今や社会現象と化した大人気コンテンツ「ウマ娘」。『ウマ娘プリティーダービー スターブロッサム』はその流れを汲むスピンオフ漫画で、実在した競走馬サクラローレルにスポットを当てた青春スポーツ作品です。 史実を反映した泥臭いストーリーは、先行作品に勝るとも劣らない魅力に溢れています。この記事では『ウマ娘プリティーダービー スターブロッサム』の概要や魅力、見所を元ネタを交えてご紹介していきます。単行本の内容などでネタバレを含むのでご注意ください。

『ウマ娘プリティーダービー スターブロッサム』(以下、「スターブロッサム」)は2023年4月から連載中の青春スポーツ漫画です。掲載媒体は集英社のWeb漫画サイト「となりのヤングジャンプ」および漫画アプリ「ヤンジャン!」、「少年ジャンプ+」の3つ(「少年ジャンプ+」の更新は2024年12月で終了。現在は「となりのヤングジャンプ」と「ヤンジャン!」で連載中)。
『ウマ娘プリティーダービー』(以下、「ウマ娘」)は実在の競走馬をモチーフとした、美少女キャラクターを育成する大人気ゲームです。クオリティの高いビジュアルとゲーム性、良質なストーリーで人気が沸騰、今や現実の競馬も盛り上がる社会現象となっています。
本作「スターブロッサム」はゲームにも登場する、サクラローレルを主人公とした作品です。特定キャラクターにフォーカスしたスピンオフとしては、オグリキャップが主人公の『ウマ娘シンデレラグレイ』(以下、「シンデレラグレイ」)に次ぐ2作目。
「スターブロッサム」はウマ娘とトレーナーの二人三脚にフォーカスが当たっており、地道に一歩ずつ成長していく泥臭い様子が、「シンデレラグレイ」との相違点です。
今のところ「スターブロッサム」物語はややスロースターター気味ですが、史実のサクラローレルをベースにしているため、尻上がり(ウマ娘的には尻尾上がり)的に面白くなるのは間違いありません。
物語はトレセン学園のチーム「アルケス」サブトレーナー、明石椿(あけいしつばき)の視点で始まります。椿は馬耳と尻尾を生やした「ウマ娘」をサポートし、日本中央レース「トゥインクル・シリーズ」の勝利を目指す指導者の卵……なのですが、彼女の目はより高いところを向いていました。
日本のウマ娘による世界最高峰のGIレース、フランスの「凱旋門賞」制覇。いまだかつて誰も成し遂げたことのない、まさしく前人未踏の大それた夢です。椿には理解者も、その夢を乗せて走ってくれるウマ娘もいませんでした。
そんな椿はある年の暮れ、ジュニア級チャンピオンを決めるGI「朝日杯ジュニアステークス」で運命の出会いを果たします。鮮烈で強烈な大マクリを決めた勝者ナリタブライン――ではなく、同じレースを観戦していたウマ娘サクラローレル。
サクラローレルはナリタブライアンのライバルを自称し、さらにその先、世界の頂点「凱旋門賞」を狙っていました。
まだ一介のサブトレーナーに過ぎない椿と、まだ1勝どころかレース出走すらままならないサクラローレルの出会い。同じ夢を見る2人の長く険しい、挑戦の日々が始まります。
「スターブロッサム」には多数のキャラクターが登場しますが、ここではスタート時点で物語に関わる重要人物をご紹介していきましょう。以降は実馬との混同を避けるため、ウマ娘を指す際は特記する場合を除いて、基本的に冠名を省略して表記(サクラローレルならローレル)します。
主人公はサクラローレル。「夢は世界(凱旋門賞)」と豪語する、ひたむきな性格のウマ娘です。光る才能を持ちながら身体的には未成熟で、特に足は「ガラスの脚」といわれるほど脆く、走るだけでダメージを負ってしまうほど。
元ネタは1991年生まれの同名馬。キャラクターの外見としては、瞳の花模様と両耳には名前の由来である月桂樹の髪飾りが特徴です。本編では未登場ですが、勝負服はピンクと白を基調とした華やかなセーラー服+半ズボン。これは大本の馬主である、株式会社さくらコマースのピンク地に白の一本線の勝負服をアレンジし、冠名「サクラ」をイメージしたデザインです。
もう1人の主人公といえるのがチーム「アルケス」の明石椿。フランス帰りで将来を嘱望される有能な若手サブトレーナー……のはずですが、1つのことに集中すると他がおろそかになるドジっ子気質で、チーム所属のウマ娘たちから舐められがち。父の明石梧郎(ごろう)はチーム「アルケス」のチーフトレーナーです。
モデルはおそらく小島太(こじまふとし)騎手。境勝太郎(さかいかつたろう)調教師のもとでサクラローレルのデビューから2年目まで騎乗し、のちに境勝太郎調教師から引き継ぐ形でサクラローレルの調教師になった人物です。
そしてライバルのナリタブライアン。ジュニア級で早くも世代最強と目される強豪ウマ娘です。今のところ出番自体は少ないですが、泥臭く這い上がローレルの最大の目標となるでしょう。
モデルは1994年のクラシック(3歳馬のこと。当時は数え年で4歳)時点では、日本歴代最強馬との呼び声も高い同名馬。勝負服の特徴である首飾り(と鼻のテープ)は元馬のトレードマークだったシャドーロールの表現で、随所にあしらわれたしめ縄は冠名「ナリタ」の由来である成田山不動尊をイメージしたものといわれています。
ローレルのチームメイトとなるのが、サクラバクシンオーとサクラチヨノオー。トゥインクル・シリーズ経験の先輩として、ローレルをサポートしてくれます。いずれも同名馬がモデルになっており、世代は違いますが冠名と境勝太郎厩舎繋がりで登場。
「ウマ娘」コンテンツをある程度ご存知で、本作未読のかたが気になるのは「スターブロッサム」と「シンデレラグレイ」の違いでしょう。結論からいえば、「スターブロッサム」と「シンデレラグレイ」はまったく違う物語です。
まず主人公の立ち位置、お話のスタートが別物。「シンデレラグレイ」は才能溢れるオグリキャップの地方デビューから始まる、文字通りのシンデレラストーリーです。一方で「スターブロッサム」はローレルの身体が未成熟で、同世代よりデビューが遅れており、しかも足に爆弾を抱えた状態というゼロどころかマイナス状態で始まります。
また実馬の成績で比べても、派手で痛快なオグリに対して、ローレルは一進一退のじりじりした勝ち上がり。どちらが優れているという話ではなく、残した結果の質や見所が異なるため、史実をモチーフとしたレースの描写も自ずと違ってきます。
最強ブライアンに至るまでの苦難の道のりを、悩んだり焦ったりしながらも、一歩ずつ着実に上っていくのが「スターブロッサム」の魅力。
「スターブロッサム」の魅力であり特徴でもあるのが、ローレルと椿が二人三脚で課題やレースに取り組むところです。
「シンデレラグレイ」を踏む他媒体でもトレーナーは登場しましたが、メインになるのはあくまでウマ娘でした。ところが本作ではローレルの未熟な部分を補い、レースの不安要素を取り除くべく、椿がトレーナーとしてしっかり活躍します。ゲーム「ウマ娘」既プレイの方には、育成ストーリーのトレーナーとウマ娘の関係に近いといえばわかりやすいでしょうか。
