5分で分かるデューイの哲学|「人を殺してはいけない」という道徳の本質とは?|元教員が解説

更新:2026.5.18

ジョン・デューイは、20世紀初頭に活躍したアメリカの哲学者であり、教育者、心理学者としても有名です。 デューイの思想は「プラグマティズム」と呼ばれており、現代においてもその影響は多岐にわたります。 プラグマティズム思想の旗手として知られるデューイは、単なる知識伝達を超えた、子どもたちの潜在能力を引き出す教育哲学を提唱しました。 体験学習を重視し、民主主義社会の一員として必要な能力を育む教育改革は、現代にも大きな影響を与え続けています。 今回の記事では、近代哲学とプラグマティズムの相違点、そして「なぜ人を殺してはいけないのか?」という倫理問題に照らし合わせながら、デューイの哲を解説したいと思います。

大学院のときは、ハイデガーを少し。 その後、高校の社会科教員を10年ほど。 身長が高いので、あだ名は“巨人”。 今はライターとして色々と。
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近代哲学の考え方

歴史は「弁証法」という考え方によって、より良い方向へと進化していくとされています。弁証法とは、対立するものがぶつかり合いながら、より高い次元の真理に到達する過程のことです。人間の理性(物事を論理的に考える力)は素晴らしく、理性によって理想の未来に向かって進むという、楽観的な見方を持っています。

しかし人類の歴史は悲惨な戦争を繰り返し、世界大戦を二度も起こしてしまいました。アウシュビッツでの大虐殺や、核爆弾のような人類を滅ぼしかねない兵器の存在が、人間にはもはや理性がないことを示しているかのようです。

過去の歴史を振り返ると、人間の理性が常に良い方向へと導くわけではないことは明らかです。近代哲学が主張するような「理性による理想の未来へ進歩する」という、楽観的な見方を信じる人はいないのではないでしょうか。

近代哲学の失墜

理性を通じて真理に到達しようとする近代哲学は、もはや説得力を失いました。歴史上の悲惨な出来事が、理性だけでは完全な真理には到達できないことを示し続けたからです。

近代哲学に対する批判が高まり、新しい哲学の流れである現代哲学が生まれました。

中世哲学は信仰を通じて真理に到達し、近代哲学は理性を通じて真理に到達しようとしました。そして現代哲学は、近代哲学への批判から生まれ、理性の限界を積極的に認めようとします。

かつては理性を高く評価し、真理探究に希望を持っていた人類ですが、理性の限界を目の当たりにしてきました。理性が万能ではないという現実(歴史)に直面し、哲学界も大きく変わらざるを得なかったのです。

理性の限界を受け入れる方向に現代哲学は大きくシフトしていきます。

プラグマティズム(実用主義)の登場

現代哲学の新たな思想として、プラグマティズムが現れます。

プラグマティズムの基本的な考え方は、「真理かどうかはどうでもよく、実際の生活に役に立つかどうかだけを考えよう」というものです。従来の哲学が「その本質は何か?」という根源的な問いを追求してきたのに対し、プラグマティズムは「実用性」を重視します。

従来の哲学では、「愛とは何か」「人間とは何か」など、さまざまな対象の本質について深く考えてきました。しかしプラグマティズムは「そういった結論の出ない議論は意味がない」として、実用的な効果や利用価値に焦点を当てます。

プラグマティズムは「その効果は何か?」という実用的な問いを提案します。つまり「それって結局、何の役に立つの?」という視点から、物事を考えるようにしましょうということです。

プラグマティズムは真理そのものの追求よりも、実際の生活における価値や効果を重視する思想です。本質や真理を深く掘り下げる従来の哲学に対し、プラグマティズムはより実用的で、日常的な知識や考え方に価値を見出します。

たとえば「熱い」という性質について、その本質を問うことは難しい課題です。

「熱さとは何か?」と問いかける場合、無限に思索を続けることになり、人によって答えが異なる可能性があります。

ただプラグマティズムに従って「熱いとはどういう効果を生み出すか?」という実用的な観点から問いかけると、答えや定義を見つけやすくなります。無意味な議論に陥らないためには、最初から意味のある、答えが出る問いかけをするべきだとプラグマティズムは主張します。

プラグマティズムとは、抽象的で終わりのない議論に時間を費やすよりも、実際に役立つ答えを導き出せるよう、具体的な問いを立てることを重視する哲学です。

実際に「熱い」という性質が、どのような効果をもたらすかを考えることで、より実用的で具体的な理解につながるのです。

ジョン・デューイの哲学とは?

ジョン・デューイ(1859年から1952年)は「プラグマティズム」を主張する有名な哲学者です。

デューイは自分の思想を「道具主義」と呼び、自らの主張を表現します。彼は人間の思考(理性)を「生きるための道具」としました。理性を単なる道具として定義することで、複雑に考える必要がなくなるからです。

すべての物事を「道具として何の役に立っているか?」という視点で考えるべきだとデューイは提案します。そうすれば、より実用的で具体的な理解につながるというわけです。デューイの哲学は、抽象的な概念よりも実生活での実用性を重視するプラグマティズムの一形態と言えるでしょう。

古典的な倫理問題をデューイはどう考える?

「人を殺したらなぜ悪いのか」という問いは、昔から多くの人が議論してきましたが、明確な答えは出ていません。デューイは、問題が難しいから答えが出ないのではなく、問いの立て方が間違っていると考えます。

「人を殺すことが悪いとされるルールは何の役に立つのか?」という形に変えるべきだと主張します。「人を殺すことが悪い」というルールがない場合、社会が不安定になり、生活に支障をきたすことが想像できます。「常に殺されるかもしれない」という恐怖に怯えて生きることは合理的ではありません。

そのためデューイは道徳教育の提案します。「人を殺すことは絶対に悪い」という道徳を、子供の頃から教え込むことが、社会を安定させるためには有効だと言うのです。

社会の安全と秩序を維持するためには、人々が共通の道徳規範を共有し、それを守ることが重要である、というのがデューイの行き着いた答えになります。

「人を殺してはいけない」という道徳が、社会的な都合で生まれたものであることを理解すると「それが道徳の正体だったのか」とガッカリするかもしれません。

しかしデューイは道徳の価値を否定するものではなく、むしろ道徳が社会に役立っている「素晴らしい道具」として評価されるべきとします。

道徳が人々の生活に恩恵をもたらしているなら、それは「真理」と見なしても良いのです。道具主義に従えば、真実が必ずしも有効であるとは限りません。

有用性があると信じられるものは、その真偽に関わらず「真理」となり得ます。現実とは異なる「ウソ」も、それが人間にとって有用であれば「真理」となり得るということです。

たとえば、一年後に死ぬことがわかっていても、その真実を知らされることで人生を楽しめなくなるならば、その真実は知らせるべきではないとされます。

「一年後に死ぬ」という真実は、それが人の幸福に役立たないならば「真理」とは言えず、「あなたは健康です」というウソが人を幸せにするならば、それは「真理」となるという考え方です。

真実が人の幸福や社会の役に立たない場合は、それを「真理」とは呼べません。人々の生活に実際に役立つかどうかで、道徳や真理はその価値が決まるというのが道具主義の立場なのです。

デューイを理解するためのオススメ書籍

上野 正道(2022)『ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学』岩波書店

著者
上野 正道
出版日

アメリカを代表する思想家ジョン・デューイの哲学を、教育との関わりを中心に解説した書籍です。デューイ研究の第一人者である上野正道氏が、膨大な文献資料を駆使してデューイの思想を多角的に読み解き、現代社会における意義を明らかにしています。

デューイの思想は、現代社会においても多くの示唆を与えてくれます。民主主義の危機、教育格差、グローバル化などの課題に直面する現代社会において、デューイ思想をどのように活かすことができるのかを考察します。

教育学、哲学、政治学、社会学など、幅広い分野に関心を持つ読者にオススメの一冊です。デューイの思想を深く理解することで、現代社会をより良い方向へ導くためのヒントを見つけることができるでしょう。

ジョン・デューイ(2004)『経験と教育』(市村尚久訳)講談社

著者
["ジョン・デューイ", "市村 尚久"]
出版日

デューイによる代表的な著作です。1938年に出版された本書は、教育の本質を「経験の連続性と相互作用」と捉え、子どもたちの主体的な経験を重視した教育哲学をわかりやすく解説しています。

デューイは、民主主義社会を維持するためには、国民一人ひとりが主体的に考え、行動できることが不可欠であると考えます。そのため教育を通じて、子どもたちに「批判的思考力」や「問題解決能力」を身につけさせ、民主主義社会の一員として必要な知識や技能を習得させることが重要だと主張しました。

「教育とは何か?」

本書を通じて、子どもたちの教育について深く考えさせてくれます。教育に関心を持つすべての方々に、ぜひ本書を手にとってみていただきたいと思います。

伊藤 邦武(2016)『プラグマティズム入門』筑摩書房

著者
伊藤 邦武
出版日

アメリカ発祥の革新的な哲学であるプラグマティズムを、日本における第一人者がわかりやすく解説した入門書です。従来の西洋哲学とは異なる視点から、真理や知識、そして人間の生き方を探求するプラグマティズムの魅力を存分に味わうことができます。

ジェイムズ、デューイ、パースなど、プラグマティズムを代表する思想家たちの思想が丁寧に比較検討されています。それぞれの思想家の独自性や共通点を探ることで、プラグマティズムの全体像をより深く理解することができるでしょう。

「何か新しい哲学に触れたい」「従来の哲学に疑問を感じている」「現代社会を生き抜くためのヒントがほしい」という方々に、ぜひ本書をおすすめします。プラグマティズムを通して、新たな思考の扉を開いてみませんか?

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