サンデーうぇぶりで連載中の漫画、的野アンジ『僕が死ぬだけの百物語』。意味深なタイトルや演出、本格的なホラー描写で連載当初から話題沸騰の本作は、残すところあと三十話となり、クライマックスを迎えています。 今回は『僕が死ぬだけの百物語』の魅力やあらすじ、登場人物をご紹介していきます。怖い話が好きな人は必見です。
「私は本気で言ったわけではありません。ただ、このままではユウマくんは本当に死んでしまうと思いました」
ある日の放課後、小学生のヒナちゃんは教室の窓から飛び下りを企てるユウマくんを目撃。彼の気を逸らす為、咄嗟の機転で百物語のことを教えました。
「あのね、ヒナちゃんがこの前百物語っていうのを教えてくれたの。それはね、全部終わった時にね、本物の幽霊が出るんだって」
その日からユウマくんは毎晩一話、怖い話を語っていきます。
自分が知ってる話やヒナちゃんから聞いた話など、ユウマくんが語る怖い話は多岐に渡りました。
怖い話をしている最中、ユウマくんの視線は正面に固定されています。彼が使用する学習机の上に「何か」が存在しているらしいのです。
ユウマくんは度々その「何か」に喋りかけ、手を伸ばし位置を調整するなど、不審な行動をとっています。我々読者に「何か」の正体は開示されません。ばかりか、我々は得体の知れない「何か」の視点でユウマくんの百物語を聞いているのです。
さらにはユウマくんの周辺にも異変が起こり始めました。
母親とおぼしき人物に何故か敬語を使い、週末に帰宅する「あの人」の気配に怯えるユウマくん。深夜に突然ドアが開いて子供部屋に強風が吹きこんだかと思いきや、怪しい物音が連続します。
やがてユウマくんが虐待を受けている事実が明らかに……。
ヒステリックに喚いて手を上げ、息子が大事にしているぬいぐるみを捨てる母親。
子供部屋に殴り込んで物を壊す父親。
押し入れに閉じ込められ衰弱していくユウマくん。
やがて決定的な事件が起きます。ユウマくんに折檻を加えた母親が「何か」に襲われ、入院を余儀なくされてしまうのです。
以来母親は息子の一挙手一投足に怯え、ユウマくんの周囲に不穏な気配が立ち込め始めます。
この事件をきっかけに両親の虐待を疑った若い警官は、ユウマくんの告発をもとに家から引き剥がし保護せんと接触を試みるものの、ユウマくんは他人が部屋に出入りするのを嫌がり、二階の窓から突き落としてしまいました。
ユウマくんはこれからどうなるのでしょうか?
- 著者
- 的野 アンジ
- 出版日
的野アンジ『僕が死ぬだけの百物語』は現在サンデーうぇぶりやLINEで連載されており無料で読めます。
本作の特徴は一話完結でサクッと読めるオムニバスホラーであること。
一応はユウマくんが語り手の体裁で進むものの、個々の話に繋がりはなく、登場人物にも接点がない為、何話か読み飛ばしてもストーリーがこんがらがることはありません。タイトルやサムネイルでピンときたエピソードを試し読みするのも大いにアリ。
一方、ホラー描写の方は本格的。グロテスクでショッキングな人体損壊シーンを含み、絵で怖がらせようとする作者の気概が伝わってきます。
『僕が死ぬだけの百物語』はホラー好きユーチューバーの間で密かな話題を呼び、人気ユーチューバーのかいばしらも、動画で絶賛していました。
チャンネル登録者数47万人を誇る人気ユーチューバー甲賀流忍者ぽんぽこも、2022年に買ってよかったものランキング漫画部門で『僕が死ぬだけの百物語』を取り上げています。
他、次にくるマンガ大賞にもノミネートされるなど、着々と読者を増やし続けています。
作者の的野アンジが公式SNSにお気に入りのエピソードを転載し、宣伝しているのもポイント。
人外に脅かされるオカルトはもとより生きてる人間の狂気に戦慄するヒトコワ、理不尽な結末を迎える後味悪い話からしんみり心温まる話まで、70話以上あるエピソードからお気に入りを見付けるのも一興ですね。
筆者のおすすめは『第二十四夜 裏面』『第三十五夜 ハッピーバースデー』『第三十八夜 山離れ』『第四十七夜 二人乗り』『第四十九夜 大きな音』『第五十九夜 トンネル』。
過激なグロ描写に注目がいきがちですが、叙述トリックを用いて二重三重のどんでん返しを仕込んだ回も多く、サスペンスを盛り上げるストーリーテリングの巧みさに脱帽します。
- 著者
- 的野 アンジ
- 出版日
毎回語られる百物語が横軸としたら、ユウマくんの背景の掘り下げは縦軸。
一話冒頭から自殺を企てる時点でユウマくんが情緒不安定な事は伝わりますが、何故そんなことをしたのか、詳しい事情は知らされません。されど同級生のヒナちゃん曰く、ユウマくんは自殺未遂以外にも度々「危なっかしい行動」をとっていたそうで、家庭環境に問題あることが匂わされます。
怖い話を始める前に1ページ、終了後に2ページ、ユウマくんが「何か」に向かって語りかけるのですが、その「何か」の正体は謎のまま。親が入ってくる時は慌てて隠しており、家族にばれたらまずいものであると仄めかされます。
我々はユウマくんの机上の「何か」と視点を共有し、終始同じアングルから子供部屋を眺め続けます。もうおわかりでしょうか、『僕が死ぬだけの百物語』はユウマくんの部屋の中だけで起きている事なのです。
ドアの向こうはどうなっているのか、他の家族はどうしているのか……我々は数少ない断片から想像を働かせるしかありません。
母親に敬語で接するユウマくん、週末に帰宅する「あの人」、深夜に相次ぐ怪しい物音と叫び声……やがてユウマくんが虐待を受けている事実が明らかになるものの、何故家庭が崩壊してしまったのか、問題の核心には触れられません。
ユウマくんの言動から推し量るに、彼が人ならざる「何か」と交流を持ったことが、両親の豹変を招いたのでしょうか。あるいは順番が逆で、両親の虐待が与える過度のストレスが人ならざるものを見せたのでしょうか。
もっと言ってしまえば、ユウマくんと同居する女性は本当に母親なのでしょうか?
父親らしい人物は何故週末しか帰ってこないのでしょうか?
『第四十七夜 二人乗り』『第五十九夜 トンネル』よろしく、巧みなミスリードで関係性を誤認させているなら、ユウマくんの家に上がり込んで彼を虐げる男女は、実際の両親ですらないかもしれません。
百物語は中盤以降急展開を迎え、警察に連れて行かれたユウマくんの代わりにヒナちゃんや警官が飛び入りで語り手を務めます。この警官は両親の虐待を疑い、保護を目的にユウマくんに付き纏うものの、他ならぬ彼に窓から突き落とされて亡くなってしまいました。
お見舞いにきたヒナちゃんに後始末を手伝ってもらい、漸く日常を取り戻したかに見えた矢先、公園で死体が発見されたニュースが飛び込み、またもやユウマくんに疑惑の目が向きます。
『僕が死ぬだけの百物語』は、タイトル通りユウマくんの死で終わりを迎えてしまうのでしょうか。語り手の死が避けがたい運命として、それは自殺と他殺、ユウマくんちを徘徊する「何か」が関わる変死のどれなのでしょうか……。
- 著者
- 的野 アンジ
- 出版日
『僕が死ぬだけの百物語』を読んだ人には『学校の怪談』シリーズをおすすめします。『怪談レストラン』と並んで子供に人気のホラー短編集で、子供の頃に学校の図書室で読んだ人も多いのではないでしょうか?
が、子供向けと侮るなかれ。
トラウマ級の話が数多く収録されており、本作がきっかけでホラー好きになった子供は決して少なくありません。トイレの花子さんをはじめ口裂け女や人面犬など、日本全国の都市伝説にも詳しくなれます。
- 著者
- ["常光 徹", "楢 喜八"]
- 出版日
- 著者
- 出版日
- 1996-07-10
続いておすすめするのは綿貫芳子の『となりの百怪見聞録』。
怪異に好まれるゲイの装丁家・片桐甚八と、オカルトに造詣が深い老紳士・原田織座のバディが、幽霊や妖怪に纏わる様々なトラブルに巻き込まれていきます。絵で魅せる恐怖表現にこだわっており、読後はぞぞ~っと背筋が冷えます。
ぜひ独特の世界観を味わってください。
- 著者
- 綿貫 芳子
- 出版日