目標に向かって問題点を洗い出し、戦略を立てる。その試行錯誤の過程で生まれる絆が読んでいて心地よいです。信頼関係があるからこそ成り立つ、「スターブロッサム」ならではのレースに注目してください。
すでに挙げた魅力と重なるところがありますが、「スターブロッサム」最大の魅力はレースに対する泥臭い情熱にあります。
史実のサクラローレルは初勝利が未勝利戦で、その後も本格化するまで安定した走りができず、決してシンデレラストーリーで語れる競走馬ではありませんでした。本作もそういった背景を踏まえているため、序盤は歯がゆい場面が何度も描かれます。
負けを負けとしてしっかり描写し、次に繋げようとするのが本作の素晴らしい点。
サクラローレルは間違いなく名馬です。勝利したレースだけを力強く描写するのは難しくないでしょう。しかし、その馬生はやはり、苦しい下積みと切っても切り離せません。序盤の低空飛行で評価を落とす可能性があるにもかかわらず、真っ向からサクラローレルの物語に取り組んでいるのが見事。
それは主人公サイドに限らず、レースでのライバルも同様です。デビュー戦でも未勝利戦でも、結局のところ優勝はたった1人。その1勝に賭ける想いの強さは皆同じです。ライバルにも焦点を当てて、明暗を浮き上がらせるのがたまりません。
何度つまづいても折れず、目標に向けてひたむきに突き進む、飽くなき勝利への執念。この泥臭さが「スターブロッサム」の魅力といえます。
「朝日杯ジュニアステークス」の観客席で、勝者ブライアンのライバルを自称したローレル。翌日、どうしても気にかかった椿は、彼女の出走する模擬レースを観戦します。
身体は未完成で走りもバランスもてんでバラバラ。それなのにローレルの輝きから目を離せなくなりました。
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- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
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椿はローレルをスカウトし、チーム「アルケス」に引き入れようとするのですが……チーフトレーナーの梧郎が待ったをかけます。ローレルのガラスの脚はあまりにも危うく、生半可な覚悟で関わるべきではないと。
話し合いの最中、ローレルの態度が気に入らなかったヨシノプリヴェールが乱入。1対1の模擬レースで決着をつけることになります。
間違いなく実力はあるのに、さまざまな事情から実力を発揮しきれないもどかしさ。読んでいるとレース運びの妙に脚質に合った作戦など、ただ走るだけに思えるレースが、いかに難しいかを思い知らされるでしょう。
負けることでも見えてくるものがある、というのが第1巻の見所です。
実馬のサクラローレルは、母ローラローラがフランスから輸入された繁殖牝馬です。日本に来た時、ローラローラはすでに初仔を受胎しており、その仔がサクラローレルと名付けられました。
父は1985年の凱旋門賞勝利馬レインボウクエストで、馬主が「凱旋門賞」を勝つ馬を生産するために購入したうちの1頭がローラローラだったことと合わせて、「凱旋門賞」を目標とするウマ娘ローレルの設定が作られたものと思われます。
幼少期のサクラローレルは成長が遅い上に虚弱で、間接が弱かったそうです。新馬戦で骨膜炎、「日本ダービー」直前に球節炎を発症するなど、脚部に問題が多かったことがローレルの「ガラスの脚」に反映されたのでしょう。
ちなみに劇中で模擬レースに出ているローレルは、脚がアンバランスなほど長く見える構図が多いです。作画担当の手癖の可能性もありますが、実馬も幼少期は「ひょろ長くて不格好だった」と評されているので、その再現かもしれません。
ヨシノプリヴェールは本作オリジナルのウマ娘です。毛量の多いボサボサの長髪と十文字の流星、つり目とギザギザの歯が特徴。レースで負けたブライアンに執着しています。
ヨシノはソメイヨシノ、つまり桜。プリヴェールは英語で「勝利」、フランス語では「サクラソウ」を意味する言葉です。桜とサクラソウ、そして勝利=栄光から連想すると、おそらくモデル馬はサクラエイコウオーでしょう。
サクラエイコウオーはナリタブライアンと直接対決の経験がある馬です。「皐月賞」、「日本ダービー」のクラシック路線を含むレースで3戦3敗。サクラローレルとは厩舎が同じで、主戦騎手も同じ小島太騎手でした。気性難の暴れ馬だったらしく、小島騎手も乗るのが難しかったと述べています。
こういった史実の繋がりから、本編のような椿を困らせたり、ブライアンにこだわりのあるウマ娘としてローレルに絡めたのでしょう。
「サクラ」冠名なのでそのまま登場させることもできたはずですが、「スターブロッサム」はあくまでローレルの物語なので、直接フォーカスの当たらないサクラエイコウオー名義は見送られたのだと思われます。
ちなみにサクラエイコウオーは32歳(人間に換算すると90~100歳相当)で、2023年10月現在存命。JRA最高齢重賞勝利の引退馬として新和牧場で繋養されています。
登場人物紹介で少し触れましたが、明石椿のモデルはおそらく小島太騎手です。父・梧郎の方もモデルらしき人物がいて、それは境勝太郎調教師。名字が違うのでわかりづらいですが、実は境調教師の娘が小島騎手の妻で、すなわち2人は義理の親子なのです。
小島騎手は境調教師が引退する際、サクラローレルを含む管理馬を引き継ぐ形で調教師に転身しました。この辺りを反映して、梧郎と椿親子がチーム「アルケス」のチーフトレーナーとサブトレーナーに設定されたのでしょう。
そしてちびっ子ウマ娘育成クラブ「ヴィクトリー倶楽部」は、境勝太郎調教師の厩舎が元ネタ。根拠は所属しているウマ娘はすべて境勝太郎厩舎なことで、名称の由来は勝太郎の「勝」で間違いありません。チーム「アルケス」と所属ウマ娘が被っていますが、「スターブロッサム」のために改めて設定し直されたせいでしょう。
ローレルのメイクデビュー(デビュー戦)は枠番とウマ番、人気、結果ともに史実通り。本編同様にブロックされたかまでは定かではありませんが、1番人気からマークされた可能性はあります。
デビュー戦でその他大勢のモブウマ娘に交じって、一際異彩を放っていたのが13番のパワフルラビット。名前とデザインからウマ娘というよりウサギ娘にしか見えませんが、モチーフとなったモデル馬が特定されています。実際に同じ13番を背負い、逃げてレースを引っ張った牝馬(メス)アロットオブギフトです。
ウサギっぽくなっているのはいくつか由来が考えられますが、名前のギフトを授かり物と解釈すると、幸運と関連付けられます。ウサギは幸運の象徴であることから連想して、キャラクターが決められたのかもしれません。
他の由来としては、4番目と5番目の仔がブルーフルパワーとムーンラビットという名前なので、それぞれ名前の一部を借りて名付けられた可能性はあります。しかし、なぜ4番目と5番目の仔が選ばれたかが不明です。
実はサクラローレルは引退後、2001年にアロットオブギフトと交配しています。残念ながら流産したそうですが、もし産まれていれば6番目の仔になっていました。2頭が直前の兄姉(競走馬は母が同じだと兄弟扱い)なので、名前の由来に選ばれたとも考えられます。
蛇足ですがアロットオブギフトは、「ウマ娘」でお馴染みのウイニングチケットとも交配して仔を産んでいます。
デビュー戦9着という厳しい結果。1番人気を背負っての大敗でしたが、ローレルと椿はめげることなく翌週もメイクデビューレースへ挑戦します。今度は3着と大幅に順位を上げるものの、右足首に無視出来ないダメージを負ってしまいました。
勝たなければいけない。けれど無理は出来ない。そこで椿は足への負担が少ないダートレースを選択します。
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- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
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絶対安静で次のレースを待つローレルは、自分と同じく勝ち上がりを目指すシュガーネイションと出会いました。2人いる彼女の姉は遅咲きの重賞勝ちウマ娘で、ローレルは良い刺激を受けました。
ローレルとシュガー。悲願の初勝利を志す2人は、運命のいたずらか、次のレースでかち合うことに……。
レースの勝者はただ1人。勝ち上がることの難しさ、そして勝負の厳しさを思い知らされるエピソードとなっています。
サクラローレルは史実の新馬戦で1番人気でしたが、9着とあえなく大敗。連闘で挑んだ翌週の2度目の新馬戦でも勝てなかったものの、順位を上げて3着となりました。1戦目はいいところがありませんでしたが、2戦目は不安視されていた脚部の骨膜炎が影響していそうです。
サクラローレルが1番人気だったのは、父が「凱旋門賞」勝ち馬レインボークエストなことが高く評価された結果。レインボークエスト産駒は当時、すでに「凱旋門賞」や「エプソムダービー」を制覇する中長距離のGI馬が誕生しており、そこからサクラローレルも期待されていたわけです。
なお2度の新馬戦というのは誤記ではありません。2002年までは開催内(簡単に言うと同じ競馬場での1ヶ月間の日程)であれば何度も新馬戦に出走して良いルールがあり、最大4回まで新馬戦に出走出来ました。2度目以降は「お返しの新馬戦」とも言います。
ちなみにローレルやブライアンの1世代上に当たる、「ウマ娘」でもおなじみのウイニングチケットも新馬戦に2度出ています。
シュガーネイションは本作のオリジナルウマ娘で、出走レースの着順からモチーフはリアルシャダイ産駒のシクレノンヴォルクで間違いないでしょう。あまり勝てなかったものの芝とダート両方で走っており、1着2着に入っているのがダートなので、ダート向きの競走馬だったようです。
長女モンシュシュクレ、次女シュガーセーフティはそれぞれムッシュシェクルとシクレノンシェリフと思われます。3頭とも馬主も父母も同じ全兄・全弟の関係。競馬は母馬が同じだと兄弟と扱い、父馬が違うと半兄・半弟と表記します。
一般的に有望な種牡馬(父馬)に繁殖牝馬をあてがうので、馬主も父母も同じ3兄弟は結構珍しいです。シュガーネイションたちが仲の良い姉妹として描写されているので、その辺りが関係していそう。
ちなみに「シュクレ」はフランス語の「砂糖」を意味する単語で、姉妹3人ともウマ娘名が砂糖関連だったりします。これはモチーフ元の母馬の名前がダイナシュガーだったからでしょう。
またシクレノンヴォルクの「Volk」はドイツ語で「民衆」を意味しており、「Nation」=「国民」に対応しています。モンシュがフランス語の「モンシェール(親しい人)」だとすると敬称「ムッシュ」、「シェリフ(保安官)」を安全を守る人と解釈すれば「セーフティ」となり、2人ともモチーフと繋がっていると言えなくもありません。
モンシュシュクレが勝った「日経新春杯」の元ネタは1994年1月23日開催のレース。史実の着順は1着ムッシュシェクルで、「ウマ娘」にも登場しているメジロパーマーは2着でした。
この時のメジロパーマーは8歳(現7歳)。春秋グランプリ覇者とあってか、出走馬中最大のハンデとなる60.5kgの斤量(現在一般的な斤量は58kg。1kgで1馬身差が出ると言われている)を背負う過酷なレースでした。
レース後にメジロパーマーは右前脚に屈腱炎を発症し、完治の目処が立たなかったことから引退。「日経新春杯」が現役最後の出走となりました。
元ネタは1994年1月30日開催のダート1400m「4歳未勝利戦」。本編での展開はかなり忠実に描かれており、サクラローレルが中団後方に控えるのに対して、シクレノンヴォルクは先行策を取りました。
スタートから中盤はほぼ団子状態。最終コーナーを抜けたシクレノンヴォルクは、好位につけたものの脚が残っていなかったのか、なかなか上がっていけませんでした。
一方でサクラローレルは集団の大外を回って一気に加速。このサクラローレルに引っ張られる形で、馬体を合わせたシクレノンヴォルクも急にスピードを上げますが力及ばず、結局3馬身もの着差で決着がつきました。
ゲーム「ウマ娘」や「シンデレラグレイ」を見ていると、重賞勝ちが当たり前に思えてきますが、実態はまったく別です。新馬戦(未勝利戦)・条件戦をおおむね2~3回勝ち、オープンクラスに上がってからようやくGIII~GIの重賞レースへ挑戦出来るようになります。
当たり前ですがレースで優勝出来るのは基本的に1頭のみ。ほとんどの競走馬はたった1勝すら出来ずに競走生活を終えます。勝ち上がれるのはほんの一握りで、重賞を勝てるのはさらにその上澄みだけです。
例え未勝利戦であっても、たった1つの優勝を巡ってしのぎを削るレースは凄まじく、また勝利の大きさは重賞に勝るとも劣りません。他のメディア展開作品と違って、こうした泥臭い要素を丁寧に拾って、物語に昇華しているのが「スターブロッサム」と魅力と言えます。
「皐月賞」出走へ向けた2勝目を上げるため、ローレルは1800mダート戦に挑みました。最大の敵はデビュー戦で圧勝し、すでに高い評価を得ているスノウインハザード。今のローレルにとって完全に格上の彼女にあえて挑んだのは、それくらいの壁を越えられないようでは、打倒ブライアンを成し遂げられないという意気込みからでした。
ローレルは強引なポジション取りで食らいつきましたが、本気を出したスノウインハザードの異常に低く沈み込んだフォームの走りに跳ね返され、2着で終わってしまいます。
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- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
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全力以上を出して負けて悔いなし……ではあるものの、敗北は敗北。ローレルはクラシック路線の初戦、GI「皐月賞」でブライアンと戦う権利を失いました。
あがいても、もがいても、限界を超えてぶつかっても超えられない高い壁。それはローレルに限らず、クラシック路線を歩むすべてのウマ娘の前にありました。
同世代を歯牙にもかけない王者ブライアン。何度跳ね返されても挫けず立ち上がれる者だけが、絶対的存在の背中を捉えられるのかも知れない……第3巻はそんな風に思えるエピソードでした。
登場前からある程度予想されていたウマ娘、スノウインハザードが本格的に登場しました。
元ネタの実馬は米国3冠馬シアトルスルー産駒のタイキブリザード。マイル~中距離戦で目を見張るパフォーマンスを発揮し、アメリカ競馬の最高峰GI「ブリーダーズカップ・クラシック」に2度挑んだ名馬です。
スノウインハザードの由来は、雪あるいは吹雪の災害であるブリザードから。実馬がかなり大柄な馬だったため、劇中でも長身のウマ娘に描かれています。実馬の体重が「ウマ娘」でもお馴染み、巨体で有名なヒシアケボノに匹敵するレベルと言えばわかりやすいでしょうか。
タイキシャトルと同じタイキ冠名繋がりで実名での登場が期待されていましたが、ひとまずお預けとなりました。
ローレルとのレース中、極端な前傾姿勢を見せたスノウインハザード。これは実馬タイキブリザードが、首を低く下げてまるで地を這うように走ったことが元ネタです。
タイキブリザードは史実のレースで、岡部幸雄騎手の追い出しに合わせてこの走法を見せ、サクラローレルの猛追をしのぎました。
GI「皐月賞」への優先出走権を賭けた「弥生賞」での一幕。出走直前にローレルの無念を汲んだヨシノプリヴェールが、自ら額をゲートにぶつけて気合いを入れる様子がありました。
実馬が頭をぶつけた事実はありません。しかし、1994年「弥生賞」でサクラエイコウオーが発走前に立ち上がる場面はありました。
サクラローレルが負けたのは「弥生賞」と同日、同じ中山競馬場で午前中に行われた条件戦「4歳500万下」でしたが、もちろん敗北の無念がサクラエイコウオーに影響したわけではないでしょう。
興奮した馬がゲート内で立ち上がることは、レースではさほど珍しくありません。個別の出来事を上手く物語に盛り込み、ドラマチックに描いた好例と言えます。
史実と同様にGI「皐月賞」を圧勝し、レコードタイムを更新したブライアン。これは前年勝者ナリタタイシンのタイムを0.5秒上回り、さらにその前のレコード保持者である1984年のシンボリルドルフより1秒以上早い記録でした。
劇中でハヤヒデの「皇帝越え」発言と、ブライアンの勝ち方を見たルドルフが総毛立った理由は2つ。おそらくナリタブライアン(3歳時点)が今でも歴代3冠馬最強と言われていることと、当時シンボリルドルフの7冠越えを期待されていたことが反映された結果です。
ブライアンの「皐月賞」勝利を受けて、ローレルだけでなく新たに2人のウマ娘がちらりと登場しました。見れば一目瞭然ですが、マヤノトップガンとマーベラスサンデーです。実馬2頭はサクラローレルの1世代下ですが、のちに合わせて97年の古馬3強と言われる存在。
なお、マヤノトップガンもマーベラスサンデーも遅咲き。怪我や病気でデビューが遅れて、ナリタブライアンのクラシックの時点ではまだ走っていません。
チーム「アルケス」にあとから合流したアマギハピネス。元ネタはサクラチヨノオー産駒のサクラスーパーオーです。名前は桜の品種アマギヨシノと、引退後に乗馬になっていたころの名前タカオハピネスを組み合わせたもの。
サクラ冠名ですが境厩舎ではなく平井雄二厩舎所属だったため、ローレルらとは別枠の扱いになったのでしょう。
サクラスーパーオーは世代屈指の鋭い末脚で期待されていましたが、「皐月賞」敗北後に屈腱炎を発症し、「日本ダービー」には出走出来ず長期間の療養を余儀なくされました。
怪我繋がりで、マツカゼリュウオーにも触れておきましょう。元ネタはナムラコクオー。
名前の由来は実馬が『北斗の拳』ラオウの愛馬・黒王号から名付けられたので、同じ原哲夫作品の『花の慶次』に登場する松風(黒王と同じくらい大きな馬)から取られたのではないでしょうか。
ナムラコクオーはナリタブライアン打倒の本命と目されていましたが、屈腱炎で「皐月賞」を回避。「日本ダービー」には出走出来たものの、中央から高知に移籍して好成績を残しました。
競走馬として致命的な屈腱炎を何度も発症しつつ、そのたびに復帰しては、10年以上現役を続けた凄い馬です。実はこのナムラコクオーこそ、「負け組の星」ことハルウララが登場するまで、高知の地方レースを盛り上げ続けた功労馬だったりします。
「日本ダービー」と同じ条件、同じレース場で行われるGIII「青葉賞」。出走ウマ娘全員の思いは1つでした。ここを勝ちきって、“怪物”ブライアンに挑戦状を叩きつけること。真ん中ダンスリムリック、大外セレスタルポール、最内ローレル。3人もつれるようにゴール板を越えて、勝ったのはダンスリムリックでした。
ひとまず決着がついたものの、接戦を演じた当事者たちには疲労だけでなく友情が芽生えていました。上位3着まで「日本ダービー」優先出走権が与えられるため、3人は1ヶ月後の本番――クラシック路線2戦目での再戦を誓い合います。
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- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
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チーム「アルケス」の元にGIレース用のロールの勝負服が届き、トレーニングは順調。事前予想こそブライアン1強状態でしたが、ついに同じ舞台へ上がれる……と思った矢先、またしてもローレルに試練が降りかかります。
ああしていれば、こうしていれば。運命のいたずらか、あるいは意地の悪い魔物の仕業か。
もしも何か1つ決断が違えば、結果は変わっていたかも知れない――。人生ではしばしばそんな場面に出くわしますが、第4巻のローレルたちもまたそんな決断と結果に翻弄されます。読んでいると胸が苦しくなりますが、逆境をバネにしてようとするローレルと椿の絆に感動必至です。
「青葉賞」は1994年、つまり実馬のサクラローレルたちが走った年にGIIIに昇格した重賞レースです。当時は上位3着まで「日本ダービー」優先出走権を付与する指定オープン重賞に位置づけられており、翌年からダービーのトライアルレースに指定されました。
距離もコースも「日本ダービー」と同じ条件なので、ここで好走出来た馬は本番でも活躍が見込まれます……が、今のところ「青葉賞」に勝利して「日本ダービー」を制覇した馬はいません(2025年5月9日現在)。
レース展開は史実をなぞった形。最終直線でエアダブリンが抜け出して、内からサクラローレル、外からノーザンポラリスが続きました。サクラローレルはゴール直前でややスピードが鈍化、アタマ差でノーザンポラリスに負けて3着となります。
「青葉賞」でローレルと激戦を演じたウマ娘にもモチーフが存在します。
ダンスリムリックの元ネタはエアダブリンです。冠名エアのウマ娘はすでにエアグルーヴがいるのでエアダブリンも実名が期待されていましたが、偽名での登場となりました。3巻では回想で皐月賞トライアル「若葉ステークス」で負けていますが、その時に勝ったファイナルサードは1998年の「天皇賞・秋」勝利馬のオフサイドトラップです。
ダンスリムリックの名前の由来は実馬の母ダンシングキイと、アイルランドの地方都市リムリック(ダブリンはアイルランド首都)。実馬の半妹弟にダンスパートナー、ダンスインザムード、ダンスインザダークといった名馬がいるのも関係がありそうです。
ダンスリムリックが所属するチーム「レグルス」と黒田自由(くろだみゆ)トレーナーは、おそらくエアダブリンを管理した伊藤雄二厩舎がモデル。チームメンバーのダイイチルビーとウイニングチケット、エアグルーヴ、ファインモーションはいずれも伊藤雄二調教師が手がけました。他にもエアメサイア、マチカネタンホイザも育てています。
セレスタルポールの元ネタはノーザンポラリスです。父はノーザンテースト(こちらはゲーム版「ウマ娘」に登場する秋川やよい理事長のモチーフ)。
ポラリスは北極星を指す言葉で、北極星は英語でPolar starやPolestarと言います。セレスタル(celestial)は天空・天上を意味する単語なため、星から天空を連想してセレスタルポールと名付けられたのではないでしょうか。
劇中では右足首に怪我が発覚したローレル。これも史実通りで、サクラローレルは右後肢の球節炎が発症したことから、優先出走権を得たにもかかわらずダービーには出られませんでした。
サクラローレルの身体面はデビュー前から不安視されており、調整や管理が違えば防げたのではないかというのは、実馬の関係者も思わず考えてしまったところでしょう。そんな実際にあったかも知れない葛藤を、トレーナーとウマ娘の関係に落とし込んで思いをぶつけ合い、将来へのバネに変えるストーリー構成が見事です。
1994年のクラシック2冠目の「東京優駿」、つまり「日本ダービー」の勝者はナリタブライアンです。走破タイムは2分25秒7。
神の悪戯としか思えませんが、それは前年のBNW3強対決でウイニングチケットの2着となったビワハヤヒデの2分25秒6からコンマ1秒遅いタイムでした。半兄ビワハヤヒデの出来なかったダービー制覇を成し遂げた一方、タイムではわずかに及ばず。
走破タイムは開催状況やレース展開で左右されるので、早いから実力が上などという単純な話にはなりませんが、そこに因縁があれば物語性を感じてしまうのが人情。
「スターブロッサム」ではゴールするブライアンの後ろ姿が描かれますが、内側に不自然なスペースが空いていました。これは前後のブライアンのモノローグやそぶりから推察すると、内からウイニングチケットに食らいついたハヤヒデを仮想敵にして、追い越そうとしていたことがわかります。血縁関係とコンマ1秒差の事実をレースに盛り込んだ凄い描写。
ちなみに「日本ダービー」の大外8枠は非常に不利とされており、優勝した例はトウカイテイオーとナリタブライアン、近年で言うとワグネリアンくらいしかありません。
さらに補足すると主戦騎手の南井克巳は当時ダービー未勝利。それを知った大久保調教師に「ダービーで勝ってくれないか」とデビュー前のナリタブライアンの騎乗を依頼されて、本当に実現したことに驚かされます。
南井騎手はナリタブライアンの体が沈むような走り方と加速力を体験して、一時期騎乗したオグリキャップを思い出したとか。どちらも全盛期に怪物と呼ばれ、地を這う走法を行ったことで有名です。
作中では「日本ダービー」後、ビワハヤヒデの「宝塚記念」を挟んだ7月に夏合宿に入ります。
たいていの競走馬の場合、普段がトレーニングセンターでの合宿状態で、夏は放牧(北海道の育成牧場などへ戻して療養)に出されるので「ウマ娘」の世界とは正反対。当然、牧場が同じでない限り実馬が集まることはありませんし、そこは「ウマ娘」ならではのフィクションです。
ここで重要なのは、後々ストーリーに深く関わってくるマヤノトップガンとマーベラスサンデーの顔見せ(マヤノトップガンはマヤノが冠名で、マーベラスサンデーは冠名がないため、ウマ娘を指す場合はそれぞれマヤとマーベラスと書きます)。
実馬のマーベラスサンデーは1994年秋のデビューを目指していましたが、右膝の骨折が発覚して放牧に出されました。その直前の8月に行われた調教では、1歳年上のオースミタイクーンを10馬身突き放すという、とんでもない素質を見せています。
マーベラスも模擬戦で同様の結果を出したようですが、史実と時期的に食い違うのは作劇の都合でしょう。
ウマ娘マヤのモチーフ、マヤノトップガンは4種類ある脚質すべてでGI勝利しており、「変幻自在」と言われています。
競走馬の脚質はその馬の走りの癖が強く出る部分です。レース中に相対的に変わることはあっても、逃げ先行なら前の方で差し追い込みなら後ろの方、という風に位置取りは基本的に変わりません。
ところがマヤノトップガンは気性が悪く、かなり気まぐれでした。実際にレースが始まるまでどう走るかわからなかったため、事前に計画を立てずに馬の気分に合わせて走って、結果的に勝てた――というのが実情です。
能力があっても気性難で勝てない競走馬は珍しくありませんが、マヤノトップガンが変幻自在と言われる勝ち方と出来たのは、ひとえに主戦騎手だった田原成貴のおかげ。
そんな感覚派の天才・田原騎手の要素を反映して、ウマ娘マヤは物事の本質を見抜く天才として描かれています。
4巻ラストでローレルが遊び疲れたマーベラスを送り届けるシーン。チーム「ベテルギウス」のフジキセキが登場するのですが、そこでいきなりジェニュインの名前が飛び出します。
ジェニュインは史実のマヤノトップガン、マーベラスサンデーと同じ1995年世代の競走馬です。事前の告知もなく、ビジュアルが不明なまま実名だけ突然出てきた異例のケース。
マーベラスとフジキセキ、ジェニュインが同じチームなのは、全員の元ネタがサンデーサイレンスの初年度産駒だからでしょう。ウマ娘のフジキセキは言動が大人びているので意外に思えますが、実はマヤノトップガンらと同じ世代なのです。
夏合宿を終え、秋レースに向けて本格始動したチーム「アルケス」に、1人のウマ娘が合流します。シニア級最強のビワハヤヒデを倒すため、個別に特訓していたサクラチトセオーです。
経験豊富な彼女は、ともすれば逸りがちなローレルたちに新風をもたらしました。惜しいところで勝ちきれないローレルに、チトセオーはGIII「京王杯オータムハンデキャップ」でギリギリまで脚を溜める走法を実戦して見せ、日々の積み重ねと自分を信じる心が大事だと示してくれたのでした。
ローレルはブライアン、チトセオーはハヤヒデ。クラシック最強のブライアンは姉ハヤヒデを、そしてハヤヒデは現役最強であるために、各々が思い描く頂点を目指して突き進んでいきますが……。
- 著者
- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
- 出版日
ハヤヒデは「天皇賞・秋」を前に脚部不安を抱え、ブライアンに至ってはクラシック最後の「菊花賞」の行方を占うトライアルレースGII「京都新聞杯」にて、まさかの惜敗を喫します。にわかに立ちこめた暗雲が、秋のGIレースの波乱を予感させました。
当事者も含めて全ての人に望まれた、最強の姉妹が最強のまま戦う頂上決戦。そんな想像図に翳りが見える、ドラスティックな展開に焦点が当たります。
一つの時代の終焉と始まり。物語全体のターニングポイントと言える大事な巻です。
元ネタはサクラローレルらと同じく、さくらコマース所有の同名競走馬です。ウマ娘としては本作が初登場かつ初お披露目で、第39話の公開に合わせて発表されました。他の多くのサクラ冠名の馬と同様に境勝太郎厩舎の所属、主戦騎手も小島太という繋がりから、作中でもヴィクトリー倶楽部からの友人となっています。
実馬が遅咲きで、しかも追い込みで有名なせいか、ウマ娘のチトセオーはおっとりした性格。ビワハヤヒデをはじめとするいわゆる「BNW」と同世代であるだけでなく、偶然にもウイニングチケットと同じトニービンの初年度産駒です。
医食同源ならぬ「薬食同源」がモットー。これは実馬の体質が弱かったことと、さくらコマースのグループ企業モランボンの企業理念が「薬食同源」であることから来ています。
名称が似ていてややこしいですが、1998年に改称されて、現在は「京成杯オータムハンデキャップ」。
1993年のクラシック路線を狙える素質馬と期待されたものの、唯一出走出来た「日本ダービー」で11着に終わったサクラチトセオー。その後も、大舞台を目指して着実に結果を積み重ねました。
そして1994年。当時GI「天皇賞・秋」に同世代の3強「BNW」が揃うとされており、クラシックの雪辱を期した陣営は、弾みを付けるためにGIII「京王杯オータムハンディキャップ」から始動しました。
サクラチトセオーはスタートで出遅れ、最後方からの追走になったものの、作中同様に大外からまくって優勝。1987年にダイナアクトレス(「シンデレラグレイ」のダイナムヒロインの元ネタ)が記録した、1分32秒2を0.1秒上回る当時の日本レコードを叩き出しました。
いずれもレース結果そのものは史実通りですが、のちの展開に合わせるためか、ハヤヒデの描写には漫画独自の演出が加えられています。
当時、ビワハヤヒデ陣営は体重減に悩んでいました(おそらく記録的猛暑の影響)。「オールカマー」後も調教で体重が元に戻らなかったこと、「天皇賞・秋」で屈腱炎が発覚した出来事などから、ハヤヒデの脚部不安という形の伏線表現になったのでしょう。
実は実馬のナリタブライアンも同様に体調不良でした。こちらも夏の暑さに負けたようで、体調を考慮して特例的に札幌・函館競馬場で調整が行われたものの、「菊花賞」の回避が検討されるほど深刻な状況だったそうです。
結局「菊花賞」を目指すことにはなりましたが、トライアルレースの「京都新聞杯」は不安視されており、事前の評価でも「ナリタブライアンが負けるならここ」と言われるほどでした。
なお、劇中で「京都新聞杯」を勝ったステラガールの元ネタはスターマンです。時系列的には後になりますが、スターマンはサクラチトセオーやマーベラスサンデーとも対戦経験があります。
圧倒的1番人気で臨んだ1994年の「天皇賞・秋」。ビワハヤヒデはスタートこそいつも通り成功させて先行、最終直線で追い込む様子を見せたもののまったく伸びず、結局は一度も先頭に立たず5着に終わりました。
そしてレース後に屈腱炎が発覚。同じく屈腱炎を発症したウイニングチケットの引退発表から3日後、ビワハヤヒデも引退することが公表されました。「スターブロッサム」では主題がブレるせいかウイニングチケットの動向がカットされていますが、その他の展開はほぼ史実通り。
サクラチトセオーをはじめとしてロイスアンドロイス、マチカネタンホイザ、ナイスネイチャが出走しているのも忠実に再現されています。
ちなみに、「天皇賞・秋」を勝ったユリウスルコールの元ネタはネーハイシーザーです。古代ローマ皇帝ユリウス・カエサルの英語読みがジュリアス・シーザーなのでそのままですが、冠名のネーハイがなぜルコールになったのかは調べてもわかりませんでした。
「京都新聞杯」こそ落としましたが、復調の気配に加えて、引退するビワハヤヒデの半弟ということでさらなる人気となったナリタブライアン。1番人気に応えてクラシックレース最終戦「菊花賞」を問題なく勝ちますが、その内容が圧巻でした。
ナリタブライアンは前年のビワハヤヒデのレコードタイムを0.1秒更新する3分4秒6を叩き出し、2着に5馬身差で勝った兄に対して、それを大幅に上回る7馬身もの着差をつけたのです。
この7馬身差という記録は、「菊花賞」における最大着差として今なお残るアンタッチャブルレコードとなっています(JRAのCMでも「7馬身差の衝撃」と言及)。2位タイが5馬身差で、ビワハヤヒデの他にはスーパークリークやエピファネイア、タイトルホルダーといった怱々たる面々が顔を連ねています。
また作中のレース実況は、実際に杉本清が発した名実況「弟は大丈夫だ」の再現。本来はビワハヤヒデ引退に際して、暗く沈んだファンを元気づける実況でしたが、ここでは正反対の印象になっているのが演出の妙でしょう。
ハヤヒデとブライアンの姉妹対決が熱望されたのは史実通り。競馬の世界では母馬が同じ兄弟は数多くいますが、どちらも世代を代表する最強馬であり、史上類を見ないほど強いという例はほぼありません。
ビワハヤヒデはGI3勝なのがまずとんでもなく凄いのですが、故障が発生した引退レース「天皇賞・秋」を除けば、連対率100%(1着か2着に入線)という数値が驚異的。実力だけでなく体調・環境・運に左右される中、安定したパフォーマンスを出すことは極めて難しく、それにも関わらず15戦連対して1着の方が多いというのは規格外としか言えません。
ナリタブライアンの強さは言わずもがな。クラシック期にGI5勝を達成したことから、当時のGI最多勝利数の七冠馬シンボリルドルフ越えが有力視されるほどでした。実際、シンボリルドルフを管理した野平祐二調教師も、ナリタブライアンが「日本ダービー」を勝った時点で「あちらが上」と思ったそうです。
クラシック期の能力で比較すれば、今でも「ナリタブライアンこそが最強」と言う競馬ファンは少なくありません。
これほど強くて人気も高かった2頭ですから、世代混合戦の最高峰GI「有馬記念」での対決が、どれほど熱望されたかおわかりいただけるでしょう。
巻末の番外編はシュガーネイションの元ネタ、シクレノンヴォルクの4歳未勝利戦(現在の3歳未勝利戦)がモチーフ。季節と距離と馬場、馬番が一致しているので間違いありません。
実はシクレノンヴォルクが競争馬生で唯一勝ったレースなのですが、そんな地味なところにもフォーカスを当ててくれるのが「スターブロッサム」の素晴らしいところ。華やかな重賞レースでなくとも、勝つためにどれほどの努力が必要か。例え泥にまみれても、勝利が常に尊いということがよくわかります。
この番外編ではなく本編の話になりますが、応援に駆けつけたシュガーネイションの2人の姉のうち、モンシュシュクレが「有馬記念」に登場しているのも、単なるサービスではなく事実に則した展開です。
モンシュシュクレの元ネタ、ムッシュシェクルはGIこそ勝っていませんが、重賞勝利は何度もしている名馬。1994年の「天皇賞・春」では、ビワハヤヒデやナリタタイシンに次ぐ3番人気に推されたほどの名ステイヤーでした。
あらすじと見所
京都レース場で行われるGI「マイルチャンピオンシップ」に向けて、京都へ遠征するチーム「アルケス」。出走するのはいつにも増して気合いが入ったエース、サクラバクシンオーです。
遡ること約半年前。心身共に充実した彼女は、スピードスターとして注目されながら――GI「安田記念」で敗北を喫しました。相手はマイルを主戦場とする、新進気鋭のノースフライトです。自他共に認める最速スプリンターの敗北。短距離路線ではほとんど並ぶ者のなかったバクシンオーにとって、ノースフライトは初めてライバルと呼べる存在でした。
そんなノースフライトが、「マイルチャンピオンシップ」を最後に現役引退を表明。悔いを残さず、ライバルと全身全霊を競うため、いつも明るいバクシンオーが本気の走りを見せます。
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- ["保谷 伸", "文殊 咲", "Cygames"]
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第6巻のストーリーはローレルではなく、完全にバクシンオーが主役。ターフを鮮烈に駆け抜ける、バクシンオーとノースフライトのライバル関係にクローズアップされます。関係性やレース内容が熱いのは当然として、アスリートらしくひたむきに打ち込む姿を、ローレルおよび読者に見せてくれるのがたまりません。
完全燃焼した史上最高の走りはレースで終わらず、バクシンオーの熱が周りへと伝わり、周囲の新たな原動力になっていきます。長い長い助走が終わって、いよいよ飛躍の時が近付いている……そんな予兆を感じずにはいられません。
ノースフライトはトニービンの初年度産駒です。まだトニービン産駒が未知数だった時期なのもあってあまり期待されていませんでしたが、生涯成績11戦8勝という輝かしい成績を収めました。
サクラバクシンオーとノースフライトが初めてぶつかったのは、1994年のGI「安田記念」です。結果はノースフライトが1着、サクラバクシンオーは4着でした。
ノースフライトはこれがGI初勝利。海外の有力馬を含む混合戦にもかかわらず、2着に2馬身半もつける圧勝でした。この後の活躍も込みで、「マイルの女王」と呼ぶに相応しい実力。
ノースフライトは年明けまで牝馬限定戦が中心で9戦7勝2敗でしたが、負けたレースのうち1つはGI「エリザベス女王杯」(当時の牝馬クラシック最終戦)で、ホクトベガに先着されて2着でした。今でこそ牝馬が強いのは当たり前ですが、1990年代で考えると驚異的な戦績です。
サクラバクシンオーとノースフライトの対戦は計3回行われ、ノースフライトが2勝で勝ち越しています。とはいえ、単純にノースフライトの方が強いとは言い切れません。
距離別で見るとサクラバクシンオーが負けているのはいずれもマイルレースなので、1400m以下ならサクラバクシンオー、それより上ならノースフライト……と距離適性の差と考えていいでしょう。
当時は短距離路線の区分が曖昧で、短距離レース自体も数が少なかったことから(GIは「スプリンターズステークス」のみ)、サクラバクシンオーはたびたびマイル以上にも出走していました。マイルではなかなか馬券内に入れなかった彼ですが、もっとも着順が高かったのは、ノースフライトのラストランとなった「マイルチャンピオンシップ」の2着です。
お互い本当に得意な距離は重ならなかったものの、名実ともに拮抗した間柄という意味では、サクラバクシンオーとノースフライトはまさにライバルと言えます。
1994年のGI「スプリンターズステークス」で引退が決まったサクラバクシンオー。すでに前年に女王ニシノフラワー、2階級制覇のヤマニンゼファーを下しているため、ここは連覇と有終の美がかかった大事なレースでした。
結果は圧勝。
当時は冬の開催で馬場が悪く、スピードが出ない中で日本レコードをマークし、2着のビコーペガサス(前年のサクラバクシンオーを0.1秒上回るタイム)に4馬身差をつけての勝利となりました。引退なのに過去最高のパフォーマンスを発揮する圧倒的強者っぷりが非常に印象的で、JRAのCM「The LEGEND」でもこのレースがピックアップされています。
いつの時代にも最強馬論争はありますが、距離別で短距離に限ると、サクラバクシンオーを挙げる人が今でも多いです。……というより比較対象がおらず、長い間議論の余地がなかったというのが実情。2010年代にロードカナロアが出てきたことで、ようやく2頭のどちらが上かという話が出来るようになりました。
それくらい、スプリンター最強と言えばサクラバクシンオーのイメージが強いです。
ゴール時の実況「これが最後の『驀進王』」は、塩原恒夫アナウンサーの「小島太、これが最後の愛のムチ」のオマージュ。引退レースでの絶対の勝利を期して、小島騎手が懸命に鞭を入れる様子を見事に捉えた名実況として知られています。
名は体を表すとは言いますが、「勢い良くまっすぐ突き進むこと」を意味する「驀進」の名前を持った馬が、その通りの結果を残しているのが凄いです。
馬に素質があったのは当然ですが、それだけではありません。実のところサクラバクシンオーは、父サクラユタカオーの体質に由来する脚部不安を抱えた馬でした。競走馬生を通じて大きな怪我をせず走り切れたのは、ひとえに陣営の献身的なケアのおかげ。
また塩原アナは件の実況の後半で、サクラミライ(1991年に1200m1分7秒6の日本レコードを樹立)を引き合いに出して、「サクラ軍団がタスキを渡した形のタイム決着」とも言っています。
サクラバクシンオーの引退戦勝利は、まさに陣営の絶え間ない努力と受け継いできたものの結実。それを「スターブロッサム」ではさらに一歩踏み込んで、バクシンオーが背中を見せることで、ローレルやチトセオーに同じ志を持つチームの仲間として、次代のバトンを渡すような展開にしているのが本当に素晴らしいです。
解説箇所が前後してしまいますが、ローレルがバクシンオーのレースについて行ったり、直前のレースに出走したりしているのはチームの絆を強調する演出……と思わせて実際あった出来事が反映されています。
サクラバクシンオーが出走した最後のGI2戦、「マイルチャンピオンシップ」と「スプリンターズステークス」には、サクラローレルが帯同馬として本当に付き添いました。競走成績の日付を見ると一目瞭然ですが、サクラローレルはそれぞれのGIと同日開催の「比良山特別」と「冬至ステークス」に出走し、優勝しています。
血統的な繋がりこそないものの、同じ厩舎や帯同馬といった史実を元にして、ローレルとバクシンオーがともに高め合う仲間関係にされているのは、「ウマ娘」ならではの翻案と言えるでしょう。
“まくり”は差しや追い込みポジションからレース中盤~終盤始めに進出する走法で、場合によっては逃げや先行のような脚質と紹介されることもあります。ゲーム版「ウマ娘」をプレイしている方は、通常ゴールドシップの固有スキルの挙動を想像すればわかりやすいでしょう。
サクラローレルはそんな“まくり”の印象が強いのですが、5巻のチトセオーの“まくり”勝ちを伏線にして、練習で教えてもらったという形でストーリーに落とし込んでいるのが見事です。
年始に最初に行われる重賞レース「金杯」のうち、中山競馬場で行われるものが「日刊スポーツ賞金杯」で、京都競馬場は「スポーツニッポン賞金杯」。当時どちらも「金杯」と呼ばれており、表記でも「金杯(東)」や「金杯(西)」だったため、明確に区別出来るように1996年に現在の名称「日刊スポーツ賞中山金杯」へ改称されました(京都は「スポーツニッポン賞京都金杯」)。
サクラローレルが出走した1995年はまだ「日刊スポーツ賞金杯」ですが、固有名詞が入っている上にわかりづらいので、本作では「中山金杯」にしているのでしょう。
「中山金杯」の前後で初登場となったウマ娘。モチーフは8歳(現在の7歳)まで現役を続けたトニービン産駒、オフサイドトラップと見て間違いありません。所属は「ウマ娘」でも馴染み深い、アイネスフウジンも在籍した加藤修甫厩舎。
オフサイドトラップはナリタブライアンとは同期(つまりサクラローレルとも同世代)で、「皐月賞」と「日本ダービー」で対戦経験があります。
ファイナルサードとは、サッカーのフィールドを3分割した際に、攻撃側から見て防御側のゴールがある3分の1の部分のこと。アタッキングサードとも言います。対してオフサイドトラップは、守備側が攻撃側をオフサイドラインに誘導する戦術のこと。攻守の違いはありますが、どちらもサッカー用語という点が共通しています。
「スターブロッサム」はWeb漫画サイトや漫画アプリで絶賛連載中です。最新の展開では「中山金杯」を終えた後に番外編を挟んで、1995年の「天皇賞・春」の前まで進みました。かなりゆったりしたペースながら、時系列的にかなり後の出来事である番外編は一見の価値あり。長い旅路の中、ステイゴールドが目撃したある出来事が語られます。
1995年のサクラローレル陣営は、「中山金杯」の後は「目黒記念」から「天皇賞・春」を目指しました。ところがその矢先、調教中に重大な骨折が発生し、長期間の休養を余儀なくされます。奇跡的に助かったものの、この骨折は命すら危うい競走能力喪失レベルの重傷でした。
現役復帰まで1年以上かかったため、当然ながらその間はローレルの物語を大きく動かせません。おそらく第5巻のバクシンオーの時と同様に、1995年の出来事はチームメイトのチトセオーがメインになると予想します。ちょうど95年は、1年通してサクラチトセオーが躍進した年でもありました。
また同年で忘れてはいけないのが、ライスシャワーです。エアダブリン(ダンスリムリック)とタイキブリザード(スノウインハザード)が出走するレースもあるので、なんらかの絡みが描かれるのは間違いないでしょう。ウマ娘化発表済みのジェニュインのクラシックもこの年なので、古馬戦線に参戦してくる秋までには物語上で顔見せがあるはず。
避けて通れないのがライスシャワーの「宝塚記念」。番外編を踏まえるとは多少マイルドになるとは思いますが、きつい展開になるのは覚悟した方がいいかもしれません。
その後は、おそらくサクラチトセオーがマヤノトップガンと当たる「有馬記念」を経て、年末年始でローレルにバトンタッチ。サクラローレルとマーベラスサンデー、マヤノトップガンを交えた3強対決を軸としつつ、バブルガムフェローが殴り込んでくるという、1996年の激闘をモチーフとした流れになるのではないでしょうか。
特に注目すべきは1996年の「天皇賞・春」でしょう。念願のナリタブライアンとの直接対決が実現するため、ローレルの物語的にはクライマックスに等しい熱量となるはずです。
さらにその翌年がどうなるかは、ちょっと予想を立てられません。史実では春競馬の後に「凱旋門賞」を目標にしてフランス遠征を行いますが、遠征に出発するところで綺麗に終わるか、挑戦するところまで行くかが未知数です。「スターブロッサム」ならではのドラマチックな表現に期待しましょう。
「スターブロッサム」は作画・保谷伸(ほたにしん)、脚本・文殊咲(もんじゅさき)の2人体勢で制作されています。
保谷伸は2010年開催の「コミックゼノン」第1回マンガオーディションにて、読み切り作『おじさんと小さな花』で準グランプリを受賞、商業デビューした漫画家です。代表作は高校演劇部の活動にフォーカスした『まくむすび』、漫画家の卵と自堕落な魔女がリモート通話する様子を描いた会話劇『マヤさんの夜ふかし』など。
保谷伸の絵柄は流行の作品に比べると少し癖があるものの、表現が豊かで心を打つ群像劇が上手い漫画家です。いい意味で泥臭い「スターブロッサム」にはうってつけといえるでしょう。
脚本を担当する文殊咲は本作が初商業作です。年齢性別経歴の一切が不明。凱旋門賞馬モンジューとサキーを彷彿とさせる名前から、「ウマ娘」の権利を持つCygames関係者のペンネームと思われます。根拠のない憶測であることをお断りした上で予想すると、ひょっとすると「シンデレラグレイ」を担当する脚本家・杉浦理史が競合作品に関わることに配慮した別名かもしれません。
『ウマ娘プリティーダービー スターブロッサム』はまだ始まったばかり。今から読み始めても連載に追いつけるので、ぜひサクラローレルの物語を追体験してください。
連載は「となりのヤングジャンプ」、「ヤンジャン!」、「少年ジャンプ+」の3媒体で同時に更新されています。いずれも差はないので利用しやすいところで読むのがおすすめです。