマを跨いで無限に描写されることにより、これから何かとんでもないことが起きるんじゃないかと、読者にプレッシャーを与えていました。
この擬音は意識的に使い分けられており、主に虫や動物の鳴き声、化け物が立てる音が活字で表現されます。よしきの息遣いや椅子を蹴立てる音などは普通に手描きであり、作者の細やかなこだわりが感じられました。
自然豊かな田舎の風景と無機質な活字の組み合わせが生み出す独特の空気感、じっとりした湿度の高さが、『光が死んだ夏』に生理的な気持ち悪さを付与しているのは間違いありません。
リアルタッチの人物の風貌も生々しい感情を伝えてきます。
次に挙げる見所はギャグとシリアスの落差。
『光が死んだ夏』の軸となるのはよしきと光。お互いの家を行き来したり学校で過ごす、二人の日常が描かれていきます。日常パートは笑えるシーンが多く、キャラクターの変顔に吹き出してしまいました。
だからこそ緩急が利いており、ホラーパートに突入した際の恐怖が際立ちます。第一話、光の顔が崩れてデロリと得体の知れない中身が覗く瞬間が良い例。
拷問のイントネーションが肛門になっている、と直前までバカ丸出しの会話をしていたのが消し飛ぶショッキングな場面です。
平和で退屈な日常が非日常に裏返る瞬間のおぞましさをご理解いただけるのではないでしょうか。
よしきと光が喋るユルい方言にも注目してください。よく読むと関西弁とは微妙に違うのですが、ボケとツッコミを自然体で分担している為、コミカルな掛け合いが光ります。
二人のコントにくすっとした直後、思いがけない方向から冷や水を浴びせられる……ホラー好きにはたまりません。
『光が死んだ夏』はホラーBLに分類されます。
BLなので男の子同士の絡みもありますが、現状スキンシップの範囲にとどまっており、キスや直接的な行為の描写は全くありません。
一方、光が自分の胸によしきの手を突っ込ませるなど、この設定だからこそできる意味深な描写でインモラルなエロスを醸し出しているのが見事。
ホラーとしての完成度も非常に高く、光の中に入っている「ノウヌキ様」の正体や光の一族が司るお山の秘密など、田舎特有の土俗的因習が絡んだ展開に期待が高まります。
ノウヌキ=脳抜きなら、「人間の脳を抜く・乗っ取る存在」でしょうか?もしそうなら光もまた、脳と体に寄生されてしまったのでしょうか。
読めば読むほど謎が深まります。
さらに言及しておきたいのが、よしき達が集団下校中に林道で目撃した「く」の存在。これはひらがなの「く」そのものに見える何かで、林道の奥に立ち、よしき達を見ていました。
「く」で想起されるのは2ちゃんねる発の有名な怪談、くねくね。あちらは田んぼ、こちらは林と出現場所の違いこそあれ、よく似ていると言わざるえません。
作者が意図的に似せたのかどうかわかりませんが、もしそうなら先行する都市伝説や怖い話へのリスペクトが感じられるので、一切手抜きをしないホラー描写にも納得です。
BLの萌えとホラーの恐怖が同時に味わえる欲張りな漫画、それが『光が死んだ夏』なのです。タイトルがよしきの希望の象徴の光と親友の光、ダブルミーニングになっているのも憎いですね。
- 著者
- モクモク れん
- 出版日
- 著者
- ["藤野 晴海", "片山 愁"]
- 出版日
『光が死んだ夏』にハマった人におすすめしたいのが、片山愁『ナナシ ~ナくしたナにかのさがシかた~』。
こちらはネットのオカルトサイト発の怖い話をコミカライズした作品で、メインの少年たちの関係性が、どこか光とよしきを彷彿とさせます。
端正な絵柄で表現されるホラー描写は迫力満点なので、ぜひ一度読んでください。
同じ片山愁が作画を担当する『師匠シリーズ』もおすすめです。