失われた過去と未来の犯罪
突然、全人類が記憶障害に陥り外部記憶装置に頼る時代。
冒頭はいい意味でとても読みにくいです。10分程度で記憶を失ってしまうという中で話し合いをしていると、私たち読み手は当たり前のように覚えていても、話の登場人物は時間が経過するときれいさっぱり忘れてしまっていて、同じことの繰り返し……もどかしい気持ちでいっぱいになります。
でも、この読みにくさがこの本の魅力であり、他の本にはない面白さであると思います。ですがその右も左もわからない状態を抜け出すと更に問題が見えてきて……。科学が発達し、SNSが普及した現代だからこそ活きるこの物語、なにより、ひとつひとつの登場人物の言動に対する発想がとても面白いなと思いながら一気に読める作品でした。今は、新しい形のSFと言われるであろうこの本が、数年後にはどのような捉え方をされるのか、とても楽しみです。
リバース
湊かなえさんの作品において私が最大の特徴であり魅力であると思っているのが、登場人物に女性が多いというところ、言葉のチョイスや文体がとても女性的で包容力があって温かいところなのですが、この作品は湊かなえさん史上初めての男性が主人公ということです。
著者自身が女性であることによって心理を完璧に理解した上で書いていることなのだと思っていた部分もあったので、この本は楽しみもありつつ不安というか、どんな風になるんだろうという緊張に近いような感情をもってページを開きました。すると、この本の主人公の男性「深瀬和久」と、湊かなえさんの女性的な部分が言葉では表せないような、所謂、化学反応を起こしていたのです。
もちろん今までの作品も大好きですが、こちらも「あり」だと思いました。もっと言ってしまえば、湊かなえさんの作品に触れたことの無い方でも、読みやすくなっているかもしれない、とさえ感じました。湊かなえさんの作品が読みにくいと感じてしまう方にも読んでほしい作品です。
異類婚姻譚
第154回芥川龍之介賞を受賞した作品で、ご存知の方も多いのではないかと思います。私自身、この本との出会いは以前お世話になっていたマネージャーさんに教えて頂いたことでした。
異類婚姻譚という言葉は、人間が人間以外の存在と結婚するという意味の言葉であり、この題名だけで堂々とネタバレしているような気もしたのですが、読み進めていってしばらくは、この本と題名の関係性が分かりませんでした。もちろん、最初から分かってしまうような本はほとんどないのですが、まったく展開が分からなかったのです。
正直冒頭は、「だからなんだ」と言いたくなるような一般的で平凡な物語です。よくあることではないか、と。ですが、この後に続く突拍子もない話の深みを出すための大切な前置きであるのだと気付き、そこでさらに面白みが増すような気がしました。読了後も謎の多い考えさせられるような物語でした。