鬼滅の刃、名探偵コナン、推しの子、・・・。毎年いくつものエンタメ作品が世を騒がせます。ヒット作品は、50万部突破、興行収入100億円、総PV1億回など、数字や結果ばかりが表にでてくるものですが、作品が作られるまでには数々の試行錯誤や葛藤があるものです。 本連載ではそのような試行錯誤や葛藤に焦点を当て、ヒット作品の輝かしい実績の「裏側」に迫ります。次々とヒット作を生み出すクリエイターは、どのような道を歩んできたのか。挫折や逆境を乗り越え、今に至るまでのキャリアの築き方についてお伺いしました。 第2回目にご登場いただくのは、映画監督・今泉力哉氏。2010年『たまの映画』で商業監督デビューをし、現在もなお、1年に1作品以上の長編映画を公開しています。 『愛がなんだ』『街の上で』など、多くの恋愛群像劇を輩出し続ける中で、今泉監督作品特有の質感や温度・作風はどのように生まれたのか。各作品の制作手法や、現在に至るまでのキャリアを振り返り、「映画監督」への道を紐解きます。
全4週に渡るインタビュー。
『愛がなんだ』『街の上で』恋愛映画の妙手・今泉力哉の制作手法とは-ヒットコンテンツの裏側に迫る【今泉力哉 #1】
鬼滅の刃、名探偵コナン、推しの子、……。毎年いくつものエンタメ作品が世を騒がせます。ヒット作品は、50万部突破、興行収入100億円、総PV1億回など、数字や結果ばかりが表にでてくるものですが、作品が作られるまでには数々の試行錯誤や葛藤があるものです。 本連載ではそのような試行錯誤や葛藤に焦点を当て、ヒット作品の輝かしい実績の「裏側」に迫ります。次々とヒット作を生み出すクリエイターは、どのような道を歩んできたのか。挫折や逆境を乗り越え、今に至るまでのキャリアの築き方についてお伺いしました。 第2回目にご登場いただくのは、映画監督・今泉力哉氏。2010年『たまの映画』で商業監督デビューをし、現在もなお、1年に1作品以上の長編映画を公開しています。 『愛がなんだ』『街の上で』など、多くの恋愛群像劇を輩出し続ける中で、今泉監督作品特有の質感や温度・作風はどのように生まれたのか。各作品の制作手法や、現在に至るまでのキャリアを振り返り、「映画監督」への道を紐解きます。
同じ俳優を起用し続ける意図とはなにか。今泉監督作品特有の”間”、そして多くの方が共感する作品性についてお話を伺いました。
―― 今泉監督の作品には同じ俳優が起用されることが多く見受けられます。現場を知っているというアドバンテージの反面、同じ画になってしまう不安要素も考えられますが、なにか意図されていますか?
今泉 面白いと思う人とは、もう1回やってもいいと思ってます。これは俳優も監督も、お互いにだと思うんですけど、2回やれることって1回目を認めてもらえたってことじゃないですか。
例えば1回やった俳優さんにもう1回OKしてもらえたら、前回大丈夫だったんだと安心する。もしかしたら、俳優さん側ももう1回オファーされたら嬉しいかもしれない。
昔、とある現場で自分的にはあまりうまく立ち回れなかったことがあって。俺の被害妄想ですが、役者さんやスタッフさん全員から呆れられているだろうな、と思った現場がありました。
それから3年後、2015年に撮影したある映画で、その作品でご一緒していた俳優さんにだめもとでオファーしたんです。そしたら引き受けてくれて。あのときの、あの現場を知っているのに受けてくれるんだ!みたいな感覚がありました。
ちなみに、その俳優さんは木南晴夏さんです。映画『知らない、ふたり』に出てもらいました。
ほんとに素晴らしい芝居をしてくださって、現場でも感動していました。芝居が良すぎたので、編集で少しだけ落とした記憶すらあります。
―― 今泉監督作品には何作もご出演されている若葉竜也さんですが、作品によって違う演技をされていて驚きました。どこまで演技指導をされていますか?
今泉 あまりしてないですかね。若葉さんはちょっと特殊です。『ちひろさん』とかもそうですけど、毎回彼が提示してくるものに驚かされるというか。
こっちの想像よりも必ず上で芝居をする人なので、いつも試されている感覚になります。現場で、最初に自由に演じてもらった時に、「ああ、若葉はこのキャラクターをそういう感じで捉えているのね、そっちでやるのね」って思うんですよ。
それで、こっちが考えていた人物像に合わせてもらうか、若葉さんが提示してくれたものでいくか考える、ということが毎回起きるんです。
俺が考えている程度のことは、若葉さんも考えた上で別のアプローチをしてくれていると思います。
なので、「やっぱりその感じじゃなくて、普通になっちゃうかもだけど、こうしてもらえますか?」と若葉さんに言うと、「あ、はい。 分かりました」とすぐにやってくれる。
若葉さんにはよく言うんですけど、若葉さんと知り合った”功罪”はめちゃくちゃあって。みんなに若葉さんと同じぐらいのことを求めてしまうと、そんなことができる役者は本当に少ないので。
ここだけの話ですけど、どうやらマネージャーさんと若葉さんの間で一度、会議というか、話し合い?が行われたらしいんです。今泉作品に続けて何作も出ることが、良いことなのか悪いことなのか、という話し合い。
変に色がつくのもよくないじゃないですか。誰々の作品の俳優だ、みたいになってしまうというか。いっつも出てる、みたいな。
でも二人で話した結果、「今泉さんからのオファーで、かつ内容が面白くて、スケジュールさえ空いていたら受ける」ってなったらしくて。
―― 同じ俳優を起用し続ける悩みは、監督・俳優の両者にあるんですね。
今泉 やるからには新鮮な気持ちでやりたいですよね。なあなあにはもちろんなりたくない。
『窓辺にて』の現場で、すでに3本か4本くらいご一緒したタイミングに、「今泉組の作品は特別に緊張する」って若葉さんが言ってくれて。俺はその意味がよく分かってなくて、「何回やってもそうなの?」と聞いたんです。
そしたら若葉さんが、「今泉さんは芝居をちゃんと見てくれるから緊張する」「下手な芝居をしたらOKが出ない。見抜かれるから」って言われて。
めちゃくちゃありがたいなって思ったけど、俺、ちゃんと見抜けるかな、というプレッシャーがハンパなかったです(笑)。
でもその「緊張する」という感覚がお互いに保てるのであれば、何度でもご一緒したいな、ご一緒しても面白いものが作れるな、と思っています。
―― 今泉監督作品の“間”や“余韻”を楽しむファンは多いかと思います。包み込むような柔らかさを感じる映画ばかりですが、編集時に意識していることはありますか?
今泉 意識していること。うーん、なんでしょう。
多分俺の作品は、セリフとセリフのあいだの”間”もですけど、シーンが終わって次のシーンが始まる、そのシーン終わりの”間”が他の映画よりも長いのだと思います。
でもこれって、どっちが良い悪いの話ではなくて、自分の生理(生理現象。好みや主観)でしかないんですよね。自分の心地良い”間”がそれなだけで。
あと会話に関してですが、多くの既存作品の会話って、どうしても現実世界より早いタイミングで本題に入る気がします。
今生きている現実世界では、正直、無駄な話を1つ2つしてから本題に入ったりしますよね。映画でそういう部分を省略していくと、必要なことしか話していない会話のシーンが出来上がってしまう。
そうすると、やっぱり大きな嘘、つくりものみたいに感じてしまうんですよね。俺の感覚としては、本題に入る前には無駄と思われるかもしれないクッションを挟みたいです。
―― 今泉監督作品は、作品に対するターゲットも非常に明確だと感じています。原作ものをお任せされることも多いかと思いますが、ターゲット層というのは、作る前から明確に決められていますか?
今泉 ターゲットは定めたことがはぼないですかね。原作ものを扱うときは、まず0から1を生み出した原作者、そして原作ファンを楽しませたいという意識はあります。
でもオリジナルにしろ、原作ものにしろ、例えば20代女性がターゲットだ、みたいなことって全く意味がないと思っていて。というのも、3人の20代女性を集めたら、3人とも全然別の人間なわけです。
線じゃなくて、面じゃなくて、点でできているんですよね、観客って。ひとりひとりが違う人間で。
じゃあ誰のためにつくればいいのか、何を指標にしたらいいのか、と言えば、マスに届ける意識じゃないと思ってます。
「誰か具体的なたった一人」に向けてつくった方が強度が生まれる、と言われていて。例えば、好きな人とか。母親とか。そういう具体的な一人に向けて。
俺の場合は、その”誰か”は自分だったりします。自分が面白がれるかどうか。まず、自分が楽しめないものはつくっちゃダメだと思います。そこはマストでクリアしたいです。
―― ”共感”という言葉について、多く話しているのを拝見しました。あまり、”共感”という言葉が好きじゃない、となにかで読んだ気がするのですが。
今泉 まさに、さっき話した「たった一人に向けてつくる」の意味合いもそこでして。”共感”という言葉が何を指すかだと思います。
一般的には、それが「万人受け」みたいなことを指すことが多いと俺は思っていて。だとしたら、その”共感”は自分が目指すところのものではありません。
俺が目指したいのは、その作品に触れた人が、「なんで私の個人的な悩みを知ってるの?」と思う映画をつくりたい。
他の人からするとあまりにもちっぽけな悩みで、「そんなことで悩むことないよ」と言われてしまったり、それでもその人にとっては、生きるのが苦しいくらいの悩みだったりするじゃないですか。
通常なら映画の主題には足り得ないような問題や悩みを扱いたいんです。それを”共感”と呼ぶのであれば、”共感”される映画をつくりたいです。
だから、観客から「共感した」と言われることにはなんら否定的ではないんです。宣伝部とか、つくり手側が「共感できます」とか「共感度100%」みたいなことを言うのは、違うのかなあと。
繰り返しになりますが、たった一人に向けてつくると強度が生まれるんです。
間違いなく深度が変わる。深くに届き、広がることも多い。その映画が誰かの生涯の一本になる可能性だってあります。
それって実はマスを捨てることではなくて、それこそマスに届くと信じているのです。
「共感度は0.1%くらいだけど、私にはグッときた」と観客が感じて、でもその実、50%、または70%くらいの人に深く届いている、みたいなことがしたいんですよね。
言葉遊びみたいですけど、伝わりますかね。
【第3回記事】 はこちら。
